表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第十六章 新たな春風

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

472/571

宴開始


 昼を少し過ぎた頃、準備が完了となり宴が始まった。


「皆のおかげで厳しい冬を乗り越えられました!」

「みんながいたから、いてつくさむさも、へいきでした!」


 広場の中央に作られた台の上に立ったセナイとアイハンが、そう挨拶を始め……広場を囲うように集まった皆の視線がセナイ達に向けられる。


 セナイ達の側には私やアルナー、ベン伯父さんやダレル夫人、そしてエイマの姿があり……私達が静かに見守る中、エイマだけが落ち着かないのかソワソワとしている。


 エイマはセナイ達の一番の先生であり友達であり、常に側にいてくれた訳で、心配する気持ちが誰よりも強いのだろう。


 だけどもセナイ達は、ダレル夫人から教わった貴族らしい洗練された仕草で皆に語りかけ続け……皆はすっかりとその言葉に聞き入っている。


「新たな年を祝って皆で楽しみましょう!」

「きょうというひを、たのしみましょう!」


「今日までの皆の頑張りに感謝を! 明日からの頑張りに活力を!」

「またらいねんも、いいはるをむかえられるよう、ことしもがんばっていきましょう!」


 そう言ってからセナイ達がドレスのスカートをつまんでの一礼をすると、皆からわっと声が上がり……そしてベン伯父さんの足元で待機していたフランシスとフランソワが歌い始める。


「メァ~~メァメァ、メァ~~メァ~」

「メァメァ~~メァ~~メァ~~~」


 それは以前に聞いた群れの長を決める歌に少し似ているが、もう少し穏やかな曲調で……どうやら今日という日を祝福してくれているらしい。


 メーアバダル領の新年を、大メーアの使いであるメーアがそうやって祝福してくれるというのは意味のあることで……六つ子達もメァメァと声を上げて参加し、エゼルバルド達も参加し……村中のメーア達がメァメァと声を上げて場を盛り上げていく。


 すると皆は手拍子や踊りなどで、その歌を楽しみ始め……誰もが笑顔となってその時間を楽しんでいると、広場の外側からもメァメァとの歌声が響いてくる。


 それは野生のメーア達の歌声だった。


 避難所を利用していたメーアや、毛を売りに来ていたメーア、たまたま通りかかったメーアもいるのだろう、かなりの数だ。


 避難所や宿の稼働が始まったおかげで、野生のメーアとの交流が深まっていて……顔見知りというか、隣町の住民くらいの気安い関係となっていて、こんな風に宴に参加してくれたとしても全く驚かない。


 そうやって盛り上がっていると竈場の方から出来立ての料理が次々に運ばれてきて……そして今日のメイン、ガチョウの丸焼きが用意されたテーブルの上にどんと置かれる。


 そう、ガチョウだ。


 エリー達が買い足したり繁殖したりで増えに増えて、かなりの数になっていたガチョウが、今日のメイン料理だ。


 皆で可愛がっていたガチョウを、そんな風に食べることについて……セナイ達が嫌がるかな? なんて心配をしていたのだがその必要は全くなく、むしろ率先して捌いたり締めたりと調理に参加していて……うん、そういった面でも2人は大人になれているのだろう。


 そんな料理を切り分けるのもセナイ達の仕事で、この日のために洞人族が用意してくれた綺麗な装飾付きのナイフでもって切り分けたなら、皆が持つ小皿にセナイ達が直接盛り付けていく。

 

 これもまた主催者の大事な仕事らしく、こうやって料理を振る舞うことで、上下関係とかそういうのを示したりするらしい。


 ……まぁ、イルク村でそんなことを気にする人は少なく、ほとんどの皆がただただ笑顔で美味しそうな料理にだけ意識を向けていて……例外はほんの一部、ダレル夫人やヒューバートや、関所から駆けつけたクラウスくらいのものだろう。


 しっかりと膝を折り頭を下げて料理を受け取り、感謝の言葉を口にし、セナイ達がどうぞと促してから口に運ぶ。


 儀式的というか面倒くさいというか、とにかくそんなやり取りを丁寧に行っていて……それを見てか、何人かの犬人族達も真似をし始める。


 するとますますその儀式が広がっていって……来年には皆がこれをやるようになっているかもなぁ。


 しかしダレル夫人やヒューバートだけでなく、クラウスもああいったことを心得ているんだなぁ。


 まぁ、正規兵だった訳だし、それも当然か。


 ……うん、そうだな、今日発表してしまうのも良いかもしれない。


「クラウス、少し良いか?」


 黙って宴の進行を見守っていた私がそう声をかけると、カニスと一緒に美味しそうにガチョウを食べていたクラウスがきょとんとした顔で、


「はい、なんでしょうか?」


 と、返してくる。


「いや、そろそろクラウスを騎士に任命しようかと思ってな。

 なんでも公爵には騎士爵への任命権があるとかで、結構な人数を騎士にしても良いらしくてな……追々モントやジョーとロルカ、リヤンも騎士にするつもりなんだが、まずはクラウスからと考えていたんだ。

 という訳でクラウス、メーアバダル領の筆頭騎士になってくれるか?」


 筆頭騎士、貴族の下につく正規兵の中で、特別な権利と義務を負ったのが騎士で、その中の筆頭、一番偉い立場になる……らしい。


 それは騎士団長ではないのか? と、思ったのだけど騎士団長はあくまで騎士団の長であり、筆頭騎士とはまた別物らしい。


 騎士になるにはそれ相応に面倒な儀式があり、騎士になったからには相応の義務があり……たとえば戦争があれば参戦を拒否出来ないとか、立派な装備や軍馬を所有するとかが、それになる。


 軍馬は高級品で維持も管理も大変だ、だけども軍馬を揃えておかなければ他国との戦争やモンスターとの戦いで遅れを取ってしまう。


 だから所有は騎士の義務で……ダレル夫人が言うには、騎士とはそもそもそのために作られた役職であるらしい。


 国が一定数の軍馬と騎兵を確保するための口実と言ったら良いのか、国だけでは数を揃えられないから騎士という役職を作ることで、貴族や兵士達に軍馬を所有させ、なんなら繁殖させて数を増やし、いざという時の備えとしているという訳だ。


「お、俺が、俺が騎士ですか!? い、いや、なれたら良いなぁとは思ってましたけど……って筆頭!?

 ……え、あ、俺が筆頭騎士!?」


 どういう目的で作られたにせよ、騎士に任命されることは名誉なことであり、筆頭騎士ともなれば平民の出世物語の終着点、誰もが夢に見て……ほとんどが夢のまま終わる役職で、それになれると聞いてクラウスはそんなことを言いながら大いに動揺し、動揺のあまりに空になった小皿を落としてしまいながらも、どうにか姿勢を正し、私の前に跪き、大きな声を上げる。


「光栄です、メーアバダル公ディアス様!

 ……この日を、この日をずっと夢に見てきました!

 お受けします、もちろんお受けします! 俺がメーアバダル騎士の筆頭として、皆を守ってみせます!」


 その声を受けて私がうんうんと頷いていると、ヒューバートがドタバタとこちらに駆けてきて……私になんとも大層な作りの鞘に入った剣を差し出してくる。


 ……あ、ああ、儀式用の剣だったか、確か騎士に任命するにはこの剣を使ってあれこれしなければならないんだったか。


 え? 今やるのか? ここで? また今度正式な場を用意するのではなく? ダレル夫人から教わったけども全部は覚えていないぞ??


 と、そんな疑問を抱いてヒューバートへと困惑の視線を送っていると、ヒューバートは首を左右にぶんぶんと振ってから小声で、


(こんな空気になったら今やるしかないです……。

事前に相談してくれていたらこっちでも準備をしていたんですが……皆見てますし、今更また今度は良くないです。

 この新年の宴の空気を冷ましてしまわないためにも、しっかりお願いします)


 と、そんなことを言ってくる。


 それを受けて私は儀式剣を受け取り……全身で冷や汗をかきながら儀式のための口上を、懸命に思い出しながら口にしていくのだった。


 

お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、クラウスやらとその他のあれこれとなります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
嗚呼ガチョウさん、とうとう主役(?)に… 家畜を肉にしたのは今回が初ですかね?命に感謝を。 @ディアス様、当人に相談程度のつもりなんでしょうけど それならそれで人目を忍んでコソコソやらないと…
セナイとアイハン、元々聡い子でしたがいやぁ、立派に成長しましたねぇ。 ディアスどんもアルナーも感無量でしょうねぇ。 そしてとうとうクラウスが騎士、しかも筆頭騎士に! ・・・しばらくはクラウスは肩に力が…
公爵なんだから大衆の前で発した言葉には責任が伴うんだよ 勉強になったね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ