「剣聖?」
「花。誰か」
スターリが目線を移すと周辺の参加者全員が明後日の方向を見る。関わりたくないらしい。
「む」
少し頬を膨らませて不満を露にするスターリ。白亜がスターリを見に、会場から歩いてきた。
「主」
「どうだった?」
「もう終わった」
「流石だな」
胸を張ってペンダントを見せ付けるスターリ。
「後は花か」
「ん。皆こっちに見せないから判らない」
「へぇ……」
白亜の左目がぼんやりと光る。
「そうだな……。ここから二本先の道に花のペンダントを持ったそれなりに強そうな人がいるぞ」
「ん。ありがと」
「頑張れよ」
「ん。頑張る」
二本先の道に歩いていくスターリ。白亜も折角なので見に行くらしい。その後ろを別の観客たちがぞろぞろと付いていく。
「あんた、今の子とはどんな関係なんだ?」
「……契約関係ですかね」
「あの子奴隷なのか?」
「いいえ。仲間ですね」
白亜はスターリのことを周囲に聞かれ始めた。正直面倒くさそうである。
「あの子はなんなんだ?」
「ランク10冒険者、スターリです」
「スターリか。ランク10って……もっと上かと思ったな」
「最近登録したばかりですから」
「成る程ね」
そんなことを説明しているうちにスターリが20歳位の男と対峙する。
「おお!ありゃ剣聖じゃないか?」
「剣聖?」
「なんだ、知らんのか?『剣聖』キュウゲツ・ミルガルド。二つ名の通り、剣では右に出るものはいないと言われる子爵家の貴族様だ」
「子爵家の」
「そうだ。女には大層人気があるらしい」
苦々しい顔をして、うちの奥さんもメロメロなんだよ、と呟く男性。
「へぇ……。適当に見付けただけとはいえ、中々面白そうな人だったか……」
「何か言ったか?」
「いえ。何も」
「それよりあんたも剣を使うのか?見たことがない形だな」
「これは刀っていう形状の剣でして、斬ることに特化した剣なんです」
「どういうことだ?剣は斬るものだろう?」
白亜はほんの少し鞘を動かして刀身を見せる。
「これは薄い上に軽いので切断に向いているんです。その代わり、柔らかい物とかは極端に斬りにくいんですが」
「柔らかい物が斬れない?」
「ええ。鉄は簡単に斬れても、紙が斬れない」
「鉄が斬れるのか、お前さん」
「これでもランク17の冒険者ですので」
「こりゃたまげた!お前さん相当な腕だったんだな!なんで拳闘大会に出なかったんだ?」
「今ちょっと怪我をしていまして、療養中なんです。私の代わりにスターリが出てくれているんですが」
そう言ってスターリに目を移す。
「何秒かかるかな。1分以内にはいけるか……?」
少し柔らかい笑みで、物騒なことを小声で言ったのだった。その声が聞こえたのは、シアンとアンノウンだけだったが。
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「戦う」
「もうおひとつ手にいれたんですね。見かけによらず、アクティブなんですね?」
「主が見てる。負けるわけにいかない」
「主人思いの従者さんだね?」
「ん」
『剣聖』キュウゲツ。若くして子爵家の長であり、剣の腕は5歳で師範を打ち破るなど、人並外れた力を持っている。
また、貴族は傲慢な者が多い中で、奴隷にさえ敬意を払うので人気は止まるところを知らない。
魔法の腕も、魔法使いとしてやっていけるほど優秀であり、まさに絵に描いたようなエリートである。
白亜は残念ながら身分がエリートではないのである意味では白亜よりも周囲の信頼だったりは厚いだろう。
「君の事はあまり傷つけたくないんだが……」
「いい。嫌だったら参加してない」
「それもそうだね。いいよ。何でいきましょうか?」
「なんでもあり」
「僕が一番得意とするところだけど?」
「いい。主の前で無様な戦いは見せられない」
スターリが言っているのは、剣聖が無様な戦いをするという意味なのだが、剣聖は別の意味でとらえたらしい。
「全力を出しきりたいんですね?いいですよ」
主人の前で成果をあげたいと思っていると思われたようだ。
「僕も大会に勝ちたいんでね。本気でいかせてもらうよ」
「ん。こっちもちゃんとやる」
スターリのちゃんとやる、は大体実力の40%程をだす、ということなのだが、それを教えるのも酷だろう。
「主。審判頼める?」
「ん?ああ、いいぞ」
剣聖の表情が固まった。
「主人ってそこの子供!?」
「ん。私より何百倍も強い」
「どうも」
「ありえない……君のような美しい女性が子供の従者なんて……」
白亜、完全に貶されている。本人気づいてもいないが。
「?やりますよ?」
「ん。こっちはいい」
それどころかもうスタンバっている。相変わらず行動が早い。
「君、僕の家で働かないかい?条件も相当良くしてあげるよ?」
「いい。私は強い人にしか付いていかない」
「じゃあ僕が勝てば考えてくれる?」
「イヤ」
一刀両断である。実は剣聖の好みにスターリはストライクしてしまっているのである。
「じゃあ少し位は考えてくれないかな」
「主。どうする?」
「自分で決めろ。お前の好きなように、な」
内容は突き放すような言葉だが、白亜はほんの少し笑みを見せてそう言う。
「ん。じゃあちょっとだけ考える。私よりもずっとずっと、主よりも強かったら考えてもいい」
白亜よりも強い人など、ジャラルくらいしかいなくなるのだが。
「よし!それでいこうじゃないか」
スターリ、そして白亜の強さを知らない剣聖はそう言ってしまった。
「それじゃあ準備はよろしいでしょうか?」
白亜は両目に魔力を流し、何かあったときにすぐ対処できるよう、体勢を整える。
「お互い、やり過ぎぬように。戦闘、開始‼」
剣聖が剣を持ったまま走り出す。スターリは拳を握り締めて大きく回り込むように走り始めた。
白亜は二人を魔眼で追いながら、邪魔にならない位置に移動する。
「ふっ」
「くっ!?」
スターリが跳び上がって、右足を振りかぶる。剣聖は剣を盾にするが、予想外の膂力に大きく体勢を崩してしまう。
そこにスターリは入り込もうとしたが、一瞬迷った後、突っ込むのを止めて一旦距離を置きつつ、魔法の詠唱を開始する。
(誘ったのに攻めてこなかった……)
スターリは剣聖が体勢を崩したときに、その体勢に違和感を感じ、攻撃を中断したのだ。
それは正しかった。剣聖は突っ込んできたスターリを覆うように捕まえて剣を首に当てるつもりでいたのだ。
「―――咲け」
最後の一言まで言ったスターリは手を前に付きだしつつ、魔法を発動する。すると、剣聖の周囲で突如集まった水がまるで花火のように破裂し、衝撃が剣聖を襲う。
「なんだあの魔法は!?」
観客たちも驚いている。白亜は勿論知っていた。
「水花火……。もう少し強くても良かったかもしれんが、手加減してるから余計にそう感じるんだろうな……」
『それはそうでしょう。普段のやつ当てたら余波だけで肉塊になることは間違いないでしょうし』
『魔力消費も大きいしな』
そんなことを白亜たちが言っている間に、スターリが腰の短剣を剣聖の首に当てようとする。
「させない!」
「……え?」
観客の方から巨大な土が大砲のように飛んできた。スターリは大きく振りかぶっているので避けれない。避けたとしても剣聖に直撃である。
「任せろ」
小さくポツリと、高くもなく低くもない、それでいて透き通った声が聞こえた。
次の瞬間には白亜がアンノウンで土大砲の主導権を奪い、地面に叩き付けていた。




