王都
港町から王都まではそこまで遠くはない。
途中に関所や砦があって、そこで足止めをされたなら簡単にはいかない道のりとなるが、どこも無人……関所や砦の周辺にある家々や、ちょっとした小屋、畑や牧場なんかも無人で、それでいて何故だか家畜などはそのまま。
家畜は食料でもあるし財産でもある。
世話係を残しておけないのであれば、どこに行くにしても……いや、遠出であればある程連れていくものだが、どういう訳だが放置されてしまっていて、砦なんかよりも家畜達の世話で時間を取られることになってしまった。
家畜の世話は皆手慣れているが、何しろ数が多くて手が回りきらず、そのまま放置する訳にもいかないので世話を終え次第、港町まで連れていくことになり……総出で家畜小屋や放牧場を用意することになった。
いっそ船で持ち帰ったり、肉にして食べてしまったりしたかったが……流石にそれをやってしまっては家畜泥棒になってしまうので世話をするだけ、この事態が落ち着いたら元いた場所に返してやることになる。
その際に世話代ということで家畜、または代金を受け取ることはあるかもしれないが……今この段階での手出しはできないだろう。
その代わりという訳ではないが、放置されている畑には結構な数の獣が群れていて、それを狩ることで十分な肉を確保することが出来た。
……その畑の作物に関しても泥棒と言えば泥棒なのだが、放置していても獣に食われるか枯れるばかり、こちらも代金を置いていく形でいくらかを収穫させてもらった。
ただ失うよりは、売り物になった方が畑の主も嬉しい……はずだ。
そんな形で行ったり来たり、何度も港町に戻りながら少しずつ前進していって……王都に近付けたのは数日が過ぎてからだった。
王都に近付く程、街道が立派になり、休憩所などが増えて、旅人狙いの宿や商店も見かける。
しかしそのどれもが無人……本当に人の気配すらなく、人で賑わっているはずの王都の付近でもそんな有様だった。
……それどころか、王都の近くには無人の馬車までが存在していた。
道端に馬ごと放置、馬車に繋がれたまま放置というのは馬にとってそれなりの負担だったようで、中には弱ってしまっている馬もいて、大慌てで世話や治療が行われることになった。
アルナーと、慌てて呼びつける形となったゾルグ、鬼人族達に中心となって世話をしてもらい……幸いにして命に関わるような状態、怪我の馬はいないようで、半日程で全ての馬の面倒を見ることが出来た。
その日はそのままそこで野営……野営をする中で、誰もが同じ疑問を抱き、なんとも言えない気分で王都を囲う城塞を眺めることになった。
馬車の主は一体どこに行ったのか? どこかに行くとしてどうして移動手段である馬車や馬を置いていったのか?
どこもかしこも無人というだけでも異常なのだが、馬車や馬を放置してどこかに行くというのは異常であり理屈が通らない話で、抱いていた不安を大きくしてくる。
アルナーもゾルグも、メイゾウもニャーヂェン族も同様のようで、皆あまり眠れなかったようだ。
……私はまぁ、野営もそういった不安も戦争中に慣れていたのでぐっすりと眠れて、翌朝。
ゾルグ達には馬達と一緒に港町に戻ってもらって、予定通りの少数精鋭で王都へと入ることになった。
王都を囲う城塞には当然ながら門がある。
大小様々……その用途に合わせて何箇所にもあるのだが、その全てが開放状態で、それは昨日から変わらない。
……折角の立派な城塞が、これでは全く意味を成していない。
こんなことになれば盗賊だの何だのが王都を荒らしそうなものだが……今まで見てきた家々や、畑、牧場もだが盗賊が荒らしたような気配はない。
そういった連中までもがいなくなっているんだから、本当に尋常ではないなぁ。
そんな城塞の門の前に立つと、ずっと足元をウロウロしていた大トカゲが私の鎧を這い上がってくる。
そのまま鎧に巻き付き、まるで鎧の一部になったかのように全身の色を変えて金属のようになり、動かなくなる。
『この鎧も聖地の産物、ゆえにこういったことも可能という訳だ。
こうして同化し、擬態していれば、他の連中に気付かれることもあるまいよ。
少しばかり異様な意匠になってしまうが、これも一つの加護と思って受け入れ給えよ』
そして大トカゲの声が鎧から響いてくる。
……そう言えばオリハルコンも大メーアから貰ったものだったか。
それを受けてか炎猫もその形を変え始める。
アルナーは鎧を着ていないので服と同化……ではなく、炎のように真っ赤な毛皮のマントに変化していく。
……初めて見る格好になるが、異様に似合っているなぁ。
「似合っているなぁ、普段からマントをしても良いんじゃないか?」
私がそう言うとアルナーは、いつになくご機嫌となる。
「神々の加護を受けただけでなく、それに似合っているとまで言われると、流石に照れるな」
そう言ってくるりとその場で回転し、マントを見せびらかし……それから改めて弓を手に取り、構えを取る。
ソマギリを始めとしたニャーヂェン達は、布で目と耳以外を覆っていて表情は見えないが、それでも覚悟を決めた顔となりそれぞれ短剣を抜き放つ。
メイゾウもまた私の肩の上で針を構えていて……問題ないと頷いてくる。
ならばと私も頷き、王都に入っていく。
どこから入っても良かったのだが、一番大きな通りが貫く大門を、以前王都に来た時に通った道をあえて進んでいく。
王城までまっすぐに伸びた大通り、石畳一枚一枚にまで彫刻がされていて、どの彫刻も削れていないことから、頻繁に交換されていることが分かる。
その左右には見栄えを優先しているらしい家々が並び、どれも背が低いが丁寧かつ豪勢な作りになっている。
その奥には背が高い家が、更に奥には更に高い家が……王都の家々は、その一軒一軒までが計算された作りになっているらしい。
そしてやはり無人、まるで気配がしない、私とアルナーが大通りを進む間にニャーヂェン達が手早く近くの家々や、大通り沿いで商売をしていたらしい屋台などを調べていくが、やはり人の気配はないようだ。
そうやって大通りを進んでいくと、いくつかの大きな建物が見えてくる。
正面に王城、左に大神殿、右にはいくつもの役場や立派な施設があり……どんな役割の施設なのだろうかとなんとなしに見やっていると、大神殿から異様な気配が漂ってくる。
思わず足が止まり、警戒をしてしまう。戦斧を構えて戦闘態勢まで取ってしまう。
それを受けてアルナーも足を止めて、異常を察知したニャーヂェン族達も集まってくる。
しかしアルナーもニャーヂェン族達も、メイゾウもその気配を感じ取ってはいないようだ。
私の様子がおかしいから警戒しているだけで、私がどこを警戒しているかも分かっていないらしい。
『……なるほど、あの気配……無人の理由も察せたな。
つまり周囲の人間全てがリチャードとやらと同じだ、あの神殿にあるだろう聖地の仕掛けか、神器かで操られている。
操ってどこかに動員したのだろう……そして現状を考慮するに、動員した先は戦場と思われる。
市民全てが兵力となれば、君の友人は苦戦することになるかもしれない。
……まぁ、操り人形となった人間がどれ程の戦力になるかは疑問が残るがね』
そして鎧から声が響いてくる。
……その意味をハッキリと理解出来た訳ではないが、王都周辺の市民全員が兵力にされたということは分かる。
とんでもない話だ、全くの無人ということは老人や子供、赤ん坊まで戦場にということだろうか?
……子供と赤ん坊だけは、そんなことにして欲しくはないが……もしそうなら……。
そう考えて怒りを抱いて戦斧を握る力を強めていると、またも鎧から声がする。
『流石にそれはなかろう、どこかで保護し……ついでに人質にしているという方が納得出来る。
こと聖地はそういった機能に優れているのでね、安心し給えよ。
もし仮に子らを犠牲にしていたのであれば、他の聖地に情報を伝達し、相応の制裁が加えられるだろう。
それでは連中の狙いも果たせないはず……つまりはまぁ、安心し給えよ』
そう言われて安堵する、力を緩めてしかし警戒を解かず……そうして王城ではなく神殿へと意識を向けて、そちらの調査をすべく足を進めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は神殿調査です
そしてお知らせです
アニメPV第三弾が公開となりました!
https://www.youtube.com/watch?v=5JpTU6wj_-g
新キャストと放送日も公開に!
■放送情報
TOKYO MX 7⽉10⽇より毎週⾦曜 22:30〜
MBS 7⽉11⽇より毎週⼟曜27:08〜
BS朝⽇ 7⽉12⽇より毎週⽇曜23:00〜
AT-X 7月14日より毎週火曜23:00〜
※リピート放送 毎週木曜 11:00~/毎週月曜17:00~
■配信情報
Prime Video 7⽉3⽇より毎週⾦曜⽇配信
となります!
また他の中継放送などの影響で放送時間が変更になることもあるそうなので、当日に公式ツイッターなどをチェックしてください
いよいよ放送が近付いてきました
既に私は楽しませていただきましたが、素晴らしい出来になっていますので、ぜひぜひチェックしてみてください!
また放送開始の際には外伝集で何かやりたいと考えていますので、そちらにもご期待いただければと思います!




