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「勝つ。勝って、主に撫でてもらう」

「で、それっていつ行われるんですか?」

「明日」

「ギリギリですね」

「間に合う?」

「10秒あれば着きますので」

「どんだけのスピード出すつもりなんだい?」


 そこまでのスピードを出しても周囲に影響を与えないのだから、凄いものである。


「エントリーはこっちでできるから」

「なら問題ないです」


 玄武スターリは冒険者登録していないので一度登録をしてからエントリーすることになったので、三人でギルドへ。本来契約獣は冒険者の手の内になるので誰にも教えなくてもいいのだが、身分証明にもなるので。


「これに記入して」


 アシルが持ってきた紙を玄武スターリがサラサラと記入していく。


「これ、なに書く?」

「近接戦闘って書いとけ」

「ん」


 粗方書き終え、玄武スターリが紙をアシルに手渡す。


「はい。確かに。魔力認証用の魔力を通してくれる?」

「ん」

「ちょ、多すぎ!」


 機械に魔力を送り込むのだが、滅茶苦茶な量を流したので機械がオーバーヒートしかけたが、白亜が魔力を吸い取ることで事なきを得た、


「はい。それじゃあ裏の訓練場に来て」

「?」

「ランクを決めるから」

「ん」


 白亜よりも加減ができない玄武スターリは当然のごとく試験官の肋骨にヒビをいれ、白亜が治した。


 試験官に恐怖を植え付け、ランクが10に上がった。


「それじゃあ行って来ます」

「優勝してきてね!」

「ん」


 白亜は玄武スターリを連れて聖地、ギシュガルドへ飛んだ。文字通り、光速で空を。








玄武スターリ。着いたぞ」

「……ん」


 あまりの速さに気絶した玄武スターリを起こす白亜。


「綺麗」

「流石は聖地だよな」

「なんで聖地?」

『この土地では色んな資源が豊富にありまして、ギルドが最初にできた場所なので始まりの地、と呼ばれているのです。ギルドという名前もギシュガルドからきています』


 シアンが淡々と説明する。


『私も遊んでみたかったのだが』

「駄目。主の体が大事」

『それもそうだな』


 アンノウンを玄武スターリが使えばいいのかもしれないが、アンノウンは白亜に合った武器に変化しているので玄武スターリはどうしても使いづらいのだ。


「宿も提供してもらえるらしいから、後は俺は横で見てるだけになるな」

「絶対に勝つ」

「頑張れよ」

「ん」


 白亜に頭をつき出す玄武スターリ。白亜はその頭を撫で、懐中時計から鈴のようなものを取り出す。


 淡く碧に光っており、ガラス玉よりもずっと透明な不思議な色合いの鈴だ。


「これを持っておけ」

「?」

「なんていうか……御守りみたいなものと思ってくれて良い。どこかに身に付けておけ」

「ん」


 白亜から鈴を受けとると、くるくるっと腰にある短剣につけた。


「これでいい?」

「ああ。頑張れよ。応援してるから」

「主の契約獣だから、負けない」

「それは頼もしいな」


 チリン、と涼やかな音が鈴から聞こえる。


「それじゃあ、また明日」

「ん。見てて」

「ああ」


 白亜はそのまま宿を取りに行き、玄武スターリは鈴を撫でながら決められた宿に歩いていった。








「すごい熱気だな……」

『一大イベントですからね。賭けなんかも行われているみたいですし』

『そなたは賭けぬのか?』

「俺は……一応賭けとく?」


 あそこまで玄武スターリやる気になってるし、優勝間違いないよな、と思いつつ、スターリと書いてある賭け札を買う。


『これなんだ?』

『賭けに使用する札ですよ。最初から優勝者が予想できていた人ほど返ってくる金額が大幅に増えるんです』

『つまり、スターリがこのままストレート勝ちすればかなりの金額がもらえる?』

『そう思っていただいて構いません』


 成る程、と頷きつつ、懐中時計に賭け札を仕舞う。


「人多すぎて道がわからんな」


 白亜は12歳にしては高い方なのだが、まだまだ子供なので大人に混じると全く身動きがとれない。


 悪戦苦闘しながらなんとか目的の場所まで歩いていく。すると、ギリギリだったのか、白亜が着いた瞬間に司会者の声が響き渡る。


『皆様!お待たせいたしました!ここ聖地ギシュガルドより、三年に一度の大イベント、ギシュガルド拳闘大会を開催いたします!』


 白亜の周りの大人たちが賭け札を握り締めて興奮の面持ちで叫ぶ。


『マスター。こんな駄目な大人にはなってはいけませんよ』

『目を瞑れ。目を』

『?』


 精神年齢的には大分大人なのだが。


『今大会の参加者はなんと1000人以上!白熱した戦いを期待しましょう!』


 沸き立つ白亜の周囲の大人たち。白亜は相変わらずノリが悪く、真顔で突っ立っている。正直、ちょっと怖い。


『今大会の予選は、これだ!』


 司会者が上に大きく掲げたのは、紋章が彫られた掌サイズのペンダントだ。


『これを参加者一人一人に配っています!これは絵柄がありまして、三種類!木の紋章の物、花の紋章の物、水の紋章の物を用意しました!これを全種類集め、日が沈むまで持っていた方が本戦出場の権利を得ます!』


 白亜の超人的な視力は、参加者達のペンダントを捉えていた。木のペンダント、花のペンダント、水滴の形をかたどったペンダントの三種類を確認した。


『幾つ取っても構いません!ただし、全種類揃えてください!参加者の方々は非殺傷魔法の範囲内でのみ戦ってください!外に出て、そこで戦闘した場合は失格となります!』


 観戦している人を巻き込まないように、ということなのだろう。


『過度な攻撃、殺しも失格対象になりますので、お気をつけください!また、幾つも持っている参加者に勝てば全てのペンダントを奪うことができます!』


 奪われた場合はまた一から集め直さなければならない、というわけだ。


『攻撃は周囲に危険が及ばないもの、また、観客を巻き込まないもの、参加者以外の力を借りてはいけません。召喚獣、精霊は呼び出しても良いのでじゃんじゃん戦ってくださいね!』


 観客たちが沸く。当然白亜は真顔で静かに立っているが。


『それでは、準備はよろしいでしょうか?日没までに、三種類の絵柄を全て集めてください!それでは、拳闘大会、予選を開始いたします!』


 会場が沸き立ち、選手たちが外に出て行く。これから先は町の中で行われるのだ。


 白亜はその中の一人の少女の背を見てフッと笑い、


「……頑張れよ」


 小さく、そう呟くのだった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「絶対に勝つ」


 スターリは燃えていた。滅多に応援しない白亜がそう言っているのだ。頑張らない道理はない。


「おい、嬢ちゃん。記念参加だろ?悪いことは言わねぇ。参加賞を渡しな。怪我はさせないからよ」

「いい。私は優勝する。しなきゃいけない」

「そんな華奢な手でか?」

「主が応援してる。負けるわけにはいかない」

「下働きの子なんだ?」


 スターリは冷たく他の参加者をあしらいながら適当に町を歩いて別の絵の参加者を襲おうなどと少し物騒なことを考えながら短剣の鈴に触れる。


 チリン、と小さく音がなり、なんとなく安心するスターリ。


「勝つ。勝って、主に撫でてもらう」


 そんなことしなくてもいつでも撫でるのだが、なにか違うらしい。撫でることには代わりはないのだが。


 そんなことをしていると、屈強なスキンヘッドで人相の悪い大男の首に木のペンダントがかかっているのを見付けた。因みにスターリは水である。


 明らかにスターリの方が不利に見えるのだが、白亜の配下にその法則は成立しない。


「戦う」

「なんだ?ガキが。お、水じゃねーか。痛くしないうちに―――」

「早くして。長い。戦わないうちに尻尾巻いて逃げる?」

「なっ!?………いいぜ。どうなっても責任とらねぇぞ」

「いい。こっちの台詞」


 大男は額に青筋を浮かべながら背負っている大剣をブン、と振り回す。


「手入れがなってない。剣が不憫」

「言わせておけばガキの癖に!躾がなってないぞ!」

「それも、こっちの台詞。私はこれでも数百年は生きてる」


 スターリは拳を握り締めて、右足で踏み込みつつ、ステップを踏むようにして間合いを詰める。これは白亜が教えた方法で、背に大きな差があるときに使う空間戦闘法だ。


 空間(・・)というからには、立体的な動きを使う。つまり、空中を足場にして、相手に詰め寄り、懐に一撃叩き込むのだ。


「遅い。主なら、目を瞑っても楽勝」


 そう言って、拳を鳩尾に叩き込んだ。


「ぐっ!?」


 大分手加減したようで、吹き飛ぶ事態にはならず、その場に大男が崩れ落ちた。スターリは戦闘をしたことを微塵も感じさせず、大男からペンダントを奪い、自分の物に連結させた。


「あと、花」


 スターリが周りを見渡すと、参加者だけでなく観客までも口を開けて固まっていた。


「?」


 こういう反応は本当に白亜そっくりである。

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