それぞれの状況
登場キャラ紹介
・ジュウハ
人間族、男、マーハティ軍の軍師、自称王国一の兵学者で、被害が少ないことを第一とする
・ゴードン
人間族、男、元傭兵の現騎士、かつてはディアーネの下で働いていてリチャードに見出された出世頭
・ナリウス
人間族、男、ギルド所属の密偵、本来はギルド所属だがいつの頃からかリチャードに心酔し、直属の部下に
――――とある平原で マーハティ軍
それはふいの遭遇だった。
両陣営が両陣営の動きを読み間違えた結果とも言える。
エルダン率いるマーハティ軍は急に動きを見せなくなったメーアバダル軍の情報を少しでも集めようと南下し、リチャード率いる王軍はメーアバダル軍に荒らされた拠点の立て直しとメーアバダル軍の捜索のために南下し、東西に布陣していた両軍が、まさかそこに敵軍がいるとも思わず、油断混じりの南下をしての遭遇だった。
しかし理由はどうであれ、今後の覇権を争っての戦いである以上、敵軍に何もせずに退く訳にはいかず、かといってここで勝っても旨味はないと積極的にもなれず……そうして両軍は望まない膠着状態を作り出すことになる。
それでもどちらかが勇気を出せば本格的な戦闘となったはずだったが、ジュウハはそういった勇気を無謀と評し、リチャードはただただ教本通りの指示を出すばかりでそうはならない。
だがどんな軍にも血の気の多い者がいるものだ。
軍である以上、そういった者がいなければ話にならないとも言える、手柄を求めて名誉を求めて、あるいは戦闘そのものを求めて、膠着した戦場にあって動いてやろうと画策する者達もいた。
そういった者達は勝手に陣地を前進させたり、あるいは毎日のように上申をしたりして戦端を開こうとするが……ジュウハは手慣れた様子で完璧な対応をし、リチャードは冷淡な反応を返し罰則を与えることで大人しくさせていく。
そんな状況を崩したのはマーハティ軍、西軍側だった。
新月の深夜、暗闇に強い獣人達が集まり、勝手に夜襲部隊を編成……ジュウハが特に事務処理で忙しい時期なのもあって対応が遅れて、気付いたのはジュウハの直属の部下となっていた、大耳跳び鼠人族達だけであった。
「……止めるのか? 止めるか?」
「いや、教わっただろ、こういう時は報告だ、報告!」
「難しいことは全部偉いモンに任せて仕事だけしてりゃ良いんダ!」
なんて会話を小声でしながら駆け出して、ジュウハの陣幕へと報告に向かう。
そうして鼠人族からの報告を受けたジュウハは、慌てずに静かに指示を出し……敵軍に備えての布陣を開始するのだった。
――――一方その頃 東軍側
当然ながらかがり火や夜警、防柵などで夜襲に備えていた東軍だったが、それはあくまで人間族の軍隊を想定してのものであり、獣人族の軍隊からの夜襲を一切想定していなかった。
たとえばジュウハならばその鼻を潰すために、香辛料や毒草などを焚いていただろう、かがり火をこれでもかと焚いてその夜目を潰していただろう。
ディアスだったならば夜襲を受けるのではなく、逆に奇襲を仕掛けて自分の得意な戦い方に持ち込んでいただろう。
その際に強烈な一撃を見せることで、力の強さの優劣を特に重要視する獣人族の心を折っていたに違いない。
しかし東軍は完全な後手に回り、獣人族に先制の一撃を許してしまう。防御や体力維持のことを一切考えない捨て身とも思える一撃を。
その手には獣人国で作ったとされる獣人用の武器が握られていて、少しずつではあるが始まった交流の中で、彼らは彼ららしい戦い方を獲得していた。
その膂力に合わせての巨大な武器や、前傾姿勢で駆ける際に背負って振るうための曲剣、両手両足に装着する鋲付きの防具、牙や爪を保護し強化する装備などなど。
身につけたそれらの装備をかがり火の明かりで輝かせながら、駆けて跳び迫ってきて仲間を斬り裂いてくるという恐怖は凄まじいものだった。
東軍は東軍で、モンスター狩りドラゴン狩りの経験があり、それなりの豪胆さがあり、モンスターと似た攻撃とも言えるそれに対し恐怖に耐えながらの迎撃を行えた……のだが、そもそもとして迎撃自体は間違いであり、あっという間に被害が出てしまう。
まず舞ったのが血飛沫で、次に肉片で、モンスターの群れに押し負ける際の典型的な形となったことで士気が崩壊し始め、モンスターの襲撃だと勘違いする者まで出てしまう。
そうして巻き起こる混乱……獣人族にはその身体能力相応の体力を消耗してしまうという弱点があり、じっくり長期戦に持ち込めば勝機があったのだが、それも出来ずの混戦となり、気付けば大損害と言って良い被害を出してしまうことになる。
日が昇り朝を迎える頃に、ようやく東軍はその被害の大きさを認識したリチャードと陣営はどこまでも冷静だった。
報告を耳にしても驚くことも慌てることもなく、次どう動くかという方針をすぐさま決定。
間を置かずに陣払いをしての北上を開始し、逆襲してくるものと準備を進めていたジュウハの予測を大きく外れて、見事な撤退を成功させるのだった。
――――陣幕の中で東軍の北上を見送りながら ジュウハ
予想を外しはしたが、だからと言って焦って追撃はすべきではないとジュウハは東軍の北上を静かに見守っていた。
追撃をしたがるような血気盛んな連中は、勝手な夜襲に関しての叱責をエルダンからこれでもかと受けていたので特に意見をすることなく、陣幕の中で状況の報告を淡々と行っている。
夜襲をした面々はてっきりジュウハにこそ叱責されるものと思っていたのだが、そうした気配は一切なく……どうしてなのか? という視線を一身に受けてジュウハはため息を吐き出してから口を開く。
「結果を出しているんだから余計なことは言うつもりはない。
独断は問題だが結果は上々……今後の戦況にも好影響を与える良い一撃だった。
欲を言えばより残虐に殺し、その死体を見せしめにして欲しかった所だ。
……死者に敬意を払えと言いたげな顔だがな、死んだ者の尊厳で以降の戦死者が減らせるのであれば、その命の方が尊いというものだろう。
何よりも俺様は軍師だ、軍師が勝利を優先出来なくなったら店じまいだろうよ。
悪行の悪名は俺様が背負っていくから気にするな、暴れた後は俺様の策だったとそう言えば良い」
今回の件もジュウハは黙認し、エルダンは叱責した。
そうしておけば誰もエルダンの考えだとは思わないだろう、冷酷な策を好むジュウハの考えだと思い込むはず。
そんなジュウハの言葉を受けて、陣幕内に集まった各氏族長の長達は、驚きと好感の入り混じった視線をジュウハに向ける。
「よせよ、気持ちわりぃ。
モテるんなら女にモテたいねぇ、俺様は」
そう言ってからジュウハはまた視線を東軍へと戻し……そして遠眼鏡を構えてその様子をつぶさに観察し、敵軍の陣容をしっかりと記憶していくのだった。
――――北上後の東軍陣地内で ゴードン
傭兵から騎士となり、王国正規軍の一軍を預かるまでに出世したゴードンは、最近のリチャードの指示の不可解さに違和感という言葉では済まされない何かを感じ取っていた。
最初は何もかもが的外れだった。
合理さからかけ離れ、時期を外し機会を逃し……何をしたいのかが分からないものばかりだった。
だが、それが段々と修正されていき、今や指示の全てが合理的で、戦況をよく理解しており、時折天空から全てを俯瞰しているのかと思うような凄まじい神算鬼謀さを見せることもあったのだが……どこか無感情で。
人を良く理解し、良くも悪くも感情的なリチャードがそんな指示を出すとは思えないゴードンだったが、しかし何かを言うこともすることも出来ず、現場を預かるものとして懸命に働き続けていた。
今回の北上も見事だった。
撤退戦でここまで見事に被害無しというのは驚嘆するしかない。
しかし不可解で疑念が消えず……モヤモヤとしていると、いつの間に近付いてきていたのか、1人の男がゴードンの目の前に現れる。
一瞬で警戒し鞘へと手をやり、攻撃するかの判断をし始めるゴードンだったが、その顔が見知ったもの、リチャードの直属の部下であるナリウスだと気付くと、いくらか警戒を緩めつつ口を開く。
「何の用だ?」
すると深刻そうな表情をしたナリウスが、少しの躊躇をしてからゴードンに、今本陣で……リチャード達に何が起きているかを口にし始める。
それを受けて目を見開いて驚愕したゴードンだったが、その話には納得できる部分が多くあり……そうしてゴードンはナリウスの協力者となって、その事態に対処していくことになるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は鬼人族の村やら何やらの予定です




