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「何って、ああ、魔法崩し?」

「な、なんですか。今のは……。身体強化は使用禁止ですよね?ルール違反では?」

「違うよ、エリス。白亜さんはあれが素なんだ。元の身体能力が常人の数百……数千倍はある。しかも頭も学者並みに良いから勝てる要素が僕達には1つもないんだよ」


 全員が白亜の動きを目で追おうと、白亜の動きをまじまじと観察する。


「しかもあの感じだと」

「ああ。ほど遠い感じだな」

「何がですか?」

「白亜さん、小走り程度の力しか出してないんだ。もっと少ないかもしれないけど」

「……それはどういうことですか?」

「簡単だよ。白亜さんなら今ペースなら何時間も休みなく戦ってられる。それほどの人なんだ。人間越えてるよね」


 人間というより精霊や、神に近い種族なので確かに人間は越えているだろう。


「あれで本気じゃない……」

「うん。だから言ったでしょ?あの人には絶対に逆らわない方がいいって」


 もう白亜は危険生物扱いになっているのだが、実際そんな感じなので誰も突っ込まない。


「お。二試合目」


 試合開始の合図が出された。しかし、何故か両者は動かない。


 賢人は白亜に突っ込んでも追い付けないと悟ったので様子を見ているようだ。対する白亜は、ただそこに突っ立っているだけである。構えてもいない。


 コキコキ、と肩をならして少し表情を和らげる。


「連撃を見てみたい。先手はそっちで構わないぞ?」

「相変わらずそういうところ師匠っぽいですよね」

「なんだ、こっちから行った方がいいか?」

「いいえ、いきます!」


 フッと賢人の姿が消えた。次の瞬間、白亜の真横に賢人が現れて剣を降り下ろしていた。


「……20、いや、23」


 ボソッとなにかを呟きながら殆んど見ないで紙一重で躱す。そこから賢人が第二撃、第三撃の攻撃を突き、袈裟懸けに降り下ろす。


 白亜は全く視線を向けないままに全てギリギリのところで避ける。


「はい、2本」


 袈裟懸けに降り下ろしたところで白亜の拳が眼前で寸止めされる。


「………」

「23点、52点、13点だな。最後のは振りかぶりすぎだ。突きはまぁまぁ良かったぞ」

「はい……」


 ガックリと項垂れる賢人。


「えっと、どういうことですか?非常に惜しいと思いましたが」

「惜しいんじゃない。白亜さんは見ないであれをわざわざギリギリで避けたんだよ。一歩間違えたら大怪我だけど、白亜さん曰く、当たると思って繰り出す技程体力を消耗する。だからギリギリで避けて相手を疲れさせるのが基本だってね」


 できる人なんてそうそういないが。


「つまり、全部見切ったと?」

「うん。見切ったというより、音で避けたんだろうけど」

「音で」

「白亜さん、五感の中でも特に耳がいいんだ。音でどこを攻撃してくるのか、呼吸でどれ位疲れているのかまで判るんだって」


 もう本当に化け物である。完全に人間捨てている。


「先程の23点、とは?」

「白亜さん、攻撃やらなんやらに点数をつける癖があるんだよ。しかも超辛口評価だから80点越えたら相当良いくらいのね」

「満点は?」

「100点満点らしいけど。僕らの中で出た最高点は確か83点だったかな」


 もうそれは83点満点でいいと思う。


「あの見えない程の攻撃が23点ですか……」

「白亜さんなんて見なくても避けれちゃう攻撃だからね……」


 五感の域を越えている気がする。


「―――敵を穿て!水砲弾(アクア・シェル)!」

「へぇ。上級じゃん」


 白亜に向かって直径1メートルはある水の塊が見えない程の速度で打ち出される。賢人は念には念をと10個の水の塊をほぼ同時に打ち出した。


 そしてそれの後ろに隠れるようにしながら白亜との間合いを詰める。


「ふぅん。中々強めの構成だな。だけど、穴だらけでもある」


 白亜は音速を越える速さの水弾にそっと触れるとパシャン、とまるで水風船を割った時のように地面に落下する。


「「「……え?」」」


 しかもそれを全部一瞬で終わらせ、その後ろにいる賢人に拳を寸止めする。


「はい、3本」


 地面や賢人はびしょ濡れになっていたが白亜には水滴さえ付いていなかった。


「えっと、今のは?」

「俺たちにも判らない……」


 本当に一瞬だったため誰も何が起こったのか把握できていない。


「白亜さん」

「ん?」

「今、いったい何を?」

「何って、ああ、魔法崩し?」


 そんな名前なのか、と全員の思考がリンクする。


「魔法崩しって言うんですか?」

「そうだ。魔法の所有権を奪うだけだけどな」

「え?どういうことですか……?」


 白亜はんー、と考えるそぶりをし、


「魔方陣を書き換えたとでも言えばいいか?」

「え?でも今の魔法は詠唱で……」

「そうだな。詠唱っていうのは魔方陣を書く作業を言葉で簡略化したものだと考えてもらっていい」

「つまり、言葉で魔方陣を書いてると?」

「そういうこと。少し弄ってやれば所有権は簡単に移せるぞ」


 それをするためには打ち出された魔法に触れるという暴挙に出る必要があるが、それはまぁ白亜なので。


「所有権って?」

「発動権とも言うな。俺は今、所有権を奪った直後に廃棄した。でも、やろうと思えば魔法をこっちからそのまま打ち返せるぞ。ルール違反になるからやらんが」

「……やってみてもらっても?」

「ああ、いいぞ。誰か被害がでない程度の魔法を俺に打ってこい。殺傷性がないやつで頼む」


 そう言うと、一人が手を挙げて魔法を詠唱する。


「水よ。我が意思、我が魔力によってその姿を現せ。(ウォーター)


 これは飲み水を出すときに使われる魔法だ。殺傷性はなく、ただ決まった方向に水の玉を出すだけ。何かに当たると地面に落下するような、それこそ水風船の様なものである。


「ん」


 白亜はそれに右手でそっと触れ、来た方に弾く。


「ぅぶ!」

「こんな風に、魔法をそのまま反射とか出来るぞ」


 弾き返された方はびしょ濡れである。実に不憫だ。流石に可哀想なので白亜が一気に風で乾かした。無詠唱で。


「さって、続きを―――」

「待ってください!」

「ん?」

「今、詠唱しませんでしたよね?」

「しなかったけど?」


 二年前、大勢の前で多重召喚とか色々やらかした白亜なので、もう何も隠していない。だから重力魔法や創造者クリエイター等をこの前の宴会で平然と使っていたのだが。


 エリスは知らなかったらしい。


「無詠唱……そんなものが存在するのですか」

「するよ?古代魔法が栄えた頃はそれこそ無詠唱が主流だろうし」

「古代魔法?」

「古代魔法」

「その、使えたりするんですか?」

「?使えるけど?」


 普通に答える白亜。日本組、頭を抱え始めた。


「……なんで」

「ん?」

「なんで技術提供を国にしないのですか?」

「しなくていいって国王様に許可は貰ってる。それに、古代魔法なんて……」


 そこで一瞬言葉を止める。


「いや、なんでもない。とにかく、古代魔法は誰にも教える気はないし、教えるにしても害のないものだけだ」

「古代魔法があれば世の中はもっと豊かになるとお父様が言っていました」

「豊かにね……。事故が多発し、死人が大量に出ても、か?」

「え……?」

「古代魔法が廃れた理由はその事故の多さと、奴隷の致死率の高さからだ」


 そう言った途端、日本組も、え?と首をかしげる。


「白亜さん。事故が多発したってのは判るんですけど、なんで奴隷が出てくるんですか?」

「……古代魔法は魔力の質や量が重要視される。俺みたいに魔力が多く、尚且つ回復も速い奴ならばまぁ、事故の場合は責任自分でとれと言えばいいだろう。だが、問題なのは便利さだ」


 くぁ、と小さく欠伸をしながら話す白亜。


「貴族連中が自分の奴隷を使って古代魔法を使う。文字通り、死ぬまで魔力を吸い取ってな。死にそうになるレベルと本当に死ぬレベルだと、後者の方が生命力も魔力に変換されるから質も量も期待できるって訳」

「つまり、奴隷を犠牲にして古代魔法を使う輩が絶えなかったと」

「そういうこと。本当は禁術の一種なんだ」


 禁術をバンバン使っている人が何をいっている。


「人の口に戸はたてられぬ。誰かに教えたら確実に広まってまた、昔のようになるだろうな。俺がわざと周囲に使えることをアピールしながら情報提供しないのは惨劇を知らせるため。それと面倒な輩を俺に集めるため、かな」


 適当に話しているようで内容は割りと深刻である。


「覚えておきな。古代魔法は便利な魔法じゃない。使い方を間違えたら国ひとつくらい、一瞬で滅ぶ」


 言ってる口調は厳しいが、その顔や声色はまるで何かを愛しんでいるような優しさが宿っていた。

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