「サクラちゃん!」
「白亜さーん」
「おお……お前らか……」
「あの……生きてます?」
目がいつも以上に死んでいる白亜。
「計算が大分面倒なんだよ……。時魔法の方も平行してやらないといけないし……」
資料に埋もれながらぶつぶつと呪文のように答える白亜。
「え、ええと。エリスの検査って」
「ああ、準備は出来てる。ここじゃちょっと狭いから移動しようか。どっか空き部屋使えばいいよな……」
「王城完全に私物化してますよね」
「だってここ殆ど人来ないし……。国王様にもちゃんと許可は得てるしな……」
色々とこの人凄い。
「あの、王族の方では無いんですよね?」
「違うぞ?」
「では何故ここに住んでいるんですか?」
「弟子が第二王子なんだよ……。それと家をどっか建てようって思ってたけど国王様がここに住めって言ってくださったし」
王城に住むというのは国民の憧れである。普通は王族しか入ることができない場所なので余計にだろう。
「その年で弟子を……」
「何か無理矢理感が凄かったけどな……」
今思い出すと何であんなことになったと問いたくなる。
「まぁ、でも助かってるよ。色々。古代魔法を盗まれる事もないだろうから」
「1つ聞きたいのですけど、貴方幾つ古代魔法を使えるのですか?」
「ん?んー……。幾つだろう。数えたことないなぁ。転移、竜脈、幻覚、探知……ああ、数えるの面倒臭い」
いったい幾つ有るのだろうか。もう本当にやりたい放題である。
「ここで良いかな」
滅多に使われてない部屋に入り、懐中時計から色々と取り出す。
「それじゃあ検査、始めようか」
聴診器のような道具を取り出す。胸に当てる部分は聴診器その物だが、耳に掛ける部分がなく、ただのチューブになっている。
「今から俺の魔力を流す。痛くなったら言ってくれ。いくぞ」
ペタッと胸に当ててチューブの方から魔力を流す。
「っ!?」
「痛いか?」
「い、いえ………少し驚いただけです」
徐々に流す量を増やしていくと聴診器のような道具自体が淡く光り出す。
「ん……。まぁ、大丈夫か」
終わったらしい。よくわからない検査だ。その後もよくわからない検査が続き、採血をして終わった。
「白亜さん。適性検査って結局何だったんですか?」
「あっちとこっちを行き来するときに体に負荷がかかるんだ。それに耐えられないとそれこそ上半身だけ送られるとかいう事になりかねない。だから俺の魔力で保護しながら行く必要があるんだ」
「俺たちはやらなくていいんですか?」
「それは問題ない。日本人は何故か耐えられる体を持ってるみたいなんだ。というのも向こうには大気中に魔力がない。別の魔力を体に流しても問題ないんだ」
割りとちゃんとした理由があったようだ。
「それと、何かわからんがヴァンパイアも一緒に行くことになった」
「え?あ。はい。あの人なら確かに大丈夫かな……」
白亜を止める人としては良い人選である。
「それでだ。俺とヴァンパイアにも色々教えてほしい。50年も過ぎてるなら変わることは多そうだしな」
「確かにそうですね。良いですよ」
あっさり許可がとれたのはエリスに教えるために一回説明するので良いやと考えたからである。
「そうだ。エリスさんの設定考えてくれるか?」
「設定?」
「そう。俺は認識改変の魔法とか調べておくから」
「エリスはアメリカの留学生で……とか?」
「そうそう。そんな感じ。そのシナリオを無理矢理周囲に浸透させるからさ」
「白亜さんってさらっと凄いことしてるよね……」
もう今更すぎる突っ込みだ。
その日から常識を教えるレッスンが日本組によって行われた。白亜は一度聞けば覚えられる上にシアンという最強の助っ人が居るので一瞬で世界情勢から最近のファッションまで頭に叩き込んだ。
ヴァンパイアは多少苦労したものの、頭が白亜ほどではないが中々良いのですんなり最低限の常識は覚えられた。
大変だったのはエリスである。
先ず機械という物に触れたこともないので携帯電話1つ教えるのに数十分かかる始末である。
先は長そうだ。これに合わせて文字や言葉も覚えなければならない。日本組は配下たちが頑張ってくれたので一ヶ月で文字も言葉もマスターするという異様な結果だったが。
果たしてエリスはどうなるだろうか。
「魔獣はまだいるんだな。っていうか種類増えてる」
「はい。白亜さんが大本を叩いたのでそんなに増えている訳じゃないですが、今でも町中での被害は絶えません」
「そっか……」
白亜は気力を使うと寿命を削ると皆に説明した。だが、それは実は間違いである。
白亜が気力を使うのは生命力と引き換えで行っているが、他の人は体力を削るように教えたので疲れやすいが死ぬことはないようになっている。
これは寿命を削らないほうが良いだろうという白亜の配慮であるが、その代わり気力で出来ることはかなり限られてしまう。
「武空術使える人はいる?」
「武空術ですか?一人だけなら。その人が今亜人戦闘機の殲滅部隊の隊長なんですよ」
「へぇ。じゃあ複数並列発動は?」
「なんですか、それ」
「知らないのか。じゃあ使いこなせてはいないんだな……」
複数並列発動。白亜は最大で同時に30個の気弾を出現させられるが、普通は一個が限度である。
この感じだとバリエーションの解放もできてないな、等と思いつつノートに向かって高速で手を動かした。
「祭り?」
「行こうよ!」
突然そんな話をリン達から言われ、確かにここ最近外に出てないと思い出した白亜。
「夏祭りねぇ……。でもまだやることが」
『私がやります。少し位は遊んだら如何です?』
「ほら、シアンさんもこう言ってるし!」
「まぁ、気分転換にはなるかもしれんが……」
「じゃあ決まり!今すぐ行こう!」
「今!?」
かなり急だった。
「今すぐか」
「だってハクア君一回何かやり始めると止まらないんだもん。なにもやってないときに言わないと」
「あ、そう……」
ということで、気を利かせたジュードと精霊組は別行動、配下組も別行動……という名のストーキングで護衛をすることになった。
「じゃあ、行くか」
「うん」
二人の後ろを尾行する配下組。勿論白亜は気付いているがどうでも良いと思っているのか特に何も言わない。
「ハクア君と町を歩くのも久し振りな気がする」
「そうだな。俺もここ二年は殆ど外に出られなかったし。その内一年は寝てただけだしな……。帰ってきても部屋に籠ってたし」
そう聞くと筋金入りの引き篭もりに聞こえる。
「うん。ハクア君ご飯の時もあんまり出てこないしね」
「別で食べてたな、確かに」
計算を一時中断したくないだけなのだが、やはり引き篭もりにしか聞こえない。
暑さで汗ばむリンと涼しい顔をして平然と歩いている白亜。本来ならばリンの方が種族柄暑さに強かったりするのだが白亜の耐久値はそれを優に越えている。
どんな体だ。
「あ、そうだ。リンに渡すものがあったんだ」
白亜は懐中時計から新品同様、いや、それ以上に綺麗になったサクラちゃんを取り出す。
「サクラちゃん!」
「直すのに手間取っちゃって。ごめんな」
「ううん!ありがとう!もう直らないと思ってたから!」
壊した本人は白亜なのだが、ここで追求するのも可哀想だ。
「あれ?サクラちゃん、前よりふわふわしてる!」
「綿の質とあて布の硬さを少し変えてみたんだ。破れ耐性とかもついてるから前よりかは丈夫だと思う」
サクラちゃんが割りとハイテクになって帰ってきた。
白亜の物に魔方陣を書く技術は滅多に市場に出回らない高級品等に使われているが、白亜の魔方陣はそれらを圧倒的に凌駕する。
一流の職人が同じことをサクラちゃんにやったとして、針でサクラちゃんに穴が開かない程度の効果があるならば白亜の魔方陣はチェーンソーで切られても無傷レベルまでいける。
もう縫いぐるみではない何かになってしまっているが、壊れにくい方がいいだろうということでこれに関しては一切自重しないのでかなりのとんでも性能になってしまっている。




