「つまり、一週間白亜さんを保護しろと」
「白亜ー……酒を……」
「飲み過ぎだ。もうやめとけ」
「某はまだまだいけるぞ!」
「未成年何人いると思ってるんだ」
白亜が軽々と酒樽を持ち上げてダイから引き剥がす。
「っていうか酒臭い」
「良いではないか!ここ最近呑む機会がなかったのだぞ!」
「良くない。っていうかお前ら酒呑みが多すぎるんだよ……」
白亜の配下組、八割は酒好きが揃っていた。
「年をとると酒がうまくなるんだってぇ、若旦那ぁ……!」
「そんなのは知らん。っていうかハメ外し過ぎ」
大きく溜め息をつく白亜。そんな白亜を鼻血を噴き出しながら見ているのは勿論会員達である。
「ハクア。ジュード君から聞いたよ。大変だったな」
「父様……。そんなことより弟ができていたことに驚きなんですが」
「ははは。お前が学校卒業してからすぐに、な」
「いつの間に……」
ん?と何かに気付く白亜。
「あれ?父様と母様っておいくつですか?」
「今年で30だな。同い年だぞ?」
「年下だった!」
白亜、両親よりも年上だった。
「あれ?師匠って前世合わせておいくつでしたっけ?」
「今32だ」
「わぁ……」
「なんだその反応は」
今まで気にしていなかったので特になにも思わなかった白亜である。
「で、この子幾つですか?」
「今5才だな」
「へ、へぇ………」
白亜は料理に手を出す。が、机の中心まで手が届かなかったのでもう魔法を使い始めた。
「若。届かないのなら私が……」
「いや、いいよ……取れるし」
背丈を気にしている白亜的には触れられたくない話題だったのだろうか。
「ハクア。その、以前あったとき、すまなかったな」
「ザークさん。いえ、困ったときはお互い様ですしね」
「まさかあんな事態になっているとは思わなくてな……色々軽率だった」
「大丈夫ですよ。生きてますし」
死んでいなければセーフなのだろうか。
「その、この子なんだが」
「あ………おめでとうございます」
「あ、ありがとう……」
今まで弟の存在に気をとられ過ぎてて全く気がつかなかったがシャウの腕に犬耳の女の子が抱かれていた。
「ハクアのお陰だ。あたいからも礼を言うよ」
「私は何もしていませんよ。たまたま時期が被っただけですし」
あの時たまたまアンノウンを取りに行ってただけなのだ。本当にラッキーだっただけだ。
「それでもさ。あたい達はハクアがいなきゃ互いに何処にいるのかも判らなかったわけだし、本当に感謝している。ありがとう」
「いえ、みなさんご無事でなによりです」
感謝するのは此方の方だと考えている白亜である。
「白亜さん。少し良いですか?」
「ん?なんだ?」
「その、日本の件なのですが」
「そうか……。じゃ、席少し外そうか」
白亜と日本組がぞろぞろと食堂をでて客室に向かう。勝手に使って良いのか疑問だが、滅多に使わない部屋なので一瞬使うだけならお誂えの部屋なのだ。
「で、どうするんだ?」
「俺達、あの後全員で話し合ったんです。それで、全員で帰ることにしました」
「そうか。俺は口出しするつもりはないが、それが全員の判断なんだな?」
白亜が確認のために口にすると全員が頷く。
「そうか。まぁ、まだパスワードも探せてないし色々問題も浮上するしな」
「問題?」
「ああ。先ず、お前らが居なかった事をどうするか、って話だ」
「行方不明者って事になってますもんね」
「そう。で、ちょっと力業で行こうと思う」
「力業?」
「全員の時間を戻し、あっちの時間も戻す。まぁ、時魔法をフル活用ってわけだ」
白亜がそう言うと全員の動きが固まった。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「?」
「時魔法って言いましたか?」
「言ったけど?」
「古代魔法ですよね?」
「使えるけど?」
ああ、そういえば転移とかできたなぁ、この人。と日本組の考えていることが一致した瞬間だった。
「そんなことできるんですか?」
「出来るぞ。ただ、滅茶苦茶面倒臭い上に魔力消費半端じゃないけどな」
「時魔法掛け続ければ不老とかって出来るんですか?」
「出来ないことはないな。試そうとも思わんけど」
もう白亜、一文無しになっても全く問題なく生きていける逞しさを持っている。
「で、その話はおいておいて。そっから先もだ」
「時間を戻した後ですか?」
「ああ。お前らは世界線に耐えられるとは思う。けど、俺が守りながら、っていう前提がつく」
「白亜さんも来るんですか」
「そういうことだな。しかも、一回世界線越えると帰る分の魔力溜めるのに一週間はかかる」
この超人かつ天然記念物を日本に一週間放り込んだら大混乱間違いなしだ、というわけだ。
「つまり、一週間白亜さんを保護しろと」
「何かその言われ方傷つく……」
間違っていない、というか的を射ているのだが妙にトゲトゲしい言葉になっている。
「で、因みに白亜さんに送ってもらわないほうだとどうなるんですか?」
「転送はできるぞ」
「じゃあなんで白亜さんもついてくるんですか?」
「簡単な話だ。上半身だけ転送とか、内蔵が送られないとか……」
「あ、もういいです。大体わかりました」
要は白亜なしで飛ぶと死ぬ。ということだ。
「ま、ロックさえなんとかなればすぐに返せるから。頑張って当ててくれ」
「どうやってパスワードを見付けるんだ?」
「これだ」
白亜が懐中時計から大量の紙を取り出す。紙には横に線が引かれており、マスが十マス区切られている。
「これに数字を書いて、もしその数字があってれば光るようになってる」
「すげぇ」
「俺の手作りだ。凄い疲れたがな……」
紙を手作業で作るのも凄いが、最初から手伝わせる気満々だったわけである。
「ま、頑張ってくれ。俺はまだ転送のほうの術式計算が終わってなくてな……。全部頼んだ」
「は、はい……」
目の前に積まれた紙束をみて、日本組が盛大に溜め息をついていた。
「あ、白亜さん。その格好で日本はヤバイのでは……?」
「なにが?」
「髪の色とか目の色とか」
「あ、それなら問題ない。一時的に前世の姿に戻すからな」
「魔法ですか?」
「いや、魔法具だ。ちょっと作るのが大変だけど、な」
そう言って部屋を出ていった。紙束を誰が持っていくかで口論になった。
「主。撫でて」
「ん?」
よくわかっていないまま白亜が玄武を撫でると配下組が次々と寄ってきた。ファンクラブ会員も混ざっていたが、よくわからないまま撫でた。
「突然どうしたんだ?」
「頭を触らせるのは信頼の証なのです」
「へー……」
なんで今?と不思議に思った白亜だったが律儀になで続ける。
「あら、人気者ね」
「ピューレさん。……酔ってますね」
「そりゃあこんなにお酒と食べ物が出るなら呑むしかないでしょ?」
「その感覚判んないです」
ギルド職員のピューレ。白亜達を気に掛けてくれる職員で気の許せる女性である。ただ、酒が好きで酒場でよくダイと飲み潰れていた。
「ハク君。いつ戻ってくるの?」
「まだ判らないですね……。体も思った通りに動いてくれないですし、やることもありますので」
「そう。なんでも良いけどアシルがハク君待ってるわよ」
「アシルさんですか……。あの人の依頼安い割には危険一杯なんですよね……」
同じくギルド職員のアシル。情報部隊長でかなり偉い人なのだが、白亜達の強さを一目で見抜いて色々と仕事を斡旋してくる。
「また落ち着いたら行きますので。今はまだ休業中ということでお願いします」
「ハク君儲けてるしねー。これが普通の冒険者だったらもう引退しててもおかしくないんだけど」
「私はまだ若いですからね。成長期も来ませんし……」
「い、いつか来るわよ」
そう言いながらも目を逸らしているのは何故だろうか。
白亜は庭の花を見ながら一人ぼんやりと月を見ていた。
「日本か……」
手元にあるノートを開いて内容を見返し、大きく溜め息をつく。
『なんだ、そなたらしくないな』
『そうか?いや、前世の事を思い出しててな』
『何をだ?』
『ひかりさんにあんなに世話になったのに結局何も言えずに死んだなぁ、ってさ』
白亜は指の先に魔力を集める。ポウッと白く指先が光る。白亜はその状態のまま何らかの文を書いていく。
『マスター。それはなんでしょうか……?私は知らないのですが』
『これさ、気づいたら使えるようになったんだ』
『……?』
そんなことなど、あるのだろうか。白亜が指を止めると文字が収縮していき、周囲を照らす光になった。
『判らない。こんなの調べた覚えなんてない。兄さんにも習ってないんだ』
『では何故だ?』
『多分これは……』
白亜が何か言おうとしたところでキキョウが白亜のところに飛んできた。
「ハクア様。長時間外に居るとお体に障りますよ」
「丁度良かった。キキョウ。お前は俺が死にそうになったとき、何をしたんだ?その辺りはまたく覚えてないんだが」
「ハクア様を生き返らせたとき、ですか」
「ああ」
キキョウは少し言うかどうか迷ったが、覚悟を決めたような表情で口を開いた。
「精霊達をハクア様の命に変換しました」




