落下
いびつになった拳が迫ってくる。
もうそれは人の攻撃ではなく、モンスターのそれで、普段だったら避けられなかったかもしれないが、歯車がある今はなんとか体をひねって回避することが出来る。
地面がある時とは何もかもが違う、空中を自由自在に動けるということは、今までにない動き、移動、回避の仕方が出来る訳で、慣れてくると気持ち悪くなってくるくらいに動き回ることが出来る。
『歯車を使うこと、それ自体で体に負担がかかることはないが、体を無理に振り回せば相応の負担はある、気をつけ給えよ』
大トカゲのそんな声を聞きながら懸命に体をひねり、体の真横を通り過ぎた拳へと戦斧を叩きつける。
戦斧を叩きつける際にも歯車が動いて姿勢を整えてくれる、しっかり踏ん張れるよう、力を込められるよう、こちらが意識しなくとも歯車が勝手になんとかしてくれる。
結局黒い鎧に防がれると分かってはいるが、それでも全力で殴りつけてやると、なんとも予想外なことに鎧が砕けて膨れ上がった肉を戦斧が斬り裂く。
「んん!?」
驚きながらも、とりあえず距離を取って体勢を整える。
『……無理な変形の弊害か、大きく広がったがために厚さが失われたか、その両方かもしれないね。
ならば狙い所は言わずとも分かるだろう?』
「ああ、分かった、とりあえず腕を使えなくしたら大人しくなるだろうしな」
大トカゲの言葉にそう返し、改めて戦斧を構え直す。
足を空に向けて、やや斜めになりながらも慣れてきた、問題なく戦斧を構えることが出来て……一方空を自由に浮いている黒鎧は律儀に足の裏を地面に向けてから姿勢を整えている。
どうやらあちらはまだ空中での動きに慣れていないらしい……怪我の痛みは感じていないようだし、出血もすぐに止まって傷口も綺麗に治っているようだが、その辺りが明確な欠点になるだろう。
ならば勝てるかと、歯車を振り回しながら黒鎧に迫る。
相手の狙いが定まらないようにとにかく動いて動き回って……それでも黒鎧は拳を放ってくる。
鋭く重く、鎧の魔力が切れた今だと致命傷になる一撃だ。
だから避けるしかない、必死に避けて伸び切った腕を狙って……それを何度も繰り返していく。
傷をつけてもすぐに治る。黒鎧が治しているのか、何度攻撃してもすぐに治ってしまうから無駄にも思えるが、黒鎧もきっとこちらの鎧と同じで貯め込んだ魔力で動いているはず。
いずれは魔力が尽きるはず、あるいは斬りつける度に血が吹き出ているから出血で倒せるかもしれない。
痛みで折れる心は……残っているかは分からないが、とにかく根気よく攻撃を繰り返していく。
何度も何度も、一撃でこちらを殺してくるだろう拳を避けながら繰り返し。
歯車が主導してくれるというか、動きをかなり補佐してくれるので疲労は少ないが、何度も繰り返すと疲れるし、振り回されることで目も回ってくる。
だからと言って諦める訳にはいかない、気合を入れて……本気の本気で一撃を放つと、確かな手応えが戦斧の柄から伝わってくる。
刃が骨に至った感触、そのまま骨を斬った感触、見事に斬れたのか、血を吹き上げながら吹っ飛んでいく……が、斬り離されたソレは黒い煤のようなものとなって風の中でかき消える。
「なんだぁ!?」
思わず声を上げる。
『もうあれは腕でもなく肉体でもないと、そういうことだ。
深く考えるのは止め給え』
と、大トカゲ。
大トカゲがそう言うのなら考えなくて良いかと、戦斧を振り上げる。
もう一撃……今ならば隙だらけのはずで、攻撃されたとしても片腕、こんな機はないと気合を入れる。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
そう声を上げて戦斧を振り下ろすと、黒鎧は本能的なのか何なのか、攻撃を防ごうと反対側の腕を上げてきて、そちらも真っ二つとなる。
それもまた煤になり、これで決着かと思った……のだが、黒鎧の中で何かが蠢き、新しい腕が生えてくる。
ギリギリの所で避けられたことを気にしているのか、腕からは歪んだ剣の刃が『生えて』いて……これは回避する時に気をつけないといけないだろうな。
そうやって生えてきた腕の先、拳はもう人間のそれではなかった。
爪は鋭く、体毛が生えていて……獣人のようでもあるが、やはりモンスター寄りの見た目だ。
……モンスターは瘴気で変異させられた生物、だったか。
それと似たような現象があの鎧の中で起きているのかもしれない……。
『本当に哀れなことだ。よりにもよって頼りにしたのがあの聖地とは……。
一番の過激派、一番の危険思想、モンスターの研究をより深く、先の先まで進めていたあの地に至ってしまったことが彼の不幸だったのだろうな』
戦闘中でもお構いなしの大トカゲ。
「どこに至ったにせよ、最後は自分の判断であの力に染まることを選んだはずだ。
……なら、自業自得だろう。
同じく聖地に至ったベン伯父さんは、聖地に染まることなくこちら側に戻ってきた訳だしな」
『それをこの場でこちらに言う君を褒めたものか、呆れたものか。
……いや、さすがの胆力と褒めておこう。
まぁ、今回のこれを引き起こしたのは聖地で、聖地の責任とも言える状況だ、好きにやり給えよ。
……それと報告だ、あの者に力を貸し与えている聖地に対する制裁決議が今行われている。
やり過ぎたというやつだ、決議が終わり次第、かの聖地は解体されるだろう……もうこの悲劇は起こるまいよ。
だから……さぁ、最後の悲劇を止め給えよ』
「……聖地から見放されたらアレはもうただのモンスターだろうな。
ならこれはモンスター退治か……」
そう言って気を引き締める。
改めて戦斧を握り直し……久しぶりだと覚悟を決めてモンスターへと向かって歯車を進ませる。
同時にモンスターも動き始める、しっかりと大きく長い腕が生えてようやく準備完了ということなのだろう。
しかし先程のような鋭さは感じられない、ふらふらしていると言うか力が入っていないと言うか……熱にうなされて何も見えない状態で歩いているかのような、そんな状態だ。
……もしかしたら聖地からの支配? あるいは援護? のようなものが切れたのかもしれない。
自分の体を取り戻して、しかしもうモンスターになっていて、それでもこちらを殺そうとしているのか拳だけは振るってくる。
刃まみれで、かするだけで確実に殺されてしまうような拳を全力で。
最早言葉もなく、それを大きく避けた私はモンスターの背後に回り、背後から首筋を狙って戦斧を叩きつける。
鎧と兜に防がれるが、しつこく背後に張り付いて二度三度と。
するとモンスターは殺される恐怖からか、両手を振り回して、ただただ宛もなく振り回して暴れ始める。
それでも私は攻撃をし続け……何度それを繰り返したか、鎧とヒビが入り始めたところでモンスターは動きを失い、力を失い……飛ぶ力も失ったのか、地面へと向かって落下していくのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は更にこの続きとなります
アニメは先行では8話
火付け杖が大活躍!!!
7話ではちょっとしたオマケ要素も
これからご覧になる方はご期待ください!!




