宴を前に
・登場キャラざっくり紹介
オリアナ・ダレル夫人
王都暮らしの貴族夫人、人間族、メガネをした真面目な女性で、ディアス達のマナーなどの先生
ゴルディア
ディアスの孤児仲間で人間族の男性、ディアスに負けず劣らずゴツく、ギルドマスターであり酒場のマスターでもある
※ギルド:孤児達、平民達の互助組織、基本的には商業のために動いている
アイサ、イーライ、エリー
ディアスが育てた人間族の孤児達、ディアスの家族であり子供でもあるが、セナイ達のような正式な養子ではない……が、本人達もそれで納得している。
新年がやってきて、領民が増えた。
そうなったらもう今日の宴は盛大にやるしかない……と、なったのだけども、今日はただ盛大にやるだけではなく、いつもとは違うやり方をすることになった。
それは私ではなくセナイとアイハンが宴を取り仕切るというもので……ダレル夫人が提案し、手助けすることになったそれは、セナイ達に貴族としての自覚を持ってもらうための大事な儀式になるらしい。
皆の前に立ち、皆に号令し、自分達の立場を実感すると同時に、目の前の人々を……人々の平和と笑顔を自分達が守らないといけないのだという、貴族としてもっとも大事な心構えを心に宿す。
まだまだ幼いセナイ達にそれ程の重荷を背負わせるのは少し過酷のようにも思えたが、ダレル夫人が言うにはセナイ達には重荷を背負えるだけの器があるんだそうで……この儀式はダレル夫人なりの、2人への贈り物……独り立ちを認めるという意思表示でもあるらしい。
「……本来であればこんなに幼い頃からはやりません、大人になってから……しっかり成長してからやるのが常となります。
いつ病気で命を落とすか分からない、いつ心が折れてしまうか分からない、そんな状態の子供を、伝統的な貴族は自分の一族とは認めず、同じ家で暮らすことを許さないことなんていうのもよく見かけます。
しっかりと学び、己を鍛え、心身共に成長し貴族の義務に耐えられる器となったら初めて家族として認め、本邸に立ち入ることを許す……それまでは乳母や家庭教師に預け、言葉を交わすどころか、顔を合わせることもない。
厳しいようですが、貴族の義務から子供を守るという意味もある、大切な伝統なのです」
広場で宴の準備が進む様子を見守っていると、ダレル夫人がやってきてそう声をかけてくる。
「セナイ様とアイハン様もあと8年……いえ、5年待っても良かったのですが、この地では病気の心配はありませんし、心の強さも大人顔負け。
学びに関してもアルナー様から家事や狩人としての心得、薬草の使い方を学び、エイマさんからは学問を学び、あの木から森人としての心を学び、わたくしから貴族としての心構えを学び。
ベン様から神殿の教えを学び……村の皆から様々なことを学び、その知識量は大人顔負けのものとなっておられます。
このままの数年を過ごすよりも、ここで一つの試練を与え……自覚を持っての数年を過ごす方がお二人のためになるはずです。
……それに、来年になれば色々と忙しくもなるでしょうから、今年のうちにやれることはやっておきたいのです」
そうダレル夫人が続けてきて、私は腕を組みながら言葉を返す。
「……なるほど? まぁ、ダレル夫人がそう言うのならその通りなのだろうが……しかし来年か。
免税期間が終わると、そんなに忙しくなるものなのか?」
「税を納めなければならないというのもそうですが……税額を定める役人を受け入れる必要がありますし、その税額によってこの地の豊かさが知れ渡ることになるでしょうし、貴族として本格的に忙しくなるのは来年からになるでしょう。
エルアー伯爵とうちの人が王都で色々と探ってくれていますが、他の貴族達も今年ではなく来年になってから動くことを考えているようでして……来年はかなり忙しくなりそうです。
……それと、これは個人的な勘なのですが、リチャード殿下の動きがかなり気になります。
殿下ご自身がどうこうではなく、周囲の動きが気になると言いますか、来年か再来年辺りに一波乱ありそうで、少し心配ですね」
「うん……? そうなのか?
王都で暮らしていたダレル夫人がそう思うなら、何かあるのかもしれないなぁ。
……だからと言って私に出来ることもないだろうが……」
と、私がそう言った折、宴の準備を手伝っていたエリーが私達の話を聞いていたのか、タイミングを伺っていたのか、すすっとやってきて声をかけてくる。
「そう、本番は来年なのよ、お父様。
だから私達も今年のうちに稼いでおこうって頑張ってるの。
今年のうちに稼いで稼いで金貨を積み重ねて、来年以降に備える……来年からは稼いだら稼いだ分だけ納税しなきゃいけないんだから、稼ぎ時は今、今年なのよ!
メーアの数も増えてきた、鉱山も順調に稼働している、冬のうちに氷をこれでもかと貯め込んだ……稼ぐための下準備は出来ているから、あとは私達の頑張り次第!
だから今年はギルドも総動員するわよ、他の子達もここに来たがってたし……ギルド総出で稼ぐだけ稼ぐわ。
……隣領での荒稼ぎに釘を差されたのは残念だったけど、おかげで一つ思いついたこともあるし、きっとこれなら今まで以上に稼げるはず……という訳でお父様、領民になるゴブリンさん達がやってきたら、何人か私の部下として預けて欲しいのだけど、どうかしら?」
「他の皆が来るのはもちろん構わないが……。
一体何を思いついた? と言うか、ゴブリン達と何かをするつもりなのか?」
「えぇ、もちろんするわよ! ゴブリンさん達の力を借りられるとなったら当然貿易をするわよ!
船を出して西へ東へ、王都まで売りに行っても良いし、隣領以外の暑い地域に売りに行っても良い、何なら王国以外のどこか……海の向こうにある未知の国に売りにいっても良い!
まぁ、いきなりそんな大航海は無理だとしてもゴブリンさん達が知っている海沿いのどこかの街に売りに行くでも良いわね。
そこから仕入れた品々をまた別の場所で売れば、文句なく大儲けできちゃうだろうし、まったく新しい商売が出来るかもしれないじゃないの。
そんな風にゴブリンさん達に手伝ってもらえたなら来年までにどれだけの貯蓄が出来るか、私達でも予想が出来ないわ!
もちろん本人達の意思を優先するようにして仕事の無理強いとかはしないから安心して頂戴な」
「……まぁ、本人達がやりたいというのなら構わないが、金貨銀貨なんかのために無理はしないようにな?
そんな稼ぎ方をしなくたって他にも色々手はあるんだろうから、安全第一でやってくれ」
と、私がそう言うとエリーは満面の笑みで頷いてくれて……エリーの後ろでこちらの様子を伺っていたらしいゴルディアや、イーライとアイサ、セキ、サク、アオイ達までが満面の笑みを向けてきて……隣領での商売に釘を差され、全員であれこれ考え、そしてゴブリン達が領民になると聞いてのこの動きか。
したたかと言うか何と言うか……まぁ、うん、納税とかメーアバダル領の財政を考えてのことなのだろうし、頼もしいと思っておくことにしよう。
と、そんな考えで私がその笑みを受け入れると、一同は拳を握ったりしてやったりという顔をしたりとしながら散り散りになって、それぞれの仕事を始め……と、そこで黙って様子を見守ってくれていたダレル夫人から声が上がる。
「ディアス様、お二人の支度が終わったようです。
この日のためにアルナー様と用意を進めていましたが、その甲斐はあったようですね」
そう言ってダレル夫人が視線を私達のユルトの方に向けて、それを追いかけると今日のために用意してあったという服を着たセナイとアイハンの姿が視界に入り込む。
冬服を脱いで、白地に金糸銀糸をたっぷりと使った少し派手めドレスと鬼人族の服……ビレーシャを融合させたような服を着て、化粧をしていることもあってか、少し大人びて見える。
……いや、気付いていなかっただけで2人は確実に成長していて……初めて会った頃に比べて背もかなり伸びて、2人同時に抱きかかえるのは難しいかもしれない。
大人まではまだまだ遠いかもしれないが、日々大人に近付いていることは確かで……顔つきも立派なものだ。
貴族令嬢らしい姿と言っても過言ではなく、いつもより2人の距離が少しだけ離れているのは、それぞれの役目をしっかり果たそうという自立心あってのことなのかもしれない。
それは少しだけ寂しいと同時に誇らしい光景で……2人の後ろに立つアルナーもそう感じているのだろう、優しげな表情で2人のことを見守っている。
「……セナイ、アイハン、よく似合っているよ」
だけども私がそう声をかけるとセナイとアイハンの表情は崩れて、いつもの2人らしいものへと変化し……そして元気いっぱいに、
「似合ってるでしょ! 大人のドレスだよ!」
「もうこどもじゃないよ!」
と、そんな子供らしい大きな声を上げ、子供らしい笑みを弾けさせるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は宴やら他所のあれこれやら……の予定ですが、宴が長くなったら宴だけです




