十九話目
春樹の彼女に昇格したものの、特に何か変わったということもなかった。
残念ですけど…。
あ、でも週末は時間があれば一緒にご飯を食べて帰るようになった。
デートってやつですね!
でも、大抵ムードたっぷりの個室の飲み屋さんなので、春樹はオネエ言葉で逆にムードない…。
仲はとってもいいし、ケンカもする事もなく、かなり上手く言っていると言っても嘘じゃない。
でも、全く進展してないよー!
手もつないだことないしね!
正直、私も25歳にして彼氏いたことなかったんでね…。
付き合うというものがイマイチわからなかったり…。
最近ますます姉妹度が上がった気がするよ。
しかも、もともと同じ家に住んでるもんだから、それぞれ自分の部屋あるからさー、お泊まり!みたいなのもないよね。
はい、それじゃ、おやすみー。でおしまい。
どうしたらいいか悩んだ末、私はすばらしい考えを見つけた。
そうだ、旅行に行こう!
きっと、旅先でドキドキなことが起こるはず。
マンガとかでもよくあるパターンだし!
「春樹、旅行にいこうよ、旅行!」
私は春樹が家に帰ってくるなり、たくさんのパンフレットを見せながら言った。
「突然どうしたの?」
春樹は目を丸くしながらリビングに入ってきた。
「もうすぐ夏休みでしょ?
どっかいこうよー。」
もうすぐお盆休みがやってくるのだ!
「お盆の時期は高いわよ?」
春樹は苦笑しつつもパンフレットを手に取り、私の向かいの席に座った。
「あ、そうか、高いのかー。」
すっかり忘れてたけど、お盆の連休なんかに行ったら高いよね。
困ったな、まだ入社して4ヶ月弱なのでそんなにお金もない…。
家賃も高いしね!
「まあ、見てみましょうか。
利香はどこにいきたいの?」
春樹、優しい!
どSな春樹は最近見てません!
「うーん、どこがいいかなー。
夏だから、プールがあるところにいきたいなー。」
海の近くだったら最高だよね!
「ごめんなさい、さすがに女の子の水着は着れないし、男の水着はちょっと着たくないわ…。」
春樹は申し訳なさそうに言った。
そっか、さすがに女の子の水着はやばいよね。
かといって、露出の多い男の水着も春樹はかなり嫌だろう。
「そっか、そうだよね。
じゃ、他のとこにしよう。」
「ありがとうね。」
そう言って春樹は頭をなでてくれた。
地味に幸せ。
そうそう、春樹の彼女になって唯一変わった事は、こうやってよく頭をなでてくれること。
「よし、じゃあ涼しいとこにいく?
北の方とか。」
めげずに別の案を提案してみる。
「北?
北って多すぎてわからないわよ。」
た、確かに。
「もうさー、北って言うと北海道くらいしか思い浮かばないなあ。」
逆に他になんか浮かぶ?
東北とかですかねー?
「なるほど。国内の北なのね。」
そーですそーです。
ってか、海外とか考えてなかったので他に考えようがなかったよ。
「いっそ、海外なんかはどう?」
春樹はさらっと言った。
「え?海外…?」
予想外の返しがきた。
「ニュージーランドとか今は冬だし、涼しいを通り越して寒いわよ?」
に、ニュージーランドですか?
い、いくらかかるんだろう…。
「お盆のニュージーランドはさすがに高そうだよー。」
40万とかすんじゃないですかね?
払える自信がない。
春樹ってば、いくらもらってるんだ?
「そうねえ、ちょっとするかもしれないわね。」
ですよね!
「もうちょっとかからないとこがいいなー。」
見栄を張っても仕方がないので正直に言う。
「そうなの?
利香は意外と遠慮深いのね。」
春樹は言った。
遠慮深い?ってなんだ?
意味わからん…。
「遠慮深いって意味不明。」
わからんので聞いてみた。
「そう?
高いところを遠慮してるじゃない?」
だめだ、ますます意味わからんわ。
「え、だって普通にそんなに持ってないんだもん。
春樹のために言ってるんじゃなくて、自分に予算がないだけだよ。」
私の言葉に春樹は笑いだした。
すいませんね、貧乏で!
「自分で出すつもりでいたのね?
二人での旅行なら私が出すとか考えなかったのね。」
春樹は微笑んで言った。
「えー!!何で?
行きたいって言った私が出すならまだしも、何で春樹が??」
しかも、ニュージーランドとか二人分とかありえないわー。
新宿行くまでの電車賃とかならまだしもさ!
「彼女の旅費くらい出せるくらいの甲斐性はあるつもりよ?」
私はぽかーんとして春樹を見つめた。
か、彼女とか…。
照れるじゃないか、こんちくしょう。
しかも、嬉しいし!
「いやいや、彼女っていっても、なんもしてないし!
一応働いてるし。
海外なんてもってのほかですよ!」
私はあわてて言った。
「出してもらうなんて考えもしてなかったのね。
利香は本当に素直でかわいいわね。」
私の頭を再びなでてくれながら春樹は言った。
かわいいとかーーー!!
は、鼻血ふいちゃうよ!
もう、幸せすぎるー。
「彼氏できたこともないしね。」
私は照れながら言った。
「利香は遠慮するかもしれないけど、気にしないで甘えておきなさい。
それくらいしてくれない男とは付き合っちゃダメよ?」
うう、最後のセリフがちょっと寂しい…。
今はあくまで恋人ごっこで、いつかちゃんと相手を見つけなさいと突き放されているようだ。
「うん、わかった。ありがとう。」
私は春樹に素直にお礼を言うことにした。
春樹は、私の言葉に笑顔で頷いた。
「でも、社会人一年目なんだから、海外はそのうちね。
どこか高原とかいこうよー。」
暗にこれからも一緒にいるよってつもりで言ったけど通じたかなー?
私たちは、二人で楽しくパンフレットを見て、八ヶ岳に行くことにした。
高原、牧場、涼しそうー。