第52話 遭遇
「二宮今高校どこ行ってんの? 俺ら誰も知らなくてさ」
「あ、もしかしてニートか!?」
どっと笑いが起きる。
そんなことを言うこいつは、クラスのお調子者的な立ち位置の奴だった。
あの頃もこんな感じで、よく俺のことをネタにして笑いものにしていたっけ。
一方最初に俺に問いかけたのは、クラスでかっこいいとよく言われていた男だ。確かにすっきりした感じがするし、勉強もスポーツも出来ると評判だったモテ男。
忘れるはずもない。この二人が俺に嫌がらせをしていた中心人物だ。
今からこの焼き肉屋で中学の同窓会らしい。彼らが先ほどそう言っていた。
当たり前だが、俺は誘われていない。
「何だよ、二宮、つれねーなー! あ、もしかして、この集まりに誘われなかったこと拗ねてんのか!? いやだって、お前は呼ばねーだろ、普通に考えて!」
「はは、幸か不幸か、これで全員揃ってる。あ、前川さん以外」
「あの人なー! 誰も連絡先知らないんだよな。確かなんか、県外行ったんだよな!?」
「山桜な。いや、あそこ偏差値えぐいから。マジすげーよ。お前じゃ絶対無理」
「はぁ!? 確かに俺は勉強できねぇけどよぉ! あ、でも二宮には勝てそう!」
なぁ!? とそいつが呼び掛けると、周りの奴らも続いて笑った。
「お、おう……」
俺は引き攣った笑みを浮かべた。
早く解放してほしかったが、丁度会話が尽きていたのだろうか。
彼はさらに俺の話を続け、周りもそれに乗る。
「今何やってんの? あ、もしかして本当にニート?」
「ちょ、さっきからそれマジウケるっしょ! まさか鉄板ネタにする奴? 二宮ならぬ、ニート宮っすかー!?」
また笑いが起きる。
「でもニート宮、ちょっと雰囲気変わったよな」
「それなーー。ちょっと髪とか服とか気ぃ使ってみました見たいな? それ背伸びしてる感ありすぎで……正直マジだせぇぞ?」
お調子者は馬鹿にしたような目でこちらを見た。
モテ男は腕を組んでふん、と鼻で笑う。
「つか、今何時だ」
あ、これはやっと解放される流れかな、と思い、俺はスマホを取り出して時刻を確認する。
俺が時刻を告げると、あー! と二人が声を上げた。
何? 俺が時計読めたのが意外! とか言い出すわけ?
と思ったが、二人は俺のスマホ画面を凝視してきた。
「……おい、その写真に写ってる人誰だよ!?」
「ちょ、これマジやべーっしょ!」
あ。
そういえば昨日の夜、男部屋の罰ゲームでスマホのロック画面をいつものアニメ画像から、昨日撮った写真に変更していたのだった。まずは軽いやつから、という趣旨の罰ゲームだったこともあって、すっかり忘れていた。
今俺のスマホの画面に表示されているのは、砂浜で未来と二人で撮った写真。水着姿の彼女を他人に見せるのは写真であっても何となく憚られ、俺は慌てて画面を消した。
「い、いや。別に」
「何だよそれ!? 言えないような仲なのか!?」
「あ、レンタル彼女的なやつっしょ!?」
曖昧に誤魔化そうとしたが、二人は何故か食い下がってくる。
「えっと……友達かな」
結局、俺がそう言うと彼らはピシリと固まってしまった。
「………加工か?」
「そ、それしかありえないっしょ! こんなレベルの高い美少女……」
何やらぶつぶつと呟いていたお調子者は、そこで何かに気づいたかのようにハッと顔を上げた。
「……いやいや、そもそもニート宮くん、友達いないっしょ!?」
いや、そんなさも前提を間違えていた! みたいな顔で言われても。
しかし、その一言でモテ男くんも余裕を取り戻したみたいだ。
「あ、ニート仲間ならいるんじゃないか?」
その言葉にまた周囲がどっと笑う。
俺が首に手をやり、気は進まなかったが彼らの間違いを訂正しようとした、その時。
「――あ! 二宮氏! おーい二人共、いたでござるよ!」
――そこにいたのは、長身痩躯に上下黒い服を着た男。
数は少ないが、確かにいる俺の友達の一人。
精悍な顔立ちを晒した彼は、俺の隣まで息も切らさず走ってきた。最初彼と俺の間に居た元クラスメイト達は、誰に言われるでもなく彼の進む道を空けている。
「あれ? お前、来たの?」
その男――小田和也に向かって、俺は口を開いた。
「帰りが遅いから、探しに来たでござるよ」
随分と信用されていないことである。
と、俺のそんな視線を感じ取ったのか。
というか、と小田が小声で付け加えた。
「前川氏が心配していたのでござるよ。なんでも、嫌な予感がすると言って」
「……マジかよ」
ここにいる奴らは彼女とは連絡が取れないと言っていたから、飛鳥がこのクラスの集まりを知っていた可能性はないだろう。それでも、この事態を想定していたとしか思えないほどの手際に思わず苦笑してしまった。
「飲み物をどこに買いに行くとは聞いていなかったでござるが、この辺りならスーパーかコンビニの二択だろうと前川氏と紗月氏が。拙者は柊氏と橘氏と共に、遠いスーパーの方に来たで次第でござる。ところで、この人たちはなんでござる?」
小田はそこまでを俺に向かって早口で言い切った。
……忘れがちだが小田は極度の人見知りで、コミュ障である。今着ているのもただの私服である。オタクは私服、取り敢えず黒選びがち。
しかし他の奴らにはそうは見えなかったかもしれない。
黒ずくめで長身、痩せてはいるがしっかりと筋肉のついた男がにこりともせずに立っているのだ。
威圧感を感じていたとしてもおかしくはないだろう。
実際、お調子者は完全に委縮したように黙ってしまったし、モテ男くんはかろうじて笑いこそ崩さずにいるが、そこには先ほどまでの余裕が失われているように見えた。
「……おー、いたいた」
「二宮、これは何の集まりだ?」
小田が先ほど呼び掛けていた、橘と柊もこちらにやって来ていた。
二人の登場に、小田が現れたときとは別種のざわめきが辺りに生まれる。
彼らは小田のような威圧感こそないが、二人共かなりのイケメンだからだろう。
「中学のクラスメイト。なんか、今日ここに集まってたらしい」
俺のそんなざっくりした説明でも柊は理解したらしい。ぷっと笑って言う。
「え、もしかして二宮、呼ばれてない?」
「うっせ」
俺はこんな状況でもからかってくる柊を小突いた。
そしてちらりと元クラスメイト達の方を見遣った。
……同じようなことを言われても、こうも感じが違うのは何でだろうな。
「ねぇ」
そこで、今までこちらを見向きもせずにつまらなそうにスマホをいじっていた、元クラスメイトの女子達の一人が、初めて話しかけてきた。
俺に言っているのかと思えば、彼女が見ているのは小田と橘と柊の三人だ。
「私達とこれから遊ばない? ま、一人はござるござるとか言っててキモかったけど、他の二人と合わせれば、ぎりぎり許せるっていうか?」
その言葉に、それまで優しげだった橘の瞳の温度が急速に冷えたのが分かった。
彼女は、おそらくかつてクラスで一番人気のあった女の子だ。その取り巻きの女子達も三人を見ては仲間内で小声で話している。
「あ、二宮もついて来て良いよー。来たかったらね」
「いや、悪いけど遠慮しておくよ。俺達今から、飯作って食べる予定なんだ」
「あ、じゃあじゃあ、うちらもそっち行くし!」
「……参ったな」
グイグイ来る彼女に橘は困惑したような顔を俺に向けた。彼女らの俺との関係が分からない以上、その扱いに困っているのだろう。
全くもってどうでも良い奴らです、とどうやってか伝えようかとも思ったが、しかしここで思わぬ所から援護が入るのだった。
お久しぶりです。これから数日は毎日更新するつもりです。




