その後のあれこれ
それから獣王との会談は無事に終わり、翌日の記念パーティへの出席を約束した上で、エリー達は下城をし……ペイジンの屋敷へと戻り、すぐさま話し合いの場を設けた。
エリーもジュウハも色々と話し合いたいことがあった……が、まずはこの問題からということで、檻を開いて中に閉じ込められていた鼠人族を解放し、ペイジン家に頼んで信頼出来る医者を用意してもらっての診察をしてもらい、それから軽い食事と茶を用意して人心地ついてもらうことにした。
鼠人族は特に何かを言うでもなくそれにただ従い……食事を終えて茶を飲み終えた所で、ようやく顔を上げ、エリーに向けて感謝の言葉を口にする。
「見知らぬ相手にここまで……本当にありがとうございます。
人生の最後にここまでの心尽くしを頂き、感謝の極みです。
もう心残りはなく、どんな処分でも受け入れる心構えです」
「ちょっ……待って待って、処分とかしないから。
私が陛下に好きにすると言ったのは、こちらの判断で貴方を自由の身にしても文句言ってこないでよって意味だから。
……メーアバダルでは、奴隷もそういうのも厳禁なの、全ては貴方の自由……貴方が望むのであれば故郷に帰ってくれても良いし、メーアバダルに来てくれても良い、メーアバダルだけでなく隣領のマーハティに行ってもらっても良い。
貴方の好きにしてもらって良いの……この場は貴方の希望を聞いて出来る範囲でそれを叶えるための場だと考えて頂戴な。
うちでは大耳飛び鼠人族の女性が領主の参謀として活躍しているし……貴方のような人材を心から歓迎しているのよ」
そんなエリーの言葉は全く予想もしていなかったのだろう、ハツカネズミを思わせる顔をした鼠人族の男性は、しばらくうつむき悩み……それからエリーに言葉を返す。
「……そういうことであれば、まずはメーアバダルに。
その先の話はメーアバダルにて行いたいと思います。
……今はただこの体を休めたいと思います。
ああ、名乗るのが遅れました、メイゾウと言います、よろしくお願いいたします」
そう言われてエリー達も名乗り……同時にメイゾウが話を先送りした理由を察する。
獣王の支配下であるここでは必要以上のことを語りたくはないのだろう、迂闊なことを言ってしまって騒動を起こしたくないと、そう考えているようで……こんな状況にありながら冷静かつ知的な人物であるようだ。
(エイマちゃんと言い、鼠人族の中には一定の確率でこういう方が現れるものなのかしらね?
……まぁ、余計なことを言うつもりもするつもりはないのはありがたいわ。
それならば次には……)
と、言うことでエリーとジュウハと、ペイジン家代表ということでペイジン・ドと、見学のメイゾウを含んでの今日の会談についての話し合いが始まる。
エリーが獣王についての所感を述べると、ジュウハとしても全く同じ考えのようだ。
国内を意図的に乱している、完全な平和を望んでいない、王都だけ……もっと言うのなら、自分の一族と、自分が認めた優秀な一族だけの繁栄を主眼に行動をしているのだろう。
キコやヤテンはその目に叶って優遇されていて、キコ達もまた獣王を評価しているが、他の種族はそうではない。
エリーは勝手に、多種族国家なのだから当然多種族に配慮した運営をしているものと考えていたが……どうやらそうではないようだ。
ではどういう運営なのか? どういう国なのか? その答えを求めてジュウハに質問を投げかけてみると、こんな答えが返ってくる。
「……情報が少なすぎて断定的なことは言えないが、仮説を立てることは出来る。
あくまで仮説だが……あの王は独立独歩を求めているのかもな。
それぞれの種族で独立した運営をして、研鑽をして、自衛を出来る程度になれと促し……王とはそれらの集団をまとめあげるだけで、面倒を見る訳ではない。
王国という敵を前に連合しているだけで、あくまでお前達は違う種族、違う文化圏の者として突き放している……と、いった所か。
逆を考えてみよう、一つの国家として全てをまとめ上げたらどうなるのか、全ての種族を愛すべき民として扱ったらどうなるのか。
体の大きさが違い、能力が違い、生き方や文化、住まう環境まで違う。
当然軋轢が生まれて衝突が起きる……それらの解決に手間をかけるのなら、最初から別のものとして扱った方が手間が少ない……のかもな。
俺様としちゃぁ、その違いこそを利点として協力し合うことで単独では生み出せない価値を生み出すべきと思う訳だが……王国との関係や血無しという社会問題もある中で、そこまでは出来ねぇってこと……なのかもな。
もちろん他にも色々と考えてはいるんだろう……が、その全てを理解するには、この国の文化と歴史、各種族の文化と歴史、ついでにあそこに並んでいた連中のことも知らなきゃぁ結論は出せねぇな。
……あいつらが何かやらかしたり、獣王の癇に障るようなことを言ったりした連中だと仮定した場合、連中に何かを見せつけるための、お芝居だったって可能性も否定は出来ねぇからなぁ」
「……なるほど、そういう可能性もあるのねぇ。
ならまぁ……これ以上この場であれやこれやと考えても仕方ないのかもね。
……それでジュウハさんは今後どうするおつもり? 獣人国とどうお付き合いをしていくおつもりなのかしら?」
と、エリーが返すとジュウハは、アゴを撫で回してから言葉を返す。
「さぁてね……それはエルダン様がお決めになることさ。
俺様はただありのまま報告して判断を待つ、それだけよ。
あの方に仕えると決めたからには、それ以上に出しゃばることはしねぇし言わねぇよ」
「……なるほど。
メーアバダルとしては、あんまり良いお付き合いはできそうにないわねぇ。
もちろんそちらのようにお父様にお伺いは立てるけども……聞かなくても分かることってあるから。
……ただこのままでは帰れないから、するべきことは明日にしておくけども」
「お、おいおい……あんまり変なことはしねぇでくれよ? 仕事を終えた以上は生きて帰らないといけないんだぞ、こっちは」
「そんな悪いことはしないわよ、何もかもこっちの思い通りで申し訳ないから、ちょっとだけ贈り物をするだけよ。
友好を示す明日のパーティに相応しい贈り物よ。
メーアバダル神殿から頂戴した、血無しの仮説に関する書類をお渡しするだけ……血無しの解決は悲願でしょうからきっと泣いてお喜びになるわよ」
「……ああ、なるほど。
そのくらいの意趣返しならこっちから何かを言うつもりはねぇな。
好きにやってくれ……なんだが、その前にメイゾウ殿をメーアバダルに送って差し上げた方が良いだろう。
どうやら体調も優れないようだし、いち早くメーアバダルの地での静養が必要そうだ。
そちらの手の者を使えばメーアバダルまであっという間だろう?」
仮説の内容を知っているジュウハは、エリーの思惑を理解したようで……そう言ってメイゾウのことを見やる。
メイゾウは一体何の話です? 体調に問題はありませんが? と、表情でそう表現しながら小首を傾げていて……そんなメイゾウを見てエリーは、力強く頷き、言葉を返す。
「えぇ、えぇ、全くその通り、先程のお医者様もそんなことを言っていたような気がするわね。
同行した者達と一緒に今日中にメーアバダルに向けて出立していただきましょう。
陛下からは好きにして良いと言われておりますし、特に問題にもならないでしょう」
そんな言葉を受けて……ずっと黙って話を聞いていたペイジン・ドは首をこれでもかと傾げる。
2人の言っていることがよく分からない、ずっと分からないことばかりを言い合っているが……兎にも角にもメイゾウをメーアバダルに戻す必要があることだけは理解した。
それを受けてペイジン・ドは家の者に命じ、離れで待機していた、エリーと共に獣人国へとやってきていた一行に連絡をする。
するといつでも帰還出来るようにと準備をしていたのだろう、すぐさまメイゾウを護衛するための人選を行った上での、帰還のための編成が行われ……必要な物資も買い込んであったのだろう、あっという間の出立となってしまう。
それはペイジン家の側の準備が間に合わない程で……結局、一番融通の効くペイジン・ドが大慌てで同行することになってしまう。
そうやってペイジン家の屋敷から去っていく一行とペイジン・ドのことを見送ったエリーとジュウハは……明日のための、ちょっとした意趣返しのための準備と打ち合わせをするために、部屋へと戻ってあれこれと……夜が更けるまでの話し合いを行うのだった。
――――自室で 獣王
全くどいつもこいつも分かっていない。
城の最上、城下町を見回す城主の部屋の、窓際に腰掛け城下町を見下ろしながら、獣王はため息を吐き出す。
こんな国、他にどう統治しろと言うのか、あの象人族達ですら統治しきれず失脚したのに種族として劣る自分にどうしろと言うのか。
象人族の王の失脚を受けて獅子人族の王に出来たのは、大慌てで軍を編成し武威を示すことだけ。
それしか出来ないがために必死になって暴れまわり、どうにか諸侯を納得させて王となったが……それ以上のことなど出来るはずもなく、国は揺れるばかりだった。
それからも獅子人族達は最善は尽くしてきた、優秀な人材を集めて徳のある政治を行おうとし、どうにか一つの国としてまとめ上げようとしてきたが……無理だった、ただでさえ多種族が混在してしまっていると言うのに国土が無駄に広すぎる、王の目が届く範囲を超えてしまっている。
遠からず獣人国は分裂することだろう、大乱の末にそうなるか平和的にそうなるかは分からないが、それは避けることが出来ないはずだ。
そうなった時にせめてこの王都だけは、自分のお膝元だけは守ってやろうと手を尽くしてきて……そしてその時はもうすぐそこまでやってきているという確信がある。
その時に巻き込まれて殺されるのはごめんだ、そこまでしてやる義理はない、自分と王都だけは守ってみせる。
……その時に、かのメーアバダル公は一体どうするのだろうか?
割れた国のうちのいくつかの地域はメーアバダルにつくかもしれない、そうなったら今度はメーアバダル公が自分と同じ悩みを抱えることになる。
異なる種族、異なる血と文化、その軋轢をどうしていくのか……どうやってまとめ上げていくのか。
自分と同じ道を辿るのか、それとも自分には見つけられなかった道を見つけるのか……。
「……メーアバダル公が東から睨みを効かせてくれるのなら、あるいは維持できるかもしれんがなぁ……。
どこかで失敗してくれたなら良かったが、次から次へと成功しすぎて……今更呑み込めんよなぁ」
と、そんな独り言を口にした獣王は……参議達の顔を一人一人思い出していく。
参議達はそんな現状をよく理解した上で、それぞれ頑張ってくれている。
ヤテンはそれでもどうにか国をまとめようとしている、キコは他国に何か良い手が、良い人材がないかと動いてくれた、他の参議達もそれぞれ自分達なりの答えを求めて動いている。
だけども結局は無理だった、間に合わなかった。
……その答えを神々に愛されているメーアバダル公なら出すことが出来るのか、どうにかすることが出来るのか。
神々が何故自分ではなくメーアバダル公だけを愛するのか、その答えを含めてこの地から……いつかその日が来たなら、その時は楽しませてもらうぞと、そんな想いを東の地に送った獣王は、手にした酒瓶を煽り……また城下を見下ろし、さて、まず明日だ、明日は何が起こるのかと静かに心躍らせるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は祝いの場でのあれこれとなります。




