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第1話 勇者という肩書きがあればいい。

 目の前には暗めに日の光を調節され、適度にダークな雰囲気漂う一室。


「ここどこだ」

「神都アレグリアとか言う所でしょ?」


隣には女神こと深衣奈が居た。

記憶再生。

そうだ、ルーレットで1が出て俺は転移マスに止まって、アレグリアだかアリアドスだか言う所に来たんだった。てか後者は完全にポ○モンだね。

さて、そんな事はどうでもいい。どうでもよくないけど、まずここはどこだ。



「クックック・・・ハッハッハアアアアアアア!!」

「誰だよ、こっちの世界にも中二病あんの?」


思わずそちらを見ると、筋骨隆々で黒マントを羽織り右手には重そうな両手剣を持っている男が居た。

まさか・・・。


「どこの馬の骨か知らぬが、ククク、我に挑もうなどいい度胸ではないか」

「・・・・誰ッスかアンタ」

「我を知らぬ? フフフ、厚顔無恥な物ほど知らずとはよく言ったものだな。我こそは魔王ルシファー、この世界に顕現せし最強の魔王だ」

「あ、アンタ魔王なんだな」


納得、どうりで何かドラ○エとかファ○ナル○ンタジーとかで見たことある雰囲気だと思ったよ。

だが、相手はかなり強そうだ。

あんな筋肉の塊が巨大な剣を振るったらそれこそ山が切断されるかも知れない。


「仕方ねぇ。先手必勝だな」


俺は駆け出した。のだが。

俺は一応肩書きだけではあるが勇者である。

ってことはこちらの世界、つまり異世界においては上位ポジションを獲得しているわけである。

それも勇者といえば魔王、ってくらいに扱われるのだから、相当な高さのポジションである。

という事は、平凡で凡俗な人間の100mダッシュなんてものより圧倒的に早いわけで。

俺は一瞬のうちに魔王の眼前へと迫っていた。


「うおっ!?」

「死ねぇぇい!!」


瞬間、魔王の手のひらから火炎玉が放たれる。

俺は腰からエクスカリバーを抜き、真っ二つに叩き切る。

冗談じゃねぇ、こちとら鎧すら装備してねぇんだ、某アクションゲームの勇者アー○ーみたいにパンイチ活動する事になるなんて真っ平ゴメンだ。けどあれって公然猥褻だよな。

俺は背中のディヴァインシールドを構えつつ、エクスカリバーで脳天を狙う。

俺の剣の鋒があと少しで頭に触れる、といったところで。


「グゥゥゥアアアアアアアアアアアアアア!!」


魔王は後ろに仰け反り倒れた。

そして白い粒子になって、天へと召された。

しばし呆然。

何、俺の攻撃が予想以上に効いてたとか、エクスカリバーの剣気を飛ばしたとか、そんな感じ?

俺が振り向くと、深衣奈が杖を構えてポカーンとしていた。

おいおい、冗談だろ。


「・・・・深衣奈、お前が倒したの?」

「っぽい。何か杖を前に出したらいきなり雷みたいなのが出てきておでこにバッツリ・・・」

「・・・・・」


勇者の存在価値が無くなった瞬間である。

簡単に言うと、仲間を引き連れてやってきた勇者一団の魔法使いが勝手に魔王倒しちゃったみたいな感じ。

凄く、虚脱感がハンパじゃないっす。


《おめでとう! 魔王を無事倒せたようですね、では帰還します》


そして、俺達は一瞬で終わってしまった異世界を後にした。勇者3○でもこんな早く終わらねぇぞ。


☆☆☆




「・・・気分台無しだぜ」


俺は深衣奈にルーレットを渡した。

深衣奈はそれを受け取り、カラカラと回し始める。

・・・5。

まぁ妥当な数字だろう。

俺と深衣奈が進むと。


『空から魔装少ゴホンゴホン、お金が落ちてくる。臨時収入1000万円』

「何処に間違える要素があった!?」

『テヘッ☆』

「テヘッ☆ じゃねぇよ! 文字数も意味も形も何もかも合ってねぇよ! どんな間違え方だ!」


ふざけたマスである。

俺達は臨時収入を受け取り、総資産2億1200万、完全に深衣奈依存状態。

というかこんな発言がいつまでも続くのだろうか、ツッコミで対処できない所はどうカバーしろと。

不安を覚えつつも、深衣奈からルーレットを受け取り、回す。

カラカラカラ・・・3。

何でかさっきからドデカイ数字が出ない。


『大ピンチ! 空から流星群の如く魔族達が! その数なんと千匹! さぁ戦って倒しましょう!』

「ざっけんな! なんで俺の時だけ波乱万丈なイベントばっかなんだよ!!」

『※ お金を払えばスキップできます』

「どんなシステムだ、おい!! ってか戦って倒すんじゃねぇのかよ!!」

『必要金額数 3億』

「足りねぇ!! 惜しい、凄く惜しい!!」


その言葉を最後に、俺と深衣奈は草原へとワープした。

どこまでも続く大草原、緑の丘が綺麗だ。

だが、次第に空が暗くなってくる。

そう、魔族とやらの侵攻だ。


「くそ・・・千匹なんて、どうすりゃいいんだ!」

「どうしよう・・どうしよう・・・」


俺も深衣奈も狼狽える。

当たり前だ、いきなりそらからバケモンが千匹襲いかかってくるんだぞ? ここで冷静な奴とかオカシイだろ。

そんな事も束の間、周囲にはローブを着た人達が大量に居た。


「だ・・誰だ?」

「女神様、我らに指令を!!」

「え・・え・・私?」

「そうです!」

「おい、俺の話無視か」

「え・・えっと、魔族を倒しちゃえッ」

「「「「「了解です!!!」」」」」

「おい、無視か。俺空気か。一応勇者なんだけどな」


完全にシカトである。

俺の周囲の魔法使い?らしい人達は何かを唱えながら空に向かって杖を突き出す。何、般若心経?

俺はというと、エクスカリバーだけを構えて臨戦態勢を取っていた。

イメージだと、周囲の魔法使い達が傷ついて倒れこみ、魔族が徘徊する。そしてそこで俺登場、バッサバッサと敵を薙ぎ倒して、魔法使い達に喜ばれる。はい最強最強。

思わずその光景に口元が緩む。フフフ、さぁ来いバケモノ共!!

空が完全に黒一色に染まる。

太陽どころか雲一つ見当たらないその空には、無数の黒点が見える。バケモノ共だ。


「しゃぁ! かかって来」

「「「「「ホーリージャッジメントォォ!!!」」」」」

「セラフィアブレス!!!」


俺の勢い虚しく、空に放たれる魔法使い達の無数の黄金に輝く巨大な斧。更にダメ押しに深衣奈が放った意味不明な技は、魔法使いと俺全員に掛ける俗に言うパーティスキルで、力が湧いてくる。


「グギャアアアアアアアアアアアアアア!!」


響き渡る悲鳴。

俺のイメージならこれは魔法使い達の悲鳴なのだが、完全に魔族の悲鳴である。

え、まさか。

そして空が晴れ渡る。


「「「「「「「「「「やったあああああああああ!!」」」」」」」」」」

「女神様! ありがとうございますっ!!」

「え? あ、こちらこそ」


そして、また俺たちは人生ゲーム盤へと戻っていく。なにこれ、確実に勇者の出番ねぇじゃん。


☆☆☆



「・・・気分どころか心まで最悪だ」


もっと修羅場になる予定だったのだが、完全にB級映画の終わり方で終了してしまった。

その上俺の出番ナシ。空気扱いとシカト・無視による居ない者属性で心もメッタ打ち。

やっと理解した、何故俺がこんな低賃金かを。

働かなくて、いいんだ。

つまり、勇者の肩書きがある、ただそれだけなのだ。


「虚しいな」


俺は深衣奈にルーレットをわたす。

あれだけ働きたくなかったのに、今となっては何か罪悪感ややり遂げられずイライラした感情が募る。

働かないで月収200万、最高に優遇された職業じゃないか。

そうやって心を宥めてもやはり無理だった。勇者なのに敵と戦わずして勝ってしまうなんて惨めなだけだった。

カラカラカラ・・・。

軽い音がして、ルーレットは10の位置に止まる。


「お、珍しいな」


俺と深衣奈は進んでいく、すると。


『緊急事態発生! 魔都イグニスにて魔神元帥サタン・バラキエル・レヴィアタン・ティアマトを倒せ。尚この討伐ミッションでは勇者の持つ聖剣しか魔神元帥達には効力をなさない』


そんなバカな。

安定の自宅警備員であったはずの勇者に、大役が?



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