後始末
――――地面に降り立つディアスを見て ジュウハ
激しい戦いを制したディアスが地面に降り立つのを見た各首脳陣は、それぞれ頭を悩ませているに違いない。
伝説にあるような奇跡を目の前で起こし、今後とんでもない求心力を手にするであろう英雄をどう扱うか、どう処理するか、どう対応していくか……その難題に対する解答を瞬時に出す必要があったからだ。
遅いようでは話にもならないが、ここで悪手を打てば後に響く。
拙速でも巧遅でも許されない、とにかく速く正しい判断をする必要があり……そうしてジュウハは誰よりも判断を下し、行動を開始する。
砦の歩廊で両手を大きく広げて、味方に向かって大声を張り上げる。
「見ろ! あれこそ伝説の再現だ! 建国王を支えた聖人ディアの再来が現れた!
エルダン様を助け、支える存在が現れた! 世界と神々はエルダン様を選んでくださったのだ!」
奇跡を起こしたディアスを下手に認める訳にはいなかなかった。
神々に選ばれた英雄……これ程に王に相応しい存在はなく、認めたが最後、エルダンの目標は潰えることになる。
かといって否定する訳にもいかない、目の前で奇跡を起こしたことは事実で、助けてくれたことも事実……これを否定するということは功績を否定するということ。
それでは兵達はついてこない、命をかけて戦ってくれない、人心が離れることは明白で、これはこれで目標は潰えることだろう。
そこでジュウハは認めながら、王以外の立ち位置にディアスを押し込むことにした。
神殿生まれで聖地帰り、その領地には全く新しい神殿があり、神々が側に在り、これで聖人でなければ何だと言うのか?
今までエルダンを助けてきたことも全て含めて『王を助ける聖人の偉業』であると決めつけた。
前々から領内にはそういう噂があった。
建国王エルダーと聖人ディア、名前からしても似た響きがある2人は生まれ変わりではないかと、伝説の再来ではないかと、そう噂されていた。
それを利用し、聖人という枠組みにディアスを押し込むことでジュウハは、脅威になるかもしれなかった可能性を潰すだけでなく、エルダンこそ真の王であると、神々と伝説がそれを保証していると、そういうことにしたのだった。
これに異論が出ることはないと言い切れる。
兵士達のほとんどがジュウハの言葉を信じ切っていたし、ジュウハの思惑に気付けるような賢しい者は、その賢しさから沈黙を守り……またあのディアスがこれに異論を出すということもあり得なかった。
玉座になんて興味がないだろう、国を手に入れたいとも思っていないだろう……そもそも自分のことを王の器などとは微塵も思っていないはずだ。
ジュウハから見ると十分に王の器で、各国の現国王と比べても劣らない大器と思えるディアスだったが、当人はそうは見ていないはずで、仮に周囲から王になってくれと懇願されたとしても、頷くことはないだろう。
そんな考えでのジュウハの言葉に、味方達は大いに盛り上がる。
自らの主が神々に王と認められた。
今まさに金色に煌めく鎧を、不思議な力で修復するという奇跡を起こしている聖人から認められた。
否定しようにも今この時に目の前で奇跡が起こっているのだから否定出来るはずもなく、中には滂沱のごとく涙を流している者までいる。
そんな味方を見てひとまず安堵したジュウハは改めてディアスと敵陣の方へと視線をやる。
味方はこれで良いが、ディアスと敵陣はどうだろうか?
ディアスについてはそれ程心配はしていない……こちらに敵対することだけはないと確信していて、他の可能性もまずないと言えるだろう。
たとえば相手にはディアスを誘拐し、実はこちらこそが神々に認められた真の王なのだと、起死回生の手があるにはあるが、そもそもディアスを誘拐するということが不可能なのであり得ない話だった。
ディアスの家族を人質に、というのもあり得ない。
東軍の手がメーアバダルに今更届くことなどあり得ず、ディアスもまたそれを決して許さないだろう。
敵陣については……なんとも言えない。
そもそもの開戦からして訳が分からないし、その動きも全く読みきれないジュウハには、その動きを読むことは不可能だった。
「……自棄になっての突撃なんてのは勘弁して欲しいがね……」
と、小声でそんなことを呟いたジュウハは、なんとも賑やかに慌ただしくなっていく味方陣営のこともチラチラと見やりながら、敵陣の動きを見張り続けるのだった。
――――東軍の中央で リチャード
戦場でリチャードは絶望に沈みそうになりながらも必死に耐えていた。
いつの頃からか意識にモヤがかかり、どうにかそれから逃れようと必死にもがき苦しみ……一体何があったのか、突然逃れられたと思ったら場所は戦場、状況は最悪。
敗戦一歩手前……下手に記憶が残っているのが性質が悪い。
ここからどうすべきなのか、どういう手を打って状況を立て直すべきなのか。
懸命に考える中で、視界には黄金に輝くアレが映り込んでいる。
それがまた集中力を削ぐ、なんだってこんな状況で奇跡を拝まなければならないのか……。
……あれをどうすべきなのか、どうやって懐柔すべきなのか、アレさえなんとか出来たなら突破口となるのだが……。
そう考えてリチャードは、一縷の望みをそこに抱き始める。
そうだ、敵軍を相手するよりはアレを相手して……交渉でなんとか引き込めば良い結果になってくれるはず。
そう考えてリチャードは、まずは自軍を制御しなければと思い至り、周囲に声をかけ、部下達を呼び集め、先程まとまった自分の考えを共有し始めるのだった。
――――鎧が直るのを待ちながら ディアス
『それで? どちらに勝たせるつもりなのかね?』
「そこはまぁ、最初から変わらないかな」
鎧が勝手に直るのを眺めながら、次にどうしたものかと頭を悩ませていると、大トカゲがそう声をかけてきて、私はさっと答えを返す。
『ほう……? 最初とはつまり?』
「最初からどちらにも勝たせるつもりはない。
後のことは話し合って決めたら良いとは思うが、一方的な内容になることは許したくはないかな。
……エルダンに負けて欲しくはないと思っていたが、勝たせたいのなら最初から参戦していただろうし、このまま両軍引き上げて欲しいというのが本音かな。
国内でこんな争い……どっちが勝っても負けても酷いことにしかならないだろう?
ここからはもう、変に勝とうとした側が私の敵になるのかもな」
『なるほど、なるほど。
君は最初から変わっていないのだね。そして君はこの戦場の勝者なのは明白だ。
だから好きにし給えよ、悪事を働いていた聖地の解体は始まった、もう力を振るうことはないだろう。
王都周辺の事態の解決のために、我が聖地からの眷属の派遣も始まった。
出来るだけ被害が減るよう対処させてもらうとしよう。
……これだけの手出しが出来るのも君の尽力の結果だ、誇り給えよ』
と、大トカゲ。
喜んで良いのやら悪いのやら……とりあえず一段落は出来たらしいことが分かった私は、大きなため息を吐き出して、それから改めて両陣営へと視線をやるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は戦後交渉とかの予定です
そしてお知らせです
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