プロローグ 人生ゲームにて勇者に
人生ゲーム、を知っているだろうか。
職業に就いて、お土産やら特産品を買い、結婚し、最終的に持ち金の多さで勝敗を決めるゲームだ。
それはあくまで擬似人生であり、人形というモノを通して行う娯楽行為だ。
だが、しかし。
俺は何の因果か、リアル人生ゲームを行うハメとなってしまった。
それも、異世界で。
☆☆☆
「・・・どこだ、ここ」
俺はまぶたを開いた。
そして見慣れない風景にちぐはぐな感覚を覚える。
待てよ、俺は数分前まで何をしていた?
記憶再生。
俺の名前は神代結城、高校二年生だ。
俺は数分前まで友人二人(どちらも女子)と人生ゲームをやっていたんだ。
本当は俺含め男子三人と女子二人で行っていたのだが、その時トイレや休憩で席を外していた。
そして、俺は今ここにいる。
手には例の数字が書かれた板切れに指針がついているアレ。
まさかとは思うが。
「これ、人生ゲームか?」
「っぽいね・・・」
「! 深衣奈」
村井深衣奈、俺の通う高校の女子友達だ。
栗毛を団子風にまとめた髪型と帰宅部特有の肌の白さが特徴の女子。
ルックスはやたら凄く(俺と比べて)て、多分美少女にカテゴリされるであろう人物。
「あれ・・・綾音がいないぞ」
「あれ? 綾ちゃんがいない?」
俺と深衣奈は周囲をキョロキョロ見回す。
渦中の人物である綾音とは、沙凪綾音、深衣奈同様俺の女子友達だ。
黒髪のポニーテールが特徴で、表情豊かな、可愛らしいという表現がピッタリな少女だ。
「・・・まぁいい、綾音は後で探すとして、俺たちは今どうすべきなんだ? もし人生ゲームのルールなら俺と深衣奈は敵同士だ。ってかまずなんで俺たちはこんなとこにいるんだ・・?」
「わからないよ・・・」
《少年少女の諸君》
その時だった。
俺と深衣奈がこの現象を鵜呑みにできず、理解に苦しんでいると、脳内に響く声がした。
中性的な声で、男とも女とも取れる曖昧で絶妙な声音だ。
《ようこそ「異世界人生ゲーム」へ》
「「異世界人生ゲーム??」」
俺と深衣奈がハモる。
《ええ。これは異世界人生ゲーム。この広大なフィールドを手持ちのルーレットの出目の数分進んでいく、ルールとしては人生ゲームとあまり変わりませんが、一つ。この人生ゲームは味方を増やすことができます》
「・・つまり、俺と深衣奈が仲間になるってこともOKなのか?」
《勿論です。途中のマスによっては色々とイベントが行われますし、場所によっては仲間が増えたり、武器が増えたり、イベント内容も複数あります。モノによればこの人生ゲーム盤から異世界へと派遣されてそこで物語を紐解く、なんてこともあります》
むちゃくちゃなルールだ。
つまり、イベント内容によっては、現世から切り離されたこの空間から更に転移した異世界でストーリーを紐解く必要もあるってことだ。
遠すぎる、果てしなく。
「帰るには、どうすればいいんだ?」
《簡単です。ゴールすればいいんですよ、ゴールすれば。無償で全員、ってわけでもないですがね》
「どういうことだ!?」
《まぁまぁ、憤らないでください。何せゴールしたわけでもないでしょう?》
「・・・」
《こちらの世界での職業カード、というのは勇者や魔法使いといった戦闘職業となります》
「それじゃ、もしフリーターになったらどうするの?」
そこで深衣奈は口をはさんできた。
《さぁ。フリーター、というより実質無職で戦わねばならないでしょうね。多分一番弱い職業ですよ。かといって回避する方法がないわけではないです。職業に就けばいいんですから》
「・・・ゴールまでは何マスあるんだ」
《さぁ? 貴方方には人生ゲームの人形として動いていただきますので、そういった内容はお教えできません》
すると一度言葉を切った。
そして。
《では、前途多難・波乱万丈な人生になるかも知れませんが、どうぞお気を付けて》
その言葉を最後に脳内から声は消えた。
何故俺たちが連れられてきたのか、理由なんて問う暇はなかった。
俺は手にあるルーレットを眺める。
1から10まであり、指針もしっかりと備わっている。
「回すしか、ねぇか」
「・・・そうだね」
俺と深衣奈はまず道を選ぶことにした。
右を選べば優秀な職業には就けないが、確実に「戦士」の職業に就ける安定型ルート。
左を選べば優秀な職業に就ける可能性はあるが、失敗するとフリーターという雑魚職に堕ちるギャンブルルート。
もちろんのことだが、俺は左を選んだ。深衣奈もだ。
俺はルーレットを回した。
カラカラカラ。
軽い響きがして、指針は・・・。
9。
「9か、まさかとは思うがフリーターじゃないだろうな・・・」
恐る恐る俺は進んでいく。
一歩二歩、三歩四歩五歩、六歩七歩八歩、九歩。
俺の止まった場所の説明は。
『勇者になれる。気に入った場合はそこにある「就職登録書」に氏名を記入しよう』
勇者、だった。
見まごうことなき勇者、そのマスには丁寧に勇者の絵面すら写っている。
更に。
『給料200万 特典でエクスカリバーとディヴァインシールドがついてきます』
「勇者のくせに低賃金だなおい!」
とは言っても、次のマスはフリーターマス。
ここで勇者になっておかねばならない。
俺は就職登録書とやらに氏名を書き込んだ。
すると。
《勇者就任、おめでとうございます。これが特典です》
あの脳内に響く声が聞こえ、ドサ、と空から袋が落ちてきた。
開けてみると。
黄金に光り輝く片手剣と逆三角形に羽を生やしたようなスタイルの盾があった。
エクスカリバーとディヴァインシールドとやらだろう。
俺は装着してみた。
うん、案外しっくりくるな。
俺は深衣奈がどこに止まるのか気になって、後ろを向いた。
深衣奈は既に回していたらしく、俺よりも後方のマスに止まっている。
声が聞こえてくる。
「え!? え!? め・・・女神ッ!?」
《女神就任、おめでとうございます。これが特典です》
聞き間違いだろうか。
俺は首を傾げる。
女神? んなアホな、そんなもんおったら勇者なんていらへんやん。
思わず関西弁になってしまう。
俺は自動的に給料日マスへと飛ばされる。
人生ゲームのスタート開始の所で就職すると、自動的に飛ばされるシステムがある。
勿論だが深衣奈もだ。
パッ。俺の体が消え、赤いマスの上に俺と深衣奈がいた。
「・・・・深衣奈、お前何になったの?」
深衣奈の格好は異常だった。
司祭服みたいなローブに四枚羽が先端に生えた杖、そして空き手である左手には小型の黄金盾。
まさかとは思うが。
「女神、だって」
「やっぱりぃいいいいいいい!?」
その格好を見たら分かる。
元々天性的に美人な深衣奈にそんな格好させたら本当の女神様だ。
「きゅ、きゅ、給料はっ?」
「えーっと・・・2億?」
「ぼったくりじゃねぇか!!」
どういうことだお!!
勇者が200万で女神が2億、そりゃ神様だもんな、うんそれくらいは分かる。
だがな、勇者だって強いんだぞ!! 200万は低すぎだろ! 今時、どっかの大企業なら稼げるぞ?!
とはいえ、フリーターよりはマシなので俺は嘆息しつつも安堵していた。
そんなこんなで給与金を受け取ると、またアノ声が聞こえる。
《さぁさぁ、職業には就けたようですね?》
「ああ、低賃金勇者にな」
《ふふ、まぁフリーターよりはマシじゃあないですか。おっと話がズレた。さて、次に貴方方には「結託」を求めたいと思います》
「結託?」
《ええ。結託とは、今いるメンバーで仲間になり、一つの指針で二人が同時に動く、ということです。逆に言えば、マイナスを踏んだらダメージ二倍、プラスを踏んだら公益二倍。考え方によっては精神的にも財政的にも安定すると思いますが》
「なるほど。これが仲間を作るシステムか」
この世界、というよりはこんな世界に勝手に転送されれば誰だって心細くなる。
そうすると仲間を欲する。
仲間を得たことで精神的に安定し、更に公益のあるマスに止まれば利益も二倍。
結託すれば精神的にも財政的にも安定する、しかしもしマイナスマスに止まれば。
効果は二倍、最悪仲間割れなんて事態も起きる。
まるで現代の写鏡のようだ。はぁ、だから働きたくないんだ。
だが、それはあくまで低賃金であればこそ、の話。
深衣奈と組めば、給与金は増えるし、マイナスに止まって財政危機を迎える可能性も低くなる。
「・・・どうする深衣奈」
「私は・・そのやっぱ怖いし、組みたい・・・かな?」
財政的な不安と精神的な不安の利害が一致した。
だから俺は空に向かって叫んだ。
「その結託とかいうやつ、受け入れるッ!!」
《ふふ、賢明な判断、と言えるでしょう。では深衣奈さんの指針を回収させていただきます》
瞬間、深衣奈の手からルーレットが消えた。
残るは俺のルーレットのみ。
《回す権利は1ターン交代制にします。結城さんが回したら次は深衣奈さん、といった形でね》
「分かった」
《では、頑張ってください》
残された道は一つ。
仲間を増やし、綾音を探し、そしてゴールする。
そのために俺は勇者に、深衣奈は女神に転職したのだ。
とはいえこれじゃ完全に俺がヒモである。
うまくすれば働かずに済むかもしれない。
少しの希望と大量な不安によって構成される今の心境。
俺はルーレットを回した。
カラカラカラ・・・・1。
俺と深衣奈は一歩進む。
すると。
『転移イベント! 神都アレグリアにて魔王を倒せ』
そして、俺と深衣奈はマスから消えた。




