終戦
二度目の停戦とでも言うべきか……まぁ、終戦かな。
エルダンにとってもリチャードにとっても予想通りであり予想以上だった戦いが皆の活躍で終戦となった。
エルダン達もある程度反発する者が出ることは予想していたが、ここまで馬鹿に大規模にやらかすとは思ってもいなかったようで、戦いが終わった辺りで追討軍がやってきて……ついでにそれぞれの使者から謝罪の言葉があった。
それと賠償の約束もしてくれた。私としてはもうどうでも良いことだったのだが、向こうはそうもいかないようで詳細は後々……ということになった。
まぁ、大遠征もしたし、王都でも働いた……その報酬と思っておくとしよう。
洞人族が乗ってきた船なんかはものの見事に壊れたからなぁ……勢いに乗りすぎてゴブリンが作る波から外れて地面に落ちて粉砕、それでも洞人族達が怪我一つなく元気いっぱいなのは流石としか言い様がない。
エルダンが少なくとも船の代金は用意してくれると言っていたので、赤字ということはないだろうし、怪我人もいないのなら問題はなし、さっさと帰る準備を進めてしまう。
ボロボロの幕屋の側で一夜を明かして翌日。
大した荷物もないし、鎧を着込んで歯車を背負えば準備はほぼ完了となり、そんな私の側には皆の姿があって、それぞれに声を上げてくる。
「まだ気にしている様子ですが、アレで良かったと思いますよ、変に欲張っても折角の評判が傷つきますし」
と、エイマ。
「財政に余裕はありますし、戦費で苦しんでいるところから無理に引っ張り出す必要はないでしょう」
と、チャイ。
2人がそう言うのなら問題はないのだろう。
「いんじゃね? 名誉だけもらっておけばさ、空で溺れたことは皆には黙っておいてやるよ」
と、サーヒィ。
「イルク村に帰ったら練習しないといけませんなぁ」
と、メイゾウ。
「皆がそう言ってくれるのなら、やっぱりこれが一番なんだろうな。
……で、帰るとして、海路になる……のか?」
私がそう問いかけると、ゴブリン族のイービリスがのっしのっしとやってきて、自信満々の笑みを浮かべて大きな口を開く。
「任せておけ!! まだまだ水を操る力は残っているとも!
ここまでの道中に作った川がまだ残っているしな、すぐに海に出ることが出来るし、海に出てしまえば荒野まではあっという間だ!
先ほど鷹人族達が王都に残った者達に終戦を知らせにいった、彼ら彼女らも我ら同胞の導きで荒野に戻ることだろう。
我ら一族が住み始めた影響か、大入江も荒野も賑やかになりつつある……良い食事も振る舞えるはずだ、荒野でのひとときを楽しみにしておいてくれ!」
そう言えばヒューバートがそんなことを言っていたか。
ゴブリン達は荒野で暮らすついでに、入江の整備なんかをしてくれているらしい。
必要のない海藻を切り払うとか、増えすぎた生き物を食べてしまうとか、魚が暮らしやすい岩場を作るとか……更には真珠がよく取れるように、私達には今ひとつ理解しきれない工夫なんかもしてくれているようだ。
更に荒野に水を撒いたり、土を耕して柔らかくしたり、デーツを始めとした様々な植物を植えたりと、こちらでも結構な仕事をしてくれているらしい。
一応海に出る際なんかに、ちらりと見てはいるのだが……しっかり見回ったことはなく、この機会に見ておくのも悪くないかもしれないな。
……あの荒野もいずれは荒野とは呼ばれなくなるのかもしれない、大入江にも名前がつくのかもしれない。
ゴブリン入江にゴブリン平地……中々悪くないように思える。
「ああ、分かった、色々見させてもらうよ。
大入江で泳ぐのも良いかもしれない……後は海の食べ物か。
すぐに腐ってしまう輸送には向いていない食材がいくつかあるんだろう? それを食べてみたいな。
……あとはあの入江にも名前をつけよう。
ゴブリン入江とか、何ならゴブリン海も良いかもしれないな」
私がそう言うと、前半部分には笑顔を見せてくれていたイービリスが、後半部分で真顔になる。
「……名前は良い考えだ、そして我ら一族を慮ってくれたことも嬉しい限り。
しかし名前については……我ら一族で一度考えてみたいと思う。
いくつか案を出すから、その後は皆で話し合うとしよう。
……人間草原なんて地名があっても困ってしまうだろう?」
……それもそうか。
エイマ達が激しくコクコクと頷く中、とりあえずの方針が決定となって少し遅めに起きてきた洞人族達も動き始める。
とりあえず帰る用の船はあるそうなので、そちらに乗り込み……ゴブリン達は出来損ないの川に触れて魔法を唱え始める。
すると地面から水が染み出るように溢れて、湧き水のようになり噴水のようになり、そこから南の海に向かってまたも川のような波が流れていく。
その側に洞人族達が乗り込んだ船を置いておくと、ゴブリン達が器用に水を操り流れに巻き込んでくれて……私が乗った船も同じように巻き込み流れていく。
警備のために私達の周囲で待機していた兵士達から動揺の声が上がる。
まぁ、驚くよなぁ、私だって驚いた訳だし……何も言えず、何も出来ないのも仕方ない。
しかしこのまま行かせてもらう……このままここにいると面倒臭いことになりそうだし、また襲われたりすると装備の魔力が尽きかけているので流石にどうにもならない。
こういう時はさっさと逃げてしまうのが吉、ジュウハもこういう時にはそうしろと言っていたからなぁ、間違いないだろう。
「また会おう!!」
そんな兵士達に一応声をかけてから、ゴブリン達に合図をして船を一気に南下させてもらう。
すると風が全身に吹き付けてきて、海を走るのとはまた違った爽やかさがある。
柔らかで涼しく、匂いもしない。
……これはゴブリン達が生み出した水だからなのかもしれない。
とにかく臭くなく、服が汚れる訳でもなく、色々ありはしたが爽やかな終わり方と言えるだろう。
「無事に逃げられて良かったですね。
ジュウハさんのことですから、あのままあそこに残っていたらそのまま賠償交渉に持ち込まれちゃってましたよ。
交渉とか計算が苦手なディアスさん相手ならどうとでも出来るって感じで、色々練ってたはずですから、ここで逃げたのは正解です。
あとのことは村の皆さんにお任せしましょう」
と、肩に乗ったエイマがそんなことを言ってくるが気にせず、私はただただ爽やかな空気に包まれての帰還を堪能するのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は荒野でのあれこれです




