イルク村の今
登場キャラ解説
・セナイとアイハン
森人族の女性、双子、ディアスの養子であり、現時点での公爵位継承者、木を操る魔法を少し前に覚えた
・エグモルト
人間族の男性、ダレル夫人の夫で学者、突飛な発想と奇怪な研究が特徴的だが、高い知性から次々に有用なアイデアを思いつく
・ピゲル爺
人間族の男性、一応は謎の人物、羊飼い、実は王様
セナイとアイハンは木を操る魔法を使うことが出来る。
正確に言うのなら木を動けるようにする魔法であり、その魔法を受けた木は自らの意思でもって動いて戦ってくれるらしい。
なんともとんでもない話だが、森人にしか使えないその魔法のことを聞いて、エグモルトはこんなことを言い出したそうだ。
『わざわざ大きな木を動かす必要はないのでは? 地面が掘り返されたり森にダメージもあるでしょうし、無駄が多すぎます。
それよりも放っておけば枯れるような苗木にチャンスを与えた方が、お互いにとって利となるはずです』
森の苗木の多くは、他の植物との競争の中で枯れてしまうものらしい。
日光が足りなかったり、動物や虫に食べられたり、そもそも土に根付けなかったり……木には木の生存競争があるそうだ。
……そんな苗木を動けるようにしてやって、こちらの仕事を手伝ってもらうついでに新しい生活の場、畑や草原、荒野の水源近くへと案内してやれば、ついでに植林まで出来るという、一手で多くの利が得られる結果になるとのことだ。
暇な時にはセナイ達に様々なことを教える教師となっているエグモルトは、魔法にもそれなりに詳しいらしい。
更に自然にも詳しいからか、そんな発想が生まれたようで……早速セナイ達はその案通りに行動を始めたようだ。
森に向かって枯れそうな苗木に魔法をかけて、草原に連れてきて……関所を解放したことで行き来をしている商人達を見張らせたり、狼なんかを追い払わせたり、怪しい動きをする者を監視させたり。
大きな木はその分だけ力が強く、戦力になるのだが……戦力ばかりいてもしょうがないのでそちらは最低限にし、苗木を主として運用しようということのようだ。
多くの犬人族やニャーヂェン族が戦地に向かっていて、不在がちの今だからこそ生きる案なのだろうなぁ。
そういう訳で今のメーアバダル草原には、森から出てきてイルク村まで駆けてきて、そこから南下して荒野に向かい、良さそうな落ち着き先を探す苗木の列が出来上がっていて、荒野には結構な規模の苗木畑が出来上がっているんだそうだ。
それらの管理のためにセナイとアイハンは森とイルク村、それと荒野を何度も行き来しているようで……その役に立っているのが、ドラゴントロッコと呼ばれる新しいトロッコと、洞人族達が作り出した線路という道だった。
ドラゴン素材を魔力で伸縮させ、その動きでトロッコのハンドルを動かし車輪を回す。
魔法の天才であるセナイとアイハンがそれを動かすとかなりの速度で動くことが出来て、時にはいくらかの荷物を運んだりもしていた。
トロッコで疾走するセナイとアイハンと、それを追いかける走る苗木。
それは商人達のことをかなり驚かせたようだったが……今ではすっかりと慣れたようで、名物の一つのような扱いを受けているそうだ。
同時に防犯にかなりの効果を上げているようだ。
苗木には昼も夜も関係がない、そもそも目がない、暗闇だろうが全く問題なく走り、近くにいる何者かを感知することが出来る。
それが無数に走り回っている中で、罪を犯そうなんて馬鹿はでないのだろう、私達がいなくてもメーアバダル草原は平和なままだったようだ。
平和なまま商人が行き交い、活発に商売が行われて……ゴルディアやエリー達が上手く仕事をしてくれて、少しずつだがイルク村の様子も変わりつつあった。
物が豊かになったと言うか、木材や石材、工芸品などが集まり、新たな建築もそこかしこで始まっている。
今は戦時であり、戦時では食料や武器防具といった物資の価値が上がり、それ以外の品の価値が下がる傾向にあるそうだ。
人手不足になるのだから生産力が下がってどの品も価値が上がるはず……と、思いきや、戦費調達のためにと各地で生産力が上がっているとかで、在庫となっていた品々も積極的に売りに出されているらしい。
木材や石材もそれはそれで攻城兵器や砦を構築するための物資なのだが、今の状況的にそこまで需要がないとかで値下がりが起きていて、それらをゴルディア達は今が良い時期と積極的に買い集めているようだ。
そしてその司令塔となっているのがピゲル爺で……ゴルディア曰く、ピゲル爺には見えない物が見えすぎていて、ゴルディアでも敵わないらしい。
現地に足を運んだ訳でもないのに物の流れや需要の変化を読み切って、完璧なタイミングでの売り買いを指示しているとかで、商人とは全く別の視点を持っているらしい。
そんな状況にアルナーはご機嫌だった。
村が大きくなることも嬉しいし、皆が飢える心配がないのも嬉しいし……最近領民が一気に増えたりした訳だが、それでも全く不安にならずに済むというのは、たまらない喜びであるようだ。
人数が増えたということは、それだけ働き手が増えたということでもあり、これからますますイルク村は盛り上がっていくのだろうなぁ。
……と、広場でセナイとアイハン、そしてアルナーや他の面々からの話をまとめると、そんな状況にあるようだった。
私達がいなくても全く問題なし。
自立してくれたと言うか、勝手に動いてくれるようになったと言うか……もうそろそろイルク村も町とか街とか呼んで良いのかもしれないなぁ。
なんてことを考えていると、説明のためにセナイとアイハンが苗木達を連れてきてくれる。
枝も葉も小ぶり、私の膝丈かそれ以上の高さの背丈で、根も弱々しいのだが、セナイとアイハンの魔法で強化されたことで、それでもどうにか歩くことが出来るらしい。
このまま森に居続ければ枯れてしまう弱々しい苗木達だったが、たっぷりと魔力を浴びた上に、メーアバダル草原の遮るものがない日光と小川の水をたっぷりと吸収したことで、いくらかの強さを取り戻していて……セナイとアイハンの周囲を元気に駆け回っている。
「なるほど……これが見張りをしてくれているのか。
しかしアレだな、初めて目にした時は驚くやら気味悪いやらで怯むかもしれないが、見慣れたものからは簡単に攻撃をされてしまうかもしれないなぁ。
苗木では攻撃手段もないのだろうし……その辺りの安全のことも考えないとだな」
しゃがんで苗木に視線を近付けながらそう言うと、セナイとアイハンが元気いっぱいな声を返してくる。
「大丈夫だよ、毒とか棘も強化してるから」
「はっぱのひょうめんの、うぶげもきょうかしてるから、さわるとザリッってなっちゃうよ」
そっと手を伸ばそうとした所でそう言われて、思わず手を引っ込める。
「……毒はまぁ、分かる、毒を持つ葉もあるからな。
棘や産毛というのは、どういうことなんだ?」
「えっと、そういう木もある!」
「うん、ぜったいにさわっちゃだめなのとか、ちかづくだけでだめなのもある」
説明にはなっていないが、真っ直ぐなセナイ達の目を見るに本当のことなのだろう。
小さく弱々しい苗木だと侮って手出しをしようとすると、そういった報復が待っているという訳か……。
「……村の皆、特に犬人族達に触らないように注意しておかないとだな」
私がそう言うとセナイ達は、
「もう言ってあるよ!」
「うん、だいじょうぶ、はなとかであぶないってわかるみたいだし」
と、そう返してくれて……私はとりあえず安心したと小さなため息を吐き出し、改めてそこらを駆け回る苗木達へと視線をやって、その様子をゆったりと眺めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、イルク村のあれこれです




