「場所なら開拓すれば良いだろう」
「ハクア君。これなに?」
「これは……へぇ。面白い」
「何が?」
「ああ、それはそこの箱の中に果物とかをいれて瞬間冷凍する魔法具だな。食品を長持ちさせる物だ」
「そうなんだ。でも私たちの場合ハクア君のアイテムボックスがあるからね」
「確かにそれで十分事足りるしな」
白亜とリンは適当に周囲を見ながら通りを歩く。
「お腹すいたね」
「そうか?」
「ハクア君小食だもんね」
「胃が小さいんだろうな」
白亜は食事をしてる暇があったら何か研究していたりするので食事を面倒臭がってあまりとらなかったせいで胃がやけに小さいのだろう。
よくそれで生きていけるものである。
「リンが空いたならどっか食べに行こうか?」
「ハクア君空いてないんでしょ?」
「俺に合わせてたら後数時間は何も食べられないよ?」
「うん。食べに行こう」
流石に数時間はキツいと判断。そのまま以前にも訪れた個室のレストランに向かう。
「お。前より空いてる」
「本当だ!直ぐ入れるかなぁ?」
中に入ると何故か男性が一人もおらず、客も店員も全員女性だった。
「?女性の間で流行ってるのか?」
「スイーツが有名だからね、このレストラン」
「そうだっけ?」
「前来たときはそうでもなかったけど、最近女子の間で流行ってるの」
「へぇ」
白亜も女だ。一応は。しかし旗から見ると髪が長い男の子にしか見えないので物凄く浮いている。
「店員も女性にする必要はあったのか?」
「私に聞かれても」
「そうだよな。確かに」
白亜は居心地の悪さを感じながらリンと待合室で座る。周囲は女性しかいない。
すると、白亜の前に座っていた女性が白亜を見て、
「デート?」
と聞いてきた。
「いえ、私女ですので」
「あ、そうなの……」
こういうときにだけ自分は女アピールをする白亜。ずるい。
「えー?あなた女なの?見えないわ」
「よく言われます。楽な格好している結果こんな感じなので」
楽な格好=男装なのかは微妙なところだが、実際もそんな感じなので。
「へぇー。幾つ?」
「12です」
「12かぁ。楽でいいよね」
楽なのかどうかさっぱりだが今のところ話を合わせる白亜。
「君、名前は?」
「白亜です」
「ハクア?どこかで聞いたことある気がするわ」
「そんなに有名じゃないですよ?」
ギルドで最も注目されている人が何を言う。リンの目がジト目になる。
「そう言えば最近変な噂が流れてるのよ」
「変な噂?」
「仮面の魔法使いって覚えてる?」
「何年か前に居た?」
「そうそう。その人が怪盗だって噂があるのよ」
目の前に居る本人は盗みなんてしたことがない。
「そうなんですか?」
「噂よ。噂。でも最近はよく聞くわよ」
「へぇ……」
誰だよ。と思いながら世間話を続ける白亜。先に二人用の個室が空いたのでその女性とは別れて個室に入る白亜とリン。
「怪盗だって」
「俺盗みなんてした事ないけどな」
クスクスと笑いながらメニューを見る二人。
「ハクア君がいろんな魔法が使えるって二年前に知られちゃったからもしかしたらバレちゃうかもね。で、怪盗だって間違われて捕まりそう」
「やなこと言うなよ。前世でもそんなことしてないのに」
「ふふ。ごめんって」
白亜はピザ、リンはカルボナーラを注文し、部屋で雑談をしながら食べ物が来るのを待つ。
「ハクア君。一年寝てたって言ってたけどどういう事?」
「ヒチツクリっていう麻酔を使われたんだけど、俺には合わなくて麻酔の効果で一年昏睡状態」
「え」
「ま、サラが毎日回復魔法を掛けてくれたから助かったんだけど」
「それはまた凄いね……」
白亜はぐぐっと伸びをする。
「一年寝てただけじゃないんだけどな」
「どういう事?」
「邪神って知ってる?」
「ジャラル?」
「そうそう。その人に色々と教わってた」
「え?ごめん。話がわけわかんなくなってきた」
白亜は一年の事をリンに説明した。
「じゃあハクア君の師匠は神様なんだ」
「まぁ、そんな感じ」
「やっぱり凄すぎる」
白亜も一応神の部類ではあるのだが本人こんな感じなので気付く人なんて殆どいない。
料理が届き、食べながら話を再開する。
「リンってさ、夢とかあるの?」
「突然どうしたの」
「いや、なんとなく」
「そうだね。ある、かな」
「どんなの?」
「ニンフは迫害されてるって前に話したよね?」
そういえばそんなこと言ってたな、と相づちを打ちつつ話を促す。
「それを無くしたいかな」
「なんだ。俺と一緒じゃん」
「え?」
「俺は、種族間の対立を無くしたいんだ。無理でも構わない。やれるだけの事をやるだけだが」
「そうなんだ」
「まぁ、難しいだろうけど」
食べ終わった皿を一纏めにして端に置きながら、
「だからさ、俺はどんな種族も奴隷も貴族も関係ない場所を作りたい。全世界をそうするのは無理でも一ヶ所でもそんな場所を作りたい」
「大変だと思うよ?」
「判ってるよ。けど、俺みたいに戦いだけに身を置くなんて間違ってると思うんだ。戦い方なんて覚えなくてもいい方がいいんだ」
リンに目を向け、少し照れたような顔を見せる。
「俺は蔑まれても構わない。馬鹿って言われたっていい。互いを恐れて争うなんてつまらないだけだ。互いを尊重しあって一緒に暮らす方が何十倍も面白いだろ?」
リンは小さく笑い、
「ふふ、そうだね。ハクア君らしい考え方かもしれない」
「リンはどう思う?」
「確かに突拍子も無い提案だけど、それができたら私は嬉しいかな。逃げ隠れる必要はないんだもん」
「魔族もエルフも、ニンフも人間も。全部種族なんか関係ない。その人自身を評価する。全部平等は流石に難しいと思うけど、種族や家柄で差別なんかない場所。今のこの世より絶対に楽しいだろ?」
「それは面白そうですね!」
「いいじゃん!僕も手伝うよ!」
帰ってきてから皆にも同じことを言うと好反応だった。
「ハクア様、そんなことを考えていらっしゃったんですか」
「結構前からな」
何も考えてないように見えて意外と考えている人である。
「ハクア君!それいいね!僕達迫害されてるから絶対に魔族が集まると思うよ!」
「魔族ばっかり集まられてもな……」
魔族にはかなり個性的な人が多いので。
「種族間トラブルがないってのはいいなぁ」
「若様のお考えに賛同いたします!」
配下組はもう既に何かし始めようとしている。気が早すぎる。
「まぁ、まだ何も進んでないけどな。場所も決めてないし」
「国ですか?」
「そんなでかい規模は無理だろ。精々小さい町一つ分だ。あまり広げるのは得策ではないし」
周辺諸国から面倒なクレームが来そうだ。
「場所なら開拓すれば良いだろう」
「国王様!?」
「話は聞かせてもらったぞ」
いつの間にか居た。白亜は気付いていたが気にしなかっただけである。
「ハクア。貴殿の話、中々面白かった。そこで提案だが、ここ人間国に管理しきれていない森があるのは知っておるか?」
「はい。エリウラの森ですか?」
「そうだ。そこは開拓した者に分け与える土地なのだ」
「そんな話ありましたか?」
「明言していないだけだ。貴殿ならば出来ると見込んでの話だ。どうする?」
白亜がパァァッと珍しく嬉しそうな笑顔を作る。
「宜しいのですか!」
「貴殿には色々と世話になっているしな。構わんさ」
「ありがとうございます!」
白亜が頭を下げると周囲も一斉に頭を下げる。
「ありがとうございます、父上!」
ジュードが抱き付いた。こうしてエリウラの森の開拓をすることになった白亜達。エリウラの森に何があるのか、その時は誰も知らなかった。




