「さて、アンノウンと村雨返して?」
「ははは!なんて面白い力だろうか。契約とは相当良いものだ!」
悪魔の周囲から竜巻に似た風が吹き荒れる。
「皆さん、準備は宜しいですね!行きましょう!」
ジュードの声に真っ先に反応し、竜巻に飛び込むダイ。雷を周囲に落として風を散らす。
「中々判断力はあるようだ。ならばこれはどうかな?」
ビートが空に手をやるとそこから巨大なドラゴンが現れた。
「召喚魔法か!某の本分だ!あやつは某が押さえよう!」
「ダイさん!お気を付けて!」
ダイが元の黄金の龍に戻り、雷を体に纏わりつかせながら体当たりしていった。
「ジュード様!準備完了しました!」
「ジュード君!私も行けるよ!」
キキョウとリンの周囲に大量の水滴が浮かんでいる。一つ一つが鋭利な形をしており、触れただけで切れてしまいそうな雰囲気を存分に醸し出している。
「お願いします!」
「行きますよ、リン様!」
「はい!」
二人が同時に手を出すと水滴があらゆる方向からビートに向かって飛んでいく。しかも地面からどんどん補充されとんでもない数の水の弾丸を作り出す。
「悪魔殿!」
「任せよ。ブラックホール」
地面が黒く染まっていく。しかもそこに水の弾丸が磁石に引き寄せられるように吸い込まれていく。
「リン様!追加しますよ!」
「うん!まだいける!」
段々水の量が増えていく。魔力勝負になってきた。
「チコ!僕らも行きますよ!」
「うん!それ!」
チコが風の刃で牽制しながら二人で詠唱する。
「「世の理よ、汝は我の元には通用せず。全てのものが凍結し、燃え尽きて消える。全ての過程を飛ばす行為は我等の魔力によって行おう。我等の力の元に平伏すが良い!崩壊した世界!」」
二人が詠唱を終えると、周囲が突然凍り出す。それどころではない。凍ったところから火が出始めた。
「な!こんな魔法……見たことないぞ!」
この魔法はジュードが開発したもので、白亜でも使えない新魔法だ。一目見れば使えてしまうだろうが。
「逃がさない!」
避けようとしたビートと悪魔に頑丈な糸が纏わりつく。スピンが手から出した粘着性のある糸だ。
「何!くそ!なんとかしてくれ、悪魔殿!」
「無理だ!魔法ならばどうにでもできるが自然物では意味がない!」
そのまま一瞬にして凍り、熱によって塵も残さず消えた。
「か、勝った……!」
地面に座り込むジュード達。魔力を行使しすぎて歩くのも億劫になっているようだ。
「師匠……勝ちましたよ」
「アンノウン!どこにいるのか返事してくれ!」
武器が返事などするはずもないのだがアンノウンを探し回って何故か呼び掛けているレイゴット。
「おーい、アンノウ……!」
その場から羽根を使って後ろに大きく飛び退くレイゴット。先程までレイゴットが立っていた場所に銀色の羽根が突き刺さっている。
「これ、ハクア君の……!」
飛んできた方向に目をやると片翼の翼を背から生やした男が立っていた。見間違うことはない。紛れもなく白亜の翼を見て、レイゴットは舌打ちする。
「ハクア君の翼が足りてなかったのはそういうことか……!」
「ボスにこの羽根を貰ったのだ。元の持ち主には悪いが、使いやすくて気に入っている。……お前の羽根も頂くことにしよう」
「あげないよ。ハクア君のアンノウンの場所も聞かせてもらおうか」
レイゴットが腕に魔力を込め、殴りかかる。相手は羽根に魔力を込めて白銀の羽を打ち出す。レイゴットはそれを手で叩き落とすが、余程鋭いのか手に傷がついていく。
「この!」
「……っ!」
レイゴットが右手から黒い球体を産み出して相手に押し込むようにぶつける。
「ぐああぁぁ!」
「ハクア君に習ったんだ。さすがに無詠唱は教えてもらってないけど、事前詠唱は教えて貰った」
事前詠唱。設置魔法ともいわれ、国が秘匿するレベルの魔法詠唱技術だ。発動前に詠唱を唱えるのだが、事前詠唱は唱えてから24時間以内ならいつでも発動できるものだ。
その代わり一つしか事前詠唱出来ないが十分である。かなり長い最上級魔法を事前詠唱しておけばほぼノータイムで打てるのだから怖いものである。
「さて、アンノウンと村雨返して?」
恐ろしい笑顔でそう言ったのだった。
「ここかぁ」
レイゴットはアンノウンと村雨が置かれている部屋に着いた。だが、そこは大量の武具が置かれている倉庫でどこに何があるのかさっぱりである。
「えっと、剣はこの辺りかな?」
がちゃがちゃと音を立てながら村雨を探す。
「ないなぁ。アンノウンもどこにあるのかさっぱりだし……」
そしてレイゴットは片っ端から探していった。
それっぽい大きさの箱を開けては放っていく。せめて元の場所に戻すべきだろうが、そんな時間はないので仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「ええ。ない」
全部ひっくり返して探したのだが村雨もアンノウンも見付からない。
「ん?ここから風の音がする……」
常人には全く聞こえない音を聞き分ける事ができるのは、流石魔王と言うべきだろうか。
「よっし!探してみよう!」
バゴッ、と力技で壁を一部粉砕し、隠し階段を見つけた。
「おおー!凄い」
本当は今壊したところの横にノブがあるのだが全く気付いていない。
「ああ!あった!」
しっかり綺麗な状態で飾ってあった。売るつもりだったのだろうか。
「よし!急がないと!」
アンノウンを1本忘れそうになりながらも4本と村雨の計5本の金属の棒をかちゃかちゃいわせながら走り去っていった。
「ハクア君!持ってきた……ってええ!ハクア君!大丈夫!?」
サクラちゃんが体の至る所から綿を出し戦っていた。黒い煙の怪物に少し押されている。
長い耳の先端を折り曲げてこっちに寄越せとジェスチャーする。
「行くよ!はい!」
レイゴットがアンノウンを放り投げるとサクラちゃんがパタンと倒れた。
「え?」
レイゴットが固まっていると何処からか光る人形のなにかが出てきてアンノウンを回収する。
「わっ!って今度はそっち!?」
白亜の本体が金色の光を放ちながら立っている。失っているはずの足と腕も普通にある。その代わり羽根は一枚もない。
レイゴットは自分の体を見る。灰色の肌ではなく真っ黒の魔族特有の肌の色をしていて羽根と角がなくなった。
「戻ってる……?」
すっかり日が落ちて暗くなった空には大きな月が浮かんでいた。
『村雨も持ってきてくれたとはね。お前にしちゃ上出来だ』
白亜が腰に村雨を挿しながらニヤリと不適な笑みを浮かべる。
『正直時間がない。さっさと終わらせるぞ』
アンノウンに気力を流しクリスタルのような刃が出てくる。
『レイゴット。離れてろ。そろそろ本気出す』
とんとん、と軽くジャンプしながら首や肩を回したりして関節を解していく白亜をみてレイゴットは素直に後ろに下がる。
レイゴット程のものになると相手の実力をほとんど正確に見分けられるのだが、レイゴットからみて白亜はどのくらいの強さか全く想像できないレベルの者になっていた。
「どんだけ強くなったんだよ……」
レイゴットが下がったことを確認し、白亜の準備運動が終わった。
『さぁ、やろうか?』
その言葉で怪物に襲いかかる白亜。今までとは段違いのスピード、力の強さを発揮しながら怪物を翻弄していった。




