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57. 帆桁の決闘! 少年と海賊の頂上戦

インディアン勇士のフライングイーグルは、海賊湾での激戦が終わったあと、虎リリー姫の姿が見当たらないことに気づき、あわてて彼女を探し回っていた。やがてジョリー・ロジャー号へ上がると、そこにいた迷子の少年たちや妖精たちが静まり返り、主マストのてっぺんをじっと見上げているのを発見する。

フライングイーグルも彼らの視線を追うと、帆桁の上に二つの人影が向かい合っているのに気づいた。一人はフック船長、もう一人はピーター・パンだった。


「これは……」

フライングイーグルは思わず息をのむ。見上げる先では、フック船長が怒りの形相で声を張り上げる。


「ピーター・パン! まさか、ここまでの計画をすべて仕組んだのはお前か!」

ピーター・パンは、大人をからかうときのような得意げな口調で答えた。

「そうさ、フック。オレと仲間たちで全部考えたんだ。お前なんか、夢幻島から追い出してやる!」


「よくもまあ偉そうに……。その高慢さ、思い知らせてやる!」

フック船長は苛立ちを隠さず、剣をにぎりしめる。


「ふん、こっちはいつでも準備万端さ。さあ、始めようか。島をかき乱す悪党さんよ!」

ピーター・パンも短剣を構え、飛びかかるように距離を詰めた。


激突は一瞬で始まった。ピーター・パンは素早い剣技で切り込むが、手元にあるのはリーチの短い短剣。あと少しというところでフック船長の体に届かない。

一方のフック船長も負けてはいない。大柄な体格を活かし、怒涛のように肩からぶつかってピーター・パンを弾き飛ばそうとする。それでもピーター・パンは短剣でその突進を何度も防ぎ、逆に隙を狙おうとする。


「チッ……!」

フック船長がかつて大海賊バビットを倒した必殺技を繰り出そうとするたび、ピーター・パンは軽やかにかわし、短剣で弾き返す。

そしてピーター・パンは帆桁の高い位置から後方宙返りを決め、ふわりと甲板へ着地した。


「逃げるつもりか? 腰抜けめ!」

フック船長は悔しげに叫び、帆にひっかけた鉤爪を滑車のように使いながら滑り降りる。速度を殺しつつ甲板へ降り立つと、すかさず剣を振り下ろした。その一撃は重く、ピーター・パンは短剣でかろうじて受け止めるも後ろへ数歩弾かれる。


「ふふっ……ちょうどいいや」

ピーター・パンは何か考えがあるようで、わざと空中を飛び回りながらフック船長を誘導し始めた。フック船長はピーター・パンを見上げなければならないため、自然と足元がおろそかになる。

そうして二人は戦いを続けながら、少しずつ船縁の方へ移動していった。


「あれ? 妙に板が揺れるな……」

フック船長が足下を疑問に思い、視線を向けると、そこは揺れ動く飛び板の先端だった。気づいたときにはもう遅い。ピーター・パンは背後に回りこみ、強烈なキックを繰り出す。


「うわああっ!」

フック船長はバランスを崩し、飛び板ごと海へ転落する。大きな水しぶきが上がり、甲板で見守っていた迷子の少年たちと妖精たちは歓声をあげた。


「くそっ……まだだ!」

フック船長は海中から浮上し、必死に船へ泳ぎ戻ろうとする。だが、足裏に何か固いものがあたり、まるで岩のように感じた。

「なんなんだ、これは……?」

その“岩”は突然動き出し、フック船長を乗せたまま海面を滑る。そこへ小舟を漕いできたスミスさんが姿を見せ、小声で叫ぶ。


「船長、早く! こっちへ飛び移ってください! その下は見ちゃだめです……!」

フック船長は意味がわからず、かえって足下を見てしまう。すると、そこには因縁のワニが横たわっていたのだ。ワニは「待ってました」と言わんばかりに振り返り、フック船長と視線を合わせる。


(最悪だ……どうすれば……)

フック船長は青ざめる。ワニの口が開いたら一巻の終わりだ。なんとか小舟へ跳び移ろうと、焦る気持ちを抑え、必死に考える。


そのとき、ふと左手の鉤爪が強い日差しを反射していることに気づく。鏡のように磨き上げられた鉤爪が、レンズのように光を集め、ワニの背を照らす。さらにフック船長は巧みに手首を動かし、反射光をワニの目へ向けた。

「グルルッ……!」

まぶしさに耐えきれずワニが目を閉じた瞬間、フック船長は海へ飛び込み、全力でスミスさんの小舟へと泳ぐ。


ワニが再び目を開いたとき、もはや背にいた獲物はいない。悔しそうに大きな口を開いて追いかけようとするが、フック船長とスミスさんはすでに小舟を漕ぎ出していた。

ワニの猛追をかわしつつ、彼らは海の向こうへと逃げていく。それきり、夢幻島へ戻ってくることはなかったという。


こうして夢幻島最大の戦いは幕を下ろした。迷子の少年たち、インディアンたち、そして妖精たちは、見事に海賊を打ち破ったのだ。


ジョリー・ロジャー号の甲板には、黄と黒の縞模様の兜をかぶった妖精の守衛が整然と並び、やがて陸地から飛来した金色の光が輪を描くように広がる。その中心から姿を現したのは仙子女王だった。

彼女は優しい笑みを浮かべ、みんなに声をかける。


「狡猾な海賊は夢幻島から消え去りました。これは妖精たちだけの力では不可能だった。ジャックとピノキオの働きによって誤解が解け、迷子の少年、インディアン、妖精が一つになれたからこその勝利です。夢幻島に平和と静寂が戻りましたね」


そこへフライングイーグルらに導かれたインディアン酋長が、簡素な橋を渡って甲板へ上がってきた。そして仙子女王の言葉にうなずき、厳かな口調で言う。


「そうだ。部族間の誤解は解け、敵意は友情へと変わった。これからはみんなが家族だ。夢幻島全体が、大きな家族になるのだ」


彼の声とともに、甲板から歓声が湧き起こる。インディアンたちの勇壮な太鼓、妖精の澄んだラッパが次々と響き合い、海賊湾はたちまち祝祭の渦に包まれる。人々は抱き合い、拍手し合い、笑顔があふれ続けた。


やがて仙子女王とインディアン酋長は、ピノキオとジャックに案内され、船倉にある「ロバにされた少年たち」の部屋へ向かった。

途中、インディアン酋長は小さな木箱を見つける。淡い紫色の光が漏れ出るその箱は、何やら不吉な気配を放っていた。


「この箱……。ここに詰まっているのが、少年たちをロバに変えた魔法の粉のようだな」

酋長が眉をひそめる。仙子女王もうなずいて答える。


「そうですね。中には強大な力が渦巻いているのが感じられます。今すぐ完全に消し去ることは難しいかもしれない。……まずは、彼らにかけられた呪いを解いてみましょう」


そう言って仙子女王は部屋の扉を開く。すると、怯えたように後ずさるロバたちの姿があった。海賊の気配を警戒しているのだろう。だが、ピノキオの顔を見つけた瞬間、彼らは安心した様子で一歩ずつ近づいてくる。


「大丈夫。彼女は精霊の谷から来た仙子女王。君たちを元に戻す手助けをしてくれるんだ」

ピノキオがやさしく呼びかけると、仙子女王はそっと手をかざし、金色の風を巻き起こした。風はロバたちを渦のように取り囲み、まばゆい輝きを増していく。


「……っ!」

突如、光ははじけるようにかき消え、ロバたちはそのままの姿で残されていた。仙子女王の魔法すら通じなかったのだ。


「なんという力だ……。まさか、これほどとは」

インディアン酋長が厳しい表情でつぶやく。

「フック船長がいれば、この粉の正体がもう少しわかっただろうに……。あいつは逃げてしまった。手がかりが絶たれたか……」


ピノキオは焦りのあまり声を荒らげる。

「じゃあ、ショウトウシンたちは二度と人間に戻れないの……!? そんなの嫌だよ!」


仙子女王はピノキオの頭にそっと手を置き、落ち着かせるように微笑む。

「安心して。きっと何か方法はあるわ。わたしはすぐにオズの国へ連絡を入れましょう。オズ大王なら、この魔法粉について何か手がかりがあるかもしれない」


重苦しい空気が流れる中、ショウトウシンがピノキオの背中にかじりつき、耳を前足でパタパタと触るようなしぐさをする。ピノキオは最初「痛いよ」と抗議しかけたが、やがて思い出したように目を輝かせた。


「そうだ! ぼく、前にロバの耳と尻尾が生えてしまったときがあったんだ。でも青い妖精の力で治してもらえた。それに、ぼくは木の人形から本物の男の子に変えてもらったんだよ! ……ただ、青い妖精が今どこにいるのか、ぼくは知らないんだけど……」


するとジャックがにこりと笑って近づいてくる。彼はポケットから、いくつもの透明な青い貝殻が連なった手のひらサイズのブレスレットを取り出した。


「これは青い妖精にもらった手輪なんだ。『困ったときに助けになる』って言われてね。もしかしたら、この魔力でロバの呪いを解けるかもしれない」


ジャックがブレスレットを手にはめると、ショウトウシンをはじめとするロバたちの前へ静かに歩み寄り、小さく祈るように囁く。


「青い妖精さん……。彼らはほんの出来心で“歓楽の国”に行ってしまい、こんな姿になってしまった。でもきっと今は深く反省してる。どうか呪いを解いてあげてください」


するとブレスレットが微かに震え、貝殻同士がカラカラと音を立てる。すぐさま青い光がジャックの手首からロバたちへ広がっていき、部屋全体が神秘的な青の輝きに包まれる。

次の瞬間、青い輝きが強烈にきらめき、誰もが思わず目を閉じた。


「……あれ?」

目を開けると、そこには元の人間の姿を取り戻した少年たちが立っていた。呪いは完全に解けたのだ。


「やったぁ!!」

部屋は歓喜の声であふれる。ある少年は走り回り、ある少年は涙をこぼしながら「もう二度と知らない人についていかない」と誓う。

ショウトウシンも思わずピノキオとジャックに抱きつき、感謝の言葉を何度も繰り返す。


「本当にありがとう……! もうずっとロバのままで、親にも会えないと思ってた……」


すると、他の少年たちも「ママに会いたいよ!」と口々に泣き出した。そんな彼らをピノキオは落ち着かせようと、両腕を広げて言う。


「大丈夫。体に妖精の粉をかけて、楽しいことを想像すれば……空を飛べるんだ。そしたら海を越えて、港町へ帰れるよ!」


だが、ピーター・パンは首をかしげる。

「でも、それは簡単じゃない。楽しいイメージを持って飛ぶのは、誰にでもできるわけじゃない。それに、こんな大勢を連れて雲海を越えるのは危険だ。もし道に迷ったら帰れないよ」


「うっ……」

ピノキオは困ったように唇を噛む。最初に夢幻島へ来たときだって危うく迷子になりかけた。それが今度は何人もの少年を連れてとなると……。

「じゃあ、どうすればいいんだろう……?」


悩みが深まるなか、戦いを終えたばかりの船倉には、静かな余韻だけが漂っていた。

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