二十一話目
「春樹、ただいまー。
おまたせー!」
私は走って部屋まで戻って勢いよく飛び込みながら言った。
「おかえりなさい。
相変わらず元気ね。」
お風呂あがりの春樹に笑顔で迎えられてしまった。
さすがにフル装備(女装)はしておらず、ノーマル春樹(男バージョン)だー。
やったー。
「相変わらずってなんすか。」
まるでいつも元気みたいじゃないか。
「あら、小学生の頃から元気いっぱいだったわよね。」
当然の様にそんな返事が返ってきた。
うう、言い返せない。
確かに、男の子達と走り回ってたよねえ。
元気というか、もはやザ・男!くらいの勢いだったから、思い出されると恥ずかしすぎる。
あの姿知ってて、私に恋愛感情抱く男はいないと思う…。
ぎゃー、春樹もじゃん!!
「小学生の頃の事は忘れて欲しい…。」
ちょっと凹みながら呟く。
「あら、どうして?
一緒に崖登ったり、洞窟探険したりして遊んだじゃない。
山じゃなくて崖ってあたりが利香らしいわよねえ。
洞窟探険では、大量に沸き出た虫退治してくれたりもしてたわよね。」
春樹は懐かしそうに目を細めて言った。
うわーん、そんなとこ忘れてくれよー。
「恥ずかしすぎる…。
なんか男勝りの女の子になぜか憧れててさあ。
黒歴史だよ。」
私がため息をついて言うと、春樹は大笑いした。
「あれは強烈すぎてそうそう忘れられないわよ。
多分、他のクラスメート達も利香の事は忘れてないと思うわよ?」
がーん…。
過去に戻ってやり直したい…。
今ならもうちょっと猫を被れる気がする。
あくまで、被るだけだけどね!
「酒持ってこーい。とか言いたいわ…。」
やけ酒ね!
春樹は楽しそうですけど。
私は落ち込んでるんだよ!
「何か飲む?
バーもあったから飲みに行く?」
素直に返されてしまった。
まあ、確かにバーも素敵だけど。
「せっかくだから部屋でのんびりしようよー。
お酒ならホテルの中にお店がたくさんあったから買いに行って部屋で飲もうよ。」
なんか、売店というのにはオシャレなお店にお土産やら八ヶ岳のワインとかが売っていたのだ。
八ヶ岳のロゼワインとか美味しそうだよねー。
「そうね。じゃあルームサービスでお酒でも頼みましょうか?」
「え?ルームサービス??
高いし、お散歩ついでに買いに行こうよ。」
ルームサービスなんて発想なかったよ。
っていうか、お酒なんて持ってきてくれるんだね。
食べ物だけのイメージだったよ。
私の言葉に春樹はちょっと困った顔をした。
「ちょっと買い物だけだと、仕度が大変なの。
バーならちゃんと着替えてメイクするんだけど…。」
た、確かに。
現在男の格好だもんね。
外に出るには結構準備に時間がかかるよね。
「あ、そっかあ。
じゃあ、ルームサービスでお願いしよっかー。」
そんなわけで二人でメニューを見てみる。
た、たけえ…。
さっき、売店でワイン一本千円で売ってたはずなのに、この値段はなんだろうか…。
尻込みする私をよそに、春樹はさっさと注文してしまった。
そして春樹は、男の格好なので受け取れないから、私が受け取ってと頼まれた。
お酒とおつまみを持ってきてくれたボーイさんに、代金を渡そうとしたら笑顔で断られた。
チェックアウトの時に精算だそうで…。
出前とは違うんですね!
やり取りを聞いていた春樹には思いっきり笑われてしまった…。
「利香、受け取ってくれてありがとね。」
メゾネットの二階に避難していた春樹が降りてきて言った。
「ううん、運んでもらっただけだし。」
ちょっと恥かいたけどね!
「なんで、お財布握りしめてるのかなとは思ってたんだけどね。」
そう言って、思い出したのか、また笑われた。
「うるさいー。
ずっと学生だったんだもん。
ルームサービスなんて頼んだことないよ。」
私はむくれて言った。
「ごめんなさいね。
悪いつもりはないのよ。」
素直に謝られたから許す事にした。
「そういう純真なところ、男はたまらないと思うんだけど、私が独占しちゃってちょっと申し訳ないわね。」
春樹は、少しすまなそうに言った。
独占してください!
そして、他の男じゃなくて春樹がたまらないと思ってください!
「ま、春樹が初めての彼氏だしね。今後も知らない事はたくさんあると思うよー。」
私はちょっと照れつつも言った。
「それは、光栄ね。」
微笑んで春樹は言った。
心がこもってない!
ちくしょう。
飲んでやるぞこのやろう!
ま、大人ですし、一応女なので変な飲み方はしませんよ?
どっちかというと心配なのは春樹だよねー。
「うふふ、飲みすぎちゃったわー。」
なんすかね、この色気たっぷりな女…いや男は。
一応、女の子の格好はしてないものの、赤い顔をしてちょっとふらふらしている春樹はとってもかわいくてセクシー。
女の子だったら百パーセントお持ち帰りされるんじゃね?
反対に私は普通です。
一応、ほろ酔いくらいまでは飲むけどそれ以上は飲んだ事ないなあ。
なんか、人前でよっぱーになるのが恥ずかしいんだよね!
一応慎みは持っているんですよ。
ま、可愛いげがないともいえるのかもね。
「もー、そんなに飲みすぎてまた寝ちゃわないでよー。」
私は春樹に飲ませた事をちょっと後悔した。
このまま寝ちゃったら寂しすぎるー。
まだ22時前だよ?!
「大丈夫よ、そこまでは飲んでないわよ。」
めちゃめちゃ信憑性がない。
あ、そうだ、さっき買ったプレゼントを渡そう。
「あ、春樹これ。」
可愛らしくラッピングされた包みを渡す。
「なあに?これ。」
春樹は受け取りつつ聞いた。
「いつもご飯ご馳走になったり、旅行連れてきてくれたお礼。
開けてみて。」
「まあ…。」
そう言いながら春樹は中身を取り出した。
「あ、これさっきいいなと思っていたものだわ。
いつの間に買って来てくれたの?」
どきぃ。
トイレっていって走った時ですとは言いづらい。
「お、お風呂行ったときかな。」
つい、嘘ついてしまった…。
ちょっと罪悪感。
「まあ…。
ありがとう。」
そう言うと春樹は私をぎゅっと抱き締めてくれた。
ドキドキ。
「えへへ。
実は自分の分も買っちゃって、勝手におそろい。」
照れ隠しにそんなことを暴露してみる。
「利香ってば、何でそんなにかわいいことするの?」
そう言ってますますぎゅーっとしてくれた。
恥ずかしくて私は、ただへらへら笑っているだけで春樹にくっついてた。
「我慢できなくなっちゃうわ。」
そう呟くと、春樹は私にそっとキスをした。
本当にやさしく触れるだけのキス。
え?え?えーーー???!!!
突然の事に私は大パニック。
い、いま一体何が??
「そんなにびっくりしないで。」
春樹がそんな私に困ったように言った。
「だって…。今のなに?」
訳がわからず思わず聞いてしまった。
「イヤだった?」
質問の答えじゃないけど心配そうに聞いてくる春樹。
「イヤなわけないでしょー。」
何いってんだ、この人は。
何年好きだと思ってるんだ。
「でも、初めてなんでびっくりした。」
正直に言う。
うーん、我ながら色気がないなあ…。
「キスも初めて?」
やさしく微笑んで春樹は言った。
「当たり前でしょー!」
付き合った事もないのにあるわけあるかー。
そこまで節操なしじゃないですよ!
「ふふふ。」
私の言葉に春樹は嬉しそうに微笑んだ。
そんな顔されるとものすごく恥ずかしいんだけど…。
「そうなのね。じゃあこれ以上は今度ね。」
これ以上ってなんですかー?!
ってか、女の子に興味ないんじゃなかったっけ?!
キスされるなんて考えてもみなかったよ。
ひたすら焦る私に春樹は吹き出した。
「冗談よ。大事な利香にはこれ以上はしないわよ。」
春樹は笑って言った。
え、それもなんかイヤだなあ…。
「っていうか、女の子に興味ないんじゃなかったの?」
思わず聞いてしまった。
「そうねえ。
恋愛感情みたいなものは女の子に抱かなくなっちゃったわねえ。」
あっさり言われて撃沈。
ちょっと期待したけど、やっぱり私にも恋愛感情はないってことですね!
じゃあなんでキスしたんだあ。
ファーストキスなのにー。
「じゃあ、どうして?」
私は言った。
「一応欲求はあるから、利香があんまりにも可愛いと我慢できなくて。」
な、なんですとー。
てっきりその手の欲求はないものと思ってましたー!
っていうか、好きでもないのにあれですか?
欲求に負けてのキスなんですかー?!
誰でもいいんじゃん…それって。
「そんなの、ちょっと悲しい。」
私が呟くと、春樹は慌てた。
「どうしたの?
何が悲しいの?」
すごく心配そうに聞いてくる。
あんたが好きだからだよ!!
「好きでもない相手にキスなんてしないでよー。」
いくら好きな相手だからって、欲求だけでキスされても嬉しくないよ。
「利香の事は大好きよ?」
「恋愛感情はないんでしょ?」
春樹の言葉に言い返す。
私に言われて春樹はしばらく言葉に詰まった。
「それでも、誰より大事よ。」
否定しなかったー!!
うわーん。
「利香、泣かないで。
傷つけるつもりはなかったのよ。」
春樹が一生懸命なぐさめてくる。
それでも、私の涙は止まらなかった。
私は、春樹は、私に気持ちがない以上は絶対手は出さないと信じていた。
もしかしたら、キスは手を出したうちに入らないと思ってたのかもしれないけどね。
「利香、そんなに泣かないで…。」
春樹は本当に困ったように言った。
私は泣きながら春樹をにらんだ。
「利香…。」
春樹は呟くと、私を抱き締めた。
「利香、聞いてくれる?
恥ずかしい話なんだけど。」
私を優しく抱きしめながら春樹は言った。
私に黙って頷いた。
「本当はね、女の子に対して性欲とかも抱かなくなっていたの。」
春樹は言った。
え、どういうこと?
思わず春樹を見上げた。
「だから、大丈夫だと安心してた。
でも、利香といるようになってね、そういう気持ちが沸くようになってきて…。
最近は押さえるのが自信なくなってきちゃってね。
だから、今回も部屋をメゾネットにしてもらったの。」
春樹の告白に私はびっくりした。
春樹がそんな風に思ってるなんて考えてもみなかった。
「そうだったの?
そんなこと、考えてもみなかったよ。」
私が言うと春樹は微笑んだ。
「利香はね、まだそういう面では本当に純真よね。
だから、大事にしたかったの。」
春樹は言う。
そう思ってくれるのは嬉しいけどさ。
「私では、責任もとれないし、幸せにもできないしね。」
自嘲気味に春樹が言う。
「どうしてそう思うの?」
私は、春樹以外となんて幸せになれないよ。
「だって、今さらだけど私は女装男よ?
女の子と恋愛もできないし、結婚もする気はないわ。
こんな気持ちで簡単に利香に手を出す訳にはいかないわ。」
春樹は少し悲しそうに言う。
「春樹って、意外とバカだなあ。」
頭いいくせにね。
「前も言ったでしょ。
結婚なんてできなくてもいいんだよ。
それに、責任なんてとってもわらなくても、私は自分で生きられる。
それに、オネエでもいいからって付き合う時言ったでしょ。」
私は言った。
こいつ、本当に鈍いよなー。
それに考えすぎなんだよね。
「私は、利香には幸せになってもらいたいわ。」
春樹は言う。
こいつもブレないなあ。
「自分でちゃんと幸せになるから大丈夫だよ!」
胸を張って言った。
相手に幸せにしてもらわなくても自分でつかめばいいじゃんね。
「それにさ、春樹が女の子に興味持つっていい傾向なんじゃないの?」
過去が原因で女の子に興味を抱けなくなっているのなら、良くなってきてるってことじゃないのかね?
「どうかしら?」
春樹は自信がなさそうだ。
「っていうかさ、私の事好きだけど恋愛感情ないとかいうけどさ、そもそも好きで、性欲もわくって事は、もうさ、私の事女として好きってことでいいんじゃないの?」
そうだ、そう言うことにしとけ!
「え、そんな適当な…。」
春樹は困った顔だ。
「じゃ、違うの?
本当に絶対違うと言い切れるの?
ほらほら、やっぱり私が好きなんだよ!」
言い切ってみる。
まんまと引っかかってくれないかなー。
私の言葉に、沈んでいた春樹が笑い出した。
いや、笑うとこじゃないんですけどね!
「利香って本当に面白いわね。
ぐちぐち悩んでいるのがバカみたいよ。」
春樹は笑いすぎて出た涙をぬぐって言った。
「そそ、考えすぎなんだよ。
大事に思ってくれるのは嬉しいけど、そんなに重く考えないでよね。」
どうせ、私は春樹にはだけなんだしね!
「そうね、それじゃ遠慮なく。」
そう言うと、春樹は私を抱き上げた。
ど、どこにそんな力が。
いや、っていうか突然なんですか?
目を丸くする私を見て、春樹は、微笑んだ。
「利香をいただこうかな。
イヤだったら言ってね?」
そう言って私は寝室に運ばれた。
えーーー???!!!
ち、ちょっとまて。
心の準備がー。




