第31話 打ち明けよう
俺が柊にどういう意味だと尋ねようとした時、
「おはよう! あれ、皆どうかしたのか?」
「二宮氏は? ていうか、なんで見知らぬイケメンがいるでござる? もうショートホーム始まるでござるよ……?」
朝練を終えて来たであろう橘と、人見知りを発動して小声&早口でぼそぼそと何かを呟いている小田が教室に到着した。さらにその後ろの開いた扉から飛鳥が入って来る。これで、いつものメンバーが揃った。
「少し話があるんだ」
俺が呼び掛けた後に隣を見ると、水瀬も頷いた。
やっぱりこいつらには俺達が偽恋人だと話しておこうと、昨日のうちに決めていた。
柊、小田、橘の3人。
俺が高校になって初めて出来た男友達だ。まだ付き合いが長いとは言えないが、それでも俺はこいつらのことは信用出来ると思っている。
姫野と古賀に関しては俺はよく知らないが、飛鳥と水瀬は問題無いと言い切っていた。
まだ橘や小田はそもそも俺が誰か分かっていない可能性もあったが、そこで予鈴が鳴ったので詳しい話は昼休みにすると言って話を切り上げた。
昼休み、俺達は体育館裏に来ていた。
体育館裏は人気が無く、こうやって人に聞かれたくない話をするには丁度良いと水瀬に教えてもらった。告白にも向いてるんでしょうね水沢君?
めいめいが弁当や購買で買った昼飯を持って来て、なんとなく円になるように適当な場所に腰掛けると、俺の隣に座った小田がそわそわとせっついてきた。
「それで? 何の話でござるか? もしイケメン&美少女のリア充惚気話なら……鍛え上げた非リアの拳が全てを砕くでござるよ」
さっきまで俺の変貌? に驚いていた彼がそんなことを言って、最後にぼそりとマジなトーンで不穏な言葉を付け加える。やだこいつ怖い。
俺は偽恋人の件について皆に話した。水瀬は俺の話を聞きながら、適宜訂正を入れてくれる。
水瀬が告白を断ることを辛く感じていること。
偽彼氏を用意すれば告白が無くなるのではないかということ。
俺が話終わると、周囲はなるほどと納得した顔をした。
「確かに〜、偽恋人を選ぶんなら~、小田君達や橘君は部活で忙しいし~、柊君はチャラいし〜、二宮君はピッタリかもね〜」
「いや、俺の扱いな!?」
柊は不満そうに突っ込んだ。
「あはは! いや、でも実際柊君女の子とよく遊んでるでしょ? だから私の彼氏役なんてやったら不満に思う女の子もいるかなって」
「あー、まぁそれはな」
納得した様子を見せる柊。俺は水瀬がそこまで考えていたことに感心したが、同時に訳もなく柊を殴りたくなった。ちらりと横を見ると俺と同じ気持ちらしい小田の拳も固く握りしめられていた。
「確かに俺なら暇だから付き合うことは簡単だけど、でもすぐ偽だと疑われそうだと思うんだがな。釣り合ってなさすぎて」
俺がおどけた調子で、だけどずっと思っていたことを言うと、
「そんなことはないさ」
橘がそれをきっぱりと否定した。
「二宮がちゃんとした奴だってことは、このクラスの奴は皆知ってる。やる時はやる奴だってな。だから水瀬と付き合っても特に違和感はない」
橘はそんなことをさらっと言う。この前の試験の時のことを言っているのだろうか。
「それに〜、今二宮君もすっごいイメチェンして、いい感じになってるから〜、大丈夫だよ〜」
橘と姫野の言葉に、他の奴らも頷いていた。
俺が何も言えないでいると、飛鳥がそんな俺に小さく微笑んでいるのが分かった。
店長に叱られ、水瀬に諭され。
そして今、皆に認めてもらった。いい加減、俺は変わらなければならないのだろう。
「ともかく、そういうことなら俺達も協力するよ。話してくれてありがとな」
橘がきらっと真っ白な歯を輝かせながら爽やかスマイルで言った。こういう時にこういうことをさらっと言えるのが橘という男だ。
「偽装の件についてはどうしましょうか。お昼とかは2人で食べるようにしますか?」
古賀に言われて、ちらっと俺を見てうーんと考え込む水瀬。
「……そういうのは、良いかな」
「そうか? 別に2人で食っても良いんじゃねぇか? カップルですって良いアピールになると思うが」
「でも、教室で食べるだけなら、人目を気にしなくてもって気はするし。だから、お昼は皆で食べようよ!」
確かに、アピールすべきは他のクラスの生徒に向けてだろう。とは言え、別々に食べるのは有り得ない。だからこそのこの折衷案か。俺も水瀬に同意するように頷いた。
「まぁ、2人がそう言うんなら良いでござるが。ところで、そろそろ昼御飯に致そう! もう拙者、腹が減って仕方がないでござるぅ!」
言われて俺は、皆が昼飯に手を付けずに俺達の話を聞いてくれていたことに気づく。
小田の腹がぐうと鳴った。こいつは健康的なオタクである。
皆それぞれ昼食を広げる。
「さて、今日の飛鳥ちゃんのお弁当は〜、お、ちっちゃいハンバーグ! 美味しそ〜!」
「それに炊き込みご飯ですか。これも手作りですよね。いつものことながら凄い……」
「二宮の弁当も美味そうなんだよな。どれどれ、お、ハンバーグじゃん!……ああ?」
「炊き込みご飯も美味しそうでござる! 拙者にも一口恵んで……うん?」
「「あ」」
やっちまった。
いつもより近い男女の距離、そして俺と飛鳥の膝には中身が全く同じ弁当。
水瀬は小声であちゃーと呟いていた。
皆は俺達の弁当箱を交互に見て、そしてぐるんっと俺と飛鳥の顔を見る。
俺は観念して答えた。
「俺達、幼馴染なんだ。それで、弁当は作ってもらってる」
姫野の本日2回目の驚きの声が、体育館裏に響いた。




