ついにやってきた……
登場キャラ、用語解説
・パトリック、ピエール、プリモ、ポール
人間族、男、神官
リーダーの髭面パトリック、メガネをかけ頭脳派に見えるが脳筋のピエール、軍人気質のポール、一番若く元気なプリモ
・キコ
狐人族、女、獣人国所属の参議
既婚で子供がセキ、サク、アオイ
・血無し
獣人国である時期から生まれ始めた獣の血が薄い人達、人間族に近い見た目をしている。
ざっと数えてみた所、黒ニワトリは大体200羽程いることが分かった。
中庭のそこら中でコッコッコッと鳴いて、モント達が整えた草花を食べようとしてもいて……慌てて皆で200羽の黒ニワトリを制することになり、そして数が多すぎるからと分散して飼育しようということになった。
西側関所で60、東側関所で60、イルク村で60、神殿で残り全部。
皆に美味しいらしい黒ニワトリやその卵を食べて欲しいという思いもあるし、神様からもらったものを病気などで全滅させては申し訳ないという思いもあるしで、分散することになり……早速、鷹人族からの連絡を受けてやってきてくれた神官のパトリック達が、運搬の指揮を取ってくれることになった。
元々ガチョウやらの運搬用に檻のような箱を使っていたので、それを流用し荷車や馬車で運ぶ予定となっている。
「さすがはメーアバダル公!」
「神々に愛されておられる!」
「これもベン様の教えのたまものですな!」
「ああ、新しい神様にお会い出来なくて残念です!」
なんて声を上げながらも手際よく黒ニワトリ達を檻へと誘導していて……神様から貰ったものだからなのか、扱いはとても丁寧だ。
そんな運搬作業を手伝ってくれている面々には、関所の改良工事を進めていた洞人族達の姿もあり……その1人が髭を撫でながら声を上げる。
「ふぅーむ……黒い、黒いニワトリ、滋味溢れる黒いニワトリか。
儂の爺さんが確かそんなことを言っていたような……それはもう美味くて夢中になって食べて、食べすぎて数を減らしてしまったとか。
しかしそれはもう大昔も大昔、数え切れん程の昔の話だからなぁ……同じニワトリかは分からんが、相手が神様だとすると……あり得るかもしれんなぁ」
どうやらこのニワトリのことを知っているらしい。
長生きらしい洞人族のお爺さんの時代か……どれくらい前の話になるのやら。
そして運搬作業を手伝ってくれている領兵達も犬人族達も、鷹人族達も新しい食料が手に入ったことを喜んでくれていて……美味しさから食べすぎてしまう程と聞いたこともあって、やる気を漲らせて働いてくれている。
とは言え、まだ200羽……領民全員で食べるとなると全然量が足りないから、しばらくの間は増やすことだけを考えることになるのだろう。
卵に関しては魂鑑定があるからいくらかは食べられるだろうけども……それでも全員が満足という訳にはいかないのだろうなぁ。
まぁ、ニワトリは増えるのが早い方だから、数ヶ月も待てば味見ができるくらいの数にはなってくれるはずだ。
そうやって作業を進めていると……獣人国側の門の方が騒がしくなってくる。
また誰かがやってきたのか、何かがあったのか……。
そう言えば何か予定があったような? なんてことを考えてから私はすぐにあのことを思い出し、運搬作業を一時中断させて門へと向かう。
するとすぐにセキ、サク、アオイの3人も駆けてきて……そんな私達へとキコと良く似た、狐人族の男性と思われる人物が頭を下げながら挨拶をしてくる。
「お初にお目にかかります、メーアバダル公。
ワタクシはキコ様の命により彼らの案内役を拝し、この地まで足を運ばせていただいた者でございます。
どうぞお見知りおきをいただければ幸いです」
そんな挨拶をしてくれた男性の後ろには背筋をピンと伸ばし、緊張した面持ちの血無し達の姿があり……20人か、30人か、それくらいの男女の大人と、幼い子供達も何人か懸命に背筋を伸ばしている。
「ああ、私はメーアバダル公ディアスだ、よろしく頼むよ」
と、そう言いながら子供達のことを見ていると、その視線に気付いたのだろう、狐人族の男性が子供達についての説明をしてくれる。
「えぇっと、あの子達はですね……血無し子供達でして。
まだまだ未熟で、キコ様の下で教育を受けさせるべき年齢なのですが……差別が色濃い現状、子供だけを残していくには不安があり、またこちらに多くの血無しが移住しつつある今、国内での差別排斥感情が強まる懸念もありまして、保護の意味も込めてこちらに連れてきた次第です。
彼らの子供もいれば孤児もおりまして……それでも彼らが働きで得た糧でもって養いますので、滞在を許していただければと、公の慈悲に縋らせて頂きたく」
そう言って男性は深く頭を下げ……頭を掻きながら少し悩んだ私は、そういうことならと思いついたことを言葉にする。
「ちょうど今、孤児院を建てるという計画が進んでいたから、身寄りのない子はそこに預けると良い。
孤児院が出来上がるまでは……ここか神殿で預かる形になるかな。
そうではない子は出来るだけ家族が面倒を見て……行商などで不在の時には孤児院なり神殿なりに預けると良い。
メーアバダルの地には家族を大切にしないと怒る者が多いから、自分達で出来る限りのことはしてもらうぞ」
そんな私の言葉を受けてまず狐人族の男性が深く頭を下げ……後ろに控えていた血無し達も頭を下げる。
そんな中、子供達はそういった難しい話よりも、周囲を駆け回る黒ニワトリや、それを追いかける犬人族達の方が気になっているようで、それらのことを視線で追いかけている。
そして……長い間頭を下げていた狐人族がゆっくりと頭を上げ、話を再開させる。
「心よりの感謝を申し上げます……代わりと言っては面映ゆいですが、公の慈悲に縋るばかりでは恥ずかしいと、キコ様がいくつかの品を用意しましたので、ご笑納いただければ幸いです。
いくらかの織物に宝石、書物と食料……それと小狡く思われるかもしれませんが、目録も用意させていただきました。
この目録の中から公が希望する物を用意させていただくというもので……血無しの受け入れの御礼と思っていただければと。
ハルジャ種を始めとした家畜や、獣人国自慢の武具、公には不要かもしれませんが、モンスター素材などが目録に並んでおります」
と、そう言ってから彼は懐から丁寧かつ面白い形に折りたたまれた上質な紙を取り出す。
するとセキが前に進み出て私の代わりに受け取ってくれて……それからサクとアオイが、進み出て血無し達に声をかけ、人数や家族構成などの確認をしていく。
その間もやっぱり子供達の視線は黒ニワトリと犬人族達に向けられていて……狐人族はようやくそのことに気付いたようで、犬人族と追いかけっこをしたり、犬人族の頭の上に乗っていたり、モントの義足をしつこくつつく姿を見やりながら問いを投げかけてくる。
「話は変わりますが、公……あのニワトリは?
羽もクチバシも爪まで黒いとは……なんとも風変わりな姿をしていますが……」
「ん? ああ……。
昨日炎を思わせる毛皮の猫の神様がやってきてな……ドラゴンを倒した御礼だとかであのニワトリを置いていったんだよ。
なんでも美味しいニワトリらしくて、これから皆で育てようと思っていて……各地への運搬のためにああして追い回していると……って、うん、どうしたんだ?」
私の言葉の途中で、まず血無し達が目を丸くする。
目を丸くし、口を大きく開けながらも何も言わずに唖然としているようだ。
そして狐人族は少しの間、微笑みを浮かべていたのだけども、急に冷や汗をかき始め顔色を悪くし、それから頭を抱える。
……そう言えばあの猫は獣人国の神様なのだから、獣人国で知られている可能性がある訳か……。
少し迂闊なことを言ってしまったかな? と、思いつつも隠し通せるようなことではないし、神様が関わることで嘘を言ってしまうのも問題だ。
まぁ、なるようになるかと考えた私はとりあえず、足元までやってきていた黒ニワトリを抱えて、運搬用の檻へと運んでいくのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はイルク村に戻ってのあれこれの予定です。




