「単刀直入に言う。日本に帰れる可能性が出てきた」
「ふぁ……。朝か」
ベッドから起きてすぐ浄化をかける。もう噛まれてなくてもやる辺り無意識なのだろうか。
「おはよう。アンノウン」
『む、朝か』
「お前は寝なくていいもんな」
『睡眠の必要はないな。気持ちがいいからたまに寝るが』
腰に村雨とアンノウンを挿して部屋を出る。
朝食を終えて外に出ようとすると、キキョウに止められた。
「ハクア様。せめて護衛をつけてください。すべて思い出したわけはないのでしょう?」
「まぁ、そうだけど」
「では私がつきますので」
「いや、大丈夫だって」
「昨日拐われかけたの覚えておりませんか?」
「……覚えてるけど」
大きく溜め息をつくキキョウ。
「ハクア様は子供です。精神的にはともかく体つきはまだまだ小さい」
「うっ……気にしてはいるんだけど」
「知ってます。だからですよ。私が嫌なら他の誰かを……」
「判ったよ……」
「ふふ。判っていただけて何よりです」
結局キキョウも一緒に行くことになった。
「どこに行くんですか?」
「転移者……賢人達の所」
「そうですか」
「わぁ……デカイ」
白亜は100万エッタ渡しただけでどうなっていたのか全く知らなかったので豪邸に住んでいることに驚いていた。
「これ100万で買えたの?」
「朱雀様が値切りに値切ったらしく、かなり安く買えたらしいです」
「凄いな……」
戸をノックするとパタパタと走ってくる音がして戸が開いた。
「はーい、どちら様で―――って白亜さん!?」
「久し振り、優奈さん。今人数何人いる?」
「今は13人いますけど、もうすぐ全員帰ってきますよ?なにかお話ですか?」
「結構大事な話なんだ」
「そうですか。取り敢えず中へどうぞ」
中に入ると黒目黒髪の集団がガッツリくつろいでいて、白亜の顔を見た瞬間、驚きの声をあげる。
「「「白亜さん!?」」」
「久し振り」
「記憶喪失って聞きましたけど、大丈夫ですか?」
「ここ数年は思い出したから。前世がほとんど思い出せないけどな……」
「良かったです。それでも。無事で良かった」
死にかけていたので無事かどうかと言われれば疑問だが、取り敢えず無事ということでいいだろう。
「今日はどうして?」
「大事な話があってな。もうすぐ全員集まるんだろ?」
「そうですね。ナイスタイミングです」
談笑していると冒険者組が帰ってきたので全員リビングに集まった。
「それで、話とは?」
「単刀直入に言う。日本に帰れる可能性が出てきた」
「え?」
「それって、え?」
「本当ですか!」
白亜の言葉に各々反応する日本組。
「まだ今すぐって訳じゃないが、可能性はある。レイゴットに資料を集めさせて調べた。異世界間移動は不可能じゃない」
「やったぁぁぁ!」
「これで帰れる!」
飛び上がって喜ぶものが出てきた。
「白亜さん。それって任意だよな?」
「任意だ。ここに残りたいやつは残ればいい。まだ行けるとは決まってないが、文献は無いわけじゃない」
白亜が懐中時計から一冊のノートを出す。
「これはある遺跡に書いてあった古代文だ」
「えっと、【境を越えるためには、神の血、理を歪める魔力、全て書き換える力。これが絶対条件である】……?」
「大分簡単にしたんだけどな。要は、血、魔力、何らかの能力の三つを使って異世界に移動することができるって訳だ」
「魔力はなんとかなるかもしれない。能力も私たちの中なら誰か当たってるかもしれない。でも神の血って絶対に無理でしょ。神様に貰いに行くの?」
「あ、それは俺の血で大丈夫だぞ」
白亜はなんでもないことのようにさらっと言った。
「そういえば神の血引いてるんですよね、ハクア様」
「不本意だけどな」
「ええええ!白亜さんご両親神様!?」
「いや、違う。両親は人間だし、ちゃんとした血筋に神は居ない。こっちに転生するときに無理矢理させられたと言うか、転生の過程でなったと言うか」
よくよく考えてみるととんでもないことである。
「へ、へぇ……」
「で、一回試したんだ」
「「「試したんですか!?」」」
「試した。発動はしたんだけど、ロックがかかってて移動できないんだよ」
「パスワードみたいなものですか?」
「そう。この世界の神様が設定したんだろうな」
なぜ移動にパスワードが必要なのかという疑問が全員の頭に浮かんだが、それは今追求すべきことではないのでみんな黙っていた。
「この世界の神様ね……聞きに行けないのかな?無理か」
「聞きに行ったらさ」
「「「行ったんですか!?」」」
「行ったよ。そしたら何食わぬ顔で『そういうのは自分で見つけるものだよ』って……。あの甲冑野郎」
ジャラルではなくチカオラートに聞きに行ったらしい。
「意外と軽い人なんだ……?神様って」
「さぁ……?」
周囲の反応は様々だが概ね思っていたことは同じだった。
『『『ただの愚痴じゃねえか!』』』
と。
「まぁ、それでだ。帰りたかったら手伝ってくれ」
「え?俺らが?」
「パスワードは10桁の数字。つまり0000000000から9999999999までのなにか」
「わー……」
「しかも計算でハッキングとか出来ればいいのにそんなんないから全部総当たりで探すしかない」
ハッキングができること自体おかしい気がするのだがもう誰も突っ込まなくなってきた。白亜さんだから、と。
「つまり俺らにはその数字を探してほしいと」
「そういうことだ。こんなの一人でやりつづけてたら頭おかしくなる」
キツいだろうな、と他人事のように考える日本組。
「日本に帰るかここに残るか。皆決めておいてくれ。能力はあっちにいったら消えることになる。魔力も無くなるから本当に元通りの生活だ。どうするかはそれぞれが決めてくれ。俺はどちらでも構わない」
ノートを懐中時計に容れ、日本組に背を向ける。
「自分がどうしたいか、しっかり決めておくように。俺は完全に記憶が戻るまでは王城にいる。決まったら教えてくれ」
そう言ってキキョウと帰っていった。
「それにしても急なお話でしたね」
「そうか?俺としては大分前から調べてた事だから特にそう思わなかったけど」
大通りを歩きながら露店をなんとなく見て回る。するとある店に少し大きめのくまの縫いぐるみを見つけた。
「キキョウ」
「はい?」
「俺リンのサクラちゃん見事にボロボロにしちゃって謝ってもいない……!」
「ま、まぁ、記憶がなかったんですし、仕方ありませんよ」
「リン大事にしてくれてたのに……」
そういえばサクラちゃんって露店で買ったな、と思い出したためにどうしようと焦りだした。
「そういえばあのあと懐中時計に回収したんだけど、滅茶苦茶ボロボロになってるからもう戻らないかもしれない……」
「そうですね……」
何本か腕がとれそうになっていたので。
「俺裁縫苦手なんだよ……」
「ハクア様が苦手な物があったことに驚きです」
苦手とは言っても人並み以上にはできるのだからやはり超人である。
「今度埋め合わせしないと……」
「そうですね」
がっくり肩を落としながら歩いていく白亜。滅多に感情を表に出さないので珍しい光景である。
「あれ、師匠。なんか嫌なことでもありました?」
「そっとしておいてあげてください」
「へ?あ、はい」
何かあったのだろうか、と周囲は気にするが白亜はサクラちゃんを修復することで頭が一杯である。




