第23話 友達と過ごす昼休み(上)
俺は今日も一限から授業を聞いている。
最近はようやく眠らずに聞けるようになった。先生の話にははまだ理解できない部分も多いが、焦らず少しずつやっていこうと思う。
次のテストは夏休み前の期末だっただろうか。板書をノートを写しながら、そんなことを考えた。
昼休みになると、俺は飛鳥が作ってくれた弁当を持って橘の席に向かった。
席の周りには既に柊と小田がいた。
この学校には学食もあるが、今日は誰も行かないみたいだ。
「ふぁぁ……眠かったでござるね」
「おい、お前何個買ってんだよ。太るぞ」
「失敬でござるな。その分運動すればいいだけではござらんか」
「理論上はな」
小田の昼は購買で買ったパンのようだ。
「おいおい、最近眠そうにしてるのお前らだけなんじゃないか。二宮真面目に受けてるし」
「深夜アニメには勝てないでござる……むしろ、二宮氏はどうして起きてられるでござる?」
「あ、俺録画して見てるからかな」
「ええ!? リア帯に見ることに意味があるのではござらんか!? 二宮氏はいつからそんな軟弱になったでござるか!」
ござるござるぅ! と興奮している小田をどうどう……となだめいていると、近くから弾んだ声が聞こえてきた。
「わー! 飛鳥ちゃんのお弁当、今日もすっごくおいしそー!」
「ありがとう、でもそんなことないわよ」
「自分で作ってるんですよね? 本当に凄い……というか、最近また一段と手が混んでるような気がするんですが」
「あ! それ私も思った〜このタコさんウィンナーとかもはや可愛いを通り越して美しいよね〜」
飛鳥達も4人ほどで集まって食べているようだ。俺達との距離は机2個分程度だが、弁当の中身までは見えない。
「あ、ねぇねぇ二宮君も見てよ! すっごい美味しそうじゃない?」
水瀬が近くに座っていた俺にちょいちょいと手招きしている。
女子4人がいるところに単独で乗り込むなんて俺には無理だと思ったが、彼女は俺を御指名らしい。
やむを得ず彼女らの机まで足を運ぶ。飛鳥の前にある弁当は、確かに彩りもよく、飛び抜けて美味しそうだった。
飛鳥はじっと俺を見ている。
「めっちゃ美味そうじゃん」
実際美味い。現在進行形で食ってるからそれは間違いない。
素直な感想を言うと、飛鳥は俺からすっと目を逸らした。
「……あら、そう……」
「え、飛鳥ちゃんその反応……もしかして照れてる!?」
「これは確実に照れてますね、珍しいです……」
「私達が褒めたときにはそんな反応じゃなかったのに〜。やっぱり男の子に言われるのは違うのか〜」
俺が戻ってくると、橘は俺の弁当に目を向けた。
「二宮の弁当も凄い手が込んでるよな。君が作ったのか?」
「いや、なんか親が作ったの冷凍して送ってきた」
俺は内心の動揺を隠し、それっぽいことを言って誤魔化した。
「へぇ。てことは一人暮らしでござるか。普段は飯とかどうしてるでござる?」
「まぁ朝は食わなくてもいけるから、で、昼は購買か学食。夜はコンビニとかで適当に買ったりだな」
俺は少し前までの生活を思い出しながら答えた。
「マジかよ。体に悪そうな生活してんな。もうちょい気ぃ使った方が良いんじゃねぇの?」
チャラそうな見た目に反して、意外とまともなことを言う柊。
「って言われても、作るのは大変だしな。特に夜。食いに行くんでも結局栄養偏りそうだし」
飛鳥は部活があるので、夜も作ってもらうことは出来ない。流石に申し訳なさすぎる。
そう俺が言っても、結局飛鳥は今週も夕食を作ってくれている。本人は引っ越して通学時間が減ったから問題ないと言っているが、そういう問題ではないのだ。
「それなら」と橘が言った。
「一つおすすめの店があるよ」
「おすすめの店?」
「ああ。俺の親戚がこの近くで健康志向の定食屋をやってるんだ。俺も一度行ってみたことがあるんけど、普通にがっつり食べれて美味かった。値段もそんなにしないしな」
そう言って、橘はスマホに移された店の写真を見せてきた。
店内は明るく、入りやすそうだった。橘が頼んだのだろう、写っていた焼肉定食はボリュームもありそうで、忌まわしき野菜もしっかりと盛られていたが、それを差し引いても魅力的なことは間違いなかった。
「美味そうじゃん」
「お、気に入ったか? じゃあ後で場所送っとくよ」
思いがけず、有用な情報が手に入った。いやぁ、やはり持つべきは友達だな!
俺達がそれから雑談に興じていると、教室の扉がガラッと開いた。自然、教室内の視線が集中する。
「あー、食事中ごめん。水瀬さんいるかな?」
教室に入ってきたのは見覚えのない男子生徒だった。たぶん違うクラスの奴だろう。
「あ! 水沢君! どうしたの、わざわざ昼休みに?」
水瀬は親しげに手を振った。
水沢君とやらは緊張しているのか、爽やかな顔を僅かに強張らせていた。
「あ、あのさ。放課後暇かな? 話があるんだ」
水瀬は一瞬顔を曇らせたが、すぐに明るく言った。
「おっけー! 部活あるけど、その前なら大丈夫だよ」
水沢君はじゃあ放課後体育館裏に来て、と言って足早に去って行った。
水瀬はばいばーいと明るく手を振りながらも、どこか浮かない表情をしているように見えた。




