それからのあれこれ
登場キャラ、用語解説
・婆さん達
人間族、女性 マヤ チルチ ターラ セリア アリタ チーマ、ピソン、ジメチ、スーク、ヒィァ
それぞれ得意なことが違う。
・大メーア
メーアバダル草原に住まう? 神様、巨大なメーアの姿をしていて、その角はドラゴンをあっさりと砕く
・ダレル夫人
人間族 女性 教師 王都からやってきた頼れる常識人、ディアス達貴族とその家族の教育係
・フェンディア
人間族、女性 神官 ダレル夫人と共にイルク村にやってきた、意外としたたか
黒ニワトリ達が神殿やイルク村、東側関所へと運搬されていって、そして西側関所では洞人族による飼育小屋の建設が始まった。
一応神様からもらったものということで、関所内部の領兵達の休憩所に一番近い、安全な所で飼育することになり……世話も領兵達が行うことになった。
普段はその飼育小屋で過ごしてもらい、晴れた日には畑に連れていって放牧……餌はまぁ、ガチョウの餌の流用でなんとかなるようだ。
黒ニワトリはどうやら黒い以外は他のニワトリと変わらないようで、世話に関しての問題は特に無いようだ。
無いどころか普通のニワトリよりも静かというか、あまり鳴かない特徴があって、世話をする側からしたらありがたいばかりだろうなぁ。
早朝にはどうしても鳴いてしまうのだけども、イルク村も関所の皆も早起きで、日が昇る頃には動き出しているから問題は無いだろう。
そして血無し達。
とりあえずしばらくの間は、キコの代理でやってきたあの狐人族の男性が血無し達の監督役をやってくれるようだ。
西側関所に残って血無し達がこちらに馴染めるかの確認をし……ついでに神殿にも顔を出していくらしい。
神殿で祀られている大メーアはペイジン達のおかげもあって、獣人国でも有名になっているらしく、男性だけでなく血無し達も早く祈りを捧げに行きたいと、そんなことを言っていた。
とりあえずベン伯父さんの許可が取れたらいつでも行って良いと伝えてあるので、後でその辺りのことをベン伯父さんに確認しておくとしよう。
血無し達の今後としてはセキ達の部下として頑張ってもらうことになり……何人かは孤児院の運営を手伝ってもらうことにした。
獣人国の子供を迎え入れるのなら獣人国出身の者がいた方が良いはずで、血無し達からは特に異論もないようだ。
セキ達は獣人国の貴族というか、大臣のようなものであるらしいキコの子供達であり、その下で働くことに不満はなく、孤児院の運営も行商をする自信がない者達がいたのでありがたいとのことで、すんなりと受け入れてくれた。
行商はただ商売をするだけでなく、各地を旅する必要があり……十分な護衛がつくとは言え不安に思う部分があるのだろう。
セキ達の話を聞くにメーアバダルの旗を掲げて、武装した領兵が周囲を固め、更にその周囲を警戒心を顕にした犬人族が駆け回る、立派な作りの馬車が襲われることなんてまず無いとかで、危険な目に遭うことは早々無いらしいのだが……まぁ、仕方ない。
そんなこんなでとりあえず関所での用事が終わって……翌日、朝早く関所を出立してイルク村に帰ると、広場に置かれたテーブルの上に黒ニワトリを乗せて何やら話をしているアルナー達の様子が視界に入り込む。
話に参加しているのはアルナー、セナイとアイハン、テーブルの上にちょこんと座ったエイマ、ダレル夫人にフェンディア、そしてポイヨ婆さん。
ポイヨ婆さんは確か肉料理とか家畜の解体を得意としていて……まさか?
と、近付きながら様子を伺ってみると、想像の通りポイヨ婆さんがニワトリの解体の仕方について皆に教えているようだ。
実際に解体するとかではなく、その細長い指でここを切ってここの部位を切り離して、ここが美味しくてとかどうとか。
アルナー達は野生の鳥を狩っているし、ガチョウの解体経験もあるはずだが、それでも真剣に学んでいるようで……近付いていくと会話が漏れ聞こえてくる。
「―――神様のニワトリだ、無駄には出来ない―――」
「少しでも美味しく―――」
「―――たくさんたべたい!」
「どんな味がするんでしょうね―――」
まずアルナーとセナイとアイハン、そしてエイマ。
「―――本当に良いニワトリだねぇ―――」
「なるほど……そこを―――」
「―――解体する時にはまず神殿で祈りを―――」
ポイヨ婆さん、ダレル夫人、フェンディア。
あー……まぁ、そうか、神様にもらったニワトリだから、雑に処理する訳にはいかないのか。
そしてテーブルの上のニワトリは、言葉が分かっている訳でもないのだろうけども、どこか死んだ目をしていて……これから調理されるのを覚悟しているようにも見える。
が、私が近付いたことでアルナー達の意識がニワトリから逸れてこちらに向いて、その隙をついてニワトリは翼をばたつかせながら駆け出し、テーブルからどこかへと逃げていく。
……まぁ、ニワトリならそう遠くまで行かないだろうし、村の周囲には犬人族の見張りがいるから、追いかける必要はないか。
なんてことを考えているとアルナーが笑みを浮かべながら喜色に満ちた声をかけてくる。
「ディアス! こんなに良いニワトリを手に入れてくるとは驚かされたぞ!
しかもかなりの数らしいじゃないか! 数が増えてくれれば食卓が賑やかになりそうだな!
その上、神様からの賜り物とは……本当に驚いた、流石としか言いようがないな!!」
「ああ、喜んでくれているようなら良かったよ。
いや、いきなり神様がバカみたいな量の宝物と変な弓とニワトリのどれが良いなんて聞いてくるから、咄嗟にニワトリと答えただけなんだが……まぁ、うん、今までドラゴンを狩ってきたことに対するお礼らしいから、私がどうこうではなく、皆が頑張った結果なのではないかな」
そう私が返すとアルナーは笑みを浮かべたまま硬直する。
……そうか、ニワトリの報告は聞いていても、そこら辺の話までは伝わっていなかったか。
という訳で関所で何があったのかをその場で話すと、アルナー達は大体似たような表情をして何かを言いたげにする。
まぁ、確かにアルナーが好みそうな宝石もあった訳で、あれだけの量の宝物を惜しむ気持ちがない訳でもないが……あの量はいくらなんでもなぁ、手に余るものがある。
それに最近学んでいる商売の話によると、大量の金貨が市場に流れ込むと価値が暴落してしまうらしいし、確実に糧になる黒ニワトリの方が良かったはずだ。
ただでさえドラゴン素材が余ってしまっているというか、使い切れず売り切れず、倉庫を圧迫していたりもするからなぁ……それに、
「―――ニワトリだって安いものではないからなぁ。
特に美味しい上質なニワトリなら、銀貨や金貨で取引されることもある訳だし……それが200羽近くとなれば、山程の宝物にも負けない価値があるはずさ」
ニワトリだって十分に宝物だと、話の最後にそう付け加えるとアルナーは「そうなのか?」と、ダレル夫人達に表情で問いかける。
この辺りではあまりニワトリは見かけないというか、流通していないようだからアルナーは価値を知らないようで……それにダレル夫人達は頷いてから言葉を返す。
「はい、ディアス様のお言葉の通り、上質なニワトリはかなりの価値で取引されております。
卵でさえ中々手に入らず、王都でも食べたことがないという者もいるくらいでございます。
こちらの黒ニワトリは、早速今朝からかなりの数の卵を産んでおりまして、環境が変わったばかりでこの様子なら、喜んで金貨を支払う貴族も多いことでしょう。
味も良ければ尚の事高値となることでしょう」
それを受けてアルナーは笑みを取り戻し……それから、それこそ卵のような形の顔をしたポイヨ婆さんへと視線を移す。
すると婆さんはニッコリと微笑んで一言、
「じゃぁ早速その味を確かめてみましょうねぇ」
と、そう言って竈場へと足を向ける。
それにアルナーやセナイ達も続いて……味が気になってしまった私も、その後を追いかけて竈場へと向かおうとすると、ダレル夫人が私の後ろについてから小さな声をかけてくる。
「アルナー様は最近になって、メーアバダル領の帳簿に目を通すだけでなく、管理に興味を示しておられまして……。
領主夫人として行商で常に変動する財貨の量をしっかりと把握し、支出を減らし貯蓄を増やす……特に貯蓄には並々ならぬ想いがあるようで、それで先程の表情なのだと思います」
それはダレル夫人なりの気遣いだったのだろう。
アルナーが金銭欲にまみれている訳ではないと伝えたいようで……私は「分かっている」と言いながら頷き、足を進める。
アルナーはゾルグのやらかしで色々と苦労をしていて……苦労ばかりの生活の中で、弟妹達にだけはみじめな思いはさせまいと奮闘していた過去がある。
恐らくは村の皆にも、メーアバダルの皆にも同じ想いを抱いているのだろう、それで大量のお宝という言葉に反応したのだろう。
帳簿に興味を示しているのも同じ理由のはずで……
「良い意味でアルナーらしいことだと思うぞ。
だからこそアルナーを尊敬出来るというか、色々なことを任せられるというか……。
……まぁ、うん、とにかく気遣いをありがとう」
そんな私の言葉に満足したらしいダレル夫人は一言、
「必要のない世話焼きだったようで安心しました」
と、そう言ってから足早にアルナー達の下へと向かい、なんとも自然な形で合流してみせるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は別キャラ視点になる……かもしれません。




