真意
――――メーアバダル神殿の最奥で ベンディア
この日ベンディアは小メーアから求められて、神殿の最奥の部屋でディアスの様子を確認していた。
椅子にしっかり腰掛けて、小メーアが作り出した空中に浮かぶ透明な板に映し出されるディアスの今……歯車を使い空を舞い飛ぶ黄金の鎧をじっと見つめ続ける。
小メーアはここ最近の騒動と、様々な流れに違和感を抱いているらしく、その辺りを検証するにあたって、人間の視点というものをベンディアに求めていた。
しかしベンディアにも分からないことは多く、特にあの歯車なんてのは異様そのもので、ロクな意見を言えることもなく、ただただその光景を眺めていただけだった。
……と、そこに大きな変化が出る。
「……おや、かなりの数の増援が到着したようですな」
ベンディアが思わずそんな声を上げる。
ディアスが飛び回る戦場の端、そこにぞろぞろとかなりの数の人々がやってきていて……それを見た小メーアが、執務用の机にちょこんと足を畳んで座っていた白い毛玉が声を返す。
「おやまぁ、驚いたこと。
アレは王都から無理矢理戦場に駆り出された人々のようだね……しかし途中で洗脳は止まったはずなんだけど、なんだってここに?」
「さて……。
……洗脳と言うのがよく分かりませんが、命令が今でも有効だったとか、何も分からず流れに乗ってしまったとか……。
……途中で何があってもこの状況になるよう何かを仕組んでいたとか。
それだけこの状況を望んでいたのかもしれませんな、何故かまでは分かりませんが」
「この状況を……?
……この状況!? あぁ!! そういう、そういうこと!?」
ベンディアとしては特に意味があった発言ではなかった。
聖地に至り色々学んだとは言え、聖地の全てを理解している訳ではなく、適当なことを言ったに過ぎないが、小メーアには何か思うところがあったらしく、予想もしていなかった荒々しい声を上げる。
そして小メーアの言葉の意図が分からず訝しがっていると、小メーアは興奮気味に説明を始める。
「これよこれこれ! 戦場を、空を駆けるディアスを王都の人々に見せつけたかった!
戦争の調停者、王都の救済者、伝説を身にまとう英雄……王都の人々全員がそれを見た、これはとても大きい!
もしかしたらあの化物との戦いこそが本番だったのかも! ディアスが早く倒しすぎてタイミングがズレてしまったけども、襲撃者のおかげでそれが成ったという訳ね。
……なんであんな馬鹿に従う聖地が出たのか、相手がいくら真なる人間とは言え、いくらでも回避手段があるはずで、色々と疑問だったけども、つまりはこういうことだったのよ。
あの馬鹿が勝ったら自分達の都合に良いように国をコントロール出来るのでそれで良し、負けたとしてもディアスに全てを託せるからそれも良し。
……いえ、いっそこうなってくれた方が誰にとっても都合が良いじゃないの。
……聖地の最終目標はモンスターの駆逐、世界の浄化……世界の平和。
ディアスの方がそれを成せるだろうことは誰の目にも明らかよね」
「……なるほど、そういうものですか」
「致命的なまでに真なる人間が減って、血が絶えることは明らか。
それは聖地や神々にとっては大きな絶望だった……だからこそ大メーア様は目標を変えた。
人間ではなくメーアを守る守護神として。
それでも諦めずに踏ん張っている聖地もあった訳だけど……アレに協力した連中は真なる人間がいなくなった後の世界をどうするか、どうやってモンスターを駆逐出来る世界を作れるかを、問題がある考え方ではあるけども真剣に考えていたのかもね」
「つまりはこちらと同じような目標ではあった……と。
今後を見据えて、未来を見据えて……どこも変わらないものですな」
「そうね……今にして思えばだけど、特にあの元王様なんかはそこまで読み切っていたのかもね。
だからこそディアスにあの歯車に繋がる鍵を託したと……全くしてやられた気分だわね。
ただの愚か者と誤った評価を下してしまったことを反省しなければ……。
モンスターの襲撃があってもなんだかんだと人界が存続していたのは、そうした傑物のおかげなのかしら」
「……ひょうひょうとしてはおられますが、20年戦線を維持した手腕は相当なものです。
ディアスを公爵にしそこに逃れ、王都が荒れる中で安寧を生きている辺りからも油断出来ぬ人物であることは確かかと」
「本当にまったく……まだまだ傑物ってのがあちこちに隠れていたりするのかしらね。
……ま、そんな人界にあってあのアルフォスとかいう馬鹿だけはいつまでも馬鹿のままで、ディアスに妄執し、馬鹿みたいに過去に囚われていたみたいだけど……。
今回はそんな、未来を見ていない態度が災いしたってことかしら。
……一応残骸は近くの聖地が回収して埋葬するそうだけど、救われないわねぇ」
「聖地で眠るというのは神官達にとっては羨ましく、望んでも得られないものでもありますから、見方次第でしょう」
「……神官のアナタが言うのなら、そうなのでしょうね」
と、そう言って小メーアはまたディアスの様子に没頭する。
それを受けてベンディアもまた口を閉じて……ただ静かにディアスの戦いっぷりを見守るのだった。
――――ディアスを包囲しながら 襲撃した騎士達
リチャードが改革を進めた騎士団のうちの何人かは、訓練の中でディアス対策を進めていた。
いずれ敵対することがあるかもしれないし、過去の戦闘から学ぶのは騎士の常……実際にその場を目にした者が多い、戦後直後こそが多くの知見が得られる機であり、そこに改革が行われ多くの予算が流れ込んだのもあって、とても活発に進められていた。
「空まで飛ぶなんて聞いてねぇぞ!?」
そんな対策も空を飛ばれたのでは役に立たない。
ただでさえ厄介な黄金鎧と、そこら中を飛び回る手斧という厄介な装備があるのに、更に空まで飛ばれてしまっては……。
更にディアスは宙に浮く歯車まで操り始めた。
矢をいくら射っても歯車で叩き落とされ、時には歯車で叩きつけられ、本当に手に負えない。
十分な兵数を揃えた、更には敵軍とまで連携した、打ち合わせをした訳ではないが、無言のうちに了承を得て完全な包囲をし、一切ミスのない奇襲を仕掛けたのにこの有様。
だからと言って今更引くことは出来ない。
対モンスター、対ドラゴン、空を飛ぶ敵との戦い方は心得ている。
ならば戦えるはず、数に任せれば押しつぶせるはず……そう考えて騎士達は、引くことなく諦めることなく、一応念のためにと用意した対モンスター、攻城兵器まで持ち出して、救国の英雄に戦いを挑むのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はその後のあれこれです




