モールの話
父メーアを保護した翌日の朝、父メーアは目を覚ましはしたが、まだまだ弱っていて……話を聞くにはもう少し休ませる必要があるそうだ。
ヒィヤ婆さんが言うには、白湯と白い草を少しずつ口にしながら2・3日は安静にする必要があるらしい。
父メーアにそんな怪我を与えた相手が何か気になるところだったが……だからと言って無理をさせてしまう訳にもいかず、話が聞けるまではサーヒィ達や犬人族達に周囲を警戒してもらうという対策を打つことにした。
そして捜索を手伝ってくれた鷹人族達に無事見つかったとの連絡をし……必要ないと言われたものの、それでも礼としていくらかの金貨を支払い、当然鬼人族にも支払うことにした。
鬼人族も鷹人族もかなりの労力を割いてくれたようだし、金貨数枚くらいは支払っておかないとなぁ。
ついでにというか、なんというか……モールが私と話をしたがっているようだし、支払いついでに話をしてこようと、数枚の金貨を懐に入れて鬼人族の村へと足を向ける。
「イルク村のことはお任せを!」
「客人のメーア達も神の御使い! しっかりと守ってみせましょう!」
「何者かがやってきたならこの鉄杖でもってしつけてやりますとも!」
「仮にドラゴンが来てしまったなら、公の助力が必要かもしれませんがな!」
すると背後でパトリック達がそんな声をかけてきて……儀式用の鉄杖を振りながらわっはっはと笑い声を上げてくる。
パトリック達からすると野生のメーアも神の御使いであり、私達と同じくらいに大切な、守るべき存在なんだそうだ。
そんなパトリック達に任せておけば私も安心だし……メーア達も、うん、きっと安心してくれるはずだ。
今回は私に同行する者はなし、いつもの格好で……草原に何かいる可能性があるので一応戦斧だけ担いで鬼人族の村に向かうと、以前よりも広く大きくなった村が視界に入り込む。
ユルトが増えて、家畜の数も増えて、ユルトそのものも大きくなっている気がする。
そんな村の中で大人達が忙しなく働く中、4歳か5歳か、そのくらいの子供がメーアの世話をしていたり生まれたばかりらしい赤ん坊の世話をしていたりして……村が大きくなった分、人手が足りなくなっているようだ。
だけども皆の顔は笑顔となっていて……忙しいのが嬉しいと、そんな様子を見せてくる。
……初めて来た時の鬼人族の村とは全く違う雰囲気というか、なんというか……改めて鬼人族の村でも色々なことが変わっているんだなぁと、そんなことを思う。
もうすっかりと慣れたのか、私が村に入っても特に反応することはなく、顔見知りの何人かが適当に挨拶をしてくれるくらいのもので……そんな人々に挨拶を返しながら私は、モールのユルトへと向かう。
到着したなら入っても良いか? と声をかけ、すぐに「入っておいで」との声が返ってきて、中に入るといつものモールが……いや、いつもよりも少し、装飾品が豪華になったモールが出迎えてくれる。
「元気だったみたいだな……少し顔色も良くなったか?」
そう言いながらいつもの席に腰を下ろすとモールは「カッカッカ」と笑い声を上げてから言葉を返してくる。
「ああ、アンタのおかげでね……村が豊かになって子供が増えて、家畜も増えた。
その上今度はアンタのとこの兵士との結婚だ結納品だで更に豊かになりそうってんだからねぇ……村人達は早くカエル商人達がやってこないかとソワソワしているくらいだよ」
「そう言えばジョー達がそんな話をしていたな……前回のアクアドラゴン騒動で男気は十分となって、結納品も贈ったんだったか。
……なら結婚式は近々やる感じになるのか?」
「そうなるね、まぁ一人だけ結婚衣装を仕上げてない子がいるから、その子を待つ感じになるとは思うけどね。
……これでアンタ達との縁はますます深まる、アンタ達との縁が深まれば王国商人と売買する機会も得られるだろうし、今まで見たことのないような品や今までにない仕事を得られるかもしれない。
そうなったら村はますます豊かになるんだろうねぇ」
と、そう言われて私は支払いのことを思い出し、父メーアが見つかったとの報告をした上で感謝の言葉を述べて、モールの側まで近寄り懐から金貨を取り出し支払いを済ませる。
するとモールはくしゃりとシワを寄せながら笑い、金貨を受け取り……普段ならすぐ棚にしまう金貨をつまみ上げ、しげしげと眺める。
「……金貨、こんなので家畜が買えるってんだからたまげるもんだよねぇ。
宝石ならまだ分かるけど金……魔法に使える宝石と違って綺麗なだけで役には立たないんだけどねぇ。
それが王国と繋がれば役に立つようになる……不思議なもんだね。
……通貨って意味を知らない訳じゃぁないんだけどねぇ、どうしてもそう思ってしまうねぇ」
それからそんなことを言ってきて……私が何を当たり前のことを言っているのだろうか? と首を傾げているとモールは「カッカッカッ」と笑い、杖を持って立ち上がり……いつも色々なものをしまっている小さな箱や棚ではなく、反対側にある背の高い戸棚の方へと歩いていき、そこに金貨をしまうと同時に大きな布袋を取り出す。
それは両手で抱える程の大きさで……相当重いのか少しモールがふらついていて、慌てて私はモールへと駆け寄ってモールの代わりに運ぼうとする。
するとモールは私に預けるというよりも押し付けるような態度でそれを寄越してきて、それから自分の席に戻り、大きなため息を吐き出す。
「それはアンタにやるよ、今までの礼みたいなもんだね。
……多すぎると思ったなら、それの一部で家畜を……白ギーだったか、それを数頭買って、こっちによこしてくれたら良い」
今までの礼? これで白ギー? 一体この塊は何なんだと首を傾げながら布袋の口をあけると中には大きな……それは大きな金塊が入っていて私は大口をあけて唖然としてしまう。
「それはいざという時のための……この草原を失った時、新たな移住先でやっていく時のための備えさ、金は獣人国でも重宝されているからねぇ……。
だけどもうその必要もなくなった……村は大きくなり、生活も安定した、孫娘も無事に子を産んだし、次の族長も問題なく育っている。
……つまりは、もうそんな備えはいらないって訳だねぇ」
その言葉に私はまたも驚かされる。
驚きすぎてこれ以上大きく開かないというところまで開いて……何か言おうとして、口をどうにか動かして、よく回らない頭でどうにか言葉を作り出す。
「ひ、ひ孫が産まれたのか、それはおめでとう……!」
するとモールは何を思ったのか「カッカッカ、カッカッカ!」と、いつまでもいつまでも笑い続けるのだった。
――――一方その頃、野生のメーアのユルトで
「メァ~」
父メーアが無事に目を覚まし、水を飲んで食事をし、再び眠りにつき……ひと心地ついた状況で、そんなため息を吐き出した母メーアは周囲を見回す。
不思議な布の木陰、枯れた食材が敷き詰められていて……そして小さな子供達が寄り添ってくれている、今までに経験したことのない空間。
自分のところに遊びにきて、散々遊び回って疲れたからとすやすやと寝て……そんな六つ子を見て母メーアは、自分もこんな可愛らしい子供が産めるのだろうかと、笑みを浮かべながらそんなことを考える。
しかし六つ子というのは中々難しい、せめて三つ子くらいにしてくれないと世話で困ってしまうなと、更にそんなことを考えていると……旦那である父メーアがうっすらと目を開けて、うわ言のような声を上げる。
「メ、メァァー……メァメァメァ、メァー」
お前、どこに行ってたんだ? 探したんだぞ? 探し回って探し回って、モンスターに連れ去られたんじゃないかと思って北の山まで行ったんだぞ、おかげでこのざまだ。
「メ、メァーメァメァ!? メァメァー!?」
そんなことを言う旦那に母メーアは、なんだってそんなことを!? 北の山に行くなんて無謀過ぎる!? と悲鳴を上げると、更に父メーアがとんでもないことを言い出す。
「メァメァーメァメァ、メァー、メァメァメァ……」
モンスターを見つけてお前を返せと喧嘩を売って、突撃したところまでは覚えているんだが……ああ、あと、白くて大きな、山のような同胞を見かけたような……。
モンスターに喧嘩を売った!? そこに私がいた訳でもないのに!?
と、そんなとんでもないことをしって、生まれて初めて抱くような、大きな驚きを胸に抱くことになった母メーアは……旦那を助けてくれて、ここまで連れてきてくれたらしい大きい同胞とやらに深く感謝しながら、前足の蹄でもってゴツンと、父メーアの額を叩き……それからたっぷりと危ない真似をしてくれるなと、そんな旨の説教をし始めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、モールについてのあれこれをもう少し詳しくやる予定です。




