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第244話 姫なのだ

感想にありましたが、毛利元就は太宰少弐をこの世界では求めていません。大友との同盟関係に支障が出かねない要望は出していないので、陸奥守工作という形です。史実との違いがこのあたりにも出ていたりします。


最初だけ3人称です。

 ロシア モスクワ


 モスクワのクレムリンを訪れていた神聖ローマ皇帝フェルディナント1世の使者を、ツァーリとなったイヴァン4世が出迎えていた。


「この寒い地までお越し頂けたこと感謝したい。ようこそ、プファルツ=ツヴァイブリュッケン公」

「こちらこそ、過分な歓迎を頂き嬉しい限り」


 プファルツ=ツヴァイブリュッケン公ヴォルフガングはノイブルク公爵を昨年継ぎ、神聖ローマ帝国有力者としての初仕事であった。


「我等は鯨油を多く手に入れている。ベルリンでも油は必要であろう?」

「確かに。皇帝陛下は油を必要としていますが、その前にお伺いしたいことが」

「ほう、申してみよ」

「テンヤクなる異教徒を、御存知で?」


 その言葉に、ロシアのツァーリは一切反応しなかった。しかし、側近の1人がヴォルフガングの視界の中で反応してしまっていた。内心で舌打ちをしながら、ツァーリはとぼけた態度をとった。


「さて、何のことやら」


 しかし、ヴォルフガングはその言葉に確信を強くした。


(やはり、モスクワはジパングを知っている)


「いえ、御存知ないなら良いのです。彼らは知恵があり、しかし銃の必要性を理解している」

「成程、厄介な異教徒がいるのだな」


 そう言いながら、ツァーリは自らが通商を始めた異教徒―ムスリムのチュルクを思い出していた。発音に違和感こそあるものの、ツァーリたるイヴァンの視点では神聖ローマがイスラム教徒との追加交易を始めたことに気付いたのはほぼほぼ間違いない状況だった。


「テンヤクの後ろ盾であるヒェーバンにもお気を付け頂きたく。侮れば痛い目に遭いますぞ」

「痛い目、か」


 ヴォルフガングは典薬頭と比叡山の伝聞からこうして話をしている。しかし、イヴァンはヒェーバンという言葉に心当たりがあった。ちょうどロシアが接触を開始したヒヴァ=ハン国というテュルク系民族の国家である。


「忠告感謝する。我等も付き合う相手は慎重に選ぶとしよう」

「その言葉を守って頂けるなら、我等は手を取り合えるでしょう」


 一見和やかな雰囲気で終わった会談は、しかし互いが互いの腹の内を探る中で決定打を見せないままに終わった。

 ヴォルフガングはロシアがストレリツィと呼ばれる常備銃兵を整備していることを確認し、はるかインドの先にいる男が作り上げたという常備兵との共通点に疑惑の確信を深めるのだった。

 状況の報告を受けた神聖ローマ皇帝フェルディナント1世はこう呟いたという。


「やはりポズヴォルの同盟は必要だったな。イエズス会に裏で抵抗するというなら、法王庁もロシア討伐に文句は言うまい」


 翌年、リヴォニア戦争に神聖ローマ帝国がポーランド側で参戦したことで、ロシアは危機を迎えることになる。名目上とはいえローマ・カトリックの国家であるポーランドをフェルディナント1世が支援し、結果としてオスマン帝国とクリミア=ハン国に時間的猶予を与えることとなる。


 ♢♢


 美濃国 稲葉山城


 冬。俺の三弟、斎藤玄蕃龍定の婚姻が行われた。相手は従五位上刑部大丞幸徳井友忠殿の妹だ。興福寺との関係が深い人物であり、以前会った賀茂かも在昌あきまさとも遠縁らしい。何で幸徳井家かと言えば暦に関わる諸々に関与する為だ。幸徳井家は陰陽道の名門だ。陰陽道と言っても某安倍晴明が呪術で京の魔と戦う映画みたいなものではない。天文学や暦学のことだ。陰陽道の名門としての地位は土御門家に及ばないが、公家にも顔が利く。その土御門家は当主が戦乱を嫌って丹後に逃げたため、10年ほど前に陰陽頭を失職。賀茂在昌の父である従二位元宮内卿・勘解由小路かでのこうじ在富あきとみ様が暦に関わる仕事を一手に担っていた。現在は高齢により勘解由小路様は陰陽頭の実務はほぼ行えていない。

 そのため、朝廷の陰陽寮における暦法は現在完全に停止状態だ。賀茂在昌は西洋の暦法に興味を持ち出奔したため絶縁されており、朝廷としては勘解由小路家がこのまま断絶した場合次の陰陽寮を誰に任せるか悩んでいるらしい。そこで賀茂在昌の子と、弟玄蕃龍定と幸徳井家の姫との子を婚姻させるというかなり遠回しな形で賀茂在昌の血筋を復帰させようというわけだ。長期計画だが問題ない。こちらも今はザビエルから聞いた暦と前世の暦の照合を進めている途中なのだから。これがきちんと完了しなければ歴年のノウハウがある土御門家や勘解由小路家の暦には敵わないし。ちなみにザビエル曰くヨーロッパの暦も彼の出発前に改定が決まっていたらしく、最新情報が足りない現状どうなるかわからない。現状はユリウス暦を使っているようだが、ユリウス暦と前世で使われていたグレゴリオ暦のこの頃のズレなんて知っているわけもない。


 戦果もしっかりとあげ、鷲巣・松波を継ぐ次弟・四弟とは別路線を確立したのは良いことだ。四弟が還俗を決めた後に生まれた六弟の利堯と末弟利治はそろそろ初陣なのだが、婚姻の相手が申込み多数すぎて絞れていないのは良いことなのか悪いことなのか。利堯は信長の妹の1人の琥珀姫をという話でほぼ決まりそうだが。信長に性格が似ているらしく、うちくらい変人の巣窟でないと適応できないだろうとは信長の評だ。解せぬ。


 今年は年始を稲葉山で迎えようと準備を進める。加賀が白山噴火から落ち着いてきたので沿岸漁が再開され、今年は良いノドグロが獲れたと報告があった。11月の雷鳴が鰤の南下する合図だそうで、能登や越中で鰤が出回り、加賀ではカニが手に入るそうだ。氷を詰め込んだ木箱で、茹でたカニが稲葉山に運ばれてきた。


「腐ってはいないのか?」

「金沢にて鍛錬している自転車部隊の者達が、殿に届けるべく三日間夜通しで越前を通り美濃まで運んで参りました」

「未だ整備が進んでおらぬ道も多いのに」

「仕事を仰せつかって以後、活躍する機会は多くなく、殿の役に立ちたいと申したそうで」


 聞けば部隊長の男は以前戦場で負傷し、俺の手術を受けた男だった。腕の怪我で槍を使うのが厳しくなった男は、それでも役に立ちたいと試作自転車の部隊に志願したわけだ。


「ならば有り難く頂くとしよう。坂も多く辛い道を良く運んでくれた」

「其の言葉、何よりの褒美となりましょう」


 念のためにと身重や体調が優れない者は除き、皆でカニ鍋を頂いた。ガニを外して甲羅を開けばカニミソが溢れんばかりに詰まっていた。酒好きではないが、これと清酒はよく合う。最後に残ったカニミソも入れた雑炊で〆る。娘たちも満足感でホッと息を吐いていた。毒味の当番だった男が羨ましがられていた。


「自転車隊の者、名は何と言う?」

「喜平と申す者で御座います。板取の長屋と名乗っております」

「今後、小野田と名乗る様伝えてくれ。俺から姓を与える、と」


 これだけの情熱があるのだ。きっと自転車を誰よりも乗りこなしてくれるだろう。


 ♢


 年末。まったりとしていながら少し忙しない年始への準備の中で、京に残っている信長から手紙が届いた。


石上いそのかみ神宮、矢銭に応じず。雪が融けたら兵を出して脅すので、神社から来る裁判の訴えに備えて欲しい、か」


 大和が落ち着くには、まだ時間がかかりそうだ。

色々な作品のインスパイア(強調)がありますが、本編の進行に関わる部分ではないので大丈夫、なはず。某圓明流とか出てきません。


ロシア関係はエンディング前後に関わる話ではありますが、タイミング的にこの時期なので入れてあります。グレゴリオ暦への転換期であることも含め、この時代が世界的な変革の時代なのが感じ取って頂けると何よりです。


4分の1くらい富山の血が入っている私としては、北陸の海の幸は最高だとステルスマーケティングしたくなる時もあるのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 銃弾は金剛で受け止めるんだ!
[良い点] 小野田、ケイデンスが凄そうな一族になりそうですね!
[一言] 二十五年程前、北陸に住み始めた頃は晩秋から初冬に雷が鳴るという事を知らず、非常に驚きました。当然ですが鰤起こしなんて言葉も知らず。
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