「僕……鍵全部魔力感知系に替えようかな……」
「ハクア君!」
結晶化が消えたのだが、未だに白亜の周りに光が集まっている。レイゴットが触れようとした瞬間、強烈な輝きを放った。
「「「…………!」」」
皆唖然とそれを見つめる。色々と理解不能な事態に陥り困惑しているようだ。
「え……?」
光が収まった頃には肌が白く、幼さの残る顔立ちと体の羽根も角もなく、耳も短い白銀の髪をもった白亜が座った状態でぼんやりと周囲を見ていた。
「ハクア!」
スピンが駆け寄る。すると白亜は焦点の定まっていない目でスピンを見た後、軽く首をかしげた。
「ハクア!大丈夫なの!?」
「……?」
白亜は何も言わずただ辺りを見回している。そこに人が集まってくるのだが気にも止めない様子でキョロキョロと周囲を観察している。
「白亜!どうしたんだ!?」
ダイがジュードに肩を貸しながら歩いてくる。
「師匠……?」
「………?」
そこでレイゴットが思い出した。
「ハクア君……僕の事、判る?」
「……?」
「この人は?」
「……?」
レイゴットがポツリと言った。
「覚えて……無いんだね?」
「………」
その言葉に周囲がぎょっとした目を向ける。
「どういうことですか……?」
「ハクア君がさっき言ってたんだけどね。今戻っても大分記憶が抜け落ちてるって。全部忘れるのも時間の問題だって」
「それじゃあ……!師匠は‼師匠はどうなるんですか‼」
「このままかもしれない……」
一同が言葉を失った。
「治しても戻らないんですか……?」
「わかんない。ハクア君しか判らないと思う……」
その白亜がこの状態なのでどうにもできないのである。
「取りあえず帰ろう……?時間が経てば戻るかもしれないし。ね?」
「そうですね……」
魔力を限界まで使い果たし、倒れている者を動ける者が担ぎながらその場から退散した。奇跡的に、というべきか、こちら側の死者は一人も出なかった。
「ハクア君。何か覚えていることはある?」
「……ぁ」
「反応した!?」
レイゴットの叫び声に近い驚きの声を聞き、ビクッと体を震わせる白亜。気が弱くなってしまったものである。
因みに、白亜の羽根や角は月の光なしでも消えたままだった。腕や足も再生して本当に記憶以外は元通りの状態だ。
「あ、ご、ごめんね?」
「………」
「逃げなくていいから。ほら、離れるし。ね?」
「………」
完全にビビっているが恐る恐るレイゴットに向かって人差し指を突きだし、額を突付く。かなりのスピードで。
「痛い!」
「これで……良い筈」
「え?」
何をしたのか、レイゴットは白亜の指先を見つめる。
「何したの?」
「回路を切った……これだけはやらないと……って覚えてた……」
自分の体を確認してみると月が出ていないにも関わらず元の姿に戻っている。
「これ以外で何か覚えてない?」
「何も……。知識だけはある」
「知識?」
「精霊の知識と忘れる前の知識……?記憶はないけど……」
「知識と記憶って何が違うの?」
そこまで話を黙って聞いていたキキョウがレイゴットに説明する。
「知識は魔方陣の作り方や、効果等、文献等に残っている事ですね。記憶はその中のどの魔方陣を実際に作成し使ったか。ですかね。例を出すならば」
「魔法は覚えてるけど魔法を調べた事は覚えてないんだ?」
「………」
無言でこくり、と頷く白亜。
「じゃあ魔法とか使えるの?」
「……使い方がわからない」
「「え」」
宝の持ち腐れ状態である。
「それを確認するためにも一旦戻りましょう。ハクア様」
「それ……なに?」
「なにって……ああ、知識にお名前は含まれないのですね。あなたのお名前です。ハクア・テル・リドアル・ノヴァ様」
「ハクア……?―――っ!」
突然頭を押さえる白亜。何かあったのかとぎょっとする二人。
「ハクア……?おれは、どっち……?」
「ハクア様!?突然どうされましたか!?」
「き、キキョウちゃん!誰か呼んでこようか!?」
パニック状態である。因みにここ、朱雀の背の上である。レイゴットはどうやって人に助けを求めるつもりなのだろうか。
「揮卿台……白亜?俺は……俺は……」
「揮卿台って……ハクア様の前世の……?思い出されたのですか!?」
「え?え?どうなってるの?」
全く話しについていけないレイゴットを放ったらしいキキョウは白亜に話かけ続ける。
「なんで……?記憶が、2つ……?……キキョウさん。俺は……揮卿台白亜?それとも……ハクア・テル・リドアル・ノヴァ?」
「それは……両方ですよ。ここの世界ではあなたはハクア・テル・リドアル・ノヴァですが、私はどちらもあなただと思っています。どっちかではないんです。両方なんですよ」
「………?」
「何を思い出したんですか?」
「揮卿台白亜っていう名前だけ……」
「そうですか。自分の名前が判るだけでも大きな一歩です。焦らなくて良いですから」
「うん……」
レイゴット、完全に会話の輪から外されたようであった。
「師匠、名前を思い出されたんですね」
「そうみたいです。なにか切っ掛けがあれば思い出せるようでして」
「師匠……?」
「はい。僕はあなたの弟子ですよ、ハクアさん」
「……?」
ジュードは白亜の頭を撫でる。外見年齢的にはそんなにおかしく無いのだが精神年齢的に見ると16才の男の子が32才のおっさんを撫でている事になるのだ。シュールというか、カオスである。
「ここは……」
「あなたの部屋ですよ」
「見覚えがあるかもしれない……」
「そうですか。最初の方、師匠が何回か自分の部屋とリンさんの部屋間違えてましたよ」
「あ……そんなことあった気がする……」
二年近く開けていた筈なのだがリンやキキョウ達が定期的に掃除していたので中は綺麗である。
「あ……そこの棚に何か大事なもの容れてた気がする……」
「ここ、鍵がかかってて開かないんですよ。懐中時計に鍵があると思いますが」
「これ?」
「それです。……出し方わかります?」
白亜は懐中時計をくるくると回して見つめ、
「わからない……」
開かずの棚になってしまった。すると白亜は別の棚を漁り、クリスタルの細い棒のセットのようなものを取り出した。尖端が曲がっていたりしている。
「それで何を?」
「ピッキング……」
「出来るんですか。いや、以前やってましたね……」
「そうだっけ……?なんかやり方を覚えてるだけなんだけどね……」
鍵穴にブスッと差し込んでカチャカチャと動かす。数秒するとカチッと音がなって鍵が開いた。白亜の前では鍵は無意味である。
「開いた」
「僕……鍵全部魔力感知系に替えようかな……」
日本で言うところの全部指紋認証に替えようかな……と言っているのと同じ様なものである。過剰な気もするが白亜の場合普通の鍵開けから魔法での解錠、最終的には物理的に壊せるので鍵なんてあってないようなものだ。
「これ……」
その棚の中には箱が入っており、中に紙が数枚入っていた。
「………」
ペラ、と捲り、すぐに元の場所に戻した。
「師匠?何だったんですか?」
「いや……別に……」
白亜の微妙な素っ気なさに違和感を覚えるジュード。
「何が入ってたんですか?」
「え……」
「教えていただけませんか?」
「………」
白亜は紙をジュードに渡す。
「確かにこれはヤバイですね……戻しておきましょうか」
「そうだね……」
銃や大砲、火薬や核反応の仕組みまで細かくかかれていた。これがどこかに広がった瞬間大変なことになるだろう。
「なんであんなの書いたんですか……?」
「多分忘れないようにしてるだけだと思う……」
自分で書いた筈の紙を見てげんなりしている白亜。
「じゃあ今日は休んでください。サラさんに聞いたところによると師匠は全く休めていないらしいので」
「そうなんだ……。ありがとう、ジュードさん」
「呼び捨てで良いですよ。それではまた明日」
白亜の裏がなく、無邪気な年相応の笑みを向けられて少し赤くなりながらジュードが部屋を出ていった。
「………」
白亜は引き出しを引っ張り、そこにあった日記を読み始める。白亜、日記をちゃんとつけるタイプだったらしい。
「どうしよう……。ジュードさんだけ全く思い出せない……」
ジュード、不憫である。




