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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
後編 俺と面倒臭い彼女と必然の決別
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第56話 旅行の終わり

 

 ガタン、と列車が揺れる。


 この車両には客は俺達しかいないため、辺りは静かなものだった。


 窓際の席に座った俺は外を流れていく夜景をぼんやり見ていたが、ちらりと周りの席に目を向けた。


 正面の席では小田が身体を横に倒し、隣に座った柊が鬱陶しそうにうう、と寝言を呟いている。

 隣に座る橘は本を読んでいる。片手に文庫本を持ったその姿が異常に様になっていた。


 最初は四人で話していたのだが、流石に疲れていたのか次第に全員口数が少なくなり、気づけばご覧のあり様だ。


 座席を回転させて四人掛けにした席を、通路を挟んで二つ作った俺達は四人ずつに別れて座っている。

 女子はどうしているのか、と俺は通路の向こう側をちらりと覗いた。







「あ、静香寝かけてる」


「……んん、あなたが何を言っているのか、ぜんぜん………」


 こくり、こくりと船を漕ぎつつある古賀に、隣に座った姫野が優しい目で上着を掛けてあげていた。しばらくすると古賀はすう、と小さく寝息を立て始める。


「…………こうして見ると、本当にお人形さんみたいだよね」


「そうね……本当に、可愛らしい」


 彼女の寝顔を見ていたらしき飛鳥がほう、とため息を吐いた。

 その時、未来と姫野がそちらを見ている俺に気づき、さっとその身体で彼女を俺から隠した。


「あ、誠は見ちゃだめ」


「女の子の寝顔は~、安売りするものじゃないんだよ~?」


「……いや、別に興味ないが?」


 俺がそう言うと、未来がむっとした表情をする。


「なんですと。この寝顔に興味がないなんて、人としてあり得ないよ」


「どう答えりゃよかったんだよ……」


「ふふっ、正解は何だったでしょうか~?」


 古賀と、あと一応小田と柊を起こさないように小声でそんな話を彼女達としていると、文庫本を脇に置いた橘が会話に入ってくる。


「ところで、今回の旅行は皆様のお気に召したかな?」


 橘が言うと、女子三人は笑顔で頷いた。


「お気に召しました」


「楽しかった~」


「ありがとう、色々と」


 旅行の計画は皆で立てたが、実際にコテージの予約等を買って出てくれたのは橘だった。

 俺も含め、四人で感謝の念を込めて彼を拝んでいると、橘がそうだ、と思いついたように言った。


「皆部活もしばらく休みだろうし、近々バドミントンでもやらないかい?」


 彼の提案に、未来がすぐさま笑顔を浮かべる。


「お、いいね。ていうか、橘君が言わなかったら私が言ってたところだよ。私と飛鳥ちゃんの最強ダブルスで分からせてあげる」


 彼女がそう言うと、飛鳥はにこりと微笑んだ。あっ、これはやる気ですね。


「やりたいけど~、バドミントン部じゃない私が行ってもだいじょうぶ~?」


「いや、まぁ。柊と小田も誘うし。……あ、紗月も呼ぶか?」


 俺は何とも答えになっていない返事をしたが、最後の言葉が効いたのか、姫野は絶対行く~と力強く頷いてくれた。

 先ほど駅まで送りに来ていたうちの妹は、ほんの一日ではあったが随分と彼女達と仲良くなっていたようで、寂しそうな顔で俺達を見送っていた。……あいつの予定も、聞いておかないとな。

 皆が乗り気なのを見て、橘は自分の鞄から手帳を取り出す。


「いつがいいかな、えっと……この次の日曜はどうだい?」


「いいよ」


「私も大丈夫」


 飛鳥達がそう言うのを聞いて、俺も行けると言いかけ、ふと何かを忘れている気がした。えっと、次の日曜は八月の第三日曜日…………あ。


「悪い、その日俺無理だわ」


 え、と驚いた様子を見せる飛鳥が視界の端に映った。


「へぇ。……あ、いや。それ自体は全然良いんだけど、珍しいね。前川さんも把握していない用事なんて君にあったのか?」


 橘にさり気なく馬鹿にされている気がしたが、そこは今置いておくとして。


「あー、えっと」


 俺は我ながら歯切れの悪い言葉を並べた。


「ちょっと、人と出かける用事があって」


「…………」


 そこで会話が途切れてしまう。


「あ、それってもしかして女の子と一緒だったり~?」


 微妙な空気を変えようとしたのか、姫野が冗談めかして聞いてきた。

 しかしその問いに俺はどうしてか思わず言葉に詰まった。


「あ、ああ。まぁ」


「…………え。本当に?」


 俺の返事が意外だったのか、聞いてきた姫野がぽかんとした顔をする。


「えぇ!? だ、誰!?」


 未来が座席に座ったまま、ぐっと身体をこちらに乗り出した。


「水瀬さん」


「……あ、ご、ごめん」


 しい、と唇に指を寄せた橘に名前を呼ばれ、彼女は慌てて口を抑えて席に座り直した。

 そんな改まって話すほどのことでもないような気がして、俺は手を左右に振った。


「いや、別にそういうのじゃないから。桐谷だよ」


「あ、灯里ちゃんか……」


 ぽつりと呟いて黙ってしまった未来に、橘が少し慌てたような口調で言った。


「彼女はうちの部活のマネージャーを頑張ってくれてて、俺も何度か休日の買い出しに付き合ったことがあるから。今回もそんな感じじゃないかな」


「俺も最初そう思ったけど、今回は違うらしかったぞ。遊園地かどっか行くかって話になった」


「……そうなのか。……どうして二人で出かけることになったんだい?」


 橘に聞かれて、俺は経緯を思い返した。いつもぐいぐい来る桐谷だったが、あの時は少し緊張したように不安げな表情をしていたので、少しだけどきりとした記憶がある。


「この間の部活の時に誘われたんだ。……申し訳ないな」


 せっかく日程が合いかけたのに、と俺が言うと、姫野が手をぷらぷらと左右に振った。


「いいよ~全然。それよりその桐谷さん? と出掛けるの、楽しみ~?」


「……あぁ、まぁ」


 その日はいつものお礼として彼女に飯を奢ることに決めている。

 もう食べられないです~! と悲痛な顔をする桐谷の姿が頭に浮かび、思わず口元が緩んだ。いつもとは立場が逆だな。


「……仲良いんだ?」


 未来が少し伺うような声音で聞いてくる。


「? おう。まぁこの夏休み、部活中はあいつとほとんど一緒にいたからな。あ、そうだ聞いてくれよ。桐谷あいつさぁ、橘が指示したメニューを勝手に水増しして俺に課してんだぜ」


 俺が冗談めかして言ったが、特に笑いは起きなかった。若干死にたい。


 結局日程はまた皆が起きてる時に調整しようと橘が言って、その話はそこで終わった。

 そして話題は旅行中に取った写真に移る。


 姫野が女子四人で写真撮って、と橘にスマホを渡しているのを見ながら、ふと気づく。

 未来と姫野に挟まれ、微笑をたたえた彼女。

 ……さっき俺達が話している間、飛鳥は全く喋っていなかったな。


 また感想貰えて嬉しいです。最後まで頑張ります。

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