「やってください、ケントさん!」
「出来るんですか!?」
「え、あ……無理って言えばいい?」
「なんでですか!」
白亜の目が更に輝きを増していく。
「目からビームですか」
「なんだそれは。……できないこともないけど」
「「「出来るんかい!」」」
白亜に不可能はないと日本組は思い始めた。実際そんな感じなのだが。
「辻褄合わせってなんですか?」
「簡単に言えば、そこに存在しないはずのものを最初からあったかのように周囲に認識させる事」
「余計わかんないです」
「じゃあ聞くなよ」
白亜は本棚から数冊、辞書くらいの厚さの本を取り出す。
「文献では一応そういう魔法の記録はあるんだけど、なにせ数千年前の魔方陣だからなぁ……。興味もなかったから調べようとも思わなかったし」
「白亜さんが興味ないとか珍しい」
「無いものはない。周囲の認識を変えるとか幻覚魔法で事足りるしな……」
それができるのは人間では白亜だけだ。もう一応種族は精霊に近いことになっているが。
「あの……」
「ん?」
「この失礼な子供はなんなのですか?」
「子供って……まぁ、否定はできないけど」
「ちょっとエリス!すみません、白亜さん」
「いや、いいけど」
直球過ぎる質問に真顔で返す白亜。もう意識なんて本に集中している。
「子供の癖に、礼儀をわきまえていないのはおかしいと思うのですが」
「へぇ……。言うじゃん」
かなり上から目線で話す白亜。そんな様子に日本組は違和感を覚えた。
「そういえば白亜さん初対面の人には基本敬語なのに何でエリスにはタメ口なんですか?」
「俺の口調を耐えられたら考えても良かったんだが。ちょっと忍耐が足りんかもな……」
「え?わざとエリスを怒らせるような言い方をしてたんですか?」
「そんなところ。だが、これくらいで怒ってたら日本では暮らしてけないと思うんだが」
ちゃんと考えがあっての事だったようだ。
白亜は本を何冊か同時にベッドの上に広げてなにかを探している。
「わ、私はこれくらいでは怒りません!」
「怒ってんじゃん」
「私はこれでも貴族です!家柄も家事もいざとなれば魔法も剣も使えます!」
「ごめん。日本は戦わない国なんでね。剣なんて振り回してたら捕まるし、魔法も存在しないからそれ全部無駄なんだよね……。貴族っていう制度もないし」
「へ?」
「ん?……お前ら、説明してないのか?」
やっと話が噛み合ってきた。日本組は少し明後日の方を見て、
「白亜さんに断られる可能性もあると思って……」
「ふぅん。じゃあ説明して」
「今ここで!?」
「今ここで。本気でこの人が行くかどうかも不明だし、世界線に耐えられなかったら連れていくこともできない。それに……」
「それに?」
「計算外の事態だからな。また魔方陣を書き直さないといけないかも知れなくなるし。それは誰がやると思ってるんだ?」
「う……すみません……」
珍しく白亜が少し眉間にシワを寄せてため息をつく。相当面倒な作業なのだろう。
「説明くらいしていい。ただ、外にバラすような感じだったら記憶を消す。いいな?」
「記憶を消す?そんな事出来るんですか?」
「出来る。ま、やったことないから失敗するかもしれないけど」
失敗したらどうなるのか。
「失敗って?」
「記憶全部消えるとか、なにも消えないとか、まぁ、色々」
「怖すぎるよ!」
不適な笑みを浮かべて物騒な会話をする。
「誰にも言いません」
「ふぅん……。嘘はついてないみたいだな。良いだろう」
まじまじとエリスを見て、にやっと笑う白亜。正直不気味だ。
「そういえば無礼な貴方の名前、伺ってませんよ?」
「無礼な貴方って言われると言う気なくすんだが」
「私が名乗ったのですから貴方も名乗りなさい」
「くくっ、面白いじゃん。俺は白亜。ハクア・テル・リドアル・ノヴァ。ランク17冒険者だ」
「貴方が冒険者?見えないわ」
「そうだな」
そんな危なっかしい会話を日本組は唖然と見ていた。
「白亜さんが……」
「あの白亜さんが声を出して笑った……」
そこか。
「貴方がランク17?ギルドは馬鹿ですのね」
「なにがだ?」
「貴方のような弱そうな冒険者が一流レベルだなんて」
それを言った瞬間、日本組が血相を変えた。
「だ、駄目だよエリス!この人僕達全員が束になっても本読みながら勝っちゃえる人だから!撤回して!」
「そうですよエリスさん!この人やろうと思えばこの世界消し飛ばせるんですから!」
「俺消し飛ばせる何て言ったか?」
「あ、それはやっぱり出来ないんですか?」
「できるけど?」
「「「でしょうね!」」」
文字通り世界最強の子供なのだ。
「そんなの惑わされてるだけですよ、皆さん」
「「「いやいやいや!」」」
「実際ここにいる誰一人、本気で全員かかっても傷ひとつ負わせられなかったんですから!」
「いや、でもあのとき俺ちょっと手のひら切ったじゃん」
「あれやったの白亜さんがコケたからでしょ!?」
必死にエリスを止めようとする日本組ともうどうでも良くなってきた白亜とそんな白亜を叱るエリス。狭い部屋でよくやるものである。
「信じられません。決闘しましょう」
「はぁ?俺が?誰と?」
「やってください、ケントさん!」
「俺ええぇぇ!?」
この中で一番腕があるのは賢人である。人選は間違っていない。だが、相手が悪すぎる。
「やるか?久し振りに」
「ムリムリムリムリ!白亜さん滅茶苦茶強いもん!っていうか弟子が師匠に勝てるわけないじゃん!」
「そんなことないぞ?俺は師匠に勝ったぜ?」
「そんなの出来るの白亜さんだけだ!」
そんなこともないのだが、相手が白亜である。分が悪いどころの問題ではない。
「俺も久々にお前と稽古したかったんだが……」
「俺が死ぬ!」
「じゃあハンデ多目につけよう」
「ハンデ?」
「そうだ。じゃあ俺は身体強化、魔法、魔眼全部封じて素手で戦ってやる。どうだ?」
滅茶苦茶である。純粋に殴りあいでならともかく、賢人は剣でしかも魔法や身体強化もあり。赤子を相手にするようなものである。
「え?それでいいんですか?」
「構わないぞ」
「じゃ、じゃあそれなら……」
白亜が最も得意とするのは実は魔法だ。逆に一番苦手なのは徒手空拳である。武器の扱いが天才的に上手い分、何もないのが苦手である。
それでも滅茶苦茶な強さではあるのだが。
「えっと、防具もつけないんですか?」
「ん?ああ、大丈夫だ。俺頑丈だし」
「そういう意味じゃ無いんですけど」
「?」
防具で攻撃を逸らすこともできるのでそういう意味で聞いたのだが白亜には不要である。
「んー。じゃあ俺は5本、賢人は1本でも入れられたら勝負終了でどうだ?」
「いいんですか?そんなにハンデ増やして」
「さぁ?でも今の実力を計るには丁度いいだろ?」
「相変わらずの化け物ですね……」
「……誉め言葉として受け取っておく。誰か審判してくれ」
審判、意外と命懸けであるもしもの時は白亜の間に入らなければならないので。
「じゃあ私やるよ」
「大丈夫か?」
「うん。多分」
優奈が少々ビビりながらスタンバイした。
「両者、宜しいですか?」
「ん」
「いつでも行ける」
一見したら適当で隙だらけに見える構えをとる白亜。しかし賢人は知っている。白亜は今、どこからどう打ち込まれようが絶対に対処できるような隙のなさを持っていることを。
それをしっかりと意識し、剣を上段に構える。
「それでは、はじめっ!」
言い終わった瞬間、一陣の風が吹いた。気付くと白亜が顔の横で拳を寸止めしていた。賢人は知らず知らずのうちに額から冷や汗をかいていた。
(速すぎる……!俺も合図で動いたつもりだったのに……!)
ちら、と白亜を見ると、白亜は輝かんばかりの笑顔で、
「はい、1本」
戦闘モードに入っていることを認識した賢人はもう終わってくれと祈り始めた。




