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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
中編 俺と優し過ぎる彼女と球技大会
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第25話 幼馴染バレ

 食事を終えた俺達は店を出て、駅まで来ていた。後はもう帰るだけなのだが、俺達は端の方で喋っていた。


「今日はほんとにありがとう! 凄い気が楽になったよ」


 あれから水瀬はなおも引け目を感じていたようだったが、俺が彼女を作ってクラスの奴らにマウントを取ることへの喜びを語ったり、飛鳥がそんな俺に軽蔑したような視線を投げかけたりしているうちに普段の調子をおおよそ取り戻していた。


「おう、いいってことよ」

「いえ、いいのよこれくらい」


 俺と飛鳥の声が重なり、俺達は顔を見合わせた。

 俺はやれやれと肩を竦める。


「おいおい、今のはどう考えても俺への感謝だろうが」


 飛鳥は呆れたようにため息を吐いた。


「何言ってるの、私以外ないでしょう。案を出したのは誰だったか覚えていないのかしら」


「その案で実際に動くのは俺なんですがねぇ」


「貴方は農家の人から野菜を貰った時に、畑のミミズに感謝するの?」


「お前もうちょっと俺に優しく出来ねぇのか!?」

 

 俺と飛鳥が言い合っていると、水瀬は突然笑い出した。


「あはは! ね、2人ってすっごく仲良いよね! 何でなの? ずっと不思議だったんだ」

 

 笑顔のまま聞いてくる水瀬。


 俺は飛鳥が水瀬に俺達が幼馴染だと伝えていなかったことに驚き、なんと返せばいいのか分からなかった。

 飛鳥は無言で感情の読めない顔をしている。何か考えているようだ。

 俺達が黙っているのを見て、水瀬は気まずそうな顔をした。


「あ、ごめん、聞いちゃいけなかった? でも、クラスの皆も気になってると思うんだよね」


「クラスの奴らが?」


 俺が驚いて聞き返すと、水瀬はちょっと呆れたように言った。


「当たり前じゃん。だって、最近いっつも2人で登校してるよね。今まで飛鳥ちゃん特定の男子と仲良くすることなかったのに、急にそんなことするんだもん、誰でも気になるよ」


 俺は飛鳥は人気者だし男子と遊びに行ったりしてるだろうから、あれくらいは全然普通なんだと思っていた。

 どうして言ってくれなかったのだろう、言われたら少しは気にしたのに。

 そう思って飛鳥の方を見ると、すっと目を逸らされた。こいつ分かってやってたな。


「でも、多分私は皆よりもっと早くから気になってたんだ」


 水瀬は続ける。


「勉強会を始める時だったかな、一回飛鳥ちゃんが二宮君のこと誠って呼びかけたんだよね。そのときは気のせいかと思ったんだけど、考えてみれば飛鳥ちゃんって、二宮君のこと名字で呼んでるの聞いたことないなって気付いたの」


 相変わらず俺と視線を合わそうとしない飛鳥の肩がぴくっと震えた。俺は水瀬が予想外に鋭くて驚いた。


「で、その辺りから2人で登校して来るし、よく見たらお弁当は一緒だし! 飛鳥ちゃんが作ってるんだよね?」


 それも気付いてたのか。じゃあ今日の昼休みのあれも、気付いてない振りをして、俺と飛鳥の反応を探っていたってことか。


 俺は改めて目の前の女の子を見た。

 可愛らしい容姿と、少し能天気に思えるくらいに明るい振る舞い。周りのことがよく見えるがゆえに、人に気を遣いがちな女の子。

 だけど、水瀬未来はそれだけじゃないのかもしれなかった。


「でも、付き合ってないんでしょ? じゃないと私の彼氏役なんて出来ないよね。つまり……どういうことなんだ! この名探偵に話して見なさい!」


 そう言って口元を撫でる水瀬。多分口髭のイメージなんだろう。


 飛鳥は何も言わずに俺を見た。任せるということか。

 ここまで気付かれているのなら、もはや誤魔化すことは難しいだろう。

 水瀬は黙って口元を撫でながら俺の言葉を待っている。

 俺は観念して口を開いた。


「……俺達は、幼稚園からの幼馴染なんだ。それで、飛鳥には世話してもらってる」


「……朝一緒に来てるのと、お弁当作って貰ってるのは?」


「それは……」


「ちょっと待って、そのことは」



「俺と飛鳥が一緒に住んでるからだ」


 

 俺が言うと、俺達3人の間に沈黙が降りた。

 直前で何か言い掛けていた飛鳥は、俺を恨みがましく睨んでいた。水瀬はぽかんとした顔をしている。


「え? え? 同棲ってこと?」


「ルームシェアみたいなものよ。学校から近いところに物件を借りてるの。あくまで通学時間とこの男の世話の為、それ以上の意味は無いわよ」


「同棲ってことだよね!!」


「……」


 飛鳥が早口で弁明していたが、水瀬は聞いていないようだ。


「うわー。うわー。凄いこと聞いちゃった。あの飛鳥ちゃんが、男子と同棲か。これはうちの高校も終わりだなー」


「あの、分かってると思うけどこのことは」


「分かってる、誰にも言わないよ! でもね。そうか、飛鳥ちゃんがねー」


 縋るような飛鳥と、余裕そうな水瀬という普段と逆の立場の二人。

 水瀬はへぇー、へぇー、と言いながら口元をによによさせて飛鳥と俺を交互に見ている。


「あのさ、勘違いしないで欲しいんだが、別にやましいことはないぞ。朝起こして貰ったりしてる程度だ」


「え!? 朝起こして貰ってるの!? それってどんな風に!? 飛鳥ちゃんが『朝よ、起きて』とか言ってるの!?」


「貴方はこれ以上喋らないで!」


 答えようとすると顔を赤くした飛鳥に止められた。

 んんっと咳払いして飛鳥は言う。


「と、とりあえず今日はもう解散にしましょう。もう遅い時間よ、明日は休みとは言え、あまり遅くなると未来の両親が心配するわ」


「へー、早く2人の家に帰りたいんだね。分かるよ?」


「もう帰って! ほら、貴方も行くわよ!」

 

 飛鳥が水瀬の背中を押し、俺に声をかける。

 水瀬はごめんごめんと言いながら、俺達に挨拶した。


「それじゃ、またね! 2人ともありがと!」


 そう言って、水瀬は軽い足取りで構内に消えていった。





 水瀬の姿が完全に見えなくなるまで見送って、俺達は帰り道を歩き始めた。


「なんかごめんな。黙っといた方が良かったか?」


「別に。もういいわよ。同居のことまで言わなくてもと思ったのだけれど、あの子は言いふらしたりしないでしょうし」


 駅前から住宅街の方へ歩くうち、人通りは少なくなり、周囲は静けさを増していく。等間隔に灯された外灯の明かりが頼もしかった。


「そういや、今日の店美味かったよな」


 ぴくりと飛鳥の肩が震えた気がした。


「……そうね」


 しかし俺は何が彼女の琴線に触れたのか分からず、話を続ける。


「あそこ、日替わりのメニューもやってるらしくてさ」


「……ええ」


「これから夕食は、あそこで食うのはどうだ?」


「……」


 とうとう飛鳥は何も言わずに立ち止まった。

 俺も釣られて立ち止まると、飛鳥は俺の制服の裾をきゅっと掴んだ。


「……私の料理じゃ、不満だった?」


 飛鳥は普段の堂々とした態度とは似ても似つかない、弱々しい上目遣いで聞いてくる。

 俺はようやく、彼女のさっきの食事中の反応の意味を理解した。同時に、自分の無神経さが嫌になる。


「いや、そんなことはまったくない。だけどこのままじゃ、お前の負担が大き過ぎると思ってな」


「それだけ? ほんとに?」


 俺はずっと幼かった頃を思い出す。彼女も昔は、こんな風に俺に捕まっていたっけ。

 

「本当だって。俺は飛鳥の料理が一番好きだ」


 そう、と一応納得してくれた様子だったが、飛鳥の手は俺の服の裾を掴んだままだ。


「……誠って、なんで私の名前、皆の前で呼んでくれないの?」


「飛鳥も同じだろ。……2人じゃないと恥ずかしくて呼べねぇ」


 飛鳥は急に俺の手に自分の手を絡めてきた。


「……ねぇ、未来の彼氏になれて嬉しい?」


「彼氏役な。まぁ、水瀬に頼ってもらえるのは嬉しいと思ってるよ」


 俺は彼女達に返さなくちゃいけない借りが多過ぎる。


「……そういうことが聞きたいんじゃないのに」


 飛鳥は不満気に何か呟いていたが、俺にはよく聞き取れなかった。

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