「ジュードやきもち?」
「じゃあまた来ますね」
「うん。ありがとう。バイバイ」
「ば、バイバイ……!」
何人か気絶しかけたが周囲が背中を思いきり叩いて阻止した。素晴らしい連携ぶりである。
「師匠……反則だと思います」
「?」
ジュードは会員達を若干冷めた目で見ていた。
「ハクア君。ここの構造覚えてる?」
「ん……穴だらけかな……」
「じゃあ案内するよ。行こう」
「うん」
リンまでそんな事を言って白亜を連れ出した。白亜は何も気付かないが。
「全く……僕だって師匠と話したいのに」
「ジュードやきもち?」
「ち、違うよ!ほら、キキョウさん達の引き継ぎとかさ!」
「ふーん」
チコがニヤニヤしながらジュードの周りを飛ぶ。
「まぁ私には関係ないよねー」
「ちょ、違うって!チコ!」
いつまでも平和だった。というかチコはジュード弄りを覚えたらしい。いつの間にか。
「ここがお風呂。ハクア君って魔法使えるようになったんだっけ?」
「簡単のなら」
「創造者って覚えてる?」
「なんとなく……。使い方は判んない」
「そっか。ハクア君のシャンプー借りたかったんだけどな」
そんな事を言いながら案内は進んでいく。
「ここが謁見の間。ここでは国王様……ジュード君のお父様が外から来たお客様と対面する場所。入っちゃ駄目だよ」
「うん……ここに来たとこに最初に入った気がする……」
「そうだよ。ちゃんと思い出せてるね」
白亜が真剣そうな顔で豪華な扉を見る。
「ハクア君?」
「リンさん……。なんとなくなんだけど、俺って思い出さない方が良い気がするんだ」
「どういうこと……?」
「思い出したいんだけど、何て言うのかな……勘なんだけど。思い出したら思い出したで何か辛いことがある気がするんだ。なんだろうね」
「さぁ……」
リンはそう言ったものの、粗方見当は付いていた。
(前世での事……忘れたいのかな)
白亜は扉を暫く見て、何か考え込んでいた。すると、どこからか騒がしい足音が響いてきた。
「「……?」」
リンと白亜が顔を見合わせると突き当たりの方からレイゴット、スピン、それと車イスに乗ったサラが物凄いスピードで走ってきた。
「ハクア君!大丈夫だったかい!」
「ハクア!どこも痛くない?」
「ごめんね、私のせいで捕まって……」
三人一気に話し始めるので誰が何を言っているのか不明な上、白亜は記憶がないのでなんの話をしているのかさっぱり判っていない。
「皆さん、ハクア君怖がってますよ?」
「あ、ごめんね」
驚いて柱の影に隠れている。しかしそんなに柱が太いわけではないので隠れきれておらず、軽く結ばれた銀髪が柱の横から飛び出ている。
「ハクア。大丈夫?」
「痛いところとかは、ない」
「良かった……」
心底安心している三人。因みに三人は人目に触れても問題ないように幻覚魔法を常に使用している。
「あ、そうだ。ハクア君。アンノウン今渡すね」
「ぁ……」
「思い出した?」
「……」
無言で頷く白亜。まだ距離を保っている辺りレイゴットが怖いのだろうか。本能的に嫌っているのか。そうだとしたらレイゴット、哀れである。
「はい」
「……ありがと」
さっとレイゴットの手からアンノウンを受けとる白亜。レイゴットから意味深な距離を保ちつつベルトに着ける。
「ハクア君、何を思い出した?」
「前世の死んだときと、転生直後、後は……多分穴だらけの記憶」
「そっか。僕は覚えてる?」
ふるふると首を横に振る。思い出してなくてこの感じなら思い出したときいったい白亜からどんな扱いを受けるのだろうと不安になったレイゴットだった。
「それじゃあ私は自分の部屋に居るから、何かあったら呼んでね?あ、私の部屋判る?」
「うん。あそこ」
「よし、バッチリだね。それじゃあまた後でね」
白亜が部屋で一人になった。すると今まで一言も声を発しなかったアンノウンが急に喋り出す。
『私を、覚えているか?』
「うん……試練とか覚えてる」
『そうか。ではシアンはどうだ』
「シアン……?」
『ふむ。あやつならすぐにそなたに話しかけると思っていたのだが』
「そんな人居た?」
『そなたの能力、博識者のシアン。覚えていないのか?』
「シアン……?―――っ!」
『どうした!?大丈夫か!?』
白亜が突然頭を押さえてしゃがみ込む。息が荒く、汗が額から滴り落ちる。
「だい……じょぶ」
『誰か呼ばなくても大丈夫か?』
「う、ん……っ!急に色々思い出して、頭が痛くなっただけ……くっ!」
『何を思い出した?』
「ここ、数年……だな。すまない。やっと記憶と呼べるものを思い出した気がする」
『ふっ……やはりそなたはその口調でなければ調子が狂う』
白亜は創造者を発動し、一冊の本を出す。
『それは?』
『シアンは俺の記憶を壊されないように一部だけだが守ってくれててな。こっちから呼び出せば多分全部戻るだろう』
『そうか』
『ああ。ただ、広い場所が要るかもしれないな……。それから精神世界にも一回行って……いや、それはシアンの件が全部終わってからの方が……』
『考えすぎだ。もう少し肩の力を抜け』
アンノウンは苦笑しながら白亜が自分を思い出してくれたことにほっとする。
『外に出ようかな……』
白亜は村雨をあえてその場に置いたままアンノウンを持って庭に出た。
「ん?」
地面に小鳥が一羽落ちていた。巣が見当たらないところを見るとどこから来たのか不明である。
「よっと……おいで」
流石と言うべきだろうか、白亜の手を一旦警戒したものの直ぐにその上に小鳥が乗る。
「どこから来たんだろ……」
『それでも敷地内だろう。探せばあるのではないか?』
「そうだな……」
白亜は目を閉じて周囲の状況を探る。一旦集中すると数キロ圏内は相手が誰なのかまで判別できるほどである。
「ん……?」
しかし、目を閉じた瞬間に何かに気付き周囲を見回す。
「っ!?」
その瞬間、足の力が一気に抜けたように横に倒れた。
「ハクア君?居るの?」
白亜の部屋に来たリンは白亜をドアの前から呼ぶが一切反応がないことに違和感を覚える。
「入るよ?」
ドアが閉まっていた。白亜はいつも部屋にいる時以外は基本鍵を閉める癖がある。逆に言えば鍵がしまってる時点で外に出ているという合図なのだが。
「居ない……?」
合鍵で中に入る。定位置に村雨が置いてあったがアンノウンと白亜が見当たらない。それどころか先程まで人が居た気配がしない。
「こんな時間まで出てる筈がない……」
記憶が戻っていたとしてもこんな時間まで外にいる場合、何らかの手段で絶対に連絡をいれるのが白亜である。
「ジュード君……!」
どうしたら良いのか判らなくなったリンは取り敢えずジュードの所へ向かった。
「ああ、リンさん。あれ?師匠は?」
「居なくなっちゃった!」
「ええええええ!」
「ごめん……私が目を離したから」
「リンさんは悪くないですよ!そんなことより師匠探さないと」
サロンにいたジュードに事情を説明するリン。食事前なのでみんな集まってくる。
「主、居なくなった?」
「そうみたいです。どなたか心当たりは?」
「「「…………」」」
「ですよね……」
すると、サロンの戸が開いた。しかもそこにいるのは今話していた人物である。
「「「ハクア!」」」
「え?」
少し眠そうな目で普通に入ってきた。
「師匠!何処に行ってたんですか!僕達心配してたんですよ!」
「あ……ごめん。ちょっと片付けることがあってな……」
「その口調……思い出したの?」
「ここ数年の部分だけ。あ、そうだ。こいつ等どうしたら良い?」
「?こいつ等?」
「そこに居る奴等だよ」
皆が一斉に戸の奥を見る。蔦で全身拘束された屈強な男達が死にそうな顔をして転がっていた。ざっと20人ほど。
「「「…………」」」
誰も突っ込めなかった。
「あの、師匠。一体どうしたんですか?」
「え?ああ、こいつ等俺を気絶させて拐おうとか考えてたらしくて、庭で襲ってきたんだけど、一回やられた振りして奴等に付いていってそのままアジト潰してきた」
「「「……………」」」
やることが白亜らしくて何よりである。
「一回やられた振りしてって……もしそこで殺されそうになったらどうするつもりだったんですか?」
「弱いやつらだから純粋な力比べで勝てる。それにここ一年で効率的な力の使い方も覚えてるし、俺には魔力封じる手錠だろうが空間隔離されようが出てこられるしな」
「ああ、はい……」
暫くジュード達はその場から動けなかった。とんでもない人が帰ってきちゃったなぁ、と配下以外ほぼ全員考えていた。配下組は流石ハクア様、と主人自慢をし始めた。
平和とは決して言えないが中々安心できる環境である。何が起こっていつ死ぬか気が気でないが。




