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『俺の勝ちだ』

『遅いな。やっぱりここ一年で相当あの速さに慣れてたんだな……』


 白亜が白銀の髪を風で揺らしながら少し笑顔を作る。


 今の白亜はあのジャラルという本当の意味で世界最強の存在に指導を受けていたのでとてつもない速さに目が慣れていた。


 実はジャラルの方がチカオラートよりも強かったりするのでそのジャラルに一度でも勝てた白亜には敵無しの状態なのだ。


「ハクア君……僕でも見えないや」


 レイゴットは少し離れたところからそれを見守っていた。本当なら二人で戦おうと思っていたのだがあそこに入るのは逆に危険だと再確認していた。


『止まってる、ぞ!』


 地面から蔦や蔓、花が大量に咲く。しかも花から爆発する種が出てくるのだから恐ろしい。


「……!」

『なんだ、話せないのか?俺もそうだけど』


 白亜はアンノウンを二本ずつ繋げて二刀流で斬りかかる。怪物の方はなんとか避けきってはいるものの徐々に切り傷が増えていく。


『あっと……物思いに耽りすぎたか』


 白亜が業火に包まれる。周囲の木は一切の延焼も許さずその場で灰も残さず消える。岩も地面もまるでそこ一帯が別の空間に飛ばされたかのように燃え尽きる。


『残念だったな。俺にはそれ通じないから』


 ブゥン、と何かが風を斬る音がして火の中心が真っ二つに開く。そこからは燃えているどころか火傷一つない白亜が不適な笑みを浮かべた状態で出てきた。


「……!」

『最上級魔法……業火玉(プロミネンス)だろ?それよりも上位の魔法を身で受けてたから対処は容易いんだわ』


 ジャラルのスパルタが本当に役立っている。


『さぁ、終わりにしよう』


 アンノウンに魔力が籠り始める。周囲の魔力さえも巻き込み統合していく。


『最上級のさらに上……これを使えるのは神の血筋を持つものだけなんだってさ。どんなものだと思う?』

「……!」

『逃がさない』


 地面が隆起し退路を塞ぐ。


『帝級魔法……世界終焉ワールド・エンド。これが俺の今打てる最高の魔法だ。俺の仲間を傷付けた罪、ここで償え』


 真っ黒な球体が白亜の頭上に出現する。今も尚魔力を吸い上げ、禍々しく巨大になっていく。


『俺の勝ちだ』


 凄まじい轟音をあげながら球体が怪物を包み込む。コトン、と小さく音がして球体があった場所から出現した黒曜石が地面に落ちた。


「勝っちゃった……」


 唖然としながら一部始終を見ていたレイゴットがポツリと言った。白亜は暫くそこに立っていたが黒曜石を拾い上げて右手で握り潰すとパキン、と軽い音がして細かい塵のようなものになって消えた。


 レイゴットが白亜に近付くと白亜の手からアンノウンがカラン、と落ちた。


「ハクア君!」


 レイゴットが叫ぶと白亜が地面に崩れ落ちる。レイゴットは白亜の体を支え、異変に気づく。


「!?硬い!?」


 白亜を地面に寝かせて銀色の袴を引き千切る。白亜の体が徐々に透明なクリスタルのようなもので覆われていく。


「え!ちょ、ハクア君!?」


 揺すられてうっすら目を開ける白亜。かなり辛そうな表情をしている。


『なんだよ……。疲れたんだって……』

「これ!大丈夫なの!?」

『……。全身覆われたら死ぬね』

「ファッ!?」


 レイゴット、驚きすぎて変な声が出ている。


「冗談だよね!?」

『いや、本気だけど』

「なんでそんなサラリと!?」

『騒がしいな……。56%の確率でこうなることを予想してたからな……。まぁ、運がなかっただけだ。お前らはなにも関係ない』

「なんで言ってくれなかったの!?」

『言っても変わらないからさ。いつか死ぬ日がここできただけの話だろ……。それに足と腕がなくて生活もどうせ辛いし』


 レイゴットは嘘だ、と直ぐに気づいた。


「……生きたいんでしょ?」

『そりゃね。精神はともかく体は12な訳だし』

「じゃあ助かろうとは思わないの?」

『思うが……。もう手遅れだ。こうなったら最後、死ぬまで結晶化は止まらない』

「それってさっきの大技の代償?」

『いや、あれはただ疲れるだけ。これはさっきの怪物が生まれた時点で始まっていた』


 白亜はずっと黙っていたのだ。実は対処の方法はあったのだが怪物を倒すのを優先し、手遅れの状態になってしまった。


『間に合わなかったのは俺の落ち度だ……。それにもう一つ理由がある』

「理由……?」

『さっきの怪物が生まれた原因は俺の記憶が強く作用しすぎたからだ。それを倒したってことは……もう判るよな』

「覚えてないの……?」

『そういうことだ。前世の記憶が大分虫食い状態で今世の方も途切れ途切れ。今も徐々に忘れてってるみたいだ。お前を認識できなくなるのも時間の問題だろうな……』


 白亜は翠と紅の目をレイゴットに向ける。色が今までは鮮やかな赤と緑だったのに薄くなっていて、目の奥の方が少し濁った色をしている。


『もう、目も殆ど見えてない。お前の位置なんて声の位置で確認しているようなもの……』

「ハクア君!?ハクア君!」


 白亜はゆっくり目を閉じていく。呼吸が弱々しいものになってきた。


「不味い……!皆のところに連れていかないと!」


 レイゴットは体の殆どが硬くなった白亜を抱え、取り合えず戻った。








「みんな‼」

「レイゴット!ハクアは!」

「何かわかんないけど大変なんだ!どんどん硬くなってくんだ!」


 言葉が全く伝わってないが取りあえず緊迫感は伝わったようである。地面に白亜を寝かせて事情を説明する。


「ハクア!」

「サラちゃん!無事だったんだね!」

「ハクアが私の待遇を良くするよう持ち掛けてくれてたから……!それより、今どうなってるの!?」


 遅れてきたサラに同じ説明をするレイゴット。


「じゃあハクアはもう……ううん!まだどうにでもなる!」


 手を当てて回復魔法を使い始めると硬化のスピードが若干遅くなった。


「……!」

「私もやります!」

「俺もやるぜ!」


 効果に気づいた人が白亜に群がって回復をかけ始めた。


「くっ……!遅くなるだけで、どうしようも……!」

「諦めるな!魔力がある限りかけ続けろ!」


 魔力がなくなった者から次々と離脱していく。


「どうしよう……!このままじゃ……。あれ?レイゴット様。ハクア様のこれは魂の損傷ではないんですか?」

「え?うん。体の問題だってさっきハクア君が」

「だったら……治す方法があるかもしれません」

「「「本当か!」」」


 全員がキキョウに注目する。手はちゃんと動いているところが流石と言うべきだろうか。


「ただ、時間がかかります。何とか堪えてください!」

「「「任せろ!」」」


 キキョウは水を地下から呼び出しその水を空中で留めて空に浮かぶ魔方陣を書いていく。


「シアン様……!役立つときとは、この時でしょうか」


 魔力を限界までつぎ込んでいく。いつの間にか元のウンディーネの姿に戻っていた。


「くっ……!」

「持ちこたえろ!もう少しだ!」

「でも顔まで来てます!」

「耐えるんだ!魔力限界まで使い切れやぁ!」


 白亜の周りは限界まで魔力を使い果たし気絶した連中と、今だ魔力を注ぎ続ける連中が折り重なっていた。カオスである。


「ハクアハクアハクア……」

「スピン!もっと魔力を送って!」


 泣きながら魔法をかけ続ける者が続出しだした。一方キキョウは水の魔方陣を完成させようとしていた。


「これなら……!いけるかもしれない!」


 キキョウは体の形が魔力で保てなくなり、腰から下を地面に滴らせながら白亜に魔方陣を叩き込む。


「いっけえぇぇ!」


 魔方陣が金色の光を放つと中心から水で出来た人が出現した。いや、それは間違っているだろう。水で出来た人型の精霊、ウンディーネ。その後に続いて炎の最上級精霊のイフリート等、精霊が多数出てきた。


 しかもすべて最上級精霊である。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 キキョウは意識が途切れそうになりながら精霊に命令を出す。


「この方を……!助けなさい!」


 精霊達が頷いたと感じたとき、キキョウはその場に形を保てずに崩れ落ちた。


「これは……!」

「まさかこれだけの数を呼び出したのか……?」


 白亜の魔力を限界近くまで使えばできないこともないが、というくらいの魔力が必要な筈なのにキキョウはそれをやってのけた。いや、呼び出したのでない。創ったのだ。


 シアン直伝の魔方陣構築を学び、白亜と遜色がない程の魔方陣を作れるようになったキキョウはそれからも努力し魔方陣を作ることなら白亜を越える正確さと素早さを持つ。


「ハクア君に……!?」


 精霊が、白亜のに入っていく。あり得ない事態に困惑しながらも見守るレイゴット達。


「………?」


 ゆっくりと結晶化が解けていく。剥がれ落ちるようにポロポロと透明なクリスタルのようなものが地面に落ちていき、全ての結晶化部位が消えた。

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