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「なんか嬉しそうだな」

「出来た……」

「お疲れ様です」


 白亜が作業を開始して三時間後、白亜の机の上にはサクラちゃんが元通りになって座っていた。


 作りながら浄化を無駄に掛けまくってたので中につまっている綿でさえ汚れなど一切ない状態である。


「凄い時間かかった」

「そうですね。でも戻ったから良いじゃないですか」

「所々布が足りなくなったけどな」


 足りなくなった布はキキョウが買い足してきた。なのでよくよく見ると所々ではあるが若干布の質感が違う。


「………ハクア様?」


 疲れて机に突っ伏して寝てしまった。なれない裁縫仕事に悪戦苦闘していたために指先に細かい傷がついている。白亜は基本小さい傷は気にしないので少し位怪我しても治そうとしない。


 キキョウは白亜の指に回復魔法をかけ、ベッドに連れていく。


「こうやって見るとまだまだ小さいですね……」


 小声で呟いてから部屋を出ていった。








「あれ……寝てた、か」


 ぐぐっと伸びをして起き上がり、机の上に乗ったままのサクラちゃんを懐中時計に仕舞い、アンノウンと村雨を腰に挿してから部屋を出る。


『どこへ行く?』

『シアンを呼ばないと。そろそろ良い時間だし』

『呼ぶとは?』

『シアンは俺の抜け落ちてる記憶を回収しにいってくれてるんだ。その事さえ覚えてなかったけどな』

『回収か。何故シアンが?』


 白亜は庭に出てから石畳の地面にチョークで何やら書き始めた。


『シアンは俺が死にかけたとき、絶対に俺は死なないって豪語して飛び散った記憶を回収しにいってくれた。あの時は無駄な行為だってシアンを止めたんだけど聞かなくて』

『信頼、か』

『ああ。そうだな。シアンに助けられたのはこれで何度目だろうか。覚えてない位だし、俺はシアンになにもしてやれて無い……な』

『そなたはシアンが好きなのだな』

『好き、か。そうだな。好きだ。あいつがいなきゃ俺はとっくの昔に死んでただろうし』


 クスクスと笑いながら複雑な魔方陣を書いていく。ひとつ書き終えるとその上からまたひとつとどんどん積み重なり続ける。


『アンノウンは今まで主人は居なかったんだろ?』

『そうだな』

『お前って誰に作られたんだ?』

『覚えていない。知らないと言った方が正しいだろうか』

『じゃあなんで試練なんてやってるんだ?』

『それが私の使命だからだ。それだけだ』


 白亜は一旦動かし続けていた手を止める。


『使命ってなんだ?』

『そんなこともわからんのか』

『意味じゃない。何故アンノウンがそれをしなきゃいけなかったのか、っていう話だ』

『それは私にはわからん。そうしなければいけないとしか考えなかったからな』

『ふぅん……』


 再び手が動き、ピタリと止まる。


『アンノウン』

『?』

『俺さ、神様って言われてる二人から聞いたんだよ』

『なにをだ』

『アンノウンの事』

『それがどうした』

『二人とも、おんなじこと言ったんだ。何て言ったと思う?』


 アンノウンが黙る。心当たりがあるのだろうか。それとも全く無いのか。


『……最初からいるけど、この世のものじゃないって』

『この世のものじゃない……?私がか?』

『少なくともこの世界の創世記には居たけど誰も作ってない』

『では、私はなんなんだ?』

『判らない。お前自身に聞けば判ると思ってたんだが』


 赤色のチョークで数式と答えを積み重なった魔方陣の上に書く。


「出来た……」


 白亜はチョークを放り投げ、魔方陣の端に手を置いて魔力を流していく。


『まぁ、俺はお前が何者だろうがどうでもいいけどな』

『気にならぬのか?』

『気にはなるけど、お前はお前だし』

『……そなたらしいな』

『そうか?この世界のものじゃないのは俺もそう―――』

『マスター。呼び出しておいてイチャイチャしないでください』

『『……………』』


 突然聞こえてきたその声に一瞬会話が止まる白亜とアンノウン。


『シアン。これは別にイチャイチャじゃ無いと思うんだけど……』

『マスターは鈍すぎるので。色々と』

『意味がわからん……』


 シアンがクスクスと笑う声が脳内に響き、白亜の表情が真顔ではあるが少し柔らかいものになった。


『おかえり、シアン』

『ええ、ただいま戻りました。マスター』


 地面の魔方陣はチョークの粉も残さずに綺麗に消えていた。








『いいんですか?このまま忘れていた方が良いかもしれませんよ。かなり辛い記憶なので』

『いいよ。やってくれ』

『了解しました。では………』


 白亜は万が一記憶のショックで気絶しても大丈夫なようにベッドに横たわっていた。


「くっ………!ぅ………!」


 急に記憶を捩じ込まれたような形になり、頭痛に顔をしかめる。額には汗が浮かび、息も荒くなる。


「はぁ、はぁ、はぁ………」

『大丈夫ですか?記憶の欠如は?』

『ない、と思う……。まさかここまでキツいとは思ってなかった……』


 ゆっくりとベッドから体を起こし、頭を押さえる。


「っ……!まだ、痛むな……。仕方無い気もするが……」


 水差しからコップに水を移して飲み、一息つく。


『大丈夫か?』

『ああ、すまない……。全部ちゃんと思い出せてるから』

『そちらもそうだが、思い出して本当に良かったのか?辛いだろう?私も見させてもらったが』

『まぁ、な……。そうかもしれんが、前にも言ったろ?今は昔で出来ているから俺は昔を受け入れるだけだと』

『そうだな』


 アンノウンと会話している間に大分頭の痛みも収まったのか、白亜が立ち上がり体の様子に変化がないか、少し跳ねたりして確かめる。


 絵面的にはベッドで跳び跳ねて遊ぶ子供にしか見えないが。


「ん……。問題ないな」


 そんなことをしていると部屋の戸がノックされた。


「師匠?居ますか?」

「ジュードか?入っても良いぞ」

「失礼します」


 カチャ、とジュードが入ってきた。


「師匠、汗だくじゃないですか」

「あ、ああ。ちょっとな」

「なにやってたんです?」

「全部思い出したってだけだよ」

「本当ですか!」


 自分の事のように喜ぶジュード。


「で、どうしたんだ?」

「夕食の時間なので呼びに来ました」

「ん、もうそんな時間か」


 村雨とアンノウンを置いて出ようとすると、


『私もいきたいのだが』

「ん?いいけど」


 珍しくアンノウンがつれていけと頼んだのでベルトにつける。


「師匠、前世の事も思い出したんですか?」

「ああ、全部だ」

「大丈夫でしたか?」

「問題ない」


 適当に話しながら食堂に向かう二人。


「なんか嬉しそうだな」

「へ?そうですか?」

「ああ。楽しそうだ」

「師匠が戻ってきたんですから当然ですよ。二年も師匠が捕まってて心配しない弟子はいません」

「それはまぁ、すまない」


 不可抗力だ、などと少し口を尖らせながら話す白亜。


「師匠、明るくなりましたよね」

「そうか?……兄さんに似ただけなのかもしれないけど」

「兄さん?お兄さんいましたっけ?」

「あー。ちょっと長くなるんだけど、大雑把に言うとジャラル・リドアル。邪神って呼ばれてるな」

「え?大雑把過ぎて全然判らないです」


 ジュードの思考が一瞬ストップする。


「んー。俺の親って本当の両親以外にチカオラートがいるって話したよな?」

「え、ええ」

「チカオラートの弟のジャラル。俺の叔父だな。その人にここ一年ずっと習ってた」

「え?じゃあなんで兄さんって言うんですか?」

「響きが好きなんだってさ。下の兄弟が欲しいとかなんとかで。で、兄さんって呼べって言われたんだよ」

「???」


 白亜の説明が掻い摘み過ぎてジュードの頭がオーバーヒート寸前である。


 ジュードが訳判らなくなってる間に食堂に到着したので白亜が普通に戸を開ける。


「ハクア!やっと来た」

「遅いぞ、白亜。某酒を待たされている」

「ダイ。あんたさっき呑んだだろ」


 綺麗に飾り付けされた食堂にファンクラブの者からザーク達元クラスメイト、日本から来た転移者達、白亜の両親まで皆笑顔で白亜の方をみていた。


「?」

「師匠。皆さんは師匠が帰ってきたと知らせたら集まってくれたんですよ」


 フットワークの軽い人達である。しかも中には白亜も知らない男の子が一人居る。


『あの子、知ってる?』

『いえ、私は知りません……』


 あの子供は誰だと白亜が固まっているとその子が走ってきた。


「……?」

「おねーちゃーん」

「!?」


 突然何を言い出すんだこの子は、と白亜が固まり、両親に目を向けると両親がにこやかに微笑んできた。


『この子供……そなたの波長に似ておるぞ。兄弟ではないのか?』

『いや、俺に兄弟いないんだけど』

『マスター。できちゃってたんですよ』

『……?……ああ、そういうことね……』


 いつの間にか弟ができていた白亜だった。


「え、えっと。師匠?よろしいですか?」

「あ、ああ……。ちょっと面食らってた……」


 未だに思考が止まりかけているがきっと大丈夫だろうと判断し、ジュードは白亜を椅子に座らせる。


「えー、では師匠も来たことですし、乾杯といきましょう!師匠、お願いします」

「俺が言うのか……?」

「主役が言わなくてどうするんですか」

「そうだな……。えっと、皆さん、いままで色々とご迷惑と心配を掛けさせて申し訳ありませんでした。皆さんのお陰で何とか記憶も戻り、大した怪我もなくいられることに感謝しています。これからもどうぞよろしくお願いいたします」


 本当に嬉しそうな顔でグラスを上げる。


「それでは、皆さんと出逢えたことと感謝の気持ちを込めまして、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 ファンが何人か物凄いことになっていたがもう誰も気にしなかった。そんなことより目の前の大量の料理に集中している。特にダイをはじめとした酒呑み達が早速酒に手を出していた。


 しかも樽の方を抱えて呑み始めた。この際テーブルマナーなどガン無視である。

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