003「小林兄妹とアブサン」
「小林兄妹とアブサン」
・・・家事を総て一人でこなす「小林 故春」の朝は、早い・・・
私の記憶している記憶のある限りの情報では
我が「お兄ちゃん」は、昔からとっても…何て言うか「お母さん」なのです。
・・・洗濯物を干し、身形を整え済の故春はキッチンで家庭的な音を立てている・・・
本当に私のお兄ちゃんは、何もかもが完璧過ぎだったりします。
朝はジョギングしてからの行動だと言うのに、お兄ちゃんには何処にも隙が無くて
学校での成績は優秀!文武両道に秀でる噂の王子様です!そして優しい!
私のお腹が鳴る様な美味しそうな匂いをダイニングキッチンの扉を解放して
1DK寮の部屋全体へと漂わせて、私を幸せな気持ちで起してくれ
何時でも私の着替えと、自分のを含めた学校への荷物をも3人分整え済なのです。
そして『おはよう、顔洗って来な!朝御飯の時間だよ』って
私に笑顔を見せてくれます。
・・・そこへ、洗面所から身支度を整えた「アブサン・スミス」が出て来る・・・
私、何時も思うんです。
「お兄ちゃん」って、本当は「お母さん」なんじゃないかって
・・・アブサンは、桜に挨拶をすると新聞片手に席へ着いて『コーヒー』と言う・・・
それで、アブサンが私の「お父さん」だったりしたら良いな!って思います。
・・・桜の目の前では、アブサンにコーヒーを配膳する故春の姿があった。・・・
「うわぁ~…今日も私の理想のパパとママ象が光臨ですよ!って言うか…これ
本物の夫婦みたい!もしかして、お兄ちゃんとアブサンってば
そぉ~ゆぅ~関係だったりして!きゃぁ~素敵!」
桜はクラスメイトに見せて貰った、「BLの本」の内容を思い出しながら
故春とアブサンをカップリングして、ニヤニヤ笑っていた。
『おい桜…どうしたよ、お前?大丈夫か?』
ニヤニヤしている所を発見され、桜はアブサンに声を掛けられ
『うひゃぁ!』と、変な声を上げ『ごめんなさぁ~い』と洗面所に駆け込んで行く
故春はそれを見て『あぁ~やっぱそうか…』と零した。
『慌てないって事は、大丈夫な事なんだろうけど…俺にも教えろよ
何か知ってんだろ?』
アブサンに訊かれ、故春は複雑そうな顔をし
『「世間知らずの高枕」って素敵な事だと思わないか?』
言いたくなさそうな雰囲気を醸し出す
『思わないね!陰で何かしら言われてるのって嫌いなんだよ』
アブサンは引かない
『説明も出来るし、証拠もあるけど…
「聞くは気の毒、見るは目の毒」って言う事もあるんじゃないかな?』
『いやいや、此処まできたら言えよ』と、アブサンは言う
『「知らぬが仏、言わぬが花、秘事は知るべからず…」だとは思うんだがな』
故春は桜の鞄から紙袋を取り出し、薄い冊子を1部アブサンに渡した。
『ナニコレ?』冊子を開いたアブサンから表情が消える
『同人誌と言う物らしい…な?知らない方が良い世界だったろ?』と
2人が話していると、身支度を整えた桜が洗面所から出てきて
アブサンが手にした冊子を目にし…奇声を上げ、冊子を奪い返し
『何で勝手に見ちゃうのよ!』と、顔を真っ赤にして怒り出す
『ん~でもそれ…昨日の晩から洗面所に置きっぱなしになってたんだぞ?
発見者の俺としては、一応…アブサンにも確認取る義務があったのだよ…
それにしても桜が怒るって言う事は、この「エロ本」は桜のだったのか…』
故春が…さも、残念そうな態度を取ると
桜は我に帰り、半泣きで弁解し始める
『違うの違うの違うの違うの!クラスの女の子に勧められただけなの!
私は…「お兄ちゃん」が「お母さん」で、「アブサン」が「お父さん」なら
いぃ~なぁ~って、ちょっと思ってただけで
「モト×アブ」とか「アブ×モト」とか考えたりしてないんだからね!』
余計な情報も吐露してくれた。
そこの所「一部分」意味が分からなかった2人は首を傾げ
『まぁ~、桜が「違う」って言うなら
良く分からないけど「違う」って信じるよ』と、アブサンが話を締め括り
故春も『じゃそう言う事で、朝ご飯を食べますか』と
桜用の御飯と味噌汁を注ぎに行ってしまった。
桜はこっそり、胸を撫で下ろす
「ごめんなさい!アブサンとお兄ちゃん!私は…
私とお兄ちゃんが結婚できないんなら
お兄ちゃんがアブサンとそう言う深い関係になってしまって、お兄ちゃんが一生
私以外の女の子と仲良くなったりしない事を望んじゃっているのです!」
なぁ~んてとんでもない事を桜が本気で願い、思っているなんて事は
故春とアブサンは、知らない事なのだが…桜のクラスメイトの一部は知っていて
「故春とアブサン」のファン達共通の願いであり
密かに公然の秘密だったりするのだった。
食事を終え、何時もの登校時間・・・
桜を連れた故春とアブサンは、桜を真ん中に置き護る様に通学路を歩く
桜のサラサラで銀色にも見える、白い腰まである綺麗な長い髪は
他に存在していなくて、人目を引き・・・
桜と同じストレートタイプの切り揃えられた黒い髪
故春の優等生に見える事を重点に置いた眼鏡男子スタイルも・・・
少し濃い顔立ちに白い肌、茶色いカールした癖っ毛
背が低い方ではない筈の故春の身長をも越える長身なアブサンも・・・
物凄く目立っていた。
3人を中心に女の子達を中心に周囲がザワツキ、前への道が開く
桜の友達らしき女の子達が少し遠巻きに桜に声を掛け、桜もそれに答えている
故春とアブサンが、桜に声を掛けた女の子達を見ると
何故か、黄色い歓声が上がった
桜が虐めの標的に成りやすい事を知っている故春が
『最近は大丈夫そうだな…でも、何かあったらちゃんと俺に言えよ』と囁くと
『何か最近は、凄く大丈夫なんだよ』と、桜は微笑んだ。
「それもこれも・・・
私が、お兄ちゃんとアブサンの写真を横流しした恩恵
なぁ~んて事がバレたら、私はお兄ちゃんに嫌われてしまいますね
しっかり「この事」は、隠蔽してしまわなくてなりません」
桜は「一番の売れ筋」である、桜にとって大切な御守り
故春とアブサンの関係が「あやしく見える2ショット写真」の入った携帯電話に
スカートのポケットの上から触れる
密かにその事に気が付いていた故春は
複雑そうに…でも、笑顔を崩さないように努めるのであった。
桜を小学部の校舎に送り届けた故春とアブサンは、手を振り桜を見送り
中学部の校舎へと向かう
『で…最近の桜は、何があってあぁ~なったんだ?』
アブサンが今朝の話を蒸し返す
故春はアブサンの肩に手を掛け、額を押し当てて大きく溜息を吐いた
何故か周囲で、小さく女の子達の歓声が上がる
『我等が姫君は、俺達の「ホモ」疑惑を利用して虐めから身を護ってるらしい』
故春の告白に、アブサンは苦笑いを浮かべる
『マジデか?』
『ごめんマジ』
勿論、この後・・・今の2人の様子を元に・・・
その疑惑が深まったのは言うまでもない。