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もう一度逢いたい。  作者: 杏
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計画の始まり

7. 計画の始まり


私は生活の一部だった愛車を売ることにしたのでした。


ドッグハウスでそれを伝えると仲間からの質問攻めにあって反対されましたが、時間をかけて決めたことだったので私の決心は、変わりませんでした。“失恋が原因で変になってしまったのではないか”と噂されているのも分かってはいましたが、時間が経つにつれ、それもどうでもいい事になってしまいました。


すぐにミニの買い手は決まりました。そして引き取られる日は、可愛がってもらえる事を願いながら、入念に洗車して私の元から去って行ったのでした。


それからの足は自転車を購入して移動の手段としました。その自転車も自分なりに拘った物にしました。


その後、私の生活は相変わらず平日は仕事、週末はドッグハウスに出入りし、たまに車の修理の手伝いをしながら、月の出費は、決めた額でおさえていました。






ミニを売ってから2年が経とうとしていました。

預金残高が計画の額になったので、次の事を始める事にしました。



私はドッグハウスのオーナーの元へ行き、用意した封筒を出して机の上に置きました。

オーナーは封筒を前にすると『なんだこれは?』


『スーパーセヴンのレーシングエボリューションを探して下さい』


『えっ、なんて言った?』


『これで、レーシングエボリューション買います』


『お前大丈夫か?!!、幾らすると思ってるんだ?』


スーパーセヴンのレーシングエボリューションは、当時の日本代理店がメーカーに特注で作らせた物で、レーシングフレームにハイパワーエンジンと6速ミッション、当時の一番いいパーツを組み合わせたセヴンで、日本に10台ほど入ってきたと言われている車でした。


『ここに800万あります、多分足りると思います』


店に居たみんなが、私の所に集まって来たのでした。


私はこの時、自分でもやり遂げられるか判らなかったので、みんなに宣言しました。


『これはミニを売る時に決めた事ですが、私はスーパーセヴンでレースに出ます』

すると、なぜだか拍手が鳴り出したのです。


私は涙をおさえるのに必死でした、でもここからがスタートでした。


それから程なくして、大分でレーシングエボリューションが見つかったのでした。


車両価格は600万円で改造費も含めて予算内でした。

ただ、場所が大分だったので、オーナーと予定を立てて積車で見に行く事にしました、見に行くと言っても使用状況は判っていたので、ほぼ決めていました。


九州までの行き帰りは船を利用する事にしたため、3泊4日のちょっとした旅行となって、オーナーの鈴木さんとこんなにゆっくりしたのは、初めてでした。


『なぜスーパーセヴンなんだ?』


『ミニを弄ってレースに出ているうちに、限界の性能の高い車で本気のレースをやって見たくなったんです』

本当の理由では、ありませんでした。


長い会話と長い睡眠をとって九州に着きました。

実際、日本に数台の車両、逃したら次ぎはいつ出てくるか分からなかったので、少し試乗させてもらい、あとは車両の摩耗状況を鈴木さんに診てもらって決めてしまいました。

私は積載車に載ったセヴンを見てやる事を考えていました。


ドッグハウスに持ってきてからは、自分で立てた予定通りエンジンを下してオーバーホールし、足回りを組み直して、フレーム補強、マフラーの作成、イギリスに頼んでおいたシーケンシャルミッションを組み上げて、3ヶ月で考えていた通りのセヴンを完成させたのでした。




太陽が眩しく感じている、3年ぶりのサーキットでした。

ミニを売ってからは、サーキットには来ていませんでした。


まずはこのサーキットでの上位入賞タイムは1分3秒です、このセヴンの仕様ならば、自分の考えているセッティングが出れば何の問題も無く越えられるはず、後は私の腕だけです。


自然と深呼吸をしていました。どうやら私は緊張すると酸素不足になるようです。

レーシングスーツに着替えて、ヘルメットを被りグローブを持ってセヴンに乗り込んでみるとなぜか落ち着いてきました。


ミニの時と違ってコースが広く見えます。今まで走っていたサーキットがこんなに違ってみえるとは思っていませんでした。

そして徐々に気持ちの中に湧き上がってきた物のせいでヘルメットのシールドが曇っていました。


ピットレーンに一列に並んで1台づつ走り出すのを待っている時、緊張で何度も深呼吸をして目が回ってきました。


そうしているうちに、前の車が1台、また1台と走り出して行きました。自分の前の車がいなくなり、オフィシャルの走り出す指示を待っていると、エンジン音よりもヘルメットの中は心臓の音が大きく聞こえていて、オフィシャルからGO!の指示で、あわててクラッチを離してしまいエンストしてしまい、すぐに走り出すことが出来ずにやっと、走り出せたのでしたが、今度はアクセルを踏みこんでしまい大ホイルスピン、ミラーで後ろを見ると白煙だらけになっていました。

とんでもないスタートに背中は汗でびっしょりでした。

そして、この先長い時間が、かかる予感がしていました。


その周は“ゆっくり走ろう”と自分に言い聞かせて、アクセルは全開にせず、タイヤを暖めるだけに専念し、最終コーナーは4速全開で立ち上がったのでした。


ゴールライン直前で5速に上げてタイム計測をスタートさせると回りの景色が後ろに吸い込まれて、視界が狭くなり見える部分が10cmほどになっていました。

ミニの時に、こんなGを感じる事はありませんでした。理論では分かってはいましたが、これほど違うのかと考える間もなく、ブレーキング、コーナーではリアタイヤが滑りアクセルを踏む事が出来ずに立ち上がりでアクセルを全開にすると、まるで氷の上を走っているように後ろタイヤが左右に滑り出します。


まだ、エンジンパワーの出方、そのパワーを受け止めるためのサスペンションセッティングすら出来ていないのです、このためストレートにもかかわらず、5速でレッドゾーンまでアクセルを踏み込むとホイルスピンしていました。

その日は、もう少しタイムを出せる予定でいたのですが、ミニで普通に出していたタイムも越える事が出来ませんでした。


散々だったのですが、次回の練習走行に向けて分かった事もたくさんあったので、既にセッティングで頭はいっぱいになっていました。


その甲斐あって練習走行の度にセッティングが出だし、タイムも短くなっていき、目標の1分を半年でクリアすることができたのでした。


自分のドライビングテクニックも上がり、目標にしていたタイムが出たところで、次はスーパーセヴンのワンメイクレースに出るための準備を始めました。


このレースは自己申告制のラップタイムによってクラス分けされていて、年6回同じコースを走行します。そして1位が10ポイント、2位が5ポイント、3位が4ポイントと6位までポイントがつき、全6レースの合計ポイントで年間チャンピオンを決めるレースです。


早速ドックハウスで入手してもらったエントリー用紙を締め切りに間に合うように提出すると、1週間ほどして当日のリザルトが送られて来ました。

私がエントリーするクラスは、目標としていた一番早いクラスでした。

また一つ越えた達成感と共に手が震えていました。


レースが決まり私はセヴンのイメージを変える事にしました。それまではノーズとフェンダーが黒、他はアルミ地でしたが、全身白に塗装しなおして、ドッグハウスのロゴを入れて最後に秘密の仕上げを施しました。



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