『……データ不足です……』
白亜の日本観光は何度か中断されながらもバレないギリギリのラインで進んでいく。
本人楽しんでいるので良いのだろうが。ただ、顔に全くでないのでそんなに面白くないのかなと周囲が不安になるのはいつものことなので。
「それにしても暑い」
「上着着てるからですよ」
「でもこれ脱ぐとアンノウンが怒るんだよな……」
「え、持ってきたんですか」
「魔力効率をよくするためにな。流石に村雨は無理だから」
白亜の場合手刀でも岩を滑らかに切断できるほどの威力があるので実際武器なんて必要はないのだが。
「あ、それと昨日ニュースで亜人戦闘機が急に暴れだした的な事言ってたが」
「ああ、月イチ位であるんですよ」
「俺のせいだったりする?」
「しないと思いますよ?珍しくないですし」
「やっぱり大本よりも全体的に殲滅した方が良かったか……?いや、でも寿命の事もあったし」
ブツブツと何か言い出した白亜。いつもの事なので誰も気にしない。
「今日はもう帰ることにします」
「ああ、そんな時間だな。何かあったら連絡してくれ」
「はい」
再びビジネスホテルに入り荷物整理をする。
「それにしてもとったな……。やり過ぎか?」
「そうなんですか?」
「やったことがないから判らん」
『とりすぎだろう。いくらなんでも』
縫いぐるみとお菓子、酒まで充実している。ほとんどクレーンゲームの景品なのだが。
「ま、いっか」
細かいことは気にしない、平常運転の白亜だった。
「後5日、だけど思ったより魔力回復が早いから3、4日で溜まりそうだ」
「本当ですか」
予定よりも早く帰れそうだ。
「どこか行きたいところありますか?」
「判らん」
「ですよねー」
白亜はどこに何があるのかさえ大まかにしか把握していない。
「じゃあテーマパーク行きましょうよ!」
「……俺の金でか」
「「「お願いしまーす」」」
少しは自分で払え。白亜自身金の使い道は確かにないので構わないのだが。
「テーマパークって」
「最近出来たところがあるんですよ!地下鉄で5本位の距離ですし」
「へぇ……」
そのまま連れていかれてテーマパークへ。
「人数居るから団体か?」
「はい。一人2000円ですね」
「微妙な高さだな」
高いと言われれば高いし低いと言われれば低い。
「やったー」
「お前ら子供かよ。高校三年生だろ」
「いいんです!高校三年生でも子供ですから!」
「あ、そう……」
成人はしていないが大人なのか、子供なのか微妙な年代である。
「海道さん!これ被ってみてください!」
「……なんだそれは」
「このパークのキャラクターの帽子です!」
「いや、それは判るんだが」
コアラのようなキャラクターの縫いぐるみキャップを見せられて対応に困る白亜。
「はい」
「断る」
「なんでですか」
「お前ら俺の事着せ替え人形かなにかと思ってないか」
「良いじゃないですか」
「良くない。ほら、グラキエスにでも被せとけ」
とばっちりを受けるグラキエス。
「グラキエスさんは上司みたいなものですし……」
「俺はその更に上なんだが」
「どんなもの着ても似合うんですから」
「そう言う問題じゃない。お前らで被っとけ」
なぜか断固として反対する白亜。
「なんでそんなに嫌がるんですか?」
「……中学の修学旅行で無理矢理……」
「「「ああ、成る程……」」」
こう見えて流されやすい所があるので無理矢理着せられてトラウマになったのだろう。
「じゃあ私被ろー」
躊躇なく被る日本組。因みに、先生は今日は仕事でここにはいない。居ても空気だが。
「海道さんって絶叫系大丈夫な方ですか?」
「大丈夫だと思うが」
「リアルに空飛んでますもんね」
寧ろ日常茶飯事である。
「じゃああれ乗りましょうよ、あれ!」
「世界トップクラスの速さと高さがあるんですって。CMでやってました」
「へぇ……」
遅くね?と思っているが口には出さない。これぐらいは察することが出来るのだ。
「さ、乗りましょう!」
無理矢理乗せられた。しかも相当並んで。
「お客様、お隣に他のお客様を……」
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます」
二人づつ座れるのだが白亜達は奇数なので必然的に白亜が一人になる。別に隣が誰でも構わないと思っているので特になにも言わない。
発車まで暇な上に隣はまだ来ていない。来ても喋るつもりはないので変わりはないのだが。
要するに暇である。
「壊しそうで怖いな……」
相当頑丈に作られてはいるのだが白亜が力を入れた途端壊れそうである。片手で鉄を握り潰せるので。
流石に大丈夫だよな、と不安になりながらも一切レバー等には触れないよう気を付けながら大人しく座る。
「お客様、こちらへ」
白亜のとなりに物凄い露出した服を着た女性が座った。
『すごい格好だな。流行っているのか?』
『俺に聞くなよ。知るわけがないだろ』
アンノウンと適当に念話しながら発車まで何も触らないよう努める。割りと必死だ。
『しかも裸足だぞ。家出か?』
『靴が落ちないように脱いできただけだろ。何で家出してテーマパーク来てるんだよ』
『そう言うものなのか?ではなぜ私は置いていかないのか?』
『盗られたらヤバイだろうが。金盗んでくれる方がよっぽどありがたいね』
本気でアンノウンが居なくなる事態は避けなければならない。白亜の場合探し出すのは簡単だろうが、盗んだ方が災難でしかないだろう。
「それでは、発車します」
注意事項をすらすらと述べた後、慣れた声でアナウンスが入る。それと同時にジェットコースターが動き出す。
『思ったより揺れないな』
『ここは日本だぞ。最速の乗り物が動物の世界と比べない方がいいと思う』
『計算終わりましたよ、マスター。………これはどういう状況ですか?』
『なんか乗せられた』
あまりに簡潔すぎる白亜の説明をアンノウンが補足する。
『そういうことですか。籠って計算していたので全然知りませんでした』
『任せっきりにしてすまないな』
『いえ、計算も難しくないものですし、これぐらいでしたらお役に立たないと』
『シアンには無理させっぱなしだけどな』
『そんなことはありませんよ。マスターの力なんですから』
どこか照れた様子で話すシアン。アンノウンは完全に置いていかれている。
そんなこんなしている間に下に向かってジェットコースターが落ち始めた。
白亜は普段この数倍速い速度で走っているので、風が気持ちいいとしか考えていなかったのだが、隣の女性が凄かった。
「キャアアァァァァァアアア!」
「…………」
大絶叫とはこの事か、とばかりに横を見る白亜。泣いてる。
『おい、こういうときどうすればいいんだ』
『放っておいていいと思います。特に関係ありませんし』
『それもそうか』
白亜にとっては慣れきった速度で進んでいく。隣の女性が白亜の手を握りだした。ぎょっとする白亜とは裏腹に多分本人は無我夢中で近くの物を握っただけだろう。
がっちり掴まれているので優しくどけることも出来ないし、まず普通に力を入れたら女性の腕が持たない。そのまま複雑骨折である。
「あ、あの……」
「キャアアァァァァァアアア!イヤァァアアアアア!」
「じゃあ何で乗ったんだこの人……」
終わるまでこうするしかないか、と取り敢えず放った白亜だが、予想外の出来事が起こる。
女性が失神したのだ。
「え、ちょっと。だ、大丈夫ですか!?」
白目向いて気絶である。しかも手を離さない。
『なぁ……。こういうときどうすれば?』
『……データ不足です……』
『私が知るはずがないだろう』
『だよな……』
手を離さないので放る事も出来ない。白亜が隣の女性を起こそうと悪戦苦闘しているうちにもとの場所まで帰ってきてしまった。
「どうすんだ、これ……」
取り敢えず目を閉じさせて様子を見るが一向に起きる気配がない。
「海道様……?いったい何が?」
「この人が気絶した。俺の手握ったまま」
「海道さんお知り合いですか?」
「そんなわけないだろう。知り合いだったら逃げてる」
素性バレを防ぐ為なのだが、引き篭もりの台詞にしか聞こえない。
白亜は着いても手を離さない女性を背負って一旦降りたのだ。とは言ってもこの女性の荷物等はどこにあるのか知らないので事情を説明して職員の休憩室にいれてもらっている。
「ん……え?」
「あ、起きました」
「あれ?なんで?え?キャァァアアア!変態‼」
手を握られていた筈の白亜が変態扱いを受けて強烈なビンタを食らった。勿論ダメージゼロだが、音が凄い。
「なんで俺が変態扱い受けてるんだ……」
「……さぁ?」