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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
中編 俺と優し過ぎる彼女と球技大会
38/66

第34話 バスケとオタク

 二話分くらいあります。

「あ、お疲れ」


 俺が試合を終えて体育館に即席で作られた受付に行くと、近くの壁に貼られたトーナメント表を見ていた橘が声を掛けてきた。


「ナイスゲーム」


 俺はタオルで額の汗を拭きながら答えた。


「どうも。お前は?」


「俺はシードだから」


「さっすが、エース様は違うな」


「単に実行委員の奴と仲が良いから、生贄にされただけだよ」


 楽しみが一回減ってしまった、零す橘に、俺は肩を竦めた。バドミントン狂はこれだから。

 俺が受付を済ませると、


「そうだ、次の試合までは時間があるし、バスケの応援に行かないか?」


 ちら、とこの体育館の反対側で行われている卓球を横目で見ながら橘が言った。


 .........卓球をしている女子は気怠そうな奴が大半で、応援に来ている生徒の姿は見えない。確かに、ここにいてもすることは無さそうだ。


 俺は了承し、橘に続いて第二体育館を出た。










 第一体育館へ行く途中。

 二人で廊下を歩いていた俺達に声がかかった。


「あ、橘先輩!」


 振り向くと、そこにいたのは見慣れない女子数人。

 その中でも目を引くのは、今声を出した彼女。

 さらさらな髪にぱっちりした目、制服を少し気崩し彼女は靴の色から後輩であることが分かった。


「灯里か。こんなところで何してるんだ?」


「いや、今日二年生は球技大会だって聞いたので。休み時間にどなたか出てたら観に行こうかと思って~」


 ねー、と他の女子達と顔を見合わせた。


「あはは、それはあいつらにも伝えとかないとな、きっと喜ぶ」


「えー、そうですかねー!?」


 きゃっきゃと笑う彼女達と親し気に声を交わす橘。

 俺は黙って背景となるように存在感を消していた。

 僕は、影だ……。


 しかし橘はそんな俺に目をやると、ああ、と俺に向かって言った。


「この子はバド部のマネージャー。一年の桐谷灯里だ。灯里、こっちは俺の友達の二宮誠」


 え? やばい待って今橘俺のこと友達って言った? さらっとだけど絶対言ったよね?


「あ、桐谷です! よろしくお願いします!」


 ぺこっとお辞儀する桐谷に、俺もにやけないように顔を引き締めつつ軽く頭を下げた。


「……よろしく」


「はい! ……それで、先輩はいつ試合何ですか? ていうか何に出ますか?」


 俺の挨拶に頷いたものの、すぐに興味を失くしたように視線を橘に戻す桐谷。


「バドだよ。次の試合はちょっと先かな」


「えー、マジですかー!? 先輩なら超余裕じゃないですか!?」


「……さぁ、どうだろう。準決勝は、厳しいんじゃないかな」


 何故か俺の方を見て言う橘。おいやめろこっち見んな。後輩女子達の一人が俺の存在を思い出して、気遣って話しかけてくれようとしてるじゃん。その方が辛いわ!

 しかし、そんな俺の心配は杞憂であったか、桐谷は構わず橘に話しかけた。


「あ、じゃあ準決勝応援に行きますね! いつですか!?」


「予定だと昼休みだけど、でも来なくていいよ。クラスの奴らも、呼ぶつもりないし」


「寂しいこと言わないでくださいよー。私と先輩の仲じゃないですかー」





 そのまま姦しく話していた橘と彼女達だが、しばらくするとまた! と言って別れた。


 彼女達が見えなくなるまで笑顔で手を振っていた橘は、俺の方を向くと苦笑いした。

 俺が死ぬほど疲れた顔をしていたからだろう。


「確かに、灯里は二宮とは正反対な感じがする子だけど……。マネージャーとしては凄く熱心でいい子だよ」


 確かにぐいぐい来る感じが苦手ではあったが。俺はそれより、と話を変えた。


「ところで今の時間バスケはどうなってんのかね。小田達は出ないんだろ?」


 多分今の時間だと……と橘が少し考えて口を開く。


「A組と試合している頃かな。かなり強いチームらしいね」


 田中もそんなこと言ってたな。


「結構な大差で1回戦は勝ってたね。だからうちとも厳しい展開になるか、それか……」


 そこまで言って、橘は愉快そうに口元を歪めた。


「……それか、面白いものが見れるかも知れない、ちょっと急ごうか」


 俺達は第一体育館へと向かう足を早めた。




















 第一体育館にはシューズのグリップが擦れる音、ダムとボールを突く音が溢れ、独特の緊張感を生み出していた。


 断続的に上がる歓声の大きさからして、観客もかなりの数がいるみたいだ。まだ多くの生徒が自分の試合の終わっていない午前の間は、普通観客なんてほとんど入らないはず。


 それなのに、何なんだこの熱気は。


「あ、あれA組の奴らじゃないか?」


 橘がコートのすぐ脇に陣取って応援をしている一団を指差した。


「じゃあ、今やってるのはA組とあいつらーー」


 俺が言いながら、コートの方を良く見ようと身体を観客の中に押し込むと、


「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」


 割れるような歓声が響いた。

 驚いて周りを見渡すと、声を上げているのは観客の男子生徒達だった。俺の前で、眼鏡をかけた男子が興奮に顔を赤らめながら叫んでいる。


「お前ら、やっぱり最高だよ! いけ! 勝て!」


 その隣のどこか冴えない男子も、慣れていないのか、枯れそうな大声を張り上げる。


「あれこそが、俺たちの希望だ! 進め! 決して立ち止まるな!」


 俺は何とか人だかりを抜け、視界が一気に開けた。


 目の前に見えたのは、真剣な空気を纏った選手達。




 その半分を占めるのは経験者を集めたA組。

 西城をはじめ皆髪を明るく染めて、どこか浮ついた見た目をしている。

 しかし、その表情は真剣そのもの。

 その真剣さは、見ているこちらまで思わず背筋が伸びるほどだ。

 こいつらが全力を出していることは、誰の目にも明らかだった。




 そして、コートのもう片側。そこにいるのは橘の予想通り、見慣れた顔ぶれだった。


 今ボールを持つ柊はやはりバスケも出来るようで、時折パスを出すような素振りを見せながらも、慣れた手付きでボールを運んでいる。


 柊はじりじりとゴールに近付いていく。


 このままだと、あと数歩でA組のディフェンスとぶつかる。

 そこで試合が動くと観客の誰もが息を潜めた、その時。


 コート際に立つ俺のすぐそばを一陣の風のように、背の高い男が走り抜けた。


 突然の男の動きに、A組のマークが一瞬外れる。柊はその隙を見逃さずに男に鋭いパスを放つ。


 ボールをがっちりと受け取った男は経験者特有の鋭いドリブルから、機敏な動きでフェイントをいくつも入れ、近くの相手選手を華麗に抜き去る。


 そしてその勢いのままゴール前へ。


 しかしゴールへと接近した男の前には西城が居る。彼は重心を低く保ち、絶対に通さないというまでの気迫で立ち塞がる。

 それを見たそいつは突然すっと後ろに下がると、崩れた体勢のままシュートを放った。

 否。体勢は崩れてなどいなかった。

 男の天性のセンスと鍛え抜かれた体幹によって維持されたフォームで、放ったボールは美しい軌道を描く。


 虚を突かれた西城と観客は、ただ呆然とその軌跡を見つめ。


 そしてボールは、男の狙い通りリングをくぐり抜けた。


「ぉぉおおおお!!」


 再び、観客は熱い歓声を上げた。











 ハーフタイムの間に俺と橘がもっと前で見ようと観客の隙間を探していると、後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。振り返ると、そこにいるのは水瀬と飛鳥。


「こっち!」


 観客の声でかき消されないように声を張った水瀬が俺の手を取り、別な場所へと連れて行く。今の彼女の手のひらは熱く、じんわりと汗をかいていた。


 しばらく行くとクラスの連中の集まった場所に出た。バスケの交代要員やバドに出る奴ら、女子も結構いる。こいつら、自分の試合は大丈夫なのだろうか。


 さっきまでの応援で喉を枯らした田中もいた。


 こいつは普段教室では小田達とオタ話をしているか席でラノベを読んでいるかのどっちかで、だから今ここでこうしていることを少し意外に思った。


 そんな考えが顔に出ていたのか、俺の視線に気づくと田中は下を向いた。そして眼鏡を外し、ジャージの裾で拭う。


「確かに、僕は普段はこんなこと絶対しないし、球技大会とかいうリア充の祭典は爆発すればいいと思ってるんだけど」


 綺麗になったレンズを体育館のライトにかざし、


「でも、同士が頑張ってるんだ。だったら応援するしかないでしょ。オタク的に」


 眼鏡をすちゃっと掛け直してコートの方を見つめる田中の背中はまっすぐに伸びている。










 後半の試合は更に白熱した。


 もはや浮ついた雰囲気は完全に消え去り、現役さながらのプレーを見せるA組。


 交代を挟みながらも安定した運びを見せ、要所を抑えたB組。

 両者の点数は抜きつ抜かれつ、試合終了の時が近づいていく。

 観客はそれぞれの応援するチームの一度のプレーの良しあしに一喜一憂し、そのボルテージはとどまることを知らない。

 俺も気づかないうちに声を張り上げていた。

 でもそれはこの集団の中では当たり前のこと。 

 橘も、田中も、声の限りに叫んでいるみたいだ。


 試合が終わるその前、一人の男がブザービートを決めた。


 割れるような歓声。

 俺も思わず叫んでいた。

 隣で飛び跳ねていた水瀬が飛鳥に抱き着いている。

 他にも周りの誰も彼もが熱に浮かれた様子で、たかが球技大会で馬鹿々々しい、なんて少し前なら冷めたことを考えたかもしれない。だけど今はこういうのも悪くない、と思った。













 試合が終わると、自分の試合が始まるから、とクラスメイト達は慌ただしく去って行った。それぞれこちらに戻ってくる選手たちにおめでと! とか凄かった! なんて一声掛けて散っていく。水瀬も、


「あー! ごめん、もうめっちゃぎりぎりなんだ! 皆に良かったよって言っといて!」


 そんなことを言って飛鳥と足早にその場を去った。

 橘もいなくなり、あれよあれよという間に残ったのは俺と数人の男子だけ。


 そして選手たちが応援席まで戻ってきた。


 熱戦を繰り広げ、一気に周りからの注目度を増した彼らはしかし大して自分達への歓声を気にした様子もなく、飄々とした様子で俺達の方へ歩いてきた。


 柊や他の選手の方に他の奴らが声を掛けに行ったので、俺は今回一際活躍したやつらの方に向けて、少し呆れて口を開いた。


「おいおい、本当に本気でやったのか。球技大会で初心者にマウントを取るのはさぞ楽しかっただろうな?」


 勝者であるヲタク達は、嬉しそうに返事を返す。


「マウントとるのンギモディィでござるな」


「これまで部活以外でバスケをしたこともなし、相手側も油断していたのだろう……ふん」


「デュフフ、巷でダークホースとか言われておらぬか?」


 普段は仲間内でヲタク知識でマウントを取り合っているから忘れがちであるが、彼らは全員がバスケ部の精鋭で、その気になれば、バスケでも大概の奴にマウントをとることが出来る。



 ダークホース? 冗談はよせ、本命も本命だ。



 このオタ共は部活の通常練習は無遅刻無欠席は当然のこと、朝練も欠かしたことがないらしい。ちなみに汗ふきシートも欠かしたことがないと弁明している。



 他クラスにもバスケ部はいるが、大概のバスケ部は態度が大きく、クラス内でも上位カーストにいることは間違いない。だからこそ、あのヲタク達に注意しろ、とは発言できなかったのだろう。


 まったく、真っ当な努力をしている彼らは誰より気高く、正しい。故に強い。


「でも、どうしてちゃんと試合してるんだ?いつもは補欠でちょろっと他の競技に出てるだけだっただろ?」


「ああ、顧問にたまには他の部員との試合も練習になると言われたのでござるよ」


 彼らは他のバスケ部員とは別の練習をしているらしい。

 多分、1軍2軍的なやつだろう。もっとも、彼らからそのように聞いたことはないが。

 とすれば顧問の狙いは、他のバスケ部員達にお灸を据えることだったのかもしれない。


 それなら十分に目的は達成されている。だってそこらでめっちゃ落ち込んでるもん。死屍累々である。これから当たる奴らも焦った様子で対策を話し合っているのが見えた。


「しかし、それは以前から言われていたことでござってな、拙者達が出場を決めたのは別の理由でござるよ」


 小田が意外なことを付け加え、俺がどういう意味だと聞くと、ヲタク達は互いに目を合わせニヤリと笑った。そして、



「それは、二宮氏でござるよ」



 …は? 

 呆然とした俺に構わず、小田達は口々に言う。


「以前までは、二宮氏のことは、単なる同好の士としか見てござらんかった」


「しかし、少し前から、二宮氏は変わり始めた」


「中間テスト前くらいだったか?それからのあんたは変わった。授業態度、見なり、人との接し方。そして何より、誠実な努力だ」


「拙者達が他人に合わせることは、そんなにないんでござるよ? しかし、二宮氏を見ていて、拙者達も思うところがあった。変わろうと努力しているあんたに、俺たちは勇気を貰ったんだ。」


「俺たちは人付き合いが苦手でな。だから日陰にいるのも性に合ってると思ってた。でも、変えたくなったんだ。そんな自分を」


「だからな、俺たちがここにきたのはあんたが理由だよ、二宮氏」


 ……本当に、こいつらは筋金入りのキモヲタだ。物語の中みたいな、実際には恥ずかしくてとても言えないようなまっすぐな言葉を、躊躇わずに言い切るなんて。















 その後いつも通りな小田達や柊と下らない話をしていると、


「くっそ、惜しかったなぁ!」


 俺達の方に近づいてくる一団がいた。どうやらこの奥にあるスペースに戻るつもりみたいだ。


「そりゃ交代制とはいえ、相手に現役バスケ部が4人居たからしゃあないっしょ」


「でも確かにいけそうだったし、健闘した方的な?」


 そこで西城達がこちらに気付き、ガラ悪そうに声を上げようとした他の奴らを制して、西城が1人で歩み出る。


「あ? こんなとこにいたのか。へっ、負けた雑魚の顔でも見に来たか?」


「とんでもないで候。実際、お主らはかなりの実力でござった。拙者達も全力を出さねばならなかったでござる」


 にこやかに握手を求める小田に、西城は毒気を抜かれたようにおずおずと手を握り返した。


「……へっ、そうかよ」


「でも、初心者を虐めるようなプレーはよくないのではござらんか?」


「……ひとつ前の試合の話か? いや、あれは魅せるプレーをすればモテるかなって思って……」


「いやいや。むしろ、愚直な泥臭いプレーの方が好感度高いのではござらんかね?」


「そ、そうか……?」


 うむうむと小田が頷く。後ろの俺も頷いておく。というか、西城ってこんな奴だったか。カラオケ屋ではもう少し、軽い言動をしていた気がしたが。


「実際、真剣にプレーしたさっきの方が拙者的には好印象でござる。と言うか、普段もあのスタイルなのでござろう? ならあれでよいではござらんか。実際、かなりやり辛かったでござるし」


「! ……まさか、あんたに褒めてもらえる日がくるとはな」


「? 拙者のことを知っているのでござるか?」


「当たり前だろ。ちょっとでもこの辺でバスケやってた奴なら皆知ってるぜ。『漆黒』さんよ」


「……っぷ!」


 小田と西城の間に流れていた何となく良い雰囲気を壊したくは無かったが、俺は堪らず吹き出してしまった。 

 小田はダラダラと冷や汗を流しながらこちらを見てくる。


「……えーと、二宮氏? 今のは多分何かの聞き間違いで」


「おいおい、恥ずかしがることないだろ『漆黒』」


「そうだ。それに中学の大会で優勝した時に、あんたが自分で『漆黒』を名乗り始めたって聞いてるぜ」


「ぎゃあああああああああ!!」


 本人にその気はなかっただろうに西城の言葉が追い打ちとなり、小田は突然奇声を上げてその場に倒れ伏した。そのまま芋虫のように体育館の床でゴロゴロと回転する。


「あああああああ!! 聞きたくない聞きたくない聞きたくない!! 聞きたくないでござる〜」


「?」


 ぽかんとした表情で転がる小田を見つめる西城。そこには大活躍したバスケ部の主力の姿は最早どこにも無く、ただ自らの黒歴史に悶える哀れなオタクがいるだけだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「実際、真剣にプレーしたさっきの方が拙者的には好印象でござる。と言うか、普段もあのスタイルでやったいるのでござろう? ならあれでよいではござらんか。実際、かなりやり辛かったでござるし」 や…
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