「もうじゃんけんとかでいいじゃん」
「さて、どうする?」
「すみません……魔力切れました……」
「早いな」
「俺そんなに魔力無いんですよ……」
賢人、早く終わらせるためにやったのではないだろうか。
「まぁ、別にいい。俺の方もやることが溜まってるし……。これでいいか?お嬢さん」
「え、ええ……」
年下にお嬢さんと言われ、面食らったエリスだがそれ以上に白亜の強さを目の当たりにして少々気が動転している。
「そうだ、日本語は話せるのか?」
「ニホンゴ……?」
「知らないなら覚えておかないとヤバイぞ。こいつらに付いていくならな」
そう言った瞬間、エリスの顔が喜色に染まる。
「……!良いのですか!」
「まだ検査もしてないから判らないが……。まぁ、あっちで魔法使わなきゃ大丈夫だろう。全部捨ててでも行く覚悟はあるか?」
「勿論です!」
即答したエリスを少し感心したような目で一瞬見て、表情を緩ませる。
「……そうか。なら、いい。日本の言葉、文字をこいつらに教えてもらえ。それと明日また城に来てくれ。適性検査するからな。もし適性がなければ連れていかないからそのつもりで」
「は、はい……!」
白亜の突然の笑みに顔を真っ赤にするエリス。婚約者が目の前にいることを忘れている。
「エリス。良かったね」
「はい!」
その婚約者も気付いていないが。知らない方がいいこともあるのだ。
「若旦那!俺を日本に連れていってくれよ!」
「急にどうした」
キラキラした好奇心溢れる眼差しを白虎から向けられほんの少し面喰らう白亜。そこに配下組が続々と集まってくる。一体どこからわいた。
「駄目だよ、白虎。ちゃんと説明しなきゃ」
「どうしたんだ?突然」
白亜が首をかしげる。配下組は皆同じようなキラキラした目で白亜を見る。
「いえ、若旦那様は護衛もつけずに遠出をすると言ってらっしゃる。私たちは一人くらいは必要だと思うのです」
「成る程。で、序でに日本も見てみたいと」
「「「はい!」」」
白亜は少し考え、
「そうだな。連れていくのは一人だな。人数が増えると魔力も相対的に増えていくし」
希望の眼差しで見詰める配下達。
「その、申し訳ないんだが。あっちには魔力が浮遊してないから自分の中での回復が遅い奴は連れていけない。必然的に燃費が悪いバハムートやリンドブルム達は連れていけない」
ガーン、とショックを受ける燃費悪い組。
「それから、もし魔力が完全に無くなったときに元の姿に戻ることを考慮すると、その、連れていける可能性があるのはレイスとヴァンパイアだけになっちゃうんだよね……」
レイスとヴァンパイアが大きく天に向かってガッツポーズを取るなか、その他の者達ががっくりと項垂れる。
「レイスなら戻った瞬間から霊感の無い人達には人が消えたって思われるだけだし、ヴァンパイアなら歯とか翼さえ隠せば人間に見えるから。その、ごめんな?」
地面に座り込む者が出てきて心配になったらしい白亜。
「いえ……。私達、元の姿怪物ですもんね……はは……」
大分参っているようすだ。そんなに行きたかったのだろうか。
「私が!」
「いえ、私が!」
この二人が喧嘩し始めた。普段皆の行動を一歩後ろから見て、何かありそうなら正す二人だが、これだけは譲れないらしい。
配下組の中の日本とはどんな楽園なのだろうか。
「なんでもいいだろ」
「「よくはありません!」」
「お、おう……?」
白亜の声も届かない。もうこうなったら終わるまで口論し続けるだろう。
「私でしたら魔法だよりの戦闘の貴方より素手や槍の方が長けています!魔法を使わずに護衛するなら私の方が適任です!」
「幽霊は魔力切れたら触れることもできないのですよ?もしそうなった場合貴女はどうやって若をお守りするのですか?私でしたら魔力がたとえ切れても体術は使えます!」
物凄い剣幕で捲し立てる二人。誰も仲裁できないので皆見ているだけである。
「もう俺一人で行こうかな……」
「「「それはダメ!」」」
「あ、うん……」
この人を野に放てばどうなるか、ほぼ全員が予想できるだろう。力を抑えていても何気ない行動からかなりのただ者ではない感じが漂っているのだ。
殺気なんて当てられるのに慣れていないものが当たったら気絶してしまうほどである。
もう人間やめているので。精霊になる前から。
「もうじゃんけんとかでいいじゃん」
決め方適当すぎる提案が白亜から出された。この際はそれがいいだろう。くじだと二分の一の確率なので白亜が近い方を取るに決まっているので少々公平さに欠ける。
くじで公平じゃないというのもおかしな話なのだが。
「じゃあ、じゃんけんで」
「一発勝負ですね」
じゃんけんをするとは思えない気迫が両者から溢れ出る。もう殺気に近い。なにする気だこの二人は。
「せーのっ!」
掛け声、せーの、なのか。タイミング会うのか心配だった白亜だが、二人とも動体視力が半端ではないためぴったりとタイミングが揃う。
勝ったのは、
「かちましたあぁぁあ!」
「ぅう……なんで変更しなかったんでしょうか……迷ったのに」
ヴァンパイアだった。
『中々いい人選ですね』
『そうだな。あのヴァンパイアならば力もある。常識もあるしな』
『アンノウン。俺に常識がないって遠回しに言ってるよな?』
シアン達と話し合っていろいろ決めていたのだ。人選をミスする筈がない。
『ダイとかだとずっと酒酒煩そうだしな……』
『確かに。あの酒癖の悪さも問題ですしね』
『酒で緩むとなにか口走りそうだしな』
ダイの評価はかなり低いようである。
「えっと、じゃあ宜しくな。ヴァンパイア」
「はい!お任せを!若!」
「あー、その若ってやつ、あっちじゃ使ってる人見たこと無いから使わないでくれるか?」
「で、では、なんと?」
「海道 新っていう偽名使う予定だから海道でいいんじゃない?新でもいいけど」
その言葉に配下組の動きが止まった。
「そ、それは、呼捨て、でしょうか」
「そうだな。なにか変か?」
「い、いえ……その。畏れ多くてとても……」
そういえば配下組の中で白亜の事を名前で呼ぶのはダイだけだ。白亜の配下は序列世界なので皆名前では呼ばないようにしている。
「わ、私は男爵位ですので……」
「俺は別にどうでもいいんだがなぁ……」
白亜的には序列があまり好きではないのでなんで上下付けるの?と思っているほどである。
『召喚獣ってこんなに序列が激しいものなんだな』
『序列決めたの私ですけどね』
『シアン、そなただったのか』
アンノウンは白亜の記憶を見てはいるがコピーしたわけではないのでかなり穴だらけである。こういうどうでもいいことは特に。
『ええ。なにせ多重召喚といっても過去にこれだけの数呼び出せた者はいないので、序列で全部定めることにしました』
なんだか知らないところでシアンが色々やっていたようである。流石は博識者だ。もう博識とかの域を越えている気はするが。
「でもなぁ、日本って貴族とかの上下関係基本無いからそれだと浮くかもよ?」
「うっ……責めて、さんづけで」
「?それならいいけど」
呼び捨ては心にくるものがあるらしい。後周囲の視線。主に公爵位の四人。
「日本語は話せるよな?」
「あ、はい。それは既に若から見せていただいてますので」
「そうか。じゃあ覚えるのは常識だな。俺も調べないといけないし」
死んでから50年経っているのだ。色々と世界情勢も変わっているだろう。日本に行って挙動不審になるのは避けたい。
「それじゃあ日本組に教えてもらうかなぁ……。あ、後計算もやり直さないと。ああ、面倒臭い」
大きく欠伸をしながら部屋に戻っていった。ヴァンパイアが周囲に一時期嫉妬の目で見られ続けたのは言うまでもないだろう。
特に玄武の目が恐かった。今にも襲い掛からんとしているような迫力だった。
ヴァンパイアもそれが気にならないほど浮かれていたが。




