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「勿論です。どこまでも付いていきますよ」

「まぁ、難しいのは判ってるよ。俺はやれるだけの事をやるだけだしな」


 両手をスッと前に出すと手の中にはオカリナが握られていた。


「こういう()もさ、使わなきゃ只の宝の持ち腐れでしかない。俺は自分の持ってる力をどう使って何を成すのか、先ずはそれを見つけるつもりだ」


 口に咥えて吹き始める。独特な音色が周囲に響き、風に乗って広がっていく。


 音が聴こえてきたのか、城のバルコニーにだんだん人が集まって来た。


 キキョウは庭からそれを見付けてフッと笑う。


「久し振りに聴きました。ハクア様の演奏」

「そうだな。二年も帰れなかったからな」


 白いオカリナを白亜が優しく地面に置くと霞のように消えた。


「俺にはまだやることが沢山ある。日本に転移者組を帰さなきゃいけないし、体も思った通りに動かせない事があるしな……。手伝ってくれる?キキョウ」

「勿論です。どこまでも付いていきますよ」


 どちらからともなく少し笑った。








「主。さっき何やってた?」

「さっきって……ああ、外のか?」

「ん」

「別に何も?暇だったから外に出ただけだけど?」

「……そう?」

「?そうだけど」


 玄武スターリは白亜をじっと見る。ついでに言えばその周辺でも同じような目線をほぼ全員が向けている。


「なに?」

「いや……なんでも……」

「?」


 水や石の声は聞こえても空気は読めない平常運転の白亜だった。


「おねーちゃーん」

「お姉ちゃんって……俺そんな柄じゃないんだけど……」


 寧ろおっさんの方が近い。精神年齢的に。


「じゃあなんていうのー?」

「なんてって……何だろう。……もう白亜でいいや」


 自分から言っておいて適当すぎる人である。因みに。周囲は白亜自身なんとなく女性として扱われるのを嫌っているのを知っているので基本男として扱っている。


 白亜が男口調なのは実は事情があるのだが、それはまた別の話だろう。


「はくあー」

「まぁ、それでいいか……」


 まだ名前もついていないから弟って言えば良いのか?等と考えていると背中に乗ってきた。


「ちょ、なに」

「おうまさんしてー」

「ここで!?」


 食堂であれはキツいのではないか。というかこの世界には普通に馬居るだろ、と。


「やってー」

「えー……。あ、じゃあこれでどうだ」


 ブツブツと何かを唱えて手を差し出す白亜。するとそこに手のひらサイズの水色の小鳥が出現した。


「わあ!かわいい!」

「はい、潰すと消えるから気を付けるんだぞ」

「うん!ありがとう!」


 高度すぎる魔法を片手間で済ましてしまう白亜を恐ろしいものでも見るような目で周囲が見つめているのだが白亜が気付く筈もない。


「ハクア君、今のって」

「ん?守護魔法の応用で魔力を具現化したガーディアンを……」

「ごめん、全然わかんない」

「すまん」


 専門的すぎる返答にリンの頭が混乱している。


「ハクア。ちょっといい?」

「ん?どうした?」

「ここがガタガタいうんだけど」


 サラの車イスが不調らしい。


「んー……。俺あんまり詳しくないから、な……」


 詳しくないのに良く作れたものである。


「作り直すよ。どちらにせよそれ即席だしな」


 ふぅ、と大きく息を吐き、力を両腕に込めると手の先からぼんやりと糸のようなものが出る。


 するとその糸が徐々に形を作っていき車イスが出来上がった。今サラが乗っているのより明らかに高性能な物である。


「疲れた……」

「凄いね……」


 周囲が呆気にとられている中、一番驚いていたのは日本組だった。


「白亜さん!」

「ん?」

「ちょっとお聞きしたいことがあるんです!」

「ここで話せない感じ?」

「え、ええまぁ……」

「じゃあまた客室行くか」


 今日はやけに人と話してるな、等と考えながら客室に向かう白亜たち一行。


「白亜さん。正直に答えてくださいね」

「お、おう」

「白亜さんの前世の名前、教えていただけませんか?」

「?なんで?」

「大事なことなんです!」

「揮卿台白亜。指揮の揮に(けい)に台数の台、白に亜」

「「「…………」」」


 既に知っている優奈以外の日本組の動きが固まった。


「あれ?言ってなかった?」

「優奈知ってたのか!?」

「うん。大分前に」


 優奈は話題に出さないように気を付けていたし、白亜も前世なんてどうでも良いと考える人なので話す機会が全くなかったわけである。


「俺のこと知ってるのか?」

「超絶有名人だよ!」

「へぇー……」


 白亜にとって最早関係のない話なので適当に返事をしている。


「すげぇ……50年前の英雄に会えるなんてな……」

「え?ちょっとまって。50年!?」

「?ああ、白亜さんの死後から50年は経ってるけど」

「マジか」

「マジです」


 珍しく動揺する白亜。白亜の感覚だと死後から12年しか経っていないのに日本では50年は過ぎているのである。


「半世紀ってことはまだ生きてる人もいるのか?」

「初期の亜人戦闘機(ノン・ストッパー)討伐部隊は何人かご存命ですよ」

「え。じゃあ俺付いていったらバレる可能性とかある?」

「あー……ある、かも」

「えええ……一週間は帰れないのに」


 隠れて過ごす必要がある訳だ。


「でも普通に考えたら転生なんてあり得ないから大丈夫じゃない?他人の空似で行けるでしょ」

「かなぁ」

「そうそう!白亜さん子供だし!」

「あ、日本では俺大人になるけど……」

「なんで?」

「目とか髪色とか変えるのって魔力ずっと消費するんだ。溜めてられないんだよ。だから体を一回作り替えるつもりなんだけど」

「どんな感じ?」


 白亜は懐中時計から紙を取り出して全員に見せる。


「「「揮卿台白亜‼」」」

「え?まぁ、前世だしな」

「こっちの方がヤバイよ!ガッツリ教科書に載ってる顔だもん!」

「でもこれ以外にすると多分滞在期間一週間どころじゃなくなる」

「「「………」」」


 揮卿台白亜本人を一週間放り出すか、顔は別人だが中身超人かつ天然記念物の白亜を一週間以上放り出すか。


 結論。どちらもヤバイ。


「まぁ、早い方がいいのかな……?」

「さ、さぁ……?」


 全員黙ってしまう。この世界でも白亜を野に放り出すと大変なのに日本でそれをやられるととんでもないことに発展するのは考えなくてもわかることである。


 白亜、厄介者扱いである。


「白亜さんって呼んでたらもっと危ないよね……」


 顔と名前が一致した場合危険極まりないことになりそうだ。


「そんなの適当に名前つければ良いだろ?」

「そうなんですけどね。確かに」

「じゃあなんて呼べば良いですか?」

「んー……じゃあ海道(かいどう)(あらた)で」

「なんで?」

「白亜はドイツ語でカイド、俺の名字のノヴァを日本語に直して新」

「おお、意外と考えられてる」


 ネーミングセンスが殆どない白亜としてはいい感じに捻れたのではないだろうか。


「僕たちで何とか白亜さんを隠していくしかないよね……」

「「「うん……」」」


 日本組全員が大きく溜め息をついた。


「?」


 白亜は勿論なにも気にしていなかった。








「クアハハハ!中々良い飲みっぷりではないか!」

「あはははは!いいね!これ美味しいね!」


 ダイとレイゴットが酒をガバガバ呑んでいた。


「……いつまで飲んでるんだよ」

「まだ!某は酔いつぶれるのだ!」

「阿呆か。もう止めろ」


 白亜が酒樽を取り上げようとした瞬間、レイゴットが白亜の手から酒樽を奪い返す。


「おい」

「あははは!僕から取り上げてごらん!」

「はぁ……。酔っ払いが増えやがって」


 アンノウンを指の間にはさんでいつでも攻撃できるように体制を整える。


「ハクア君!僕とやりあうつもりかい?」

「そうだな。俺は去年より大分強くなってるけど、それで良いなら相手してやるよ」


 こんな場所でやるなと思った人もいたが、酔っ払い達がヒートアップしていくので誰も止められない。


「やろう!僕もやりたかったんだ!」

「食堂の物、皿1つでも割ったら弁償プラス負けな」

「いいよ!割らなきゃいいんだよね!」

「そうだな。壊したら即終了だ」


 そういった瞬間、レイゴットが白亜に向かって飛び出す。白亜は冷静にアンノウンを構えながら周囲の音に耳を澄ます。


「おっと」


 白亜が紙一重で攻撃を避けた。見てから回避しているというより、そこに来ると思ったから避けたような避け方だ。


「へぇ!面白い、ね!」

「ん、皿が危ないな」


 パチンっと指をならすと落ちそうになっていた皿が上に乗っていた料理ごと宙に浮く。


「重力だね」

「ああ。使い勝手良いからな、この魔法」


 レイゴットの右手をアンノウンの先で外側に逸らしながら体を反転させて懐に飛び込む。その間も周囲の皿を浮かせ続けている。滅茶苦茶な集中力だ。


 リフティングをしながら左手で皿回しをし、右手でコンピュータ並の速度で計算問題を解く様なものだ。実際感覚としてはそんな感じである。


「わっ!危なかった……」


 アンノウンが空を切る。レイゴットはギリギリのところで躱した。しかし、その瞬間には既に決着がついていた。


「ん」

「マジか……」


 空を切ったアンノウンを分解して首もとにピタリと当てていた。空中で。


「自分自身を浮かすってのも良い戦法だろ?」

「お皿浮かせる魔力に隠れて自分を浮かせる……一本取られたよ」


 周囲の皿を浮かせ続けていたのはこの為だった。


 魔王であるレイゴットは魔法の研究、開発を趣味にするほど大好きで、魔力の流れを感じ取るのは白亜以上の感覚を持っている。


 魔法をバレないように使うのはほぼ不可能、なので周囲の環境を利用した良い例である。


「はい、ってことで酒は没収」

「なぁああああ!」

「某もか!」

「当たり前だろ。飲み過ぎ」


 その後、あまりに飲みまくったダイ達に酒代の請求が来たのは言うまでもないだろう。

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