襲撃
「ひとまずは良い結果で良かったですね」
エルダン達に陣幕やらを借りて、それを一応中立だからと両軍から離れた位置に張って、その中に床布を敷いてあぐらで座り鎧を脱いで手入れをしていると、近くにちょこんと座ったチャイがそう言ってくる。
「まぁ、結構な出費にはなりそうだが……とりあえずくだらない争いが終わってくれるのなら悪くない出費だ。
アルナー達にもしっかりと説明しないとなぁ」
私がそう返すとチャイは笑みを浮かべながら言葉を返してくる。
「問題ないと思いますよ、今回のことでディアス様は二度目の救国の英雄としての栄誉を得る訳ですから。
言い方は悪いですが一人勝ちです、いくら出費がかさんでもすぐに取り戻せますよ。
……その分だけエルダン様とリチャード様に割りを食わせて恥をかかせた訳で、そこが少しだけ心配ではありますけど……」
「……一人勝ちか。
一人勝ちはジュウハが言うには最悪の勝ち方らしいな、そんな勝ち方をするくらいなら程々に負ける方がマシだとかなんとか。
そうなると……気に入らない連中が止めに来るかな」
「……やっぱり来ますかね? その可能性は考えないでもなかったですけど……」
と、チャイ。
それに続いて一緒に鎧の手入れをしてくれていた……魔力を注ぎ込んでくれていたエイマが声を上げる。
「エルダンさんもリチャードさんも、この期に及んでそんなことをしても得はしません。
……が、気に入らない配下の方々が暴走するってのはありそうです。
主の名誉を守るため、戦争で戦果を上げるため、自らの欲のため……両軍がその全てを止めきれるかはなんとも言えませんね」
「そうなると……来るだろうなぁ。
こういう時のジュウハの言葉は大体当たるんだ、一人勝ちし過ぎてしまったようだからなぁ、その反動は来るものと思っていた方が良いだろう。
まぁ、両軍全部ではなくてその一部だけなら私だけでもなんとでもなるはずだ。
エイマもチャイもそうなったら他の鷹人族と一緒に空に避難しておいてくれ」
「了解しました、ちゃんと安全な場所まで送り届けます」
と、チャイ。
「分かりました……けど無理はしないでくださいね。
まぁ、空を飛べちゃうのなら心配する必要はなさそうですけど」
と、エイマ。
「まぁ、最悪の場合は飛んで逃げるが……エルダンとリチャードのためにそういう馬鹿を殴っておくのも悪くはないはずだ。
これから2人には荒れた地域を立て直してもらわないといけないしなぁ、これからを担う2人のために馬鹿を叱っておくのも、一人勝ちの対価みたいなものだろう」
私がそう返すと、チャイとエイマはお互いの顔を見合って同じような顔を浮かべる。
それからチャイは何も言わず、エイマだけが言葉を返してくる。
「多分ですけど、立て直しも担うのも当分はディアスさんになると思いますよ。
お二方への支援も大事ですけど、暴走した聖地を止めたって功績の方が大きい訳でして……神話の再来、建国伝説の再演。
空を飛ぶその姿を見せたり、皆さんの声に応えたり、もしかしたら演説みたいなことを求められることもあるかもしれません、もちろん物資の支援も必要になるでしょう。
……多少面倒くさいことになるかもしれませんが、良い機会ですからこの機にメーア教を広めましょう。
メーアバダルの人口はまだまだ少ないですし、名産品の生産力もそこまでではありません……だからこそ宗教の力を存分に利用しましょう。
旧道でも新道でもない、全く新しい教えの生誕地、新たな聖地……宗教の中心としてメーアバダルの存在感を広めれば、王が誰になろうが、この先国がどうなろうが、メーアバダルの地位は揺るがないはずです。
国内にしっかり広めたなら獣人国にも海にも、その向こうにも国境を超えて広めましょう。
そうしておけば将来の繁栄……は分かりませんが、安寧は期待出来ます。
未来のためにここで一踏ん張りしておきましょう」
「……ベン伯父さんには怒られそうだなぁ」
「……えっと、これはベンさんの本懐でもありますよ。
あの方はそこまで清廉ではないと言いますか、相応に老獪で狡猾です。
今回の戦争をどうせなら利用してメーアバダルの名を広めたら良い、メーア教の教えも出来ればついでに……と、そう言うに違いありません。
ディアスさんと、ディアスさんの子供……子孫の未来のために、それがベンさんの本当の狙いです。
あの人はメーアバダルに来た時からそれだけを考えていたみたいですよ。
メーアバダルを宗教の中心地にして守る……神官としてディアスさんのために出来る最大のことをやろうとしていたんです。
それがこれで上手くいく訳ですから、喜びこそすれ怒りはしないでしょうね」
「そ、そんなことを考えていたのか……。
いや、私達のためを想って行動してくれていることは分かっていたが……。
それならまぁ、更に気合を入れて頑張らないとなぁ」
と、私がそう言ったその時だった、気配があって……私がすぐさま鎧を身につけようとする。
『こちらに任せ給えよ』
すると大トカゲがそう声を上げて、どういう力なのか鎧を操って私の体に装着してくれる。
同時にチャイは飛び立つ準備を始め、エイマはカゴに入り……そのカゴをしっかりと掴んだチャイは、陣幕を飛び出し、外で待機していた鷹人族と共に空に飛び立っていく。
私は鎧の様子を確かめてから兜を被り……戦斧を手に取り、しっかりと構える。
そうしてしばらく静かに構え続けていると……周囲を漂う気配が濃くなっていく。
どうやら予想通り、停戦が成立する前に私をなんとかしようと考えた馬鹿が出たようだ。
……ここでこれ程の馬鹿をやらかす馬鹿なら、まぁ手加減もいらないだろう。
アルナーやベン伯父さん……イルク村の皆のためにもここは頑張り時だ。
そう考えて気合を入れ直していると、陣幕の中に誰かが入り込んでくる。
声を上げず、足音もできるだけ殺し、複数で一斉に仕掛けての奇襲。
馬鹿な連中ではあるが、動きも作戦も悪くはない。
しかしそういった奇襲は何度か経験があるので問題ない、攻撃を受けるでもなく回避するでもなく、戦斧を振り回して迎撃し、戦斧を受けた敵をそのまま振り回して他の連中にぶつけたり、崩れた体を蹴飛ばし敵にぶつけたりして、その動きを止める。
すると遠い距離からの殺気があり、弓か何かで攻撃しようとしているのかと察して、手斧をそちらにぶん投げる。
当たらなかったとしてもすぐに戻ってくるのだから問題なし、陣幕の中から投げまくる。
今は陣幕から出ない方が良いだろう、あえて出ない方がこちらの姿を視認出来ないはず。
そうすると次に敵は陣幕を引き倒し、それに巻き込むことを狙ってくるだろうからと戦斧を構えて、いつでも陣幕を斬れるようにしておく。
やはり予想通り陣幕が引き倒され始めて、それと同時に幕を引き裂いた私はそこから飛び出し、歯車を起動して飛び上がり、周囲に見える敵兵に襲いかかるのだった。




