「俺のせいじゃなきゃ良いんだけどな……」
前回の白亜の台詞を立体プログラムから立体ホログラムに変更しました。
これによるストーリーの変化はありません。気分です。
観光を一先ず終え、ビジネスホテルに泊まった白亜とグラキエス。
「それにしてもここの声は大きい」
「声、ですか?」
「ああ。ビル風や電波、機械の動く音とか」
「万物の呼吸ですか」
「そう。ちょっとこの辺は煩すぎる」
耳を押さえて欠伸をする白亜。
「海道様。これからどうするのですか?」
「どうするって、エリスさんの状況を確認するだけだよ。用としてはな。後は観光だろ。それ以外は別に決まってない」
「いきたい場所、あるんですよね?」
「うん……。最終日で良いよ。もしかしたらバレるかもしれないから」
ベッドにくたぁ、と倒れこむ。
「魔力が足らん………」
「大丈夫ですか」
「ちょっと疲れるだけだ。そのうち回復する」
徐に上着を脱ぎ、その裏側に隠してあったものを取り出す。
『いつまで黙っていれば良いか判らなかったぞ』
「いやぁ、ごめん」
アンノウンをくっつけて一本の長い棒にする。
「調子はどうだ?なにか変化は?」
『問題ない』
「そうか」
白亜はアンノウンを立て掛けるようにして地面に置き、今日買った物の整理を始める。
「結局酒を買う事になってしまった……」
「この世界の食べ物美味しいですもんね」
「まぁ、確かにな。調味料が充実してるし、何より運送業が発達してるから色んな食材が買える」
後何を買わなならんのだ、と手元のメモを見ながらお土産を振り分けていく。
『あれがてれびか?』
「ああ、そうらしいな」
パチン、とスイッチをつけると壁に埋め込まれている画面が反応し、ニュース番組がついた。
「おお、この辺は変わってないな」
なんだか懐かしさを感じつつ、荷物整理を行う白亜。グラキエスとアンノウンはテレビに接近してなんだこれは、と至近距離でつついたりしている。
「壊れるから変なことするなよ」
「も、申し訳ございません。少し興奮してしまい」
「いや、気持ちは判るから」
苦笑しながらそう言い、見えづらいと文句を言い出したアンノウンを画面の真ん前に持っていき、序でなので自分も見る。
『次のニュースです。本日午後3時頃から首都圏を始め全国で亜人戦闘機の動きが活発になったという報告が相次いで起こり、対策部隊は警戒を強めています』
本日午後3時頃。丁度日本についた頃だ。
「これ、俺のせいじゃないよな……」
「違いますよ。きっと」
「そうだと良いんだけど」
『計算上は問題がなかったのだろう?なら心配する必要はないだろう』
そうだけど、とは言ってもタイミングがよすぎる。白亜が来たことで何か悪影響が出るのならもう二度とここには来ない方がいいだろう。
「俺のせいじゃなきゃ良いんだけどな……」
もう次のニュースに切り替わったテレビを一瞥してまた荷物整理に入るのだった。
「海道さん。こんにちは」
「ん、お前らか」
次の日、ただただ暇だった白亜はそこら辺を散歩しながら日本組の学校が終わるのを待っていた。理由は、エリスの認識改変がちゃんと働いてるかどうかの確認だ。
「で、どうだ」
「凄いですね!本当に誰も疑ってなかったです。家入ったら普通にお帰り、エリスちゃんって」
「そうか、なら良かった。効力が弱いかもと心配してたが、問題ないみたいだな」
「はい。ありがとうございます」
エリスも満面の笑みである。
くぁ、と欠伸をしながら周囲に目を向ける白亜。
「ま、これで俺のやることは終了だな。後は魔力が回復したら帰るだけ」
「そこが一番の問題なんですよね……」
「まぁな……」
後6日。最低でも6日は必要なのでそれまでなんとか目立たないように過ごす必要がある。
「海道さん。折角なんで遊びましょう?幸い時間がありますしね」
「遊ぶ?」
「買い物したりですよ」
「へぇ……」
「前世ではなかったんですか?遊びにいくこと」
「勉強と武術しかやってこなかったから……」
ボソッと白亜がそう言う。気まずい雰囲気になった。
「え、ええと!じゃあ今世で遊び方覚えましょう」
「?」
「ほら、行きましょう!」
引っ張られる格好になりながら遊び方を覚えることになった白亜。しかし、このときは誰も気づかなかった。
白亜の顔は誰でも見たことがあるほどの物で、そうでなくともとんでもなく整っていることを。そしてそれをスカウトマンが見逃すはずがないことを。
「君、どこかの事務所に所属していたりする?」
「あ、ねぇ!モデルに興味ない?」
「アイドルやってみませんか?」
こんな感じである。
町で歩くのさえ大変な事になっていた。
「海道さん、人気ありすぎでしょ……」
「俺に言われても………」
グラキエスや日本組の鉄壁ガードでバレることは無いが危険極まりないのは確かだ。
この人が目立たない事はないんだな、と全員が思っていた。それでも遊び方さえ知らない不憫な白亜を放っておけないのかゲームセンターに連れていく。
「ここなら皆ゲームに集中してて気づかないでしょ。それにスカウトマンだっていないだろうし。多分」
「多分でしかないってのがあれだけど」
白亜の反応はというと、少し困った表情をしていた。
「嫌いでしたか?こういうところ」
「ん?いや、そう言うわけじゃないんだけど。声がね」
「声?……ああ、万物の呼吸」
「そんなとこ。機械の動く音が凄いから」
どんな感覚なんだろう、と気にはなったが暫くすると白亜がもう慣れたから大丈夫、というので少々騒がしいが白亜が目立ちにくいここで遊ぶことにした。
「クレーンゲーム、やったことないんですか?」
「いや、一回だけやったことがある……と思う。ほとんど覚えてないけど」
「もうそれやったことがないで良いと思いますよ」
手本を見せる。お菓子がボトボト、と出口に落ちた。
「こんな感じですね」
「成る程」
ブツブツとなにかを呟いたと思ったらふむ、と一瞬迷った後アームを動かす。ドサドサ、と前の列のお菓子が一気に落ちた。
「「「ええええええ!」」」
「計算上だともう少し落ちると思ったんだけど……。アームの強度計算を間違えたか」
「確認しますが……今、魔法使いました?」
「?そんなズルするわけないじゃん」
「ですよね」
白亜がアームを動かす直前に呟いていたのは計算式だったのだ。ゲームをゲームと見てない。
「どうやったらそんなに」
「簡単だ。あそことあそこに空間がある。そこの反対側を軽くつついてやれば雪崩みたいに落ちてくる」
「成る程、わかりません」
大量のお菓子が手に入った。
「思ったよりとれるもんだな」
「海道さんが凄すぎるんですよ」
「?」
本人全く気づいていないところ白亜らしいのだが。
「海道さん!これとってくださいよ!」
「なんで俺?」
「私じゃ無理だからです!」
「あ、そう……」
ここでもたかられるようだ。
「これ……。場所が悪いな。二回はかかるぞ」
「十分です!」
「わかった」
筐体をぐるっと見回し少し考える。とはいっても数秒間筐体の前でなにか考えているだけなのだが。
「ん。とりあえずやってみる」
カチャン、とコインを入れアームを操作する。
「あ、思ったよりアームが弱いな」
ブツブツと口の中でなにかを言い、
「次ならいけるか」
もう一度操作する。ごとん、と箱が落ちた。
「すごーい!」
「ん。で、これなんだ?」
「カメラですよ」
「カメラまで棒みたいになってるんだな……。鞄がペンケース化していきそうだな」
その後、縫いぐるみをリンへの土産で取りまくって店員が気づくまで全部の縫いぐるみ景品が置かれていないという事態に陥った。らしい。




