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「君が一番危ないんだよ?ハク君」

 白亜が帰ってきて数日後。


 玄武スターリがエリウラの森の探索を一時中断して帰ってきた。


「主。おかえり」

「ただいま。というか、玄武スターリの台詞じゃないか?」

「そう?」


 少し明るくなってほんの少し饒舌になった(?)白亜。無口な玄武スターリと並ぶと差は歴然だ。


「お土産」

「ありがと、主」


 玄武スターリが白亜に頼んだのは、異世界の光るもの、だった。玄武スターリは光り物が好きなので。


「はい。これでいい?」

「ん。うれし」


 白亜は部屋に置く、ソーラーパネル式充電のライトを玄武スターリに渡した。的を射ているようで外れている気もするが、本人が喜んでいるので良いのだろう。人ではないのだが。


「それで、エリウラは?」

「ん。半分調査終わった。もう半分」

「そうか。以外と広いからな、あの森は」


 白亜は左目を光らせて探索している配下たちの状況を確認する。


「ぼちぼち、といったところか」

「主、いいの?何もないよ」

「寧ろ何もない方が好都合だ。虐げられているものでも安心して暮らせる場所なんて作ろうとしているんだから、攻められるのも視野にいれておかないと」

「主」

「ん?」

「休む」

「え?おい!」


 白亜をガシッと掴んで肩に担ぐ玄武スターリ


「なに」

「主、働きすぎ。たまには休む」

「そんなことないって」

「私の目は、誤魔化せない。主の体、継ぎ接ぎだらけ」

「放っておけば治るって」

「もっと酷くなる。今は休む」


 否応なしに部屋に連れていく玄武スターリ


「そうかもしれんが」

「かもじゃない。絶対」


 白亜の言葉に被せるようにして玄武スターリは言い放つ。白亜もやろうと思えば直ぐに抜け出せるのだが、なんとなく休んだ方がいいかなと思い始めているためにそこまで抵抗しない。


「自分で歩けるから」

「主が逃げるかもしれない。駄目」

「俺は人間嫌いのペットかよ」


 実際、本気で嫌がると窓から脱走するのであながち間違いでも無かったりする。


「ハク君!」


 どこからか声が聞こえてきたので声の方に目を向ける白亜と玄武スターリ


「今、外から聞こえたよな?」

「行く?」

「窓から見えるだろ」


 近くの窓から下を覗く。


「アシルさん!」

「ハク君!久し振り………なにやってるの?」

「私に聞かれても……」


 白亜を下ろさないのは玄武スターリなので。


「それで、今日は一体?」

「そうなんだよ!お願いハク君!君の力を貸してくれ!」


 いつになく慌てている様子でギルド職員のアシルが頭を深々と下げる。玄武スターリと白亜は互いに顔を見合わせて、疑問符を頭に浮かべる。


「取り合えず落ち着いてください。玄武スターリも下ろしてくれ。逃げないから」

「ん」


 下ろしたが、まだ白亜の手を握っているところ、信用がないのだろうか。それとも単に繋ぎたいだけなのか。


「ハク君って転移魔法使えるんだよね?」

「ええまぁ……。一応言っておきますが、誰にも教えませんよ?」

「いや、その話じゃないんだ」

「?」

「ある場所に、向かいたいんだよ」


 アシルが白亜に期待の目を向けながらそう言う。


「ある場所とは?」

「聖地、ギシュガルドだ」

「ギシュガルド……ああ、聞いたことがありますけど」

「そこに行きたいんだけど……無理かな」

「無理ではないですが……かなり危険ですね」

「危険?」


 白亜はアシルに不思議な色の目を向ける。いつも通り面倒くさいと言わんばかりの目線だが。


「私の転移は、座標の数値化、場所のポイント化なんかをしたお陰でほぼ100%危険なく移動できます」

「ざひょう……?」

「簡単に言えば位置の情報そのものです。その情報をハッキリと理解し、使うことでおかしな所へ転移するのを防ぎます」

「ん?」

「何て言うのかな……。例えば人に聞かずに町に行けって言われるのと、立て看板を確認しながら町に行けって言われるのとでは辿り着ける確率は段違いです。私の場合は立て看板を大量に立てて、道筋をハッキリさせているんです」

「ああ、そういうことか」


 白亜はひとまずそこまで言い、一旦言葉を切る。


「問題はここから。私の転移は座標と位置関係、覚えている風景までも使って飛ぶものです」

「つまり、行ったことがない場所にはいけない?」

「そうですね。大量の計算と魔力、時間を費やせば行けますが、そんなことするより直接行った方が断然早いです」

「そうか。もし、無理にでも行こうとすると?」

「海底に飛ぶとかはラッキーな方で、マグマの中とか、空気さえない宇宙とか、そういうところに行ってしまう確率の方が数倍高いですね」

「怖いな、それは」


 とんだ瞬間お陀仏である。


「それで、どうしてギシュガルドに?」

「聖地では今、拳闘大会が開かれているんだ」

「拳闘大会ですか」

「そう。そこで、とんでもない賞品が用意されているんだ」

「賞品?」

「そう」


 アシルは長々と深い溜め息をついて、


「冒険者だよ」

「え?」

「簡単に言えば、雇ってもいいっていう許可証。要は引き抜きだよ」

「それって不味いんですか」

「不味いよ!スッゴい不味い!」


 バン!と膝を叩いて怒りを露にするアシル。


「上級の冒険者を一人減らされたら大変なことになっちゃうよ」

「ああ、確かに……」


 上級とは、15ランク以上の冒険者である。一流のなかでも更に一流と呼ばれる人達で、もちろん白亜達もその一人だ。


 大きな町でもそうそういない上、我が強い人が多いので常に人手不足状態に陥っている。


「君が一番危ないんだよ?ハク君」

「え?」

「他人事みたいに思ってるけど、君は今や時の人だから、ご指名が入るのも頷けるほどだ」

「その場合……私はどうなるんです?」

「さぁ?その人によると思うけど……用心棒とかを命じられて働かされるんじゃない?」

「「はぁぁぁぁぁぁあああ!?!?!?」」


 玄武スターリと白亜の絶叫が響き渡った。


「嫌です!私にはやることがあるんです!国王様に許可もいただいてる大事なことがあるんですけど!」

「僕に言われても……。僕もそう思って今すぐ変更させようと思っててね。それでつれていってもらえないかって思ったんだけど」

「飛びましょう!聖地なんて直ぐです!」

「君はどれだけ目立つ気なんだ?」


 空を飛ぶ魔法自体がかなり難しく珍しい魔法なので十分目立つ。


「じゃあどうすれば!」

「君が参加すればいいんじゃない?勝てば君に許可証が贈られる」

「出ます!」

「駄目」

玄武スターリ


 思わぬところから駄目と言われた。


「主、自分の体考えて。今は絶対休むべき」

「そうかもしれないけど」

「私が出る」

「「へ?」」

「私が優勝する。それでいいでしょ?」


 アシルの目線が白亜にスライドする。


「……彼女、強いの?」

「かなり強いとは思いますけど」

「どれくらい?」

「ジュードよりは強いですかね」

「じゃあ問題ないと思うよ!」


 アシルもそうだが、一番安心していたのは白亜だった。

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