援軍
両側から敵に挟まれて、しかも妙に連携をしてくる。
鎧の魔力はある程度補充したとは言え完璧には程遠く、油断すると攻撃を食らうことになるので回避も頭に入れなければならない。
そこを分かっているのか分かっていないのか、片側の敵が攻撃を引き付けているうちに反対側が攻城兵器なんかの準備をし始め、投斧でなんとか妨害しようとするが、人数が多くて間に合わない。
……なんとも厄介な動きだ。
しかし、そんな状況にあって私にはある選択肢が残されていて、それを取ろうかと一瞬悩んでしまう。
それは遥か上空に逃げてエルダン達の動きを待つというものだ。
元々相手は本軍から無断で離脱したであろうはぐれもの達だ、時間を稼ぎさえすれば東西軍それぞれが鎮圧に動いてくれるだろう。
しかしそれでは折角の機会が……メーアバダルの名を広げる機会が失われてしまう訳で、可能な限り戦うべきなのだろうとの結論を出す。
エイマとチャイは鷹人族達が上空に連れていって守ってくれているし……なんとかはなるだろう。
ただ勝つだけではダメで、勇敢に戦い出来れば圧勝が好ましい……ジュウハにも何度かそんなことを言われていたなぁと、そんなことを思い出しながら敵に襲いかかる。
まずは手斧を投げる、戻ってくるのを待たずに戦斧を構え、更に歯車の操作にも気を使う。
歯車の操作はなんとも独特だ、私が考えた通りに動いてくれる。
この考えた通りというのが厄介で、敵からの攻撃を回避しようと体をひねった時なんかにも、歯車がそれと同じ動きをしてしまう。
歯車に動けと念じた通りになるのではなく、あくまで私の考え……頭の中の言葉の通りになってしまう。
一応今は大トカゲが補助? というのをしてくれているらしく、そのおかげでとんでもない動きにはなっていないのだが、それでも気をつけなければあっという間に回転したり、地面に向かって突き進んだりと危なかったりする。
なので歯車にも気を使う、手斧と戦斧と歯車と敵と……考えることが一気に増えて頭がこんがらがる。
敵に真っ直ぐに向かい、戦斧を振るう。
こんがらがった頭では手加減をする余裕もなく全力で。
すると鋼鉄製なのか、やたらと大きい盾を構えた兵士が前に出てきて、戦斧を完全に受けきってしまう。
対モンスター用なのか、流石に鋼鉄となると簡単にはいかない。
踏ん張りの効かない空中となると尚更で、あるいは歯車を上手く使えばなんとかなったのかもしれないが、今の私にはどうにも出来ない。
そこに攻城兵器……投石機での投射が繰り出される。
動きは遅い、回避はできる……だからといって問題なしとはならない訳で、こんがらがっている頭には結構な負担だった。
(まさかそんな弱点があったとはね、何もかも与えれば良いという訳ではないのか。
君だからこその弱点……乗り越え給えよ)
と、大トカゲ。
更に話しかけられてしまうともうどうしようもない。
こういう時には何も考えず、直感と瞬間的反応で動き続けるのが一番なのだが、空中にいるとそれも出来ない。
無意識にやっていた『立って歩く』という行為。
……空中で移動するということは、これにかなりの意識を持っていかれる形となるので、ただ武器を構えるだけでも一苦労だった。
空中ではどんな覚悟で構えることが出来る、どんな方向からも相手を狙うことが出来る……だからこそ構える方向、角度がこれで正しいのかどうなのか、そんなことにまで意識を持っていかれてしまう。
ジュウハやエイマ、チャイならなんなく扱えるだろうに、なんとも情けなくなってしまう。
だが弱音は吐いてはいられない、今ここでやらなければならないのだからと、大盾から大きく離れて攻城兵器を狙う形で移動し、戦斧を構える。
しかし当然それは敵も予想はしている訳で、そこにも大盾の姿がある。
気付けば木材などを積み上げて、いつのまにか陣地のようなものまで構築し始めている。
……こいつは参った、また片側としか戦っておらず、反対側でも同じような準備が始まっているとなると、いつまでもこんなことはしていられないとい言うのに……。
と、そこで聞き慣れた声が響いてくる。
「ディアスのそんなとこ始めてみたぞ、おい!! 今度空の飛び方教えてやるからよ!」
サーヒィの声だった。いつのまに、どうやってここまで来たのか、ウィンドドラゴン装備を身にまとった仲間を引き連れて、5人で列を成して突撃してきて、騎士達やその装備をすれ違いざまに斬り裂いていく。
クラウス達と鍛錬していただけあってその狙いは的確で、鎧などの隙間から、あるいは攻城兵器の急所などにしっかりとダメージを与える。
周囲一体に混乱が広がる……サーヒィ達の登場に驚いたのもあるだろうが、その後に続く轟音に驚いているようだ。
それは凄まじい轟音で……誰もが音のする方へと視線をやることになり、そしてなんとも場違いな大波を目撃することになる。
しかしその在り方は大波と聞いて想像するようなものではなかった。
一点集中……海の大波というより川の大波、やたら細長い大波がやってきて、その波の上や中には無数のゴブリン族の姿がある。
「一族総出の奥義をご覧あれ!! 水を操るということはこういうことだぁぁ!!」
轟音の中から辛うじて聞こえてくるイービリスの雄叫び。
海からか川からなのか、どこかから水を操り続けてのあの津波ということらしい。
「むっはははははは!! 水があれば船が走るは道理というものよ!!
さぁ、この時のためにこさえた鉄甲船のお披露目じゃぁぁぁ!!」
そしてナルバントの声……まさかあの津波の上に洞人族が乗った船が浮かんでいるのだろうか?
そんな津波は二つに分かれて両軍へと襲いかかり……いつかに見た洪水程ではないが、両軍をそれなりに押し流す。
当然攻城兵器なんかも押し流し、破壊し横倒しにし、そのほとんどが使用不可能となる。
直後降ってくる鉄板を張り付けたらしい船。
だが鉄板程度では吸収しきれない衝撃があったようで、着地の衝撃で破壊され……破壊された船の中から、そんな衝撃などお構いなしとばかりに満面の笑みを浮かべた洞人族達が雪崩れ出てくる。
そして転ぶなり倒れるなりしていた兵士達に襲いかかり、その武器を破壊するなり奪うなりして、ついでに蹴倒したりして無力化していく。
更にはゴブリン達が水流と一体となって兵士達に襲いかかる、上手くやれば迎撃可能な攻撃ではあったが、いきなり初めて見る種族にそんな攻撃をされて対処出来る者は少数派で、ゴブリン達の勇猛果敢な戦い方もあって圧倒していく。
そんな光景を呆然と見ていると、私の腹にサーヒィがちょんと降り立つ。
……どうやらいつの間にか腹を上に向けて寝転がるような、空中でそんな姿勢になっていたらしい。
「なんかヤバいことが起きてるらしいって報告があったからな、ゴブリン達に手伝ってもらって駆けつけたんだ。
オレ達は空から、洞人族達は海から。
水を操れるんならってヒューバートが海流を……なんかこう上手く、風とか普段の海流とかを計算した上で操ることを提案してな、おかげで船がすげぇ速度で海を駆け抜けてこの近くまでやって来られたって訳らしいぜ。
んで船で合流して装備をつけてもらっての今って感じだな。
しかしそれで正解だったな、雛鳥みたいに空で溺れるディアスを見られたし、来た甲斐があったぜ!」
そう言ってからからと笑うサーヒィに私もまた笑うしかなく……とりあえず皆に任せて良い状態なのを確認した私は、大きく笑ってから小さなため息を吐き出すのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はその後のあれこれです




