「凄いわ!こんな世界があったなんて!」
「で、もう良いんだな?二度と帰ってこられないぞ?」
「ええ。もう迷いません」
「……そうか」
日本に向かう日、白亜はエリスに最後の確認をしていた。
「あんたが迷わないのなら、俺は構わない。ただ、一切連絡なしってのもキツいだろう。ってことでこれあげる」
白亜が懐中時計から小さな箱を取り出す。
「ちょっと企業秘密だけど、その箱の中は俺の懐中時計と繋がってる。文通くらいは出来るように作ってある。世界を挟んでいても、な」
「そんなことが……」
「作るのに一ヶ月はかかった。もう作る気ないからそのつもりで」
「その……」
「ん?」
「色々と……ありがとうございます」
「向こうにちゃんと着いてから言ってくれ。正直どうなるのか俺にも判らないし」
くぁ、と欠伸をしながら手元の紙を見る。
「多分大丈夫だけど……計算あってれば」
不安感を増幅させるような台詞を言い、何度も同じ箇所を目でなぞる。
『10回ほどやり直したではありませんか。私も見てますし』
「そうだけど」
発動直前にそんなこと言わないでくれと周囲は思っているが白亜がそれに気づく筈がない。
「ぬぅ……。白亜。土産には酒を買ってこい」
「金がない。諦めろ」
「なんだと」
白亜は一応一文無しなのだ。
「お金どうするんです?一週間は滞在するんですよね?」
「山に金庫があるんだが、それが残ってれば。うん。わからないけど」
「それ管理大丈夫ですか……?」
ヒカリに管理を任せてあるがどうなっているのかさっぱりなのでちょっと怖い。
「なんとかなる。多分」
「ええええ……」
「最悪裏の方にこれを流せば金は入るだろうし」
気力の宝石をポーンと宙に放る。
「裏って……」
「裏だ。知らない方がいいこともあるぜ」
「ああ、はい……」
この人前世でなにやってたんだと思わざるを得ない日本組だった。
「服は全員着たな?」
「はい」
元々着ていた学生服はボロボロになっていたのだが裁縫の能力を持った生徒や白亜の頑張りにより新品同様の状態になっている。
白亜、エリス、ヴァンパイアも日本組から聞いた情報を元にして周囲から浮かない服を製作、着ている。
「それじゃあ紙の上に乗って。破ったり消さないようにな」
「はい」
何枚も重ねられた白亜お手製の多重魔方陣。それの上にここに来たときと同じ格好で乗る日本組。
「またいつか会いましょう、皆さん」
「ジュードさん達もお元気で」
別れの言葉を言いながら慎重に紙に乗る。
「それじゃあ行ってくる。一週間頼んだぞ」
「任せてくれ、若旦那!帰ってきたときにはもう国ひとつ作ってやるぜ!」
「それは頼もしいな」
配下達にエリウラの開拓を任せ、全員が紙の上に乗ったことを確認する。
「よし、あまり気張らないように。………帝級魔法、異世界転移」
白亜の言葉が切れた瞬間、魔方陣が眩い光を放つ。数秒後、光が収まったときには、もう誰も居なかった。
「ん……?」
白亜の目が覚めるとどこか懐かしい、中学、高校の時によく見ていたような教室の風景が目に飛び込んできた。
「成功……したのか?」
自身の体を見てみると生前と同じくらいの背丈、黒髪が見えた。
「変身魔法もしっかり作動しているな」
ふと周りを見渡すと、この世界に来たときと同じくらいにまで若返った日本組と先生、金髪のエリス、黒髪のヴァンパイアが床に転がっている。
「おい、起きろ」
取り敢えず近くにいる生徒を揺さぶって起こす。
「白亜……さんですか……?」
「ああ、俺だ。取り敢えず周りの奴等起こしてくれ」
全員無事で起きた。
「白亜さん、成功ですか?」
「ああ、成功だな。思ったよりあっさりしてたけど」
くぁ、と欠伸をしながらいつもの面倒くさそうな目を周囲に向ける。
「ここは日本で間違い無いだろう」
「「「やったぁぁぁぁ!」」」
跳び跳ねて喜ぶ者や泣き出してしまう者も出てきたが皆ホッとしていた。すると白亜が突然、
「しっ!……やばい誰か来る」
「え」
今実は授業中である。
「か、隠れるところ!」
「教卓の下は!」
「一人入ればパンパンだよ!」
「取り敢えずヴァンパイアさん入って!」
一番大きくて隠れるのに困りそうなヴァンパイアを教卓の下に押し込んで廊下から見えないように壁際に追いやる。
「白亜さんとエリスの隠れる場所が……!」
「掃除用具!あそこなら二人はいれる!」
白亜もかなり大きくなってしまったのでかなり密着しながら掃除用具入れに入る二人。
「皆!席について!」
ズバァ!と効果音が聞こえそうな位の速さで席についてノートを取る振りをする。先生の方も黒板に教科書の字をそのまま書くという意味不明の事をする。
「「「………」」」
無言。皆いつバレないかと不安でしょうがない。
「やべぇ……!生活指導の……!」
「まじかよ……!あの人いつも掃除用具入れ確認する……!」
運悪く掃除用具入れをいつも確認してくる生活指導の先生が来た。
『『『開けないで開けないで開けないで』』』
全員の思考がリンクする。
その行動も虚しく先生の手が掃除用具入れに触れる。
「わっ!」
先生が小さく叫ぶ。
『終わった……』
皆そう思った。
「全く、開けたら雑巾が飛び出てきたぞ!しっかり整頓しなさい!」
「「「………へ?」」」
掃除用具入れには白亜もエリスも居なかった。
そしてそのまま先生は雑巾の管理がどうたらこうたら言いながら次の教室に向かった。
「え?なんで?」
全員、何が起こったのかさっぱりだった。
「ふぅ……ビビった」
「白亜さん!?」
窓の外からエリスを脇に抱えた白亜が出てきた。
「え?え?」
「いや、見つかると思ったから咄嗟に近くの雑巾目眩ましにしてそのまま外まで走った」
「外までってここ四階ですけど……?」
「窓枠に掴まってた」
「片手で!?」
流石白亜である。あの時間のなさでそこまで考えて行動できる人は少ないだろう。
「白亜さんの身体能力が高くて助かりました……」
「それ俺も思う」
すると授業の終わりを知らせるチャイムがなった。
「確か今って6時間目だったよね?」
なんとか隠し通せたと安堵の息を吐く。
「もう今日は掃除なしでいいよ。皆疲れたでしょ」
「「「はい」」」
主に精神的に。白亜とエリス、グラキエスは勿論一緒に正門から出られる筈がないので窓から脱出。日本組と少し離れた住宅街で再会した。
「危なかったですね」
「本当にな……」
バレる寸前までいっていたのだ。あそこでバレていたらお縄にかかっていただろう。
「白亜さん?」
「ん?あ、そうやって呼ばないでくれ」
「そうでしたね。じゃあ海道さん」
「どうした」
「これからどうするんですか?」
「どうしようかな……」
「まさかのノープラン」
白亜ならなんでもどうにかしそうだが。
「取り敢えず金庫探してみる」
「本当に金庫なんてあるんですか?」
「あるよ。100万は最低でも入ってる」
「わぁ」
それにしても、と周りを見渡す白亜。
「凄い技術進歩してるな」
「50年前と比べちゃいけないですよ」
「車が浮いてる。どういう原理?」
「え?知りませんよ」
「あ、そう……」
まさに未来、というような光景。
「ロボット多くない?」
「そうでしょうか?」
「いや、俺の時代が古いだけ……?」
最早人よりもロボットの方が多い。面白いのかずっと周囲を見ている。
「興味津々ですね」
「半世紀も変わればな。面白そうな物にしか見えんさ」
そういうものなのか、と思いつつ白亜以外の二人に目を向ける。
「海道様!あれは、あれはなんなのでしょうか!」
「凄いわ!こんな世界があったなんて!」
おのぼりさんの二人。グラキエスはを輝かせて周囲を見ている。が、白亜の前には決して出ない。執事か。
エリスは跳び跳ねながら周囲の事を誉めまくっている。
「私達、帰ってきたんだね……」
「やっと、って感じもするし、なんか懐かしい感じだな」
「うん」
日本に帰ってきたのを期にいちゃつこうとするカップルが出てきた。当然独り身グループは妬み始めた。
仲良くしろ。




