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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
後編 俺と面倒臭い彼女と必然の決別
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第51話 家族



 二宮紗月。

 俺の実の妹だ。

 地元の中学に通う三年生で、品行方正、成績優秀。おまけに整った顔立ちをしている。

 悲しいかな、驚くほど俺に似ていない。

 そんな彼女と会うのは年末に帰省したとき以来だから、半年振りだ。

 だけど久しぶりとは口にはしても、実際には遠ざかっていた気はしない。

 それはやっぱり、彼女が家族だからだろう。









 俺達は飛鳥の家のリビングに上がっていた。

 この家のリビングは、若者九人が居ても手狭には感じないほど広い。

 外観は和風な建物だが内部は程よく現代的に改装されていて、ここにはソファにテーブル、それに大きなテレビが設置してある。

 

 女子達は少し年季の入った、だけど高級感のあるソファに腰を沈ませている。

 その横で俺と柊は床に敷かれたカーペットの上に胡坐をかき、正面のテレビの前では小田と橘がゲーム機を接続しようと仕様を確認している。

 

 俺は柊と話しながら、紗月とその隣に座った姫野の会話になんとなく耳を傾けた。


「君可愛いね~。どこから来たの~?」


「え、あの、隣の家からですけど……」


「そっかそっか~。ところで可愛い服着てるね~。どこで買ったの?」


「あ、これ。ウニクロです……」


「そっかそっか~。ところでいい匂いするね~。シャンプー何使ってる?」


「近くの薬局で適当に買ってます……」


「そっかそっか~。ところで……」


「ていっ!」


 びしっと水瀬チョップが姫野の脳天に直撃して、あたた~と彼女は両手で頭を抑えた。若干涙目になって抗議する。


「何するの~!?」


「もう、妹ちゃん困ってたよ! っていうか、そんな強く叩いてないよね!?」


「ごめんね~」


 申し訳なさそうな顔の姫野が手を合わせると、紗月は大丈夫です、と少し慌てて言った。


「亜理紗の可愛いものを見ると我を忘れてしまう癖は、直した方が良いと思います」


「ごめんね~。未来ちゃんや飛鳥ちゃんで慣れたつもりだったんだけどな~。突然美少女が出てくるとどうしてもね~」


「まぁ……確かに可愛いですね」


「うんうん。清楚で、でも活力もある感じで、誠の妹とは思えない!」


 紗月は気恥ずかしさからか若干顔を赤くして、ソファから立ち上がり、反対側の端に座った飛鳥の方に逃げてきた。必然的に俺の傍でもある。


「飛鳥お姉ちゃん」


「紗月。ちゃんと会うのは久しぶりね」


「お姉ちゃんいつも朝早かったし。それに今は……」


 飛鳥は引っ越すまでここに住んでいた。ここから通うならかなり早い時間に家を出なきゃいけなかったはずだ。

 紗月はぺこりと頭を下げた。


「いつもうちの馬鹿がお世話になってます」


「そうね、本当に」


 こちらを見て、やれやれと肩を竦める飛鳥。

 そこは礼儀というか常識的にそう思っていても否定するところじゃないかなぁ。

 しかし、続いた言葉は少し意外だった。


「……でも、学校から近いところに引っ越せて楽になったのは本当だから、感謝してるのは私の方なの。ありがとうね」


 紗月とは昔からの付き合いだからか、今の彼女は随分と素直だ。


「いえ、私の部屋がお姉ちゃんに使ってもらえるなら光栄です」


 そういってえへへと口元を緩ませる紗月。

 こいつは飛鳥に憧れているからな。

 まぁ、幼い頃から年上のこんなよく出来た奴と一緒にいれば、憧れるのも道理だろう。


「……紗月、勉強はいいのか?」


 俺が言うと、紗月はこくりと頷いた。


「うん。さっきまでやってたし」


 そしてちょっと非難するような目でこちらを見る。


「ていうか。今日帰ってくるとか聞いてないんだけど」


「まぁ。言ってないし」


 ぽかり、と軽く肩を叩かれる。


「最近連絡ないって、お母さんも寂しがってた」


「あ、そう。……も?」


「……! お父さんも、寂しがってたんじゃない」


 そう言って唇を尖らせてふいとそっぽを向く妹。

 飛鳥には懐いていたが、どうも俺は歓迎されていないみたいだ。


「……ひねくれ者なのは、兄妹でそっくりね」


 飛鳥が小声で何かを呟いていたが、俺には聞き取れなかった。












「第いっっかぁぁぁあああい!! 王者を決めろ! チキチキ、ゲーム大会ィ!」


 皆はテレビに無事繋がったゲーム機で遊び始めていた。


「優勝者はなんと、今日のデザートのフルーツポンチを……」


 一瞬溜めた小田は、飛鳥に目配せした。彼女が頷いたのを見て、言葉を続ける。


「身体持ってくれよぉ! さんべぇだ!」


 その言葉に、うぉおおおおおお! と叫びが上がる。女子もきゃいきゃいとコントローラーを選び始めた。古賀と姫野がへー、とコントローラを見ている中、未来が真剣な目でスティックのへたりをチェックしてやがる。やべぇ、あいつガチだ。









 ちょうど他の奴らとコントローラーを交代した俺と紗月は、騒いでいる皆から一歩離れたところに並んで座っていた。

 隣に座って、ジュースの入ったコップを手に持った紗月が口を開く。


「びっくりした、お兄ちゃんが友達連れて帰ってくるなんて」


 ……俺が中学以降、誰とも関わらないようにしていたことは、紗月に伝えていなかった。

 けど、こいつはなんとなく感づいていたみたいだ。 

 家族の前では普段通り振る舞っていたつもりだったが、それでもなんとなく、様子がおかしいことに気づいたのかもしれない。


「去年から連絡全然しないし、お正月も学校のこと話したがらないから、てっきり友達がいないのかと思ってた」


「……なわけないだろ」


 ごめんごめん、と軽く謝る紗月に俺はふんと虚勢を張った。

 ……まぁその頃は実際友達いなかったんだが。


「あの人達のパシリってわけでもないみたいでもないし」


「……」


 確かに柊はそんな見た目だけど! 本当にそうだったらどうすんだよ。

 そんな俺の反応を横目に見て、紗月はほっと息を吐いた。


「あ、やっぱ違うんだ、良かった~。飛鳥お姉ちゃんいるし、大丈夫かなとは思ってたけど」


「余計な心配してんなよ。……ていうか、お前はどうなんだよ、上手くやってるのか?」


 俺が言うと、紗月は大きな目をぱちくりと瞬かせた。そんな仕草も一々様になっている。遺伝子の妙だな。


「……お兄ちゃんにそんなこと聞かれたことあったっけ?」


「……あー。嫌なら聞かない。忘れてくれ」


「嫌じゃないよ」


 くるり、とこちらに向き直って言う。


「別に、いつも通り、上手いことやってるよ。勉強も、特に困ってないし。来年はそっちに行くよ」


 さらりとそんなことを言う我が妹。

 これでもうちの高校って、それなりの難関だった気がするが。

 しかし確かにこいつは成績が良いと親も言ってたし、心配ないだろう。


「けど、急に聞かれたからびっくりしちゃった。何か良いことでもあった?」


「……どうだろうな」


 思い返すのは、この四か月のこと。

 しかし具体的に何、と言うのも難しい。

 俺は生まれた沈黙を誤魔化すように、さっきの話だけど、と言葉を続けた。


「まぁ、何かあったら言ってくれ。何とかできそうなことなら、何とかするから」


 再びぽかんとした表情をする紗月。

 その姿が年相応にあどけなく見えて。何となく、小さな頃を思い出した。


「やっぱりお兄ちゃん、変わったね。……あーあ、私も早く高校いきたいなぁ。楽しそうじゃん」


 そしてコントローラを持って挑発するように笑う。


「さて、そろそろ私たちの番かな。分からせてやりますか」


 今皆でやっているこのゲームは小さい頃に二人でよくやっていた。


「……そうだな。教えてやろうぜ、“力”ってものを」


 俺達兄妹は立ち上がり、皆の方へ戻る。











 皆でゲームに興じているうちに夕方になり、そろそろ夕飯の時間。

 今回は皆で飯を作ろうということで、予め食材を買ってここに来ていた。

 ぼちぼち、ゲームを切り上げて準備に入ろうかという頃。


 各自持ってきていた飲み物がなくなりかけていた。

 調理に関しては全く役に立たないことを考えると、ここは俺が買いに行くのが良いだろう。


「ちょっくら買ってくるわ」


 店の場所が分かっているのは俺と飛鳥と紗月だが、紗月に買いに行かせるのもなんか違うし、飛鳥には家を提供してもらってる訳で。

 それに、飲み物だけならわざわざ皆で買いに行くほどでもない。

 ということで、一人で行くことにした。






















 スーパーは少し離れた、大通りにあった。

 さくっと二リットルのものを数種見繕って購入し、今は帰り道を歩いている。

 手に持った袋はそこそこ重い。最近部活でしていた筋トレが生きたかもしれない。

 ファーストフード店や居酒屋なんかが並んだこの辺りは、ここらでは最も栄えている場所だ。もう少し奥へ行くと、俺の通っていた中学もある。

 毎日この道を歩いていた日々のことがつい昨日のことのように思い出せた。

 だけどそれに加えて、今は少しの懐かしさすら感じる。そんな自分に初めて気づく。


 未来や飛鳥、それに橘達と一緒にいたから、学校で一人になる機会がほとんどなかった。家に帰っても、飛鳥がいたし。

 だからこんな風に、自分のことを考える時間も最近は無かった気がする。


 チェーンの焼き肉屋の前を通り過ぎる。

 その駐車場に高校生くらいの奴らがたむろしているのが見えた。

 ……この辺りの高校生は、八割方知り合いだ。

 俺は飛鳥の家へと戻る足取りを速める。

 しかし。


「……ん? おい、あれ二宮じゃね?」


 彼らのうちの誰かのつぶやきが、聞こえた気がした。


「え、どれ」「あのビニール持った奴」「あれか」「え、まじで二宮じゃね」「二宮だ」「二宮誠君じゃん!」「ちょっと雰囲気変わった?」「それ思った」「「おーーい! こっち来いよ!」


 呼吸が止まる。

 ドクッドクッと脈打つ心臓がうるさい。

 額から噴き出した一筋の汗が、たらりと頬を伝った。


 俺はゆっくりと、後ろを振り返る。


 ――日常が崩れ去るのは、いつだって突然だ。


 500ptありがとうございます。 

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