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第20話:風邪は治りかけている

その後。


精神状態が不安定になり友香と同じ病院に通った。


先生は俺も心の風邪と言った。



先生は俺の話をずっと頷きながら聞いてくれた。


先生は俺にしばらく会社を休んで、友喜と居るように言った。


父親がこんなんじゃ…残されたこの子は独りぼっちになってしまう。


あの馬鹿親父みたいになってたまるか!!


そう思って…病院に通いながら…いろいろありながらも友喜をここまで育ててきたんだ。


俺が友香を死なせたも同然…



その天罰というべきの…俺の“風邪”の症状は、『時々ヒドく無気力になる。』

『少しでも緊張すると人と話せなくなる。』

『時々理由もないのに不安な気持ちになる。』

『なにかと自分を追い詰めてしまう』

『記憶力が激しく低下する』


…あと…1回だけ…してしまったんだけど…


『自分の身体を傷つけたくなる衝動に駆られる。』



左腕の内側。

手首より少し下。


これが…そう。


いつだったっけ…

台所にあったハサミで思いきり傷つけてしまった


なんでそんな衝動に駆られたか解らない。


というより、覚えてない。



確か…友喜の声で正気に戻ったんだ。


左腕の内側から血がポタポタ垂れてて…


生暖かくて…


酷く寒気がした。



俺は病気だ。



このままじゃ…いつか自らの命を断ってしまう…






友香…



ごめん…

決意を捨てる所だった。


俺は…


友喜が生まれた日。

友香と約束したんだ。


友喜を…




「世界で一番幸せにする!!って…」







―――――――――――


「なのに…今はどうなんだろう……母親のいない不幸を叩き付けてたし…無理やり良い子になろうと苦労までさせてる。…小さな4歳の息子に……」



岡本はうなだれていた。


綾子も力無くうなだれている岡本を、ただ…何も言えずに見つめていた。


「俺は…友香に連れられてった、あの教室に立っても…何も変わりゃしなかった。結局同じ事を繰り返してたばかりか…俺の大切な人達まで…」


「それは違うよ!!!」


綾子は叫んでいた。

というより、怒鳴っていたと言う方が近いかもしれない。



なんとなくだけど…


岡本は自分と考え方が似ていると思った。


でも…


まるで…鏡をみてるようだった。


似ている。

だから、

解る、

見えてくる。



(自分に言ってるようだ…)

「違うよ…岡本君が悪い訳じゃない!」


(それに…)


「証拠も…根拠もない。」


(つまり…)

「岡本君は自分自身を追い詰めてるだけなんだよ…もう、誰も怒ってないのに…。向ける所のない嫌な事、記憶を自分自身に当てる事で自分を責め続けて、ずっと…ずっと…苦しんでる…」


(それは…私も一緒だった…)



「永久に繰り返す…私もそうだったから…よくわかる…。」


岡本はうなだれていた顔を少し上げる。


「……やっぱり……」



「え?」


岡本は少し安心したような顔をしていた。


少し…開放された感じ…?


…あ。


笑ってる…?



「良かった…聞いてくれたのが町田で……」


「どうして…」

って、私もなんとなく理由が解るけど。



「やっぱり…町田は先に答えを出してた。地獄から抜け出す方法!」


「地獄……過去の事?」


「そう。…俺、町田と再会した時…ずっと謝ろうと思ってた。…けど…堂々としてる町田を見てて、もしかして…かなり強くなったんじゃないか?って思ってた。…教えて欲しくなったのかな?何度も何度も町田と話せる機会を探してたけど…なかなか機会も勇気も無くて…許して貰える自信無かったから…今日…やっと言えて良かった…それと無理に聞かせちゃってごめん…ありがとう!」

綾子は首を横に振る。


「ううん。大した事してないよ。…なんかさ…すごくいい奥さんだね。友香さん。」


岡本はちょっと照れたように頭をかきながら、


「俺と友香を認めてくれるんだ。」


「もちろん!」


「…あまり…世間には良く見て貰えなかったから…ありがとう…。」


「あのね、」

「ん?」


「英…、いや、高橋主任に最近よく言われるんだけど…岡本君と私、似てるんだって。」


そういや…!


以前車の中で主任に当てられた自分の性格で、全てを話しそうになった事を思い出す。


「あ!それ、俺も言われた。今だから解るけど…似てるかもしれないね。同じ苦しみを背負ってきてるんだから…」



綾子は頷く。


「そうだね…」




空は晴れていた…




―――――――――――

数日後。

敬二は友喜を連れて友香のお墓のある霊園へ来ていた。


「パパ?ぼくのママはここにいるの?」


敬二は友喜の肩に手を置いて

「ここで寝てる。」


そして友喜の胸に指を指す

「ともくんが悲しまないように…寂しがらないように守ってくれてる。」

人差し指を自分に向ける

「ママは友喜を置いて行かない。パパの中に大切なモノを預けてるから。」


「大切なモノ?」


「うん。だからママはずっと側に居る。見守っててくれてる。パパ解るんだ…」


友喜は目をまん丸くする。

「じゃあ…ぼくにはママが居るんだね!」

「うん。内緒にしててゴメンネ。」


友喜は嬉しそうに頷く。

初めて打ち明けた。

友喜にはママがいたって。

ママは昔遠い所に行かなきゃいけなくなっちゃった。

パパに大切なモノを預けて

遠くから見守っている



随分遠回しに説明したが…理解してくれただろうか…?


「ねえねえ、えいゆうさんとおねーちゃん元気?」


帰り道、いつものチェックが入る。


「明日会えるよ。えいゆうさんとおねーちゃんの結婚式でね。」


「わあっ!!」

何故か嬉しそうに友喜がはしゃぐ。


ああ。そっくり。


一緒にさぼった時初めて見た君の曇り一つ無い笑顔に…


そしてあることに気付く。


高橋主任は…友香と似たような性格だったから…町田は俺と共通点多いから…きっと俺は安心して2人を信じた…



…あれ?

ということは…



克服した?




―――――――――――


夢を見た。



誰だろう。



岡本君?



周りには悪魔の仮面をつけた子供達。



岡本は悪魔の仮面をつけてない。



…逃げよう!


…逃げる?



悪魔の仮面姿の子供達が迫って来る。


綾子と岡本の服を引っ張りながら詰め寄る悪魔達。




岡本の顔を見ると…


大丈夫。



…と、ほほ笑んでくれた。



綾子も、もう震えていない。


…逃げる…じゃないね。先に行こう!


岡本と綾子の手をそれぞれ引く者が居た。



あ…!光が…眩しい!


出れたんだ…ここから…やっと…


岡本君も出れたんだ…!良かった…



そして手を引いた者を見る。


誰?この人…


『人は所詮…人。』

『理由無く人を攻撃するのは』

『本能。』

『人は…進化を怠っている。』

『衰退…』

『本能に支配され…』

『やがて…』


なにそれ…?



『成長する力』


『乗り越えられる人が絶えなければいいがな…』


えっ!?


あなた…誰?

―――――――――――


「綾子〜はらへった〜!」


英雄の気の抜ける一言で目が覚める。


英雄はグッスリ寝ている。


お腹が減ってる夢でも見てるのだろうか。


朝日は柔らかく部屋を照らしていた。


出口に着いた…んだ。

あの部屋の扉は…

もう、消えた。


もう2度とドアをくぐる事はないだろう。


「ん〜…おっ…?おはよう…ふぁぁっ〜」


英雄は大あくびをしながら綾子にほほ笑んでいた。


「おはよう。」


綾子は、ほほ笑んで、


「ありがとう。」


と、ささやいた。


「…?…何がぁ?」

英雄は目に涙を溜めながら首を傾げる。


「これからも…よろしくね。」


「おぅ!」


英雄は、ほほ笑んでいる綾子にそっとキスをした。




幸せな未来。

これからもまだまだ…。

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